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平成10年度技術士試験をかえりみて
(建設部門出題傾向と解答例)

日本技術士会 九州技術士センター 普及啓発委員会 専門委員

総     括      矢 野 友 厚
土質および基礎      橋 村 賢 次
鋼構造およびコンクリート     是 石 俊 英
河川砂防および海岸    岡 本 正 美
道     路      宇留島 素 之
建 設 環 境      八 尋   裕

平成10年度技術士第2次試験の筆記試験は,昨年8月26日および27日に福岡市ほか8ヶ所の試験場で実施され,筆記試験合格者に対する面接口頭試験は,同年12月2日から12月14日までの間に東京で実施された。技術士試験の指定試験機関である㈳日本技術士会の発表では,10年度の技術士第2次試験の受験申込者総数は30,504名で,前年度に比し2,708名(+9.7%)の増で,3万人の大台を突破したほか,10年前の昭和62年度の申込者数の11,746名に対して2.6倍弱,合格者総数もまた,昨年度を19.6%上回る2,577名に達したと報じている。(なお,平成11年度の受験申込者総数は34,183名に達し,うち福岡試験場での受験申込者数は2,789名である。)また,昨10年度の建設部門の受験申込者総数は全部門申込者総数の66.1%に当る20,149名で,このうち筆記試験受験者数は10,363名,最終合格者数は1,466名で,合格率は筆記試験受験者数に対して14.6%,受験申込者総数に対して7.3%で,国家資格としてますます評価が高まるなか,これまでどおり試験合格は相当に厳しく狭き門であることを示している。
なお,合格者について分析した結果は
(1)年代別試験結果での占用率は(対受験者)
20代……0.9%,30代……37.3%,40代……40.6%,
50代……19.0%,60代……2.1%,70代……0.1%
 合格者の平均年令は42.9才となっている。
(2)合格者勤務先別試験結果
国立機関5.3%,地方自治体7.2%,大学0.3%,
公社公団等4.4%,民間81.8%,自営0.7%,無職0.3%となっている。
(3)最終学歴では
大学……88.5%,新旧高専……3.7%,短大……0.9%,
その他……6.9%となっている。
一方,平成10年度の筆記試験ならびに面接口頭試験の試験科目には変化はなく,設問傾向において多少の変化が見られたが具体例をあげてその概要を記述すると次のとおりである。
まず,筆記試験選択科目Ⅰ-1(午前9時~12時の3時間で解答記述)の問題は,受験者がこれまで体験してきた技術士に相応しい業務をいくつか具体的に示させ,その業務における技術的問題点と,それに対して受験者が採った技術的解決策を具体的に記述させ,その業務の技術的特色を明らかにさせる仕組としている。このⅠ-1の問題は,建設部門の11種類の専門科目の全てにおいてこの20年間余,問題設問文章の文言に多少の変化はあるものの本質的に内容として同性質の設問形式をとっている。ここに一例として河川砂防および海岸Ⅰ-1,このほか道路Ⅰ-1,および建設環境Ⅰ-1の問題全文を示して,受験における考え方を説明する。

選択科目(9-4)河川砂防および海岸 9時~12時
Ⅰ-1 次の問題について解答せよ。(答案用紙5枚以内にまとめよ。)
あなたが受験申込用紙に記入した「専門とする事項」について,技術的責任者としてふさわしいと思われるものを3つ選び,その業務の内容を答案用紙1枚以内に簡潔に述べよ。さらに,そのうち1つを選びその業務の内容とあなたの果たした役割および工夫した点について説明し,現時点での評価および将来に対する展望を述べよ。

平成10年度以前の約20年間は,一業務についての詳述方式としていたが,今年度よりは選択科目の道路や建設環境と同じく,その前段にかかる改訂が行われ,先ず技術士としてふさわしい業務の3例を略記させ,その後,前年度までと同じくそのうちの一例を選び詳述する方式で以下,上述出題文どおりの内容となっている。

選択科目(9-7)道路 9時~12時
Ⅰ-1 次の問題について解答せよ。(答案用紙5枚以内にまとめよ。)
あなたが受験申込書に記入した「専門とする事項」について,あなたが技術的責任者として実際に行った業務の中で技術士にふさわしいと考えられるものを3例略記せよ。
さらに,その中の一例について,(1)業務内容,(2)あなたの技術的責任者としての役割,(3)現在の技術水準から見た評価,および(4)改善すべき点について記述せよ。

