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新型余水処理装置を使用した八代港浚渫工事について

国土交通省 熊本港湾空港工事事務所
 先任建設管理官
原 田 讓 治

国土交通省 熊本港湾空港工事事務所
 建設管理官
古 島 敬一郎

1 はじめに
八代港は,航路整備のため浚渫埋立工事が進められてきたが,埋立の進捗とともに埋立地容積が減少し,埋立地より放出される余水の水質が悪化する(SS濃度が高くなる)傾向が見られたため,現在の自然沈殿方式から新たな余水の浄化処理方法を検討することになった。
余水の浄化処理装置として,自然環境に配慮しつつ施工コストの削減を図った浄化処理装置として,国土交通省(旧運輸省第四港湾建設局)が㈱荏原製作所と共同開発した新型余水処理装置(共同特許)は福岡県北九州市において,小型装置により実証試験を行い,今回,本格的な大規模工事にて初めて採用したのでその装置および八代港での使用実績について報告する。

2 余水浄化の検討
(1)余水浄化方式について
余水の浄化方式としては従来,汚濁防止膜を併用した自然沈殿方式と凝集沈殿方式のおおむね2つの方法が採用されている。その特徴を表ー1に示すが,これら従来型の余水浄方式はいくつかの問題点を抱えている。

(2)新型余水処理装置について
① 装置の甚本要件
今回の新型余水処理装置は従来の余水浄化法の問題点を解決する高性能化装置として,深層ろ過を基本原理とした凝集沈殿と凝集ろ過を一体の槽で行う新型余水処理装置を採用することにし,この装置に要求される条件を以下に示す。
・大規模処理(1,000㎥/時以上)が可能な装置
・恒久的な設備でなく,埋立後期の汚濁が進行した時期に即応的に処理ができ,移動可能な設備
・凝集剤の使用量の低減
・建設コストの抑制

② 装置の概要
高濃度の濁質を高速度で処理することが,コンパクトな構造や建設贅の低減化につながるが,そのためには濁質を捕捉する容積を大きくするか,捕捉された濁質を連続的に排出する機構が必要となる。
濁質の除去方法としては凝集沈殿法や砂ろ過法などがあるが,新型余水処理装置は凝集沈殿と凝集ろ過を一体の槽で行う深層ろ過を基本原理とし,高濃度の濁質を対象にすると濁質の粒子同士が接触する機会が多くなり,形成されるフロックも大きくなるのでろ過材としては空隙率が大きいこととともに,空隙を形成する孔径も大きいことが要求されます。
この要求に適合するろ過材を種々検討した結果,新型余水処理装置に用いるろ過材は格子状のポールリングを選定した。
新型余水処理装置に用いるろ過材の仕様は下記の通りである。
 ・名  称:格子状ポールリング
 ・材  質:ポリプロピレン
 ・形  状:φ27×L27中空管
 ・比表面積:210m2/m3
 ・空隙率 :90%
 ・比  重:0.9

この格子状ポールリングろ過材は,接触面積や沈降分離面積が大きく,ろ過材内へ沈降・堆積した粒子群が脱落し易い構造でかつ,アオサ等藻類の付着による閉塞の心配がない。
またろ過材は水より比重が小さいため,液中で浮上する。このろ過材を使用することにより高速度でのろ過処理が可能となった。
従来の凝集沈殿法では,分離速度は1~10m3/m2・H程度であったが,このろ過材を使用することにより,10~40m3/m2・Hまでの高速度でのろ過処理が可能になった。
ろ過材の材質はポリプロピレン製で,耐久性,耐候性は十分にあり,劣化,破損等が生じないので処理期間中に補充することはない。
次に深層ろ過槽の構造および原理図を図ー2に示す。

液中で浮上する格子状ポールリングを充填した槽内を上向流にて余水を通水し,充填ろ過材と接触させ,付着または沈殿作用でろ過層内に濁質を捕捉する。
また,本装置は沈降分離部の上部に深い層のろ過層(深層ろ過層と称す)を設けた構成で,沈降分離槽とろ過槽との2段分離装置である。
この装置とろ過材を用いたことにより,凝集剤の使用量が従来法に比べて低減されている。

3 八代港の余水処理施設
(1)施設の概要
本装置の使用場所は熊本県八代港内加賀島地区土砂処分場で,埋立面積は約33万m2,設置期間は平成12年10月末より2週間である。以下に施設の概要と運転結果を記す。

① 余水処理計画条件
 ・余水処理量:2,000m3/時
 ・施設の運転時間:8時間/日
 ・水質条件(SS)
    余水:SS<2,000mg/L
    処理水:SS<20mg/L
 ・対象濁質:シルト・粘土

