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都市部のシラス台地におけるトンネル掘削
髙木章次
田中秀之進
緒方秀敏

キーワード:シラス、山岳トンネル、未固結地山、都市NATM

1.はじめに

鹿児島市域は、鹿児島湾岸に低平な沖積低地が展開しているが、沖積低地の三方は台地・丘陵地で囲まれており、市域の大部分を台地・丘陵地が占める。鹿児島東西道路は、この台地を貫いて鹿児島市の郊外と中心部を結ぶ延長約3.4㎞の道路で、郊外側の約0.7㎞を除いた約2.7㎞がトンネルとなる。約2.7㎞のトンネルのうち、郊外側の約1.5㎞が比高30~80mのシラス台地を貫く山岳トンネルで、残りの約1.2㎞は市街地直下の沖積層に構築される都市トンネルとなる。最終的に、山岳トンネルと都市トンネルはつながった一本のトンネルとなるが、山岳トンネルの中央付近ではランプトンネルが分岐し、地上にアプローチする。
新武岡トンネルは、ランプトンネル(2車線)を用いて山岳トンネル区間の暫定供用をめざすもので、鹿児島東西道路のうち本線約900mとランプトンネル約700mが該当する。鹿児島東西道路概念図を図-1に、位置図を図-2に示す。
本稿では、新武岡トンネルの施工において、主に特殊部の施工結果について述べる。

2.地形・地質概要

鹿児島市域の地形は、鹿児島湾岸に展開する低平な沖積低地と海抜標高50~200mの台地または丘陵地(シラス台地)に代表される。
本トンネルはこのシラス台地を貫く形で計画されている。シラスは、後期更新世に姶良火山(現在、姶良カルデラとして鹿児島湾の桜島より北部に形を残す)から流出した入戸火砕流の堆積物を起源とし、この入戸火砕流堆積物の大部分を占める非溶結部もしくは弱溶結部分がシラス(一次シラス)と定義される。シラスは、地山深部でも未固結の土砂状を呈すというのが特徴を有する(写真-1参照)。

本トンネルの地質はほぼ全線がシラス(一次シラス)で、最大土被り80mに達する地点においても掘削対象地山は土砂状を呈する。また、本トンネルでは一次シラスの他に、トンネルの坑口の斜面付近や一部の小土被り区間(沢部)で、二次シラスと呼ばれる一次シラスを起源とする極めて軟質な二次堆積物が出現する。トンネルの平面図を図-3に、地質縦断図を図-4に示す。

3.特殊区間
本トンネルの既施工区間を、施工上の特徴から、図-5に示す区間に分けて、それぞれの区間の概要について以下に述べる。

(1) 住宅直下区間・市道横断区間の施工
本トンネルの最も起点側の住宅直下区間は、民家の密集した団地の直下(土被り17m)でトンネル掘削を行った(写真-2、図-6、7参照)。

小土被りでの軟質なシラス地山を掘削することは、地形・地質条件的に厳しく、地表の沈下対策が課題となった。
住宅直下区間に続く市道横断区間は、トンネル上部の市道との離隔が5mと極めて厳しい条件でのトンネル掘削となった。市道は、朝夕の混雑が激しく、路線バスや10tダンプ等の大型車両が多く混入する主要道路であるとともに、市道直下には高圧のガス管、光ケーブルなどの重要保安物件が存在する(図-8参照)。

さらに地質は、市道横断部のトンネルの天端から上半にかけては軟質な沖積層や盛土であった。そのため、切羽天端の崩落から市道の陥没といった大きな事故を回避することが最大の課題であった。
また、当該区間のガス管については、迂回させることが望ましいと考えていたが、幹線のガス管であるため迂回ができず、古いガス管を可とう性の高い管に敷設しなおすという対処に留まった。そのため、地表の陥没に加えて地表面沈下対策が重要な対策課題となった。
このような状況から、トンネル天端の崩落対策として、切羽天端部に長尺先受け工法(住宅直下区間は無拡幅のシングル配置、市道横断部は拡幅のダブル配置)、鏡面に長尺鏡ボルトを採用した(図-9、10参照)。さらに、地表面沈下対策として、補助工法に加えて、上半先進工法(図-11)を補助ベンチ付き全断面掘削に替えて、インバート一次閉合(図-12)を行った。本区間では、これらの対策工により地表面沈下量を20㎜以下に抑えて、無事に掘削を終えることができた。

(2) 沖積層区間の施工

当該区間の二次シラス(沖積層)は、トンネル断面で、N値が2程度のトンネル底版部においても2~5程度の極めて軟質なものである(図-13参照)。そのため、本区間のトンネル掘削においては、天端や鏡面の崩落、トンネル脚部沈下、地表面沈下、トンネル掘削によるトンネル管理所の杭基礎への影響が懸念されたことから、表-1に示す施工方法について比較検討を行った。
その結果、対策効果、施工性、工費、工期面で優れる地盤改良工法を採用した。地盤改良施工ヤードの全景を写真-3に示す。トンネル施工時には、地表面の沈下や側方のトンネル管理所の杭基礎への影響もほとんどなく、トンネル直上の地表面沈下量も最大3㎜程度と計画時に想定した以上の効果を得ることができた。

