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道路景観整備の基本的考え方

建設省九州地方建設局道路部
 建設専門官
亀 井 伸 二

1 はじめに
近年,国民生活が豊かになり,国民のニーズも多様化してくると,快適で親しみとうるおいのある豊かな生活環境を望む声が一段と高まるようになっている。また,地方部では人口の定住化や地域の活性化を図るため,自然や歴史・文化に裏打ちされたうるおいのある生活空間を積極的に整備,活用しようとする動きがいたる所に現れてきた。
このため,道路景観整備が全国的な広がりを見せ,各地で道路景観に着目した整備事業が実施されるようになってきた。また,地域文化やデザインヘの関心も高まって,道路景観整備を単に物的な景観整備に終わらせるのではなく,道路と地域・風土,人々との関わりなども含めた輻広い視点での道路整備が求められるようになってきた。
こうしたニーズに応えるため,「道路景観整備マニュアル(案),同Ⅱ」(大成出版社 監修・建設省道路局企画課道路環境対策室)がまとめられている。本稿は,同マニュアル(案)のうち道路景観整備の基本的考え方を中心に紹介するものである。

2 道路景観の概念
(1)道路景観とは何か
「景観」は人が風景を見て,その価値を認識することによって成り立つものであり,①眺める主体(視点)と②眺められる物(対象)が必要である。景観の質は,視点から対象となる事物がどのように見えるかによって異なってくる。
また,景観の対象は,目に映る全ての事物であるが,一般的には,その景観の中心になる事物(主対象)とそれらを取り巻く環境(周辺環境)とに分けて考えている。景観は,主対象によって区別され,道路を主対象とする景観を「道路景観」と呼んでいる。この道路景観のなりたちを模式的に示すと図ー1のようになる。

(2)道路景観の特徴
道路景観の特徴としては,次の2点があげられる。
① 道路の内・外に視点があり,その位置の違いによって景観が異なる。
・視点が道路敷内にある場合(道路利用者)
   → 「内部景観」
・視点が道路敷外にある場合
   → 「外部景観」
② 道路内の視点は移動することから,視点の位置と移動速度により,それぞれ景観が異なる。
・固定的な視点から眺める景観
   → 「シーン(scene)景観」
・移動している視点から眺める景観
   → 「シークエンス(sequence)景観」
視点の特性から道路景観は図ー2のように区分される。

(3)道路景観の種類別の特徴
① 内部景観・シーン景観(歩行者から見た景観)
歩行者の利用の多い一般道路においては,歩行者から見た景観が特に重要である。歩行者は一般に移動速度が遅く,立ち止まることも多いので,その景観は固定的な景観(シーン景観)としての性格が強くなる。この場合の景観の主対象は,横断構成や舗装面などの道路敷内の造作であるが,視点の移動速度が遅いことから,規模の大きな要素だけでなく舗装面の状態や模様,道路付属物の材質や色彩などの細かな点までが対象として認識される。
② 内部景観・シークエンス景観(ドライバーから見た景観)
ドライバーから見た景観も重要な内部景観の一つである。この場合,一般に視点の移動速度が速いことから,景観は流れるように連続して認識されるので,上述のシークエンス景観の性格が強い。景観の主対象は,道路敷内の造作であることは歩行者の場合と同じであるが,移動速度が速いことから,道路本体や付属物の全形状やバランス,景観の連続性などが特に問題となり,細部はあまり対象とはならない。
③ 外部景観・シーン景観(周辺住民などから見た景観)
周辺住民から見る景観(外部景観)は,一般に固定的な景観(シーン景観)である。この場合は内部景観と異なり,道路敷内の細かな造作はあまり意識されず,むしろ橋梁,のり面などの側面的な見え方が景観の主な対象となることに留意する必要がある。また,視点が道路から離れるに従い,道路と周辺との調和が強く認識されるものとなる。

(4)道路景観の構成要素
道路景観の対象は道路そのもののほか,同時に眺められる周辺の環境も重要な要素となる。
すなわち,道路景観の対象は,①道路要素②沿道要素③遠景要素の三つから構成されていると考えることができる。これらの三つの要素が互いにうまく調和することによって,良好な道路景観の形成が図られるのである。道路景観の構成要素を示すと図ー3と表ー1のとおりである。

