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キャッシュを生み出す公共事業=地域ブランディングへの挑戦
佐藤圭

キーワード:キャッシュ、ストーリーマーケティング戦略、地域ブランディング

1.はじめに
弊社は、地域の方に本当に求められる地場建設業になりたいと日々奮闘しております。「地方消滅」等の地方の抱える問題は、地場建設業だからこそ解決に貢献できることがあると思っています。
私が考える地方再生の方向性は、「人口増加」ではなく「キャッシュの増加」です。そのために、地域資源を活かした地域ブランド「人吉禅スタイル HITOYOSHI ZEN STYLE」を作りました。
以下では、人吉球磨地域の現状と弊社の取り組みについて述べます。またその取り組みを通じて得た知見をもとに一つの提案を示します。同じように「地域消滅」を課題とする地域の再生に役立つことがあれば幸いに思います。

2.人吉球磨地域の現状と課題
弊社が本社を置く人吉球磨地域は、現在10市町村に約9万人が暮らす地域です。地域人口は年々減少しており、地方消滅を論じた「増田レポート」によれば、将来消滅する地域としてリストされています。
一方で資源は豊富です。今年(2015年)に「日本遺産」に選定された通り、歴史資産に恵まれています。国宝級の神社仏閣が揃い、相良家700年の歴史が残る城下町もあります。自然や農畜作物にも恵まれ、人吉温泉には温泉宿が多数軒を連ねます。
地理的には熊本県最南端(宮崎・鹿児島の県境)に位置し、人吉から車で1時間圏内の「日帰り」「1泊2日」商圏には200万人ほどがいます。
しかし、これほどの資源に恵まれ、これほどの商圏人口が居る割に年々衰退している地域です。
私はこの衰退の原因の一つは「地方における建設業依存体質」だと思います。これを乗り越えない限り地方の衰退は止まらず、地場建設業も苦しみ続けます。なぜなら、人のいないところに公共事業は必要ないからです。
公共事業の基本は、生命と財産を守ることです。さらに地域経済の要としても施策が打たれてきました。しかし、人が減少すれば、公共事業も減少し、地場建設業の仕事も減るという悪い循環に陥ります。

3.解決策の方向性-キャッシュを生み出す公共事業
地域にとっての地場建設業は、疲弊したとはいえ裾野が広く、与えるインパクトはいまだにかなり大きい産業です。そのインパクト・ポテンシャルを活かすには、「仕事を待っている」のではなく、「仕事を作り出す」ことに積極的になるべきだと私は考えています。
次のような新しい良い循環を生み出すことへの貢献を目指すのです。
①町が活性化=新しいキャッシュが生まれるような体質になる。
②結果、人(交流人口・定住人口)が増える。
③結果、公共事業・民間土木が生み出される。
必要なのはやはり「人」です。しかし、一口で「人」と一括りせず、キャッシュを生み出す為にはどういう「人」が必要なのか?という視点で考える必要があります。
「人」を定義する上で、キーとなるのは「インバウンドビジネス」だと私は考えています。「インバウンド」は一般に外国人旅行者を示しますが、ここでは日本国内旅行者も含めて「地域外からの流入」を指すものとします。「人」は「人」でも、地域外からの「人の交流」にターゲットを絞るのです。
「人」を定義する上で、キーとなるのは「インバウンドビジネス」だと私は考えています。「インバウンド」は一般に外国人旅行者を示しますが、ここでは日本国内旅行者も含めて「地域外からの流入」を指すものとします。「人」は「人」でも、地域外からの「人の交流」にターゲットを絞るのです。
この「人の交流」において、地場建設業が貢献できることは何でしょうか?民間と行政が一丸となって「キャッシュを生み出す公共事業」にチャレンジすることだと私は考えています。「キャッシュを生み出す公共事業」とは、「地域のブランディング」に役立つ公共事業です。
つまり「地域ブランディング」⇒「地域の交流人口・定住人口増加」⇒「新しい公共事業・民間土木の増加」
という良い循環を生み出すのです。

