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黒崎バイパスのコスト縮減と工事等のとりくみ(近況報告)

国土交通省 九州地方整備局
 北九州国道事務所 調査課
 計画係長
寺 岡 岳 彦

1 はじめに
一般国道3号黒崎バイパスは,北九州市黒崎地区周辺における国道3号の慢性的な交通混雑を解消する為に計画され,北九州都市高速道路等と一体となって自動車専用道ネットワークを形成するとともに,特定重要港湾北九州港ともアクセスして物流の効率化を支援する道路である。現在当地区は,副都心として各種の再開発事業等が実施又は予定されており,受ける国道3号には,今後ますます交通負荷が加わり主要幹線道路としての機能が果たせなくなることが心配されている。黒崎バイパス周辺の現在の交通量としては,国道3号のJR黒崎駅やJR八幡駅付近が卓越しており,多いところで日8万台を超え,また筒井交差点や黒崎駅前交差点等の主要渋滞ポイント(表1-1参照)を抱え朝夕の交通混雑が顕著である。この状況下これまでも渋滞対策として黒崎バイパスの早期の完成が望まれていたため,九州地方整備局及び北九州国道事務所は,2003年8月4日に公表した「ちゃくちゃくプロジェクト2003」において供用の時期と事業効果を設定(表1-2参照)し,現在積極的に用地買収や工事を進めているところである。

2 計画の概要
路線名   一般国道3号
事業区間  起点;北九州市八幡東区西本町
      終点;北九州市八幡西区陣原
道路規格  第2種第2級(自動車専用道路)
設計速度  60㎞/h
総延長   5.8㎞
道路幅員 17.5m
車線数  4車線

3 コスト縮減対策
3.1 予備設計段階までのコスト縮減
黒崎バイパスは,北九州市有数の工業地帯を通過していることから,当初(平成2年12月に都市計画決定)は工場(新日鉄)内への列車の引込み線を避けるため高架構造で計画していた。しかし地域の状況の変化(引込み線の廃線等)を受け,その一部区間を高架構造から盛土構造に変更,そして舟町ランプをフルランプからハーフランプへ変更する等大幅な道路計画の見直しを行い(平成14年7月に都市計画を変更),コスト縮減に関する取組を行い初期投資を約120億円縮減した。

3.2 詳細設計時以降のコスト縮減
黒崎バイパスの橋梁詳細設計にあたり,以下の内容についてコスト縮減を図っている。
3.2.1 基本計画の見直し
1)縦断線形の見直し
当初,黒崎バイパスの道路縦断は,JR鹿児島本線の電柱・電線を避けて計画されていた。その結果,国道200号と連絡する黒崎ランプ橋はGL+30mの高所を通過する計画であった。詳細設計時に鉄道事業者と密な調整をした結果,ランプ橋に支障となる電柱を移設することでランプ橋を10~15m低くすることが可能となった。このため橋梁も安価な構造形式に変更することが可能となり,約5億円のコスト縮減となった。コスト縮減以外に縦断線形のフラット化のため利便性(走行性)の向上も図る事ができた。
当初計画と変更後の縦断線形を図3-1(a)に,変更によって橋脚高が大きく変わったランプの橋脚を図3-1(b)に示す。

2)橋脚位置と街路計画の見直し
当初,街路計画を基に橋脚位置を決定していたため,街路との重複箇所は,鋼製の門型橋脚が多く配置されていた。そこで街路の中央分離帯を広くする等の調整を行い,その一部を安価なコンクリートの張出橋脚に変更し約5億円のコスト縮減となった。
当初計画と変更後の平面図および橋脚形式を図3-2に示す。今回の見直しは黒崎バイパスの設計の時期が街路と同時期であったため可能であった。

3.2.2 細部構造の見直し
1)鋼製橋脚基部の構造
通常鋼製橋脚は,アンカーフレームを用いフーチング等の基礎構造物に取り付ける。それに対し今回採用した,新技術の直接定着式のアンカーボルトはアンカービーム不要とする工法であり軽量化と省力化からコスト縮減が可能である。今回,約4千万円のコスト縮減となった。アンカーフレームと直接定着式のアンカーボルトを写真3-1に示す。