この科目は,7年前からスタートしたが,
選択科目(9-11)建設環境 9時~12時
Ⅰ-1 次の問題について解答せよ。(答案用紙5枚以内にまとめよ。)
あなたが経験した建設環境に関する業務について,次の設問に答えよ。
(1)技術士の業務としてふさわしいと考えられるものを3つ挙げ,それぞれについての技術的内容およびあなたの立場と果たした役割を簡潔に記せ。
(2)(1)項に挙げた業務の中から1つを選び,技術的な課題について述べるとともに,あなたが採った技術的対応策と,あなたがその解決策を選んだ理由を詳述せよ。
(3)(2)項のあなたが採った技術的解決策について,現時点での技術的な評価および今後の課題について述べよ。

〔1〕テーマ選定の基本
テーマ選定の基本を著しく誤解している人が意外と多い。例えば,①大規模な事業に従事したこと,②有名なプロジェクトに関与したこと,③目新しい仕事をなしたこと等全く必要ではない。どこにでも見受けられるような平凡な仕事であっても「自分の頭で考えて創意工夫を生み出した」という中味なのである。自分自身の体験業務を選定することのみが試験官の要求している内容で,必ず理解しておかねばならない不可欠事項である。
なお,体験論文を仮に他人に書いてもらって筆記試験をパスしても,口頭試験の際の厳しい設問において必ず化けの皮がはがされる運命をたどるので,絶対に自己の体験業務であること。

〔2〕テーマ表現の良否の事例
試験官が始めからその気持ちになって論文を見てもらうことが合格の第一ポイントである。即ち,業務の背景をうたい込み業務の中に施した自分の働きを表現した特色を出すことが重要である。
悪い事例…△△橋の設計,道路の計画
     テーマが漠然としているからである。
良い事例…路線選定を伴う山岳道路橋の調査,計画と調査

〔3〕体験論文作成上の具体的配慮
 ① 受験申込書に記入した「専門とする事項」に整合していること→意外と忘れた人がいる。
 ② 専門的応用能力を発揮した内容であること。
 ③ 社会性,経済性,地域性に富む内容であること,最近は地球環境に及ぼす影響を付加する。
 ④ 施工性に対する検討がなされていること。

〔4〕論文の流れの基本
一般に「起・承・転・結」換言すれば「序論・本論・結論」という文章構成が必要である。
論文構成の概要は,①はじめに,②問題点,③技術的対応,④現時点からの批判,⑤おわりに,のようにまとめたら書きやすい。
ここに文章構成の全体の流れを有する形態の一例を紹介する。
“この事象の原因を〇〇〇の方法で調査した。特に留意した事項は△△△であり,得られたデータを□□□の方法で分析したところ〇〇〇であることが判った。したがって原因は△△△であると判断し,対策の検討を行った。設計にあたっては,□□□のような点に留意し,いろいろなことを比較検討してこのような計画を立てた。結果も大変良好であった。”
以上の流れの要旨は,論文をドラマチックに盛り上げるよい方法であると思われる。

〔5〕「現時点での評価」記載の1ポイント
近年,国土や建造物等の大災害や土石流等による大災害が数多く発生しており,一方地球環境に関する諸問題はますます重要度を加えている。
したがって,体験論文が構造物であれば,その安全性と地球環境に及ぼす影響の二点から,反省評価を付記することを忘れてはならない。

〔6〕体験論文合格が全試験合格の第一ハードル
筆記試験は,午前の部として体験論文,午後の部には選択科目の必須問題と専門問題の解答を要求されるが,結果的に午後の部がいくら良くできても,午前の部の判定結果が合格ラインに達していなければ全体での合格に対しては失格となる。
その理由は,午後の部の問題は知識を問う傾向が強く,技術士合格の補完的役割を演じているためである。したがって,先ず体験論文作成に全力を投入されたい。
次に筆記試験選択科目Ⅰ-2(午後1時~5時の間に,Ⅱの問題と一緒に出題)の問題は,各選択科目ごとに,各専門分野における最近の技術動向をふまえ,各専門的事項について解答論述させるもので,設問内容は本稿の次頁以降に土質および基礎,鋼構造およびコンクリート,河川砂防および海岸,道路,建設環境についてそれぞれ1例を示したように,比較的各技術分野の基礎的技術にかかわるものが主体となっている。
Ⅰ-2の問題と一緒に出題される筆記試験必須科目,Ⅱの問題は,建設部門全体に共通する事項で例年2題出題し,いずれか1題を解答させる方式で,平成10年度は次のとおりである。

