水草回収処理機械の開発検討について
国土交通省 九州地方整備局
九州技術事務所 機械課
機械調査係長
九州技術事務所 機械課
機械調査係長
久保田 孝 行
1 はじめに
近年,一級河川菊池川及び緑川の支川加勢川において,アマゾンチドメグサ,ホテイアオイ,ウォーターレタスと呼ばれる外来水草が異常繁茂し,橋脚,河川構造物等への滞留による流水阻害,河川環境への影響,出水時に下流域から海域へと流出した場合には海苔養殖等の漁業に被害を与えるなど問題になっている。このため,この外来水草の除去作業はボート若しくは人力にて掻き寄せ,高水敷から建設機械により引き上げているが,河川内に入っての人力作業を余儀なくされており,また,引き上げた後の外来水草の処理では,脱水のための乾燥に日数を要したり,悪臭を放つなどその処理に苦慮している状況であることから,早急な対策が望まれている。
そこで,外来水草の最適な回収方法と陸揚げ後の有効な処分方法を可能にする処理方式の開発検討を行うこととしたのでここに報告する。本報告は,平成15年度に行った実験装置による要素試験までの内容について報告する。
2 外来水草について
緑川水系加勢川に繁茂するホテイアオイ,ウォーターレタス,菊池川に繁茂するアマゾンチドメグサについて諸元を整理した。
(1)ホテイアオイ
①分類
学名:Eichhorinia crassipes Solms-Laub
別名:ウォーターヒヤシンスまたはタイワンナギ
科目:ミズアオイ科
原産:熱帯アメリカ
②生態
束生する葉の間から1茎を出し短い総状花序で8~10月に径3~4cmの淡紫色の美しい花を咲かせる。葉の表面は無毛で光沢があり,葉柄の基部は丸く浮き袋の役目をする。花は一日花で,翌日には水中に潜ってしまう。根元からつる枝を出し,次々と子株を作り短期間に大群生を作る。草丈は1mほどに成長する場合もある。
(2)ウォーターレタス
①分類
学名:Pistastratiotres
別名:ボタンウキクサ
科目:サトイモ科
原産:熱帯アフリカ
アフリカ原産の帰化水草で,ホテイアオイと同様に子株で増殖し,繁殖力はホテイアオイよりも強い。本州水域では越冬できないと言われている。
葉は薄黄緑色で,表面は産毛が生えており,柔らかな緑の縮れた葉がレタスのように中央に集まっている水草である。ホテイアオイと同様に根元からつる枝を出し次々と子株を作る。
(3)アマゾンチドメグサ
①分類
学名:Hydrocotyle leucocephala
別名:プラジリアン・ペニーウォート
科目:セリ科
原産;南アメリカ
ブラジル原産の外来水草で,繁殖力は非常に強く1ヵ月で約3倍に増殖する。植生態は,根茎の各節から葉柄,葉,根を出し,春に花序が葉脇に1個ずつ生じて,葉より下に6個の花を付ける。
(4)分布状況
ホテイアオイ,ウォーターレタスの分布状況は,インターネットで調査したところ西日本を中心に各地に広がっており,いずれも異常発生による被害状況が伝えられている。直轄関係では,熊本河川国道事務所管内の緑川水系加勢川のほか,中国地方整備局管内の百間川,四国地方整備局管内の吉野川において異常発生し被害を与えている。
ホテイアオイ,ウォーターレタスは日本国内に早くから存在を確認されていたが,アマゾンチドメグサについては,平成10年に菊池川で発見されたのが最初であり,種名が分かるまで3年を要したと報告されている。また,植物体は1年中存在し,冬期でも一部は霜枯れするが,繁茂を続けるところがホテイアオイ等と違うところである。発生源は,菊池川水系鴨川に作られた河畔公圏で異常発生し,ここから本川へ流出したとされている。平成12年5月の分布域調査では,この合流点より下流域への分布であったのが,平成13年5月の調査では他の支川の合志川,上内田川,迫間川の上流へと分布を拡大するというホテイアオイ,ウォーターレタスとは違う特異な繁殖力を持っている。
3 水草の除去作業
水草は,一般家庭では水槽において観賞用として栽培されているほか,水質の富栄養化防止に役立っている。しかし,その猛烈な繁殖力により湖では水面を覆い,船の航行への支障,日射を妨げることによる自然環境の悪化を招き,秋から冬にかけては枯死し,腐敗沈澱するため水質悪化をもたらす。そこで,緑川水系加勢川と菊池川では異常発生した水草の除去作業を行っている。
3.1 緑川水系加勢川での除去作業
河川管理施設である六間堰と野田堰に網場を敷設して,流下してきたホテイアオイとウォーターレタスを堰き止め,船外機付きボートで河岸まで掻き寄せ,アームの先端を改造したロングアーム式バックホウにて高水敷へ陸揚げされている。
3.2 菊池川での除去方法