2)基礎形式の見直し
当該地区は街路の他,鉄道や鉄塔,地下埋設物や横断地下道等の諸構造物があり,橋脚の多くに大口径深礎杭が予定されていた。詳細設計において,諸構造物との立地条件を再度整理し,5基の大口径深礎杭を場所打ち杭へと見直している。
なお,支持層が深くて大口径深礎杭が長くなる場合,経済性と施工性から銅管矢板井筒基礎が採択されている。
図3-3に大口径深礎杭から場所打ち杭または鋼管矢板井筒基礎に変更されたケースを示す。

3)下部工形式の見直し
これまで,建築限界等の条件によりRC構造の梁が構築困難な場合は鋼製橋脚が多用されてきた。今回,PC梁を用いて安価なコンクリート橋脚としている。
下部工形式を変更した橋脚の横断図を図3-4に示す。

3.2.3 縮減額のまとめ
これまでに述べた取組みにより,橋梁建設費で約15億円の縮減を見込んでいる。

以上の取組みの他,今後の延伸計画に向けて以下の取組みを行っている。

3.2.4 その他の取組み
1)場所打ち杭の鉛直載荷試験
これまで岩盤を支持層とする場所打ち杭は杭先端の極限支持力度を「砂礫層」又は「良質な砂礫層」として設計し岩盤としての評価をせず設計されることが多かった※1。黒崎バイパスは,その支持層が風化花崗岩であり,岩盤としての極限支持力度を探ることでコスト縮減が図れるとの判断をした。そのため鉛直載荷試験を実施中である(写真3-2~4参照)。もし高い支持力が確認できれば杭本数の削減が可能となる。

※1 道路橋示方書・同解説 ㈿下部構造編において,砂層でqd=3000kN/㎡,砂礫層でqd=5000kN/㎡が示されているが,より硬質な岩盤に対する記述は無い。

杭の鉛直載荷試験により,砂礫層より大きな極限支持力度が確認された場合の試算結果を図3-5に示す。

2)地域性を活かしたコスト縮減
黒崎地区は鉄鋼関係の工場が多く,製鉄の際に発生する水砕スラグの入手が比較的容易である。
水砕スラグは普通土よりも単位体積重量が軽く,内部摩擦角が大きいので橋台・擁壁の土圧軽減を図ることによってコスト縮減が可能となるため現在採用の可能性を検討中である。

4 景観への配慮
黒崎バイパスをH19年度までに供用する区間は,そのほとんどが街路の上を高架が連続して走る区間であり橋梁(桁・橋脚)の色彩については十分に配慮する必要があった。このため筆者らは色彩検討の過程で地元大学の先生の助言を頂く機会を得た。景観特に色彩に関して全く知識のない私は今回知り得た色彩選定の体験談を紹介したい。

4-1 色彩を論じるために必要な知識
色彩は3つの要素から構成される。すなわち色相,明度,彩度である。色彩に関して全く無知な私は,マンセルの表式系から勉強することになった。色見本等にある程度解説があるので参照されたい。

 ① 色 相

色あいを示す属性であり,色知覚が等間隔になるように10色相を基本とし,各色相は0~10の目盛が付けられている。以下に示すのは最も普及しているマンセルの表色系である。
※マンセル(1858~1918)は色彩表現体系を確立したアメリカの美術家である。

 ② 明 度
明るさを示す属性で,色相とは関係ない無彩色を基準とし理想的な黒を0,理想的な白を10として知覚的に等間隔に分割している。

 ③彩 度
あざやかさを示す属性で,その色の純色成分の含まれる度合いを表す。無彩色を0とし,純色との混合比率を上げていく(マンセル彩度では最14大)と色は鮮やかになる。

 ④トーン(色調)
明度と彩度の組み合わせの表現をトーン(色調)という。色相と明度と彩度の3つの組み合わせを議論すると複雑であるため,色相とトーンの2つの組み合わせで議論する方が便利。トーン分類にはいくつかあり下記に示すのはその1例である。