必須科目(9)建設一般 1時~5時
Ⅱ 次の2問題のうち1問題を選んで建設部門全体の問題として解答せよ。(茶色の答案用紙を使用し,解答問題番号を明記し,4枚以内にまとめよ。)
Ⅱ-1 社会経済情勢が変化する中で,効率的・効果的な国土基盤整備を進めるための方策について,あなたの意見を述べよ。
Ⅱ-2 ISO規格の適用の拡大,SI単位系の適用,WTO協定の施行等,国際化の現状について述べるとともに建設分野に及ぼす影響について,あなたの意見を述べよ。

Ⅱの問題に対応する勉強の方法としては,当年の建設白書の熟読,最近のトピックス,最近発生した建設関連の重大事象等について資料集成の上解答を用意しておくことが肝要である。

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以上Ⅰ-1,Ⅰ-2,Ⅱの3科目の問題のうち,Ⅰ-1は前述のとおり問題設問文章が本質的に固定化に近い状況のため,予定答案をあらかじめ作成し,完全に丸暗記して試験に臨むことが可能であり,3時間の解答時間で制限文字数一杯の解答を書くのが普通である。しかし,Ⅰ-2およびⅡの午後からの科目問題に対しては,受験者自身の筆記速度を考慮し,書く問題に対しバランスのとれた時間配分を行うことが肝要で,以降頁の解答例に付記しているような留意が必要である。

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筆記試験合格者に対して行われる面接口頭試験における設問事項は,基本的にはこれまでと異なった傾向は余り認められないものの,我が国経済の国際化の進展に伴い技術者の国際流動化が求められており,そのためAPECにおいては技術者資格の国際整合化の検討が進み,APECエンジニア制度として具体化しようとしている。そして技術士は,このような国際的制度にも対応できる有力な資格と見做されていることから,これに関連する設問が数多くなされ始めてきている。平成10年度試験においての設問項目は次の4項目に分類要約できるようである。
 ① 受験者の技術的体験を主眼とする経歴の内容と応用能力を問う。
 ② 必須科目および選択科目に関する技術士として必要な専門知識を問う。
 ③ 技術士としての適格性および一般的知識を問う。
 ④ 国際標準化機構のISO9000,14000シリーズの質問とその取組み,SI基本単位に関する知識を問う質問,その他JIS,JEC,JEM
以上が平成10年度技術士試験の概要と出題傾向であるが,以下に同年度筆記試験選択科目の5問題を選定し,当普及啓発委員会の技術士に解答の執筆を求め,模範解答例として参考のため例示する。
当技術士センターの普及啓発委員会は,例年技術士試験受験者のための総合受験対策講座を継続的に実施し,九州地域受験者の受験対策に役立ってきており,技術士資格取得を目ざす技術者は,気軽に当センターに相談されるようお奨めする。

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ここではBグループの1問について解答例を示すこととする。

土質および甚礎 Ⅰ-2-9(B) 1時~5時
図に示す埋立て後20年以上経過した埋立て砂地盤上に,埋立て設岸より30mほど離れた箇所に新設される道路盛土が計画されている。道路盛土は耐震性を考慮するため,地震時の液状化対策を行う。なお,陸側近傍には既設道路を挟み,中層の住居専用の建築物が建設されている。液状化対策には,一般に「液状化の発生そのものを防止する対策」と「液状化の発生は許すが構造的に抵抗する対策」との2つに分けられる。前者の対策について以下の設問に答えよ。
(1)一般に液状化の発生のそのものを防止するには,地盤をどのような状態にすればよいか5つ挙げよ。
(2)図に示す盛土構造物の周辺地盤に対し,液状化対策を選定する場合の設計・施工上の留意事項を4つ述べよ。
(3)当該地区に考えられる液状化対策の具体的な工法を2つ選定し,各々の選定理由を述べよ。