4.三和建設の取り組み事例
5年前より、弊社は自ら行動を開始しました。建設業の枠を超える「地域ブランディング」の取り組みです。その取り組みを周囲から認めてもらうためには、まず弊社が結果を残す(儲かる)ことが必要だと考えています。
(1)人吉禅スタイル HITOYOSHI ZEN STYLE
まずソフト面からスタートしました。日本トップクラスのマーケティング戦略家に本格的に学び、練りに練ったブランドを2015年12月に「人吉禅スタイル HITOYOSHI ZEN STYLE」として発表しました。
これは日本遺産ブランドとしても第1号となりました。人吉球磨の独自資源である神社仏閣のうち、「禅」のストーリーに特化し、様々な資源のうち、特に素材感ある農産物をブランド化していきます。
このブランドの商品第1弾はお茶です。実はこのお茶は、弊社の工事現場を通じて知り合った地域住民(五木村)の製茶農家さんとのコラボ製品です。弊社が施工している川辺川砂防ダム事務所発注工事「九折瀬渓流保全(1期)工事」の現場事務所のお隣の「松井製茶」さんとの共同開発製品です。
手前味噌ではありますが、地場建設業が工事を通じて知り合った地域の方と地域ブランドを発表するというこの出来事は、これからの新しい地場建設業による地方創生のあり方ではないかと思います。松井製茶の若き後継者である松井祐起氏も私のこの地域に対する思いに賛同し協力してくれたのです(写真-1)。

(2)茶房はちと新宮禅寺の一体開発
次にハード面でのチャレンジです。ブランド商品の売り場として人吉市中心部から少し離れて「茶房はち」を先行オープンさせました。店舗には600年の歴史ある黄檗宗派禅寺:新宮禅寺が隣接しています。黄檗宗を研究し、本堂につながる箇所に新たに弊社で石畳を作らせていただきました(写真-2)。

この石畳は、黄檗宗の思想に基づくもので、龍の背びれを表し魔除けを表現するものです。境内への入り口坂道に「市松模様」も施しました。これは数々の禅寺庭を手掛けた伝説の庭師「重森三玲」のオマージュです(写真-3)。

これらには、早速観光に来られた方が「へーっ、そうなんだ」と感嘆の声を上げてくれ、スマホで撮影しSNSに投稿してくれるなど、口コミが広がりつつあります。
またその足で、歴史に基づいてデザインした当店オリジナル商品を購入してくれるなど、地域の「キャッシュを増やす」動きにつながっています。

5.ストーリーマーケティングと公共事業
自分自身の失敗と成功を踏まえ、キャッシュを生み出す公共事業を進めるには、どのような道筋をたどるべきか、私見を述べます。
まず、行うべきはソフト面です。独自の資源である歴史に基づいたストーリーマーケティング戦略を構築し、地域全体に一貫性を保たせる運動を先に行います。次にハード面で、歴史ストーリーを活かした公共工事を施し、新しい意味、価値を生み出します。
目先の事を追いかけ過ぎた結果としての現在の地方の状態を鑑み、じっくりと取り組むべきなのではないかと考えています。

6.最後にー提案と決意
人吉球磨地域は広く、歴史深いエリアは各地に点在しています。地域には10市町村が存在しますが、日本遺産認定後もまとまった動きになっていません。地域ブランディングの成功のためには、市町村そして各業界の横断的な政策が必要です。これはこの地域に限った問題でなく、全国の地方にある問題と思います。
そこで一つ提案させていただきたいことがあります。
ぜひ観光庁の事務所をこの人吉球磨の地に設置してみてはいかがでしょうか?人吉球磨のみならず全九州の観光の司令塔・取りまとめ役として「九州観光庁」なるものをこの地に置き、モデル地域として新しいチャレンジ「インバウンド政策における公共事業」という試みを行ってもらいたいと考えています。
ブランディング戦略上重要なのは「一貫性」です。あらゆる各業界、世代、各自治体や国土交通行政のみならず、経済産業省や農林水産省など密接に絡むなかで、いかに独自資源に基づいた一貫性のある、継続した施策を打てるかが成否を分けます。
最後になりましたが、最も重要なことは我々地場建設業がそのリーダーに値する業界(会社)になる必要があることです。それには地域からの信頼を高め続けなければなりません。
施工している現場をクオリティーの高いものにすること。
地域の住民の方に喜んでもらえるような日々の施工、言動を地道に行うこと。
そして災害において迅速な対応を行い、生命財産を守る一躍を担うこと。
さらに普段の日常生活において積極的に地域と関わること。
私の取り組みは、大河の一滴かも知れません。しかし一滴、一滴の積み重ねこそが大河になると信じてチャレンジを続けていきたいと思っています。

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