① 道路要素
一般的に道路管理者が直接景観整備の要素として取り扱えるため,積極的に整備を行うことができる。
② 沿道要素
一般的には道路管理者が直接関与する範囲ではないので,道路景観の向上のために,沿道土地利用を制限するなど沿道要素を操作することは非常に困難である。道路の景観対策における最大の課題となっているところである。
③ 遠景要素
山や河川,城跡など道路から比較的遠くに位置し,一般的には整備の直接的な対象となることはないので,道路内景観に効果的に取り込むことを検討する必要がある。

3 道路景観整備と問題点
(1)道路景観整備の基本的考え方
① 整備の3つの考え方
 ⓐ 現道の改良に伴い,景観の向上を図る。
 ⓑ 道路の新設に際して,景観上,質の高い道路建設を図る。
 ⓒ 既設・新設を問わず,積極的に良好な景観の創出を図る。
一般に適用する考え方は,ⓐ,ⓑであり,ⓒの考え方は都市の顔となるような目抜き通りや,景勝地の道路といった道路景観整備の必要性の高い地域に適用されるものである。
そのような地域は,積極的な景観の創出を図ることが望まれるとともに,景観整備にあたっては慎重な配慮を必要とする地域である。

② 整備の方針
道路景観整備を行う計画者および事業者は,道路整備事業の基本方針を踏まえ,地域における道路景観整備の目的(景観整備の必要性,期待される効果),道路の性格,予算などを考慮した上で,景観の向上が最大限に図られるように,道路景観整備の方針を定めることが必要である。

③ 道路の性格
道路の性格は,道路規格,地域特性,沿道環境,交通の質および量等により異なったものとなるが,景観的観点からは,主として地域環境とその利用者の性格などにより把握することが望ましい。

(2)道路景観整備の計画・設計の原則
道路の景観整備事業を行うにあたっては,以下に示す5つの原則を念頭に進めていくことが望ましい。
① 道路の性格に応じた設計を行う。
自然や歴史などの地域性を踏まえるとともに,道路の性格(高速道路から路地裏まで)に応じた,個性的な景観形成を図っていくことが必要である。
例えば,都市の顔となるような広幅員の目抜き通り,繁華街の通りや路地,住宅街の通り,自然風景地の道,都市間の高速道路など道路の性格に見合った個性の表現方法が求められている。

② 道路利用者および地域住民のためのデザインを考える。
道路は,そこを利用する人々や沿道の住民などにとって社会活動や日常活動のうえで必要不可欠である。したがって,人々から快適に利用され,親しまれるものであることが望ましい。
このため,道路景観整備では,人々が好む道路や沿道地域のイメージを大切に守りながら,デザインを行うことが必要であり,場合によっては市民にアイデアを求めることも考えるべきである。

③ バランスのとれたものとする。
美しい道路景観とは,道路構成要素(舗装,照明灯,ストリートファニチャーなど)の形態的魅力と各要素の総合的なバランスによって構成されるものであり,両者の関わりを常に考えながらデザインを決定することが肝要である。
従来の設計の仕組みでは,道路本体の設計と付属物(交通標識等),占用物など,管理者の異なる要素の設計が早い段階で切り離されるケースが少なくない。なかには,メーカー依存の設計やカタログ選定でデザインが決定されるものもあると言われている。
道路景観を構成する重要な要素のデザインが,単独で決定されることのないよう要素間のデザインの調整を行うことが望ましい。

④ 「統一」と「めりはり」をつける。
本来,道路景観は沿道の景観と道路との相互関係によって成り立っている。そのため道路内の景観を単独で考えるのではなく,沿道との関わりを考えたうえで景観設計を行うことが望ましい。
ただし,空間的にあまりにも統一的であり過ぎると,画一的な道路景観となってしまう恐れがあるので,交差点,橋梁,トンネルなど構造の変化点を利用して景観に「めりはり」をつけることも必要である。