(1)液状化発生の防止策
液状化発生を防止する地盤対策としては,①締固め,②固結,③間隙水圧消散,④地下水位低下,⑤せん断変形抑制の5工法が考えられる。以下,工法の概要について述べる。
① 締固め
振動・衝撃などで砂質土の密度を大きくし,液状化強度を上げるものである。代表的な工法としては,サンドコンパクションパイル工法,バイブロフローテーション工法,重錘落下工法などが挙げられる。
② 固結
砂質地盤内にセメントなどの安定材を攪拌・混合し,地盤を固結させて液状化対策を行うもので,深層混合処理工法,注入固化工法,事前混合処理工法などが挙げられる。
③ 間隙水圧消散
地盤内に透水性の非常に良い砕石などのパイルを打設することにより,地震時に砂質土内に発生する過剰間隙水圧の消散を早めて,液状化の発生を抑えるものである。
代表的な工法としてはグラベルドレーン工法が挙げられる。
④ 地下水位低下
ディープウェルなどで地下水位を低下させ,不飽和地盤にしたり,有効応力を大きくして液状化対策を行うものである。
⑤ せん断変形抑制
地盤中に連続地中壁などを打設し,地震時のせん断変形を抑制することにより,液状化の防止を図る工法である。

(2)液状化対策を選定する場合の設計・施工上の留意事項
液状化対策を選定する場合の設計・施工上の留意点としては次の4点が重要である。
① 設計に当たっては,液状化の対象となる埋立砂層から乱されない試料を採取して,繰返し三軸試験結果から地震応答計算を行い,対策工法の検討を行わなければならない。
② GL-16.0m以深の砂礫層を支持層とする締固め工法等を採用する場合,砂礫層が被圧されていると,砂層の強度低下を起こす要因となるため,GL-13.0m以深の粘性土層の掘り抜きの判断および圧密沈下の検討も必要である。
③ 液状化対策工法で締固め工法等を採用する場合,既設道路を介して20m離れた住居地域への環境対策として,低振動・低騒音工法を採用することが必要である。
④ 液状化対策工法として,締固め工法や地下水位低下工法および間隙水圧消散工法類を採用する場合,埋立砂層せん断変形により,既設道路や既設護岸への変状が懸念される。
したがって,施工中は盛土のり尻付近に地中変位計や地表面変位杭等を設置して地盤の挙動を監視する動態観測が重要である。

(3)液状化対策工法について
地盤改良工事施工中の既設構造物への影響を考慮すると,①固結工法と間隙水圧消散工法の併用,②固結工法と締固め工法の併用が考えられる。以下選定理由について述べる。
① 固結工法と間隙水圧消散工法の併用工法
既設道路へ影響を与えない対策として,盛土のり尻に固結工法(深層混合処理工法)による地中連続壁が必要である。盛土本体の基礎部分には,間隙水圧消散工法として低振動のグラベルドレーン工法が望ましく,設計に当たっては地震応答解析が必要である。
② 固結工法と締固め工法の併用工法
①の工法と同じように計画盛土のり尻に固結工法による地中連続壁が必要である。締固め工法としては,振動・騒音の少ないバイブロフローテーション工法を採用する。施工に当たっては,試験施工を行い,適正値を把握しておくことが重要である。

コンクリート Ⅰ-2-9(C)
コンクリートに一般に使用される混和剤,および混和材をそれぞれ1つ挙げて,その特性と使用上の留意点について述べよ。

1 混和剤としての高性能AE減水剤
1-1 特性
(1)分類
最近のコンクリートの高機能化ことに高強度化,高耐久性や高流動などに対応する場合,一般的に高性能AE減水剤が使用される。
現在市販されているものの主成分は,ナフタリン系,ポリカルボン酸系,メラニン系およびアミノスルホン酸系の4種類である。
(2)減水率
通常のAE減水剤の減水率(12~13%程度)を大きく上回る18%以上という極めて優れた減水性能を有する。
その減水性能は,セメント粒子表面に高性能AE減水剤中の主成分が吸着することで生じる静電気的反発力,立体障害作用および浸透湿潤作用によるものである。