河岸への寄せは,ボートにより人間が河川内に入って人力にて行っている。これは、アマゾンチドメグサの繁茂状況がホテイアオイと違うためである。それは,アマゾンチドメグサの茎が複雑に絡み合っており,掻き寄せ前の切断作業が必要であるためである。平成13年度の異常発生時での除去作業は,延べ1,000人以上のボランティアの協力のもとに行われている。掻き寄せられたアマゾンチドメグサは,加勢川と同様バックホウにて陸揚げされている。
4 水草性状調査
水草回収処理機械の能力等検討のため,アマゾンチドメグサ,ホテイアオイ,ウォーターレタスの3種類の性質について調査した。
調査は,加勢川,菊池川の本川及びクリークにおいて水草が繁茂している平成14年8月21,22日に行った。測定項目は,密度,水中浮力,引張強度等とし,気中かさ密度については取込部の必要能力(サイズ,速度),真密度については輸送装置の必要能力,細断片気中かさ密度については処理量の検討.水中浮力については水中取込を行う際の必要な引込み力検討,引張強度,剪断強度については剪断装置の必要能力の検討のためにそれぞれ測定した。測定結果は表ー2のとおりである。各水草とも,かさ密度は0.2~0.3g/cm3,浮力0.4~0.6g/cm3,引張強度10kgf/cm2,剪断強度3kgf/cm2程度であった。参考に,水草の陸揚げには,切断しながらの回収作業を想定しているため,外来水草の剪断強度について,高水敷等によく生育しているアシとの比較を行ったところ.強度は約1/10であった。また,水草の繁茂状況は,各水草ともに根が20~40mc水中に延びており,浅瀬に繁茂しているアマゾンチドメグサについては,河床に根が入っている状況である。ホテイアオイ.ウォーターレタスの株径は30~50cmで,株間の繋がりは強くない。アマゾンチドメグサは茎が複雑に絡み合い広がっており,ホテイアオイ,ウォーターレタスと違った生育状況である。
5 既存技術の抽出及び比較
5.1 回収形態の現有技術の抽出
水草回収処理機械の開発のため,浮き草回収船,ゴミ回収船,浚渫船等の各種作業における回収方法から既存技術を抽出し整理を行った。
(1)浮き草回収船
湖沼,河川に繁茂するアオコ等の浮き草を除去する作業船で,スキマーとネットコンベヤにより回収する方法。
(2)ゴミ回収船
湖沼,河川,港湾内に浮遊するゴミを除去するため,ネットコンテナ,スキッパにより回収する方法。
(3)浚渫船
湖沼,河川,港湾内に堆積している泥土を除去するため,バケットやサンドポンプにより船上へ揚げ,圧縮空気により陸上へ搬送する方法。
(4)バキュームカー
側溝のゴミ、汚泥を回収するため,真空ポンプにより吸引回収する方法。
(5)水陸両用船等
浅瀬や低湿地でも移動可能なバックホウ搭載台船やフロート式のクローラを有したバックホウにより除去する方法。
5.2 搬送形態の現有技術の抽出
浮き草回収船等を含め,回収する対象物の搬送形態について分類すると連続,半連続,間欠の3方式に区分される。
(1)連続式
取込時または取込後に対象物を輸送しやすい形に整えまたは選別したうえで,連続的に目的の場所へ移送する。
(2)半連続式
取込時または取込後に対象物を輸送しやすい形に整えまたは選別したうえで,一旦内部へ集積しておき,一定量を蓄えた時点で一括して目的の場所へ移送する。
(3)間欠式
取込動作毎に対象物を間欠的に,繰り返し目的の場所へ移送する。以上,3つの搬送方式をまとめると,図ー3のとおりである。
6 水草回収処理機械システムの検討
6.1 水草回収処理機械システム構成
水草回収処理機械に要求される基本条件(対象水草,発生量,回収能力,繁茂位置・状況)の整理を行い,現場調査や既存技術を基に,「水草回収処理機械」に求められる全体的な流れ及び工程毎の基本的なシステムの検討をした。
システムについては回収,搬送,処理の3つ装置による構成とした。
6.2 水草の基本的回収作業方法の検討
水草の陸揚げ作業の容易性を考慮して,河川の中央部及び対岸等の遠方に繁茂している外来水草に対しては,作業船等にて河岸まで掻き寄せ,高水敷等に設置した建設機械を用いて陸揚げをする方法を基本的な回収方法とした。図ー5に全体イメージ図を示す。
6.3 搬送方式について
連続,半連続,間欠の3形態の中から,連続式とし,小型軽量で構造が単純で搬送能率もよいポンプ又はブロワーにより配管内を連続して圧送できる管路による搬送方式とした。
6.4 回収方式について
連続しての回収方式としては,次の3案が考えられる。
① 水ポンプ案…取込,水中細断し水とともに外来水草を低濃度でポンプ搬送する方法
② スラリー案…取込,気中細断し水と外来水草を混合してスラリー化しポンプ搬送する方法
③ 空気搬送案…取込,気中細断し外来水草をブロアー内へ投入し空気と一緒に搬送する方法
