高架橋の施工における移動支保工の採用
建設省 福岡国道工事事務所
工務課長
工務課長
河 野 良 行
1 はじめに
近年,海外参入問題や海外資材調達の問題,さらにバブル崩壊後の財政悪化を背景に,公共工事の高品質化やコストの縮減が大きな課題となっている。
九州地方建設局においても平成9年度に「公共工事のコスト縮減対策に関する行動計画」を策定公表するなど,コスト縮減に対してより一層の努力,工夫を図っているところである。
こうした状況の中,経済性,施工性,安全性等に優れた移動支保工を採用した,32径間のPC中空床版橋からなる連続高架橋について述べる。
2 橋梁概要
本橋は,高規格幹線道路西九州自動車道今宿道路(福岡市西区拾六町~糸島郡二丈町福井間約23.3㎞)の中,福岡西料金所から福重寄りの延長948mの高架橋である(図ー1)。
設計条件は下表のとおりである。
上部構造は,12径間連続中空床版橋1連,10径間連続中空床版橋2連からなる。
全体図を(図ー2)に示す。
3 施工方法
(1)施工方法の選定
連続中空床版橋の施工方法として,一般的にビティ枠によるオールステージング工法が採用されている。
本橋は下記のような条件下にあるため,移動式支保工の採用を検討した。
【条 件】
① 各径間長が約30m程度でほぼ等径間である。
② 連続径間数が32径間と長い。
③ 平面線形がほぼ直線に近い。
④ 桁下空間高10m程度以上ある。
移動支保工は,オールステージング工法と比較して次のような有利性が確認できたため,コスト縮減,高品質,安全性等の面から本橋の施工方法として採用した。
a 経済性
表ー1に示すようにオールステージング工法に比べて約15%~20%程度経済性に優れる。
経済比較においては,ワーゲンを上下線1基用いた場合と2基用いた場合を考慮した。
b 施工性
1径間ごとの分割施工において,工程管理,品質管理が行いやすい。
全体工期において,表ー2に示すように3割程度工期短縮が図れる。
c 安全性
交通量の多い国道202号と並行し,一般交通を開放しながらの工事であるため,交通に対して影響が少なく,対面車両の視距が十分確保される等,安全性が高い。
機械化による労務の省力化と各作業のサイクル化,単純化により労務者の熟練度が早く,また,安全設備が完備されているので安全に作業ができる。
(2)施工法の特徴
本橋で採用した移動支保工は,吊移動支保工である。
吊移動支保工を2基使用し,1号機は上り線A2橋台よりスタートしP1橋脚まで,2号機は上り線側より2径間遅れる形で下り線A2橋台よりP1橋脚まで施工する。
本工法の特色を以下に述べる。
・1径間ごとの分割施工となるため施工段階に応じて構造系が変化する。したがって,主桁に生じる断面力が施工段階に応じて変化する。
① ワーゲンの先行支持台を受けるため,1径間先の橋脚上に先行ブロックを設ける必要がある。
② 各径間の接続部は桁自重のモーメント反曲部付近(支点から6m付近)に設ける。
吊移動支保工は,鉄筋,コンクリート,型枠,ワーゲン自重等の荷重を2本のメインガーターで受け持ち,3基の支持台を介して橋脚に伝達している。図ー3に吊移動支保工の移動要領を示す。
本橋の移動式支保工移動時においては,図ー4に示すように1橋脚に対して上下線の上部工が乗っているため,中央部の型枠開放後,中央分離帯側の型枠を吊り上げ橋脚をかわす方法を採用している。
また,上下線2基のワーゲンがお互いに干渉しあわないように2径間ずらす形で進行させ,下り線側のワーゲン引き上げスペースとして,図ー5に示すように,中央分離帯部の床版を後施工する方法で施工空間を確保している。
後施工部の床版は,図ー6のような吊り支保工にて上下線のワーゲン進行後に施工を行う。
(3)沓上ブロックの施工
本工法においては,吊移動支保工の移動に先立ち,支持台(図ー3の移動要領図のR3支持台)を設置するため橋脚上に主版の一部である横桁部を施工する。
本ブロックの施工では支承も設置するため,ブロックの回転防止のために図ー7に示すようなコマを設置している。
(4)施工工程および管理
吊移動支保工は,高度に機械化された型枠,養生設備を完備した,いわば移動式工場である。
したがって,各作業がサイクル化されているため,良好な品質管理,工程管理ができる(各作業段階を写真ー1,2,3,4に示す)。
1径間の施工は,支保工の移動据付工,型枠工,鉄筋工,コンクリート打設工,養生工,緊張工等を1サイクルとして行う。表ー3に示すように1サイクルの標準工程は12日としている。
4 おわりに
本橋は,現在上り線が12径間下り線が9径間まで完了しており,工程どおりに順調に進行している。
高架橋の施工におけるコストの縮減,高品質化等,合理的な施工方法の1例として移動式支保工の採用例を述べたが,公共工事において,コスト縮減,高品質化,施工の合理化等は,大きな課題であり今後一層の取り組みが必要である。
建設省においては,新技術,新工法の活用をはじめ,VE方式の導入,デザインビルド方式の導入等多様な入札,契約制度の実施など,さまざまな検討,試行を行っているところである。