ISO9001:2000年版
(品質マネジメントシステム規格)
(品質マネジメントシステム規格)
JRCA(品質システム審査員評価登録センター)
主任審査員
主任審査員
梅 原 晫 也
1 はじめに
現在,ISO国際規格は約1万種類ほど制定されていますが,この中に,2種類のシステム規格があります。ISO9001とISO14001です。
ISO9001は「品質マネジメントシステム規格」で 、ISO14001は「環境マネジメントシステム 規格」です。ISO9001は1987年に制定され,一方,ISO14001は1996年に制定されています。国際規格は5年毎に見直されることとなっており,ISO9001の第1回目の改定が,1994年版として,また,第2回目の改定が,2000年版として発行されています。
2 マネジメントシステムとは
まず初めにマネジメントシステムについて説明しておきます。
「マネジメントシステム」は,ISO9000:2000(品質マネジメントシステム―基本および用語)では,「方針および目標を定め,その目標を達成するためのシステム」と定義されています。
また,「品質マネジメントシステム」は,同様に「品質に関して組織を指揮し,管理するためのマネジメントシステム」と定義されています。
一方,「環境マネジメントシステム」は,ISO14001:1996において,「全体的なマネジメントシステムの一部で,環境方針を作成し,実施し,達成し,見直しかつ維持するための,組織の体制,計画活動,責任,慣行,手順,プロセスおよび資源を含むもの」と定義されています。
ISOのマネジメントシステム規格は,マネジメントシステムを構築,運用すれば,結果として,パフォーマンス(成果,実績,機能,性能,行為)が改善することをめざしています。
パフォーマンスの改善に結びつく,「良いマネジメントシステム」を構築・運用することが重要であり,継続的改善によって「より良いマネジメントシステム」に改善していくことが大切です。
マネジメントシステムとパフォーマンスの関係は車の両輪と見ることができます。(図ー1参照)
3 品質マネジメントシステムの8原則
2000年版は,「品質マネジメントの原則」の考え方にもとづいて規格化されたものといえます。そこで,「品質マネジメントの原則」について簡単に説明しておきます。
(1)顧客重視
組織は顧客に依存しており,そのために現在および将来の顧客ニーズを理解し,顧客要求事項を満たし,顧客の期待に応えるように努力しなければなりません。
(2)リーダーシップ
リーダーは組織の目的および方向を決め,組織の構成員が目標を達成するための内部環境を創り出す必要があります。
(3)人々の参画
組織の構成員は,組織にとって根本的な要素であり,全構成員が一丸となって取り組むことが必要です。
(4)プロセスアプローチ
組織が効果的に機能するためには,数多くの関連しあう活動を明確にし,運営管理する必要があります。
インプットをアウトプットに変換することを可能にするために,資源を使って運営管理される活動は,「プロセス」とみなすことができます。
一つのプロセスのアウトプットは,多くの場合,次のプロセスヘの直接のインプットとなります。組織内において,プロセスを明確にし,その相互関係を把握し,運営管理することとあわせて,一連のプロセスをシステムとして運用することを,「プロセスアプローチ」と呼びます。
プロセスアプローチの利点の一つは,プロセスの組合せおよびそれらの相互関係とともに,システムにおける個別のプロセス間のつながりについても,システムとして運用している間に管理できることです。
プロセスアプローチを活用することが必要です。
(5)マネジメントヘのシステムアプローチ
相互の関連するプロセスを一つのシステムとして明確にし,理解し,運営管理することが,組織の目標を効果的で効率よく達成することに寄与します。
(6)継続的改善
組織の総合的なパフォーマンスの継続的改善を永遠の目標とすべきです。
継続的改善は,品質方針,品質目標,内部監査,データ分析,是正処置,予防処置およびマネジメントレビューを通して行われます。
図ー2にプロセスを基礎とした品質マネジメントシステムの継続的改善のモデルを示します。
(7)意志決定への事実にもとづくアプローチ
効果的な意志決定は,データおよび情報の分析にもとづくことが必要です。
(8)供給者との互恵関係
組織と供給者(下請負契約者のこと)は独立しており,両者の互恵関係が価値および想像能力を高めます。
4 2000年版の改訂点
1994年版から2000年版への改訂点について,主な内容を説明します。
(1)規格の統一
1994年版では,ISO9001,ISO9002,ISO9003と分かれていた規格が,ISO9001に統一されました。そのため,ISO9002またはISO9003で認証している企業は,「規格の一部を除外する」ことで,ISO9001を使うことができます。
(2)規格の表題の変更
① 1994年版
JIS Z 9901:1994
品質システム……設計・開発・製造・据付けおよび付帯サービスにおける……品質保証モデル
② 2000年版
JIS Q 9001:2000
品質マネジメントシステム……要求事項
1994年版は,「品質保証」であったものが2000年版では,「品質マネジメント」に変更になっています。2000年版の「品質マネジメントシステム要求事項」は,品質保証に加えて,顧客満足の向上をも目指そうとしていることを反映したものといえます。
(3)規格の構成の変更
1994年版から2000年版へ品質システム要求事項の構成が大幅に変更になっています。
① 1994年版
4の品質システム要求事項の項目として,
4.1 経営者の責任
から
4.20 統計的手法
までの20項目になっています。
4.1 経営者の責任
から
4.20 統計的手法
までの20項目になっています。
② 2000年版