(3) 水路ボックス直下区間の施工
起点側坑口から210m付近には、トンネル上部に離隔2.0mで水路ボックスが横断している。
この水路ボックスは、沢上流のシラス台地を大規模宅地造成した際に構築された調整池の排水に用いられているもので、常時の水量は少ないが降雨時には、調整池からの排水が満水に近い状態で流下する。写真-4に呑み込み部の状況を示す。

水路ボックスの周辺は軟弱な沖積層であり、水路ボックスの変状等により、流下する雨水がトンネル内に流入すると、トンネルが下り勾配での施工であることもあり、切羽の水没が懸念された。
さらに、この水路ボックスの下方には、古い三面水路が残置されていた(図-14、15参照)。

このような状況から、三面水路の撤去方法および水路ボックスの防護方法について表-2に示す検討を行った。事前撤去案については、増水時の水替えの問題、工費面、工期面から不利と判断され、トンネル坑内からの撤去方法について、詳細な検討を行った。その結果、AGF等による先受け、長尺鏡ボルトによる鏡面の安定確保および水路ボックスの事前の防水処理により、トンネル施工時の撤去が可能であるとの結論に至った。
トンネル掘削時は、天端部の小崩落等もあったが、水路には大きな変状を与えることなく無事に施工完了した。

(4) 防空壕出現区間の施工
既存資料により、起点側坑口から230m付近では、トンネル本線内に防空壕が出現することが判明した。防空壕の坑口は閉塞されていたものの坑奥は空洞となっていた。そこで、トンネル到達前に上部からボーリングを行い、エアモルタルによる充填を行った(図-16、17、写真-5参照)。

(5) 盛土直下区間の施工

起点側坑口から500m付近のトンネル上部は沢地形を埋め戻した、軟質な盛土のり面となっており、のり面の上部には高校建物、のり面の下方には住宅地を抱えている。盛土前の土被りは20m程度と小さく、トンネル天端部の地質は、沢地形に沿って風化が進んだと考えられるN値20~30程度の軟質なシラスとなっている。その上部は表土を挟んで盛土地盤が高校となっている。
写真-6に当該区間の航空写真、図-18 に横断図を示す。

本区間の一次シラスは一般区間の一次シラスとは異なり、割れ目にそった風化が認められた。崩落面には、帯状に流水の後であると思われる褐色化(風化)がみられ(写真-7)、沢地形の下方への雨水の影響をうかがわせた。本区間では、このような割れ目部分で、固結力が極端に低下していることから、切羽の安定性が割れ目に支配され、極めて崩落性が高いものであった。

また、盛土については荷重としてトンネルに載荷されるため、トンネル支保工に大きな断面力が発生した。発生した軸力からトンネルに載荷する換算緩み高さを求めると20m近い大きな荷重が載荷されていたと考えられる。
本区間では、このような状況から、前述の市道直下区間と同様(AGF、インバート一次閉合等)の対策を行った。
施工時のトンネル本体の沈下の経時グラフを図-19に、三次元自動計測機で行ったのり面の地表面沈下計測の経時グラフを図-20に示す。
トンネルの天端沈下については、インバートの一次閉合までに約10㎜の沈下が発生しているのに対し、その後の沈下量は3㎜程度で、インバート閉合から1~2D程度の進行でほぼ収束していることがわかる。また、地表面沈下については、先行変位が切羽の到達の2D程度前方から計測され、トンネルの天端沈下の収束とほぼ同じ傾向で収束することが見て取れる。このように、インバート閉合による沈下抑制効果が確認できた。

4.今後の計画

新武岡トンネル新設(2期)工事では、今後、シラス地盤にて本線とランプトンネルの合流区間(超大断面区間)のトンネル掘削を行う。超大断面区間の掘削断面積は約380㎡と道路トンネルとしては、日本最大級の断面積となる(図-21参照)。
しかも、本区間は未固結のシラス地山で、このような厳しい条件下でのトンネル掘削は日本でも前例のないものとなるが、これまでに蓄積したトンネル掘削のデータを活かして、安全施工を目指したいと考えている。

5.おわりに

本稿では、未固結シラス地山で周辺の環境を保全しながら、施工とNATMの実施した結果を報告した。南九州特有のシラス地山はNATMの対象地山としては極めて軟質であり、しかも、本トンネルのように都市域に位置することも少なくない。そのため、施工には困難を伴う場合が往々にしてあるが、本トンネルでの実績が、今後の類似の工事の参考となれば幸いである。
また、新武岡トンネルは、今後、最大の山場である超大断面掘削の施工に向かう。これについては、また、別の機会に報告させて頂きたい。

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