⑤ 時間とともに景観をよくするようにする。
エージング(Aging)とは,老化,劣化などではなく,時間とともに磨きがかかり,時の重みを感じさせることをいう。このような美しさは,本来,公共空間の施設に備わっているべきものである。
現在の道路のデザインでは,新しいもの,他とは違ったものが志向され,整備直後の形態と色彩だけに注目されがちであるが,道路の魅力や個性は,長い時間の経過とともに定着していくものである。
後世にストックとして残る道路整備を行うためには,歴史的な景観要素を残すこと等にも配慮したうえで,飽きのこないデザインを行う必要がある。
また,景観整備に用いる材料についても,安全性,耐久性に加え,時間の経過とともに質感の高まるのが望ましい。例えば自然材料(それもできれば地場材料が望ましい)を活用したデザインが望まれる。

(3)道路景観整備に見られる問題点
道路景観整備は,各地で様々な試みがなされるのに伴い,その整備事例について,それなりの評価を受けている。しかしながら,地域の性急な要請に応えようとするあまり,即効性を追って目に付きやすい面にデザインを求めて,本来の道路景観としてふさわしくない事例も生まれている。

① 絵や色による対応
絵や色による対応は,比較的多くの道路構造物で見受けられる。しかし,人々に親しまれるものにしようとするあまり,公共性,永続性,環境性から逸脱し,例えば自然豊かな山地にあるトンネル坑門などに,派手な色彩を使った絵や周囲から際だった色を採用する例がある。良好な自然環境が存在しているにもかかわらず,周辺環境や景観との調和を怠ったため,逆に景観を損なっていると考えられる。また,時間とともに汚れが目立つようになるとかえって見苦しくなり,維持管理上も問題となることが多い。

② 地域性の表現による対応
地域の個性を表現するため,特産品や名産品をデザインモチーフとしたり,個性的なデザインを用いたりすることが見受けられる。道路は基本的な社会基盤であり,不特定多数の人々に眺められることから,特定の傾向に偏らないデザインが求められる。したがって,過度に地域性を強調したり,極めて個性的なデザインは避けるべきである。
以下に周辺環境と調和した例とそうでない例を示す。
写真ー1は,湖を通過するため景観上の配慮から逆Y型主塔のPC斜張橋とした例で,湖等の周辺環境と調和している。

写真ー2は,坑口ベルマウス形式を採用したことにより,地形の改変を少なくし,周辺環境と調和している例である。

図ー4は,トンネル坑門にペインティングした例であるが,周辺環境と調和せずトンネル坑口が周囲から際立っていることが多い。ドライバーにとって,トンネルヘの進入は緊張したものであり,視線を奪うような際立ったものは交通運用上問題があり,避けるべきである。

4 道路景観整備体制
建設省九州地方建設局管内では,道路の緑化および良好な道路景観の創出,沿道環境の保全等,道路利用者や沿道に住む人々にとって親しみのある道路環境整備の推進を図ることを目的として九州地方建設局内に「道路景観整備委員会」を平成3年6月1日に設置するとともに道路担当の各工事事務所に「道路景観検討委員会」を設置し,更に道路景観整備事業の推進を図っているところである。
また,具体の景観整備事業箇所の検討を行うため,必要に応じて産,学,官,民による検討委員会を別途組織するようにしており,地域住民の意見を反映および地域活性化の支援となるよう配慮している。(図ー5)

5 おわりに
道路をはじめとする社会基盤施設は,国民共有の財産として末永く愛され,広く親しみをもって利用され,さらには周辺環境と調和し,世代を越えて社会活動全体を支える公共性,永続性,環境性が求められる。この実現のためには,国民的合意の得られる建設・維持管理の経済性の範囲内で,国民要求を満たす計画・設計が求められる。
道路に求められている景観整備やデザインは,時代や場所に応じて異なると考えられるが,道路をより高次なものとするためには重要である。社会基盤施設の整備においては,急速な社会・経済の発展に追従することが基本命題であった時期の経験や反省を生かし,地域住民や国民に誇りと愛着をもたれるような優れた社会基盤としての整備を推進していくことにより,道路整備に対してより幅広い国民的支持が得られるよう努力を惜しまないことが重要である。

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