大きく5つの大項目になっています。大項目は次のとおりです。
4.品質マネジメントシステム
5.経営者の責任
6.資源の運営管理
7.製品実現
8.測定,分析および改善
4.品質マネジメントシステム
5.経営者の責任
6.資源の運営管理
7.製品実現
8.測定,分析および改善
大項目の中に,それぞれ中項目,小項目と細分化されて規格化されています。
規格要求事項の関連を図ー3に示します。
(4)用語の変更
2000年版では,1994年版で使われていた‘‘供給者”は“組織”に置き換えられました。また,“下請負契約者”は“供給者”に置き換えられました。そのため,規格では,製品の取引における当事者の名称関係が次のようになります。
供給者→組織→顧客
5 品質マネジメントシステムの有効性に対する継続的改善
ここでは,規格が要求している事項の中で特に重要な継続的改善について説明します。
(1)PDCAサイクル
PDCAサイクルとは,Plan(計画),Do(実施),Check(点検),Action(見直し)のことです。いわゆる“マネジメントサイクル”と言われているものです。
規格では,PDCAサイクルによる品質マネジメントシステムの継続的改善が求められています。簡単に図示すると次のとおりです。
(2)プロセスの特定
品質マネジメントシステムにとってプロセスの特定が必要になります。例えば次のようなプロセスです。
① 品質方針および品質目標の管理プロセス
② 資源の計画・運用・評価・処置のプロセス
③ 内部監査のプロセス
④ マネジメントレビューのプロセス
⑤ 製品実現のプロセス
⑤の製品実現のプロセスは,顧客からのインプット(顧客要求事項)を付加価値をつけて,顧客へのアウトプット(製品)に変えるプロセスです。
(3)内部監査
内部監査は組織内で,適合性の確認や有効性の評価を行うことです。
内部監査で,例えばシステムの有効性を評価するための質問は次のようになります。
① 品質目標
a.品質目標の内容は品質方針と整合していますか。
b.品質目標は判定可能な評価指標を設定していますか。
c.品質目標の達成状況を定期的に評価し上位者へ報告する仕組みがありますか。また,決められたとおりに進捗管理されていますか。
(4)継続的改善
継続的改善は,品質方針,品質目標,内部監査,データ分析,是正処置,予防処置およびマネジメントレビューを通しておこなわれます。
この関係は前ページの図ー2および図ー3に示しているとおりです。
① システムの有効性の改善
システム(仕組み)の有効性の改善には,組織内の部門間の連携方法の改善、責任・権限の改善,経営資源(人,物,金など)の配分の改善,システムの中で定められた手順の改善などのシステムの改善があります。
② 製品の改善
品質パフォーマンスの改善をめざした製品の改良や工程(プロセス)の改善などがあります。
(5)外部審査における継続的改善の確認
審査登録機関が行う外部審査における継続的改善の確認は,次のようにおこなわれます。
① 登録審査(初回審査)の段階
登録審査の段階では,継続的改善の仕組みが構築され,審査登録後において,継続的改善が実行されることが今後期待されるか,の確認を行います。
② 定期審査(6ヶ月又は1年毎)および更新審査(3年毎)の段階
定期審査や更新審査では,組織として有効性のある継続的改善が行われているか確認します。
特に,更新審査では登録の有効期間が3年間ということもあって,継続的改善の実行状況の確認を行います。
外部審査における継続的改善の確認方法を紹介します。
a.不適合への是正処置および予防処置による改善状況はどうか。
b.外部審査における指摘事項への対応状況はどうか。
c.内部監査の分析によるシステムの改善状況はどうか。
d.マネジメントレビューの指示事項への対応状況はどうか。
e.品質目標の展開の中で品質マネジメントシステムの過去の実績から現状,将来の具体的な目標設定がどのように行われ,達成度の把握や進捗管理が適切に行われているか。
6 移行審査
2000年版は2000年12月に発行したので,1994年版で認証取得している組織は,2003年12月までに移行しなければなりません。移行のためには,システムの改訂,改訂されたシステムの実行,そして移行審査が必要です。
(1)移行審査計画
移行審査は定期審査時期または更新審査時期のいずれかの適当な時期に計画します。
移行計画は,移行審査を受けたい時期から逆算して7ヶ月から12ヶ月前にスタートするように計画します。その際には,組織の規模やシステムの複雑さなどに加え,本業などで改訂作業が遅れる可能性も考慮して,余裕のある計画とする必要があります。
(2)書類審査
移行審査では「品質マニュアル」の審査が必須条件となっています。組織では2000年版規格の要求事項に対して「品質マニュアル」の改訂を行い,審査登録機関へ提出し,書類審査を受けます。
(3)実地審査
書類審査の2ヶ月後に組織内で実地審査がおこなわれます。審査では,改訂された品質マネジメントシステムの実行が必要です。
特に,内部監査とマネジメントレビューは必ず実施していなければなりません。
7 あとがき
2000年版規格の中に“他のマネジメントシステムとの共立性”について,次のように記述しています。
「この規格は,組織が品質マネジメントシステムを関連するマネジメントシステム要求事項にあわせたり,統合したりできるようにしている。
組織がこの規格の要求事項に適合した品質マネジメントシステムを構築するにあたって,既存のマネジメントシステムを適応させることも可能である」。
今後,品質,環境,労働安全衛生など複数のマネジメントシステムを持つ組織が,各マネジメントシステムの要素を取り組んでトータル的に一つのマネジメントシステムとして構築する“統合マネジメントシステム”(Integrated Manegement System)の方向に進むのではないかと思われます。