② 処理フロー
図ー3に余水処理フローを示す。
・埋立地内の取水ピットに流入する余水を原水ポンプで混合槽に揚水する。
 混合槽に凝集剤が注入され,フロックを生成したのち深層ろ過槽に流入する。大部分のフロックは沈降分離されるが,一部沈降分離されない微細な粒子は浮上ろ過材にて捕捉され,清澄な処理水が安定して外海に放流される。
・深層ろ過槽内には,下部に沈殿した汚泥を中心部に掻き寄せるための,回転機が取り付けられている。また,この回転機の上部には槽内上層のろ過材が捕捉したフロックをはく離させるための攪拌棒が取り付けられており1分間に1回,周期的にろ過材の攪拌を行っている。
 攪拌されたろ過材からはく離したフロックは徐々に下部に沈降していき,最終的には槽の最下部に沈殿する。
 沈殿した汚泥は,定期的に槽底部より自動排泥されて,埋立地に戻る。
・余水処理装置のシステムは自動管理されており,装置の運転開始時と停止時のみ手動操作する。
・処理水水質は,放流管に設置した濁度計の指示値により管理され,水質悪化時には,処理水は埋立地に戻される。

③ 設備仕様
a 原水ポンプ
型  式:横軸渦巻斜流ポンプ
性  能:17m3/min×14m×75kw
数  量:2台
用  途:取水ピットから混合槽へ原水を送る。

b 混合槽(写真ー3左箱形)
寸  法:1,700W×5,700L×5,400H
数  最:1基
用  途:原水と凝集剤を混合する。内部は迂流構造になっており,本槽に注入する凝集剤と濁質を効率よく接触させ,沈降性がよく,粒子径のバラッキが少ないフロックが生成できるように配慮されている。滞留時間は1~2分である。

c 深層ろ過槽
本体寸法 :φ14,000×5,300H
数   量:1基
掻寄機性能:トルク:40,670Nm
回 転 数:0.155rpm
電動機出力:2.2kw
用  途:浮上ろ過材をもった沈殿槽である。上向流速より早い沈降速度のフロックは沈降分離し,沈降分離できない残留フロックのみが上層のろ過材へ流入し,捕捉される。フロックを捕捉したろ過材に対しては,定期的な周期にて,フロックのはく離操作が行われる。

d 放流管
寸  法:1,000A
用  途:深層ろ過槽からの処理水を外海へ放流する。途中に処理水監視のための濁度計が設置されている。

e 薬注設備
凝集剤溶解槽
  有効容量:500L
  数  量:1基
凝集剤注入ポンプ
  型  式:モーノポンプ
  性  能:16L/min×0.4Mpa×0.4kw
  数  量:1台
  凝集剤 :アニオン系有機合成高分子凝集剤(ポリマ)
 用  途:粉体の凝集剤を溶解槽で自動溶解(0.1%)し,凝集剤注入ポンプにて混合槽に定量注入する。凝集剤の無駄な注入を避けるため凝集剤の注入ポンプと原水ポンプは,自動的に相互に連動するシステムとなっている。

(2)運転結果
実設備運転記録を表ー2に示す。
・運転条件は原則として処理能力2,000m3/h,凝集剤注入量0.3mg/L,処理水水質(SS)は20mg/Lとした。
・運転時の処理水の管理は処理水濁度計の指示値で行った。
・原水SS濃度1,000mg/L以下は,処理水の水質(SS)は常時20mg/Lを下回っていた。

(3)結果まとめ
期間中,連続モニター装置による処理水濁度監視の可否,ろ過速度が処理水質に及ぼす影響,原水SS濃度の変動が処理水質に及ほす影響等を限られた条件の中で調査を行い,得られたデータを基に,整理した結果を以下に記載する。
① SS濃度と濁度計指示値の関係
図ー4に処理水SSと濁度計指示値の関係を示す。
処理水濁度計の指示値はSSの分析値に対して多少のばらつきがあるものの処理水濁度監視という目的は果たすことができると判断した。

② ろ過速度の影響(図ー5)
原水SS濃度500mg/L程度でろ過速度を6.6m/時から13.2m/時に上げても処理水SSは10mg/L以下で安定していた。

③ 原水SS濃度と処理水質(図ー6)
500mg/L程度での原水SS濃度変動に対して処理水質には影響はみられなかった。

4 おわりに
今回,八代港の浚渫工事における余水について新型余水処理装置を使用し,短期間ではあるが従来行ってきた小型装置と同様,装置を大型化した場合においても安定した良好な結果を得ることができた。
しかし,新型余水処理装置は,現場にあわせて転用が可能な装置として開発されたものであり,更に条件の厳しい場所での安定した処理水質,高速度の処理能力向上等の改良を行い,装置の軽量化,コンパクト化を目指し検討を行う必要がある。
また,凝集剤のさらなる低減を図り自然環境に配慮した装置として今後多くの箇所で適用されることを期待します。
最後に,装置の開発から現地での施工に至るまでご尽力頂いた関係各位の方々にここに深く感謝の意を表します。

く参考文献>
角田省吾:“新しい余水処理装置の調査研究”,第22回底質浄化技術セミナー11月号,122~126(1996)

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