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有明海沿岸道路の軟弱地盤対策について

建設省 福岡国道工事事務所
 所長
森  将 彦

1 はじめに
有明海沿岸地域の交通渋滞を緩和するとともに同地域の地域振興プロジェクトを支援し,広域的な交流の促進や地域の活性化を図る有明海沿岸道路が計画されている。この道路のうち福岡県大牟田市から佐賀県鹿島市に至る区間が平成6年12月に地域高規格道路の計画路線に指定され,大牟田市から高田町に至る8.6kmの区間を大牟田高田道路として,高田町から大和町に至る8.9kmの区間を高田大和バイパスとして,大和町から大川市に至る10kmの区間を大川バイパスとして事業化(着工準備含む)し,整備を進めているところである。
この道路の沿線には,我が国有数の軟弱地盤帯が広がっている。そのため,今後の道路設計や盛土の築造工事に向けて,軟弱地盤特有の様々な技術的課題をあらかじめ検討し,安全かつ円滑な施工に向けての基本的な資料を得ることが必要となっている。
ここでは,本道路計画における軟弱地盤対策の検討方針を防災・環境・経済性の観点からの検討を加えつつ報告するものである。

2 地層区分
有明海沿岸道路は約30kmの区間全てが軟弱地盤上に位置している。これまでに30箇所のボーリング調査を行い,有明海沿岸道路の統一的な地層区分と地形・地質・環境条件に着目したゾーニングを行った。
有明海沿岸に分布する軟弱地盤層は従来から有明粘土層と呼ばれてきた。最近の研究では,この有明粘土層は,海域に堆積した海成の有明粘土層と,汽水~淡水域に堆積した非海成の蓮池層上部・下部に区分できるとされている1)。この新たな知見に即して地層区分を行った。

3 防災への配慮
盛土などの土構造物は,一般に他の構造物に比べて復旧が比較的容易であることなどから,設計の際は通常地震に対する配慮は行わないこととなっている。
しかし,実際に地震が発生した場合,軟弱地盤上に施工された盛土の安定性が一時的に低下し滑り破壊などの被害が生ずることはよく知られている。
有明海沿岸部において大規模な地震が発生した場合,鋭敏比が非常に高い海成の有明粘土層の強度が低下し,著しい変形を生じる恐れが高い。有明海沿岸道路のうち盛土構造区間が占める割合は半分以上となっており,復旧には大変な困難が予想される。このため,有明海沿岸道路の設計に当たっては地震に対する検討が必要と考えられ,河川堤防耐震点検マニュアルや液状化対策設計施工マニュアルを参考に軟弱地盤対策の検討を行っている。

4 周辺環境への影響
有明海沿岸道路の沿道は家屋が近接している区間が多く,多数のクリークが分布しているため,建設による影響を事前に考慮しておく必要がある。地盤改良により地下水の遮断が生じた場合には,上流側で湿潤化が,下流側では水位低下が生じ,ひいては地盤沈下に結びつくことが考えられる。また,石灰・セメント系固化剤を用いた場合は,地下水の汚染が心配される。その他,施工時の振動・騒音,施工後の振動・騒音・クリークの勾配変化の影響も考慮すべき課題となる。

5 トータルコストの縮減
軟弱地盤上に建設される道路は,限界盛土高以上になると,すべり破壊防止のために軟弱地盤対策が必要となる。しかし,軟弱地盤対策実施箇所と無対策箇所の接合部や,構造物と盛土構造部の接合部において,構造物との段差,縦断・横断勾配の変化,不等沈下による路面の亀裂などの被害が生じることが多い。
これらの被害に対する対策は,供用後ということもあり抜本的な対策は非常に困難でありオーバーレイなどの補修を行うにすぎない。このような場合,残留沈下が続く限りオーバーレイを繰り返すこととなり,初期建設費用は少なく抑えられたとしても補修費用は多大となる。有明海沿岸道路の軟弱地盤対策は,初期建設費用と維持補修費を合わせた総建設費用(トータルコスト)が少なくなるように設計すべきと考えられる。

6 今後の課題
検討結果を踏まえて,今後の取り組む必要のある課題として以下のようにまとめた。
(1)地盤条件の把握
 (ボーリング調査による現地盤の地層の把握)
現在までに行われたボーリングは30箇所であり,今後,より一層詳細な地盤情報を得る必要がある。特に,有明粘土の鋭敏比や強度特性の変化,軟弱層の圧密排水の確認,砂層の地震時の液状化判定についての調査が必要である。
(2)設計について
① 地震時の安定性
今後は盛土構造物についても地震時の検討を行うことになる。その際の設計手法をどのように定めるか。特に有明粘土は地震の震動によりせん断強度が低下しやすいと考えられており,どのように設計に反映させるか課題となっている。
② 地盤強度の設定
粘土のせん断強度は一般に一軸圧縮強さquの平均値で評価されるが,佐賀低平地の海岸堤防や六角川堤防では有明粘土の特性を考慮して,0.75qumax(quの上限包絡線の75%ライン)をもって設計値としている。本道路の設計において設計強度をどのような手法で設定するか課題となっている。
③ 設計安全率の設定
道路土工指針によれば,動態観測等による安定管理を実施する場合,設計に用いる最小安全率は,盛土高上り時に1.1,供用開始時に1.25(いずれも常時)程度を目安として良いとされている。また,低平地における堤防では有明粘土の鋭敏比を考慮して基準安全率を1.3としている。本道路の設計においてどのような基準を設定するのか課題となっている。
(3)施工について
 (試験施工の実施)
盛土による周辺地盤の沈下,変形などの影響を軽減,抑止する対策工法については現在明確な評価法が確立されていない。また,橋台等の杭にかかるネガティブフリクションについても現在の算定法が合理的かどうかの評価が求められている。従って,施工時の盛土速度,施工管理の基準,近接構造物への影響範囲,地盤改良の効果判定と設計仕様について,事前の試験施工による把握が必要である。
(4)新技術・新工法の検討
これまでの検討の結果,技術的課題並びに制約条件が明らかになった。このような制約条件をクリアしつつ,かつ,トータルコストの極小化が図られる有効な新技術・新工法の開発について検討していく。

7 おわりに
九州地方建設局では,これまでに明らかになった諸課題を検討する「有明海沿岸道路軟弱地盤対策工法検討委員会」を設立し,新技術開発を含めた工法計画を策定することとしている。来年度以降は本委員会の検討を基に試験施工を行う予定であり,次の機会に報告したい。

参考文献
1)三浦ほか:有明粘土層の堆積環境とその鋭敏比について
 土木学会論文集No.541/Ⅲ-35,1996

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