1-2 使用上の留意点
(1)骨材の表面水の変動の影響
高性能AE減水剤を用いたコンクリートは単位水量が少なく,スランプやスランプフローの値は骨材の表面水量変動を受けやすい。従って生コンプラントでの表面水率の設定誤差を出来るだけ少なくするよう留意しなければならない。
(2)ポンプ圧送性
高性能AE減水剤を用いたコンクリートは,塑性粘度が大きいため,普通コンクリートよりも圧送負荷が大きい。殊に高所圧送については,圧送高さや圧力損失等を考慮して,吐出圧力に十分な余裕のある機種を選定しなければならない。
(3)締固めおよび仕上げ
高性能AE減水剤コンクリートは比較的粘性が高く,その傾向は高強度コンクリートになるほど顕著である。
従って,締固めが不適切な場合,ジャンカ,コールドジョイントなどの施工欠陥が生じ易いので留意する必要がある。

2 混和剤としてのフライアッシュ
2-1 特性
フライアッシュは,石炭火力発電所の微粉炭燃焼ボイラーで発生する石炭灰を電気集塵器で捕集した,あるいはそれを分級製産した微粉末状のフライアッシュである。その多くは球状で科学成分としてSiO2を45~70%程度含有するので,コンクリート又はモルタルに混和することで以下のような効果を持つ。
 ① 流動性の改善および単位水量の減少
 ② 水和熱の減少
 ③ 長期強度の増進
 ④ 乾燥収縮の減少
 ⑤ 水密性および耐久性の向上
 ⑥ アルカリ骨材反応の抑制
現在大型火力発電所で使用されている石炭のほとんどが海外炭で,副生するフライアッシュの品質は幅広い。
そこで,JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」は’99年に改正され,粉末度・活性度指数・フロー値比・強熱減量の値に応じてl種,II種,Ⅲ種,Ⅳ種の4種類の品質のものが規定された。

2-2 使用上の留意点
(1)種類と置換率
ダムコンクリートでは上記のⅡ種で置換率は30%程度,高流動コンクリートでは上記のⅠ種で置換率は20~40%程度,Ⅱ種では20~30%程度が好ましい。Ⅲ種はⅡ種に比べて強熱減量が大きく,Ⅳ種は粉末度が小さく活性指数が低く品質的に劣る。
従って,フライアッシュを混和する場合は,要求されるワーカビリティー・初期の強度発現・材令91日の圧縮強度・耐久性等に関してその使用目的が十分達成されるよう,適切な種類と置換率を定めなければならない。
(2)養生
フライアッシュを混和したコンクリートでは,打設後の湿潤養生は強度発現,耐久性確保の上から重要であり,過切な養生計画を立てて実施することが,一般のコンクリート以上に重要である。
(3)品質管理
使用しているフライアッシュの品質が配合設計時の品質性能を満たしていること,その品質の変動が許容範囲内にあることを定期的に確認しなければならない。

河川・砂防および海岸 Ⅰ-2-1(A)
河川法の改正等,河川をとりまく諸情勢を踏まえ,今後の河川整備,河川管理のあり方について論ぜよ。

1 はじめに
今日では,河川はただ単に洪水・高瀬の防御(治水)や水資源(利水)の機能を持つ施設としてではなく,うるおいのある質の高い国民生活の向上や良好な環境を求める国民のニーズの増大に伴い,環境や地域づくりの観点から河川の持つ多様な生態系等の自然環境の保全や水辺空間としての機能の整備が強く要請されたことを受け,河川法が改正され河川管理の目的に「河川環境」が明確に位置づけられた。
また,河川環境の整備や保全を求める国民のニーズに的確に応え,地域の風土・文化を踏まえた具体的な川づくり計画については,地域の参加が求められ,地域の意向の反映が強く打ち出されている。ここでは,このような河川を取り巻く諸状況を踏まえて今後の河川整備,河川管理のあり方について私見を述べる。

2 河川整備のあり方について
(1)河川整備の現状と課題
我が国は,背梁山脈,狭い平野,急流河川といった厳しい地形的,自然的条件下にあり,毎年のように各地で水害等の自然災害が絶えない一方,安定した水利用が容易でない国土を有している。
また,流域内の人口の増加,産業の発展等の急速な社会変化や治水事業の推進に伴う地域住民の意識の変化が生まれてきている。このような状況の中で以下に示す課題が挙げられる。
 ① 水害,土砂災害の被害やポテンシャルの増大
 ② 頻発する渇水
 ③ 悪化する河川環境,水環境の変化
 ④ 地域住民と河川との関係の希薄化など

