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美々津大橋における支承取替工事

建設省 延岡工事事務所
 道路管理課長
辛 島 秀 治

1 はじめに
一般国道10号美々津大橋は,一級河川耳川を横過する橋長L=230.0mのPC4径間連続箱桁橋で,昭和41年度に竣工している橋梁である。設計は,昭和36年改定の「プレストレストコンクリート設計施工指針」に基づき自動車荷重20t(昭和39年鉄筋コンクリート道路橋設計示方書)で行われたものである。
本工事は当初,兵庫県南部地震の復旧仕様に基づく橋脚の耐震補強を目的として計画された。本橋の構造は,鋼製沓を用いた一支点固定の連続桁形式である。この形式のままでは地震時の水平力に対して固定橋脚の負担が大きく,橋脚の鋼板巻立てによる補強のみでは,所定の耐力を得ることは困難であることが判明した。
本橋の架設位置は,耳川の河口で海水飛沫を受ける環境条件下にあり,また復旧仕様においても耐震性能の高いゴム支承の使用が望ましいという記述もあり,地震時水平力を各橋脚に分担させる水平力分散ゴム支承への措置を施し,橋脚の現実的な鋼板補強設計を可能とした。このような経緯から,本工事は鋼板による橋脚補強工事から支承取り替えを主体とした工事に様変わりした。図ー1に補強一般図を示す。
取り替えの対象となるゴム支承は総重量が約4t,最大分割重量が1.4t程ある。今回の工事における施工の主要ポイントは2点ある。ひとつは桁に損傷を与えずに旧鋼製沓を撤去するにはどのような方法が最良であるかという事。もう一点は上記のようなサイズ,重量とも大きな沓をどのような仮設設備を用いて狭い空間(沓高45cm)に送り込み据付けるかという事であった。

2 工事概要
(1)工事名 美々津大橋橋脚補強工事
(2)工事場所 宮崎県日向市大字幸脇地先
(3)工 期 平成8年3月13日~平成9年3月20日
(4)設計条件
   橋  長:230m
   桁  長:51.4+2@63.5+51.4m
   支  間:50.8+2@63.5+50.8m
   有効幅員:7.00(車道)+1.80(歩道)
   設計荷重:TLー20→B活荷重
   構造形式:
   上部工 :PC4径間連続箱桁橋(張出し工法)
   下部工 :壁式橋脚   (P10)
        円錐式橋脚  (P11,P12,P13)
        半重力式橋台 (A2)
(5)工事内容
   支承取り替え工
    支承撤去・設置 (鋼製沓→ゴム沓)
    (橋脚950t沓,橋台350t沓)
   橋脚補強工
    曲げ耐力制御式鋼板巻立工法

3 施工上の問題点と対策
前述のように本工事の施工上の問題点は,旧沓の撤去方法と新沓の設置方法である。以下にこれらの問題に対する解決策と,その結果を述べる。

(1)旧鋼製沓の撤去方法
鋼製沓の撤去にはワイヤーソーを使用した。その施工結果は切断面が滑らかで,主桁を損傷することもなく切断することができ良好であった。切断は沓の主桁側と下部工側の2面で行い,各々の切断には5~7日を要した。切断作業中は冷却水(循環式)の管理とワイヤーソーの破断時の取り替えを行うだけでよい。
工事発注時の撤去方法は,アセチレンガスによる溶断と手バツリであった。この方法の欠点は,まず作業空間の狭さの影響を直接に受け,安全作業ができないことにある。支承部は高さが45㎝であり,現況の鋼製沓と仮沓の純間隔は60㎝程度である為作業効率も悪く,ハツリ跡が残るため新設ゴム沓の据えつけにも困難が予想された。コンクリートブレカーを使用した場合,主桁下縁断面を損傷せずに沓を撤去することは非常に困難である。このように溶断や手バツリの方法は,種々の問題点が予想された。
鉄筋コンクリート部材の切削には,従来ダイヤモンドカッター,コアカッター,ワイヤーソー等が使用されており,本工事でもその採用を検討した。カッター類のものは作業空間の制約から使用不可能である。ワイヤーソーの場合,問題となったのは切削対象が矩形をした鋼製沓であるため切削開始時に滑らかに作動しないことであった。そこで切断開始面に5cm程度のモルタルを打設し,そのモルタル部分から切断を始める事によりこの問題を解決した。写真ー1はワイヤーソーの設置状況,写真ー2,3は切断状況を示す。