4-2 色彩検討の体験談
文献にはなかなか記述されていないことを地元の大学の先生にご教授教頂いた。そのなかで色彩を検討される方へ参考になるものを以下に示す。
①土木構造物を周辺の景色(自然)に同化(インストール)させることが重要。自然にある色は彩度が低いものが多いため,同化には彩度の低い色を選ぶ方が良い。
②寒色系の青や紫は,暗く重いイメージを与え,暖色系の赤(R)や黄色(Y)は軽く明るいイメージを与える傾向がある。無彩色であるグレー(灰色)の採用はうまくいくことが多い。
③色は,明度を高くするよりも低くする方がよりシャープに見せる効果がある。よって桁厚が比較的厚い箱桁は,橋脚の色より明度を下げる色を採用(明度コントール)。他にシャープに見せる方法として,つや消し色の採用や,桁の側面に凹凸をつけ影をつける方法がある。
④コンクリートの色は素材としては非常に良い。橋脚がRCとメタルが混在する場合はRCをコンクリート色で塗装し橋脚の色を統一する方法がある。ここで言うコンクリート色とはグレー(無彩色)ではなく,若干黄色が入っている色をさす。

4-3 色を決定するために必要な作業
① 視点場(ビューポイント)の決定
人がより多く集まる箇所や,水辺等のやすらぎの場所からの視点は大事にした方が良い。今回は黒崎駅ホームや割子川が大事な視点場に指定。
② インストール
背景になる景色の分析,そして背景と構造物の色の組み合わせのチェック。実際はCGを作成。背景に構造物を同化させるための色の組み合わせを考え,構造物の採用色を色見本より選択し絞り込む。以下に作成したCGを示す。

③ 色あて
ポケット版の色見本(日本塗料工業会)と,実際のスケールに近い鉄板に塗ったものでは,その色が人に与える印象が大きく違う場合が多い。またCGも印刷物であり実際の色が完全に表現できているとはいえない。光のあたり方によっても色の見え方が大きく異なる。現地に1m四方程度の鉄板に採用候補の色を塗ったものを持っていき色あてを行い詳細な色を決定することを勧めたい。以下に色あての作業の状況写真を示す。

5 工事進捗状況
5-1 工事概要
黒崎バイパス(L=5-8㎞)のうち,舟町~陣原間(2.9㎞)は平成19年度末迄に対面2車線で暫定供用が予定され,そのほとんどが高架橋である。暫定供用には45基の下部工と14連の上部工(鋼橋13連.PC橋1連)が必要であり,現在15基の下部工工事に着手している。

5-2 工事状況
暫定供用区間(2.9㎞)は,路線周辺の地域性によって概ね3つのゾーンに大別される(図5-1参照)。
(1)黒崎駅周辺
この地域はJR鹿児島本線と併走し,黒崎地区の工場群にはさまれた狭小地域である。精密機械を製造している工場等もあり,工事中の振動に対して特別な配慮を必要とする箇所である。現在,下部工工事を行っている。

(2)黒崎跨線橋~割子川
この地域もJR鹿児島本線と併走する区間であるが,広い道路と現在は廃線の工場引込線の用地内に橋梁を建設する箇所である。黒崎駅周辺に比べて工場等の建築物は離れているが.県道敷地内に多数の埋設管(上下水道,工業用水等)があり,その移設工事が工事工程に大きく影響している。現在,埋設管の移設工事を行っている。

(3)割子川~国道3号
この地域は黒崎バイパスがJR鹿児島本線を横過し,陣原地区の国道3号に接続する区間である。前述の区間と異なって周辺は住宅地であり,生活環境(騒音・振動)への配慮が必要とされる。現在,下部工工事を行っている。

5-3 今後の取組み
現在,「ちゃくちゃくプロジェクト」に公表した平成19年度末暫定供用の達成のため鋭意努力している。具体には,バイパスの調査計画の部署である調査課,用地補償担当部署の用地課,工事発注・コスト縮減・工事工程管理担当部署である工務課,供用後管理を担当する部署である管理課等からなるプロジェクトチームを発足し,また更なるコス卜縮減や工程管理及び環境管理等を進めるプロジェクトマネジメントを行っている。

6 謝 辞
最後に本稿を執筆するにあたって資料を提供していただき,また徹底したコスト縮減等に携われた関係者の皆様,ならびに色彩検討においてにご指導とご助言を頂いた地元大学の先生に本誌上をお借りし心より感謝申し上げます。

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