(2)これからの河川整備のあり方
これまでの河川整備は,国土特性に対応するために緊急かつ優先的に主に人命・財産等を守るべく治水・利水機能を重視し,行政主導型で進められてきたと言える。これからの河川整備は,特に希薄となった住民との関わりに注目し,流域の視点に立って再認識する必要がある。そして,災害対応,水資源の開発,自然環境の保全等といった課題に対して河川管理者と地方公共団体および地域住民等が一体となって取り組む意識の高揚,組織の構築が望まれるところである。

3 河川管理のあり方について
(1)河川管理の現状と課題
河川整備が進捗することや社会・経済の進展により,河川管理上の課題も増えてきている。例えば,治水施設の整備により堤防延長,河川構築物等河川管理施設数の増大に伴う維持管理や都市機能の高度化による市街地の内水問題,環境ホルモン等の新たな水質問題等これからは,流域と一体となった総合的な河川管理を適切かつ効果的に実施する必要があると考える。
(2)これからの河川管理のあり方
これまでの河川管理は,流域全体を視点とした管理でなく河川管理者,地方公共団体および地域住民の役割分担が明確でなかったと言える。
例えば,堤防除草一つにしても地域の川という住民の意識が高まることにより行政との連携が深まり住民参加が可能となる。このように,河川管理者以外の者との連携,参画により地域に密着した個性豊かな地域づくりが行えると考える。

4 おわりに
これからの河川整備,河川管理を効率的・効果的に推進するためには,常に行政は住民との信頼関係に努めるとともに,情報提供を十分に行い住民と一体となった事業を推進することが肝要であると考える。

道路 Ⅰ-2-3 1時~5時
道路の盛土部または切土部の法面崩壊が考えられる原因と対策法について述べよ。

1 はじめに
道路は,人や物の交流のための交通機能だけでなく,上下水道や電線類など公共施設を収容するなど,人々の産業経済生活活動にとって欠くことの出来ない最も重要な社会資本である。
我が国における本格的道路整備は,戦後復興に始まり,産業経済活動を支える交通手段が船,鉄道から自動車,飛行機へと転換するに伴い,自動車交通基盤として整備が進められてきた。特に高度経済成長を迎え,産業経済活動の活発化とモータリゼーションの進展に伴い,早急な整備を求められ,急激にその整備率を伸ばしたが,まだ不足の状況である。
一方,我が国の国土基盤は,列島を縦断する急峻な山脈や山地,複雑な海岸線を持ち,平野部が少ない上に,世界有数の地震国,火山国であり,地質は脆弱で断層や破砕帯も数多く分布している。さらに,気候はアジアモンスーン型であり,年間降水量は梅雨期や台風期に集中して多く,洪水や土砂災害が起き易い国土状況である。
このような国土状況の中での道路整備は,平野部の一部を除き,盛土法面や切土法面は道路の一部をなしており,これら法面の保設や管理は道路の安全で円滑な交通を確保する上で最も厘要な要素の一つである。

2 道路の法面の安定と崩壊の原因
道路の法面は,切土法面,盛土法面,地山斜面等に区分される。豪雨,地震など異常な災害によって,道路が破損し,交通に支障を来たす例は極めて多い。しかし,道路本体が完全に破壊してしまう例は少なく,大方は法面・斜面の崩壊や落石により道路が被災しているのが現状である。
法面・斜面の安定は,主として土の剪断抵抗と自重のバランスのうえに保たれている。日本の国土特性から豪雨や地下水の滲透などによって地山強さの低下および間隙水圧の増加,人為的な要因である土の切盛による自重と剪断力のバランスの変化,地震による振動等により,法面・斜面の安定は著しく乱される場合がある。また,寒冷地域においては,法面が岩盤であっても地下水の凍結の繰り返しにより亀裂が拡大し,崩壊に至ることもある。これらのことから,法面・斜面の崩壊の原因は水によるところが大きい。法面・斜面は,水によって支配されていると言っても過言ではない。表面水,湧水を処理すると共に地下水位を少しでも低下させる努力が必要である。

3 法面・斜面の保護安定工法
法面・斜面の崩壊を防止する方策として,安定工がある。
法面・斜面の安定工は,豪雨や地震などの自然災害に対して,道路を建設時点から共用中の長期間にわたり保護しなければならず,また共用後の維持管理の容易さも必要である。また,近年は道路の周辺環境との調和が求められており,法面,斜面の果たす役割は大きい。
法面・斜面の保護安定工は,通常次の二つに大別される。
  ① 植生によるもの
  ② 構造物によるもの
一般に,工費,景観の面から植生工が望ましい。しかし,地質,土質,勾配,湧水状況から,植生工によることが困難な場合は,構造物による工法を採用している。