(2)仮り受け支承
本橋施工時の仮沓位置に500×1,200の大きさの無収縮モルタルを打設し,仮沓とした。下部工天端の支圧応力度は活荷重の偏載を考慮した反力(5割増し)で計算した結果,95kg/cm2程度となり応力上,仮沓の大きさを上記以下にすることはできないことが判明した。
油圧ジャッキを仮沓とすることも可能であるが,許容支圧応力度を満足させるには,前述の支圧面積を確保しなければならない。そのためにはジャッキ下に特殊な支圧板が必要となる。また,重大事故につながる油漏れ等による不用意な主桁の沈下を防ぐため,ジャッキには移動制限装置が必要となる。しかしながら,45cmの桁下空間に設置可能で所要の上揚能力があり且つ,移動制限装置が付いているジャッキは特別注文となる。従って本工事では,安全性と経済性の二面からモルタルによる仮沓を採用することになった。
写真ー4は油圧ジャッキにて反力を仮受けし,仮沓のモルタルを打設する直前の状況を示す。
図ー2に旧支承撤去要領を示す。

(3)水平力分散沓の据付け
支承部材は,新設橋のそれとは異なり,分割施工が可能なようにアンカーボルト,ソールプレート,ベッドプレート,フランジプレート,ゴム沓本体に分解して納入される。この中で人力で持ち運び据え付け可能なものはアンカーボルトのみで,他の部材については,なんらかの機械設備が必要である。そこで,本工事では橋脚側面から2条のI型鋼の張り出し梁を設け,その上のフランジをレールとして運搬台車を走行させた。台車上にはリフターと呼ばれる油圧式の高さ調整装置を取り付け,これらの装置によって分割された支承部材を上下左右に移動させ,次ページ図ー3に示す要領でゴム沓を設置した。写真ー5は,リフターを使用してゴム沓本体を送り込んでいる状況を示し,写真一6は新ゴム支承の完成状況を示す。

4 おわりに
本工事は,橋脚の耐震補強に伴うプレストレストコンクリート橋の支承取り替え工事であったが,この橋梁のように大反力の支承を取り替えるのは,日本では最初で,聞くところによればヨーロッパ,アメリカにつぎ世界では3番目であるということである。このような工事は今後も需要が増してくると考えられ,本工事は橋梁メンテナンス工事のなかで大反力の支承取り替え工事の先例として位置付けられ,今後の工事の参考物件としてあつかわれるであろう。
本工事の施工実績からは,次のようなことがいえる。
1) 国道10号線は日交通量が17,500台あり,主要幹線道路として多くの交通量を記録している。本工事はこのような交通量にもかかわらず交通解放下で行ったものである。したがって,工事中の橋梁の安全性については,十分な検討が必要であった。
2) 工事中の一般車両の交通については,規制が必要ではあるが,できるだけ交通渋滞にならないように注意を払うことが大切である。
3) 工事は橋梁補強と支承交換の両方を考慮する必要があり,特に支承交換時には橋梁の架設中の安全対策が重要課題である。転倒防止用の仮受台・主桁支持用のプラケット等の検討と設計を行う必要があった。
4) 支承の交換工事は非常に狭い空間で行われるものであるから,作業性がよい工法を採用する必要がある。例えば,コンクリートの部材をカットする場合などには,ワイヤーソーを採用するなどして,効率のよい作業を目指すことが重要な課題と考えられる。
5) 工事に必要な資材置場などについても,注意が必要であり,資材の送り込みや架設用の機材・治具などについての費用面からの検討も十分に行うことが大切であると考えられる。
6) 特に補修工事には,新設橋とは別の問題も多く,また,コストについても考えるべき点が多いことから,今後の実績をふまえてさらにデータを蓄積し検討を加えるべきであると考えている。
今回の報告では,紙面も限られており本工事の詳細な点が説明不十分であると思います。記録写真・ビデオなどの工事記録を多く残していますので詳細についてお知りになりたい方がございましたら筆者までご一報ください。

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