各装置の特徴を活かした比較検討の結果,搬送手段に水を使用せず,処理装置の簡素化が可能と思われる空気搬送方式を選定した。表ー3に評価結果を示す。
7 実験装置の概略設計
現有技術の抽出と比較検討を行った結果に基づき実験装置の概略設計を行った。
7.1 設計条件
① 処理面積:200㎡/h(1,000㎡/日)
② 処理質量:3,600kg/h(18,000kg/日)
③ 搬送距離:20m
④ 搬送高低差:約3m
⑤ 装置質量:1.2t以内
7.2 各部構造の検討
(1)回収装置における取込方式の選定
現有技術の取込方式について,次の基準をもとに選定した結果,「ベルト取付タイン式」とした。
① 引き寄せ距離,深さが大きいこと
② 水草の不陸に対応することができかつ所定の引き寄せ力があること
③ 寸法が小型で,軽量であること
(2)回収装置における切断機の選定
現有技術の切断装置について,次の基準をもとに選定した結果,「ハンマーナイフ式」とした。
① 切断性能
② コスト,メンテナンス性
(3)空気搬送装置の選定
表ー3の結果により,搬送方式については,圧縮空気を用いた搬送方式としている。よって,水を含んで比重が大きい水草を大量に搬送するためには,吸入口ヘ直接投入し,ブロアーの羽根の回転力を利用したプレートファンと搬送手段としてホースを選定した。
7.3 実験装置の製作
設計条件と各部構造の検討を基に実験装置の製作を行った。構造,諸元等は次のとおりである。外観を写真一8に示す。
(1)主要材料
本体…SUS304(t=2mm)
補強…SS400
(2)寸法
全長…3,850mm
全幅…1,984mm
全高…1,475mm
(3)質量…1,030kg
(4)動力…14.1kw(200V),1.0kw(100V)
(5)取込装置部
方式…ベルト取付タイン式
取込幅…800mm
取込速度…0~45m/s
(6)切断部
方式…ハンマーナイフ式
回転数…0~2,000rpm
(7)搬送部
方式…空気搬送(ブロアー)正圧方式
風量…50m3/min
風圧…350mmAq
搬送管…塩ビホース(Φ200mm×20m)
8 実験装置による実験
実験装置の機能性を確認するために,菊池川,緑川水系加勢川の現場にて,ラフテレーンクレーン(16t吊り)に実験装置を吊り下げ,アマゾンチドメグサ,ホテイアオイ,ウォーターレタスを対象に回収から搬送までの実験を実施した。
8.1 現地試験日時
菊池川:平成14年10月23日(水)
加勢川:平成14年10月24日(木)
試験要領図を図ー6,状況を写真ー9に示す。
8.2 実験結果
実験装置による実験結果は,処理能力が1,270kg/hで設計値の約35%,細断片は1~3cm程度で,中には粉々になって液状化しているものもあった。表ー4に問題点と対応策を示す。
問題点に対する対応策を検討した結果,ブロアーを使用した空気正圧式装置として搬送能力を上げるには,装置の大型化が避けられず,作業性がわるくなることが懸念されるため,搬送方式から再検討することとした。
9 実験装置の再検討
平成14年度の検討結果をもとに,実験装置の小型軽量化に向けての再検討と処理装置の脱水に関する概略検討を平成15年度に行った。
9.1 回収装置
水草の取込方式を,排水機場設備の一つである除塵機のレーキ掻き上げ方式を参考にした。また,水草の切断は回収装置内に設けたベルトコンベアに刃を付け,これにより大まかに切断し,搬送の役目をもするシリンダーカッターにてさらに細かく切断するようにした。
9.2 搬送装置
搬送方式については,空気負圧方式とし,従来の空気によって押すのではなく,負圧を発生させて陸上まで引き揚げる方式とした。ホースについては昨年度同様塩ビホースとした。
9.3 処理装置
処理装置については,水草を処理しやすくするためには脱水処理は不可欠であるため,脱水方法について検討を行い,装置の軽量,簡素化が図れるロールプレス方式とした。
9.4 再検討した実験装置の諸元
(1)取込装置部……ロータリーレーキ式
(2)切断部……刃付きベルトコンベア(一次切断),シリンダーカッター(二次切断)
(3)搬送部……空気搬送(ブロアー)負圧方式
(4)処理部……ロールプレス方式
10 実験装置の要素試験
再検討を行った実験装置により,㈳日本機械化協会施工技術総合研究所構内で要素試験を行った。その結果,回収装置内部の一部に水草が滞留するなど細かな改良点が見受けられたが,回収から搬送に至るまでの水草の流れについては満足できるものであった。今後は、現場実験に向けて更なる検討を行う予定である。
参考文献
・菊池川に繁茂するアマゾンチドメグサ:伊東麗子
熊本記念植物採集会会誌,BOTANY,No.51(2001.12)別冊
熊本記念植物採集会会誌,BOTANY,No.51(2001.12)別冊