4 法面保護工の種類と法面崩壊箇所への対策工法
法面保護法には次のようなものがある。
(1)植生工
法面,斜面のうち降雨以外に,地下水や湧水などによる災害の心配の少ない盛土法面や斜面は,自然の景観に近く,工費のかからない植生工を採用している。
種子吹き付け工,厚層基材吹き付け工,筋芝工,張芝工,植生マット工,植生穴工,土のう工,樹木植栽工等がある。
(2)構造物による工法
長い法面や地下水位が高く湧水が考えられる切土法面は,強制的に法面崩壊を防止するため,構造物による工法を採用している。
モルタル吹付け工,コンクリート吹付け工,石張工,プレキャスト法枠工,吹き付け枠工,場所打コンクリート枠工,アンカー工,蛇籠工,落石防止網工,ブロック積工,擁壁工,石積工,杭打ち工等がある。
法面崩壊の原因は,建設時点で採用したこれら工法が間違っていたと言うよりも,自然の条件が当初予測より厳しかったことに起因する。建設時点で極端に厳しい条件を設定すれば,安全であるが,それだけ工費がかかり,不経済である。
通常,法面工法は,災害によって道路が致命的打撃を受けない場合は,考えられる条件のもとで安全となる工法を採用しているものである。
被災した法面は,ほとんど前述したように地下水,湧水や表面水によって起きており,これら水の処理法が法面崩壊箇所の対策工法と言える。
通常,表面水による崩壊箇所は,以前の工法で修復対応するが,異常な地下水や湧水に対しては,ボーリングなどにより地下水や湧水を強制的に排除する工法を従前の斜面工法と組み合わせることが多い。

5 法面・斜面の維持管理
法面・斜面の維持管理に当たっては,常に良好な状態に保つよう努めると共に,変状には十分注意して,崩壊,地滑り,落石などの兆候は事前に察知して,必要な措置を講ずることによって,事故を未然に防止し,道路交通の安全,円滑な通行を確保する必要がある。
近年,地球環境の変化によって,気象状況が著しく変動しており,従来よりも集中的な豪雨,地震の振幅や頻度の増大などが起きる傾向にある。
道路巡回においては,路面状況や路側状況だけでなく,道路以外の周辺状況も含めた広い視野で法面・斜面の状況に常に気配りする必要がある。

建設環境 Ⅰ-2-2(A) 1時~5時
あなたの得意とする建設分野において,環境保全および創出に関する技術開発の現状について述べるとともに,具体的な例についてその必要となった背景,技術的内容と課題を解説し,改善策についてあなたの意見を述べよ。

1 はじめに
近年の河川整備においては,河川の本来有する豊かで潤いのある自然環境に配慮した「多自然型川づくり」が推進されている。これは,平成9年6月に公布された河川法の改正内容から明らかなように,近年の河川整備に対しては,所要の治水・利水機能の確保に加えて「河川環境の整備と保全」が重要視されてきたことを反映したものである。この「多自然型川づくり」において,特に配慮されている事項としては,①堤防法面の緑化,②水際部への配慮(緑化,多孔質空間や遊水域の確保),③横断工作物における動物(特に魚族)の遡上・降下機能の確保,が挙げられる。
ここでは,「多自然型川づくり」について,上記の3点に関する技術開発の現状,その必要となった背景,技術的内容と課題,ならびに改善策について述べる。

2 技術開発の現状
まず①の堤防法面の緑化については,堤防法面の緩傾斜化や,コンクリートによる護岸に代わり,それと同等の強度を有し,かつ植物の生育が可能な多孔質空間を有する,蛇籠,ふとん籠,かごマット等を用いた護岸整備が多用されるようになってきている。また,護岸の上に覆土をしたり,さらに可能であればコンクリートを用いない土羽法面とするという取り組みもなされている。
次に,②の水際部への配慮については,多孔質空間を有する護岸ブロック(魚巣ブロック)を使用したり,水制工を設置することによる堤防付近の洪水時流速の低減に伴う堤防法面の保護および動植物の生息・生育空間の確保といった取り組みがなされている。
また,③の横断工作物への配慮については,取水堰や潮止堰への魚道の設置,護床工や帯工の設置に際する自然石や多孔質ブロックの使用といった取り組みがなされている。魚道については,アイスハーバー,デニール,バーティカルスロット等,様々な型式のものが考案,設置されている。

3 「多自然型川づくり」が必要となった背景
明治以降,特に戦後の治水事業については,頻発する激甚な水害から流域住民の生命・財産を1日でも早く守ることが至上命題となり,効率性・経済性が重要視され過ぎた河川改修や災害復旧が行われてきた。このため,河道の直線化・コンクリート化が進行し,急激な都市化の進展に伴う水質汚濁とあいまって,本来の「川らしい川」とはかけ離れた,劣悪な河川環境が生み出される結果となった。また,利水についても,高度経済成長時の急激な水需要の増大に対応するため,自然環境への配慮が十分になされないまま,ダムや堰などの水資源開発施設の建設が行われてきた。
昭和50年代に入ると,高度経済成長の終了,国民の生活水準の向上,余暇活動の増大等を背景として,国民生活にも質の向上,ゆとりと潤いが求められるようになった。河川についても,昔ながらの「川らしい川」,すなわち豊かな自然環境を守り育む,水と緑のオープンスペースとしての役割・機能が重要視されるようになった。
このため,所要の治水,利水機能を確保しながら,良好な河川環境を保全・創出できる河川の整備,すなわち「多自然型川づくり」が求められるようになった。

4 技術的内容と課題および改善策
まず①の堤防法面の緑化については,草木類,特に芝による緑化が中心となっている。今後は,現地により適した植生の選択的導入や,木本類による思い切った緑化についても検討していく必要がある。このため,現地における本来あるべき植生,当該箇所に作用する外力(洪水時の掃流力,除草,法面利用等)を適切に把握するとともに,陸域と水域の連続性の確保による生物の移動環境の確保のため,②の水際部における対策とも一体となった対策が必要である。
次に,②の水際部への配慮では,生物の生息する空間や水制工による遊水域の確保という,「場」の創出のみに力点が置かれている事例もある。即ち,河川の平水位とは異なる高さに魚巣ブロックを設置したり,湾曲の内側への水制工の設置,過密な水制工の配置,等の不適切な施工事例も見受けられる。このため,平常時の河川の状況を適切に把握するとともに,対象とする生物の種類を特定した上で対策を実施する必要がある。
また,③の横断工作物への配慮のうち,魚道については,対象とする魚種を適切に選択し,平常時および洪水時の河川の状況を的確に把握して適切な型式を選択した上で,魚道内への自然石の配置など,現地に応じた細かな工夫をしていく必要がある。護床工や帯工についても,平坦な河床を形成しないような配慮や,それ自体から植生繁茂が可能となるようなブロックの開発が望まれる。

5 おわりに
「多自然型川づくり」は,平成に入ってから,建設省直轄管理の大河川を中心として本格的な取り組みがはじまり,最近になってようやく中小河川でも取り組まれるようになったところである。
「多自然型川づくり」を更に拡大していくためには,より安価で効率的な施工技術を開発する必要があるとともに,より適切な施工のための事前調査,およびデータ蓄積のための追跡調査(事後調査)を適切に実施する必要がある。
また,施工時期についても,対象とする生物に応じて適切に配慮していく必要がある。
さらに環境についても,住民の価値観も多様であり,保全対策の実施に際しては,何よりも現地を知ることが大切である。このため,地域住民の意見を適切に把握し,それを集約しながら「多自然型川づくり」を推進していく必要がある。

付記
解答用紙はB-5版横書き,左綴じで,1行あたり25字を表面に14行,裏面に18行を配した800字詰めの答案用紙である。答案の作成にあたっては次の諸点に留意する必要がある。
① 筆記速度を養成し,Ⅰ-1以外の全問題答案への指定枚数の80%以上が埋められること。
② 設問文の意図内容を十分に把握したうえ,なるべく多くの事柄が盛り込まれること。
③ 報告文ではない形の論文となるためには,自分の意見・見解が述べられていること。
④ 記載順序を体系づけて,論文の展開へ配慮し,主張内容は一本の筋が通されること。
⑤ 多義的に読める曖昧な表現を避け,一義的にしか読まれない文章が書かれていること。

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