一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
都市計画道路春日池上線の万日山トンネル(超近接トンネル)
の無導坑による施工について
小森正棋

キーワード:超近接トンネル、無導坑、早期併合、騒音対策

1.はじめに
春日池上線は、熊本市内に計画された2環状11放射の形態を要する道路(図-1参照)のうち、都市計画道路熊本駅北部線と都市計画道路熊本西環状線に経由する池上インター線をつなぐ路線として、平成12年度に計画された延長1,870m、幅員30mの都市計画道路である(図-2参照)。

道路整備については、都市計画道路熊本駅北部線からJR踏切までを1工区として熊本県新幹線・熊本駅周辺整備事務所、踏切から都市計画道路田崎春日線までを2工区として熊本市熊本駅西土地区画整理事務所、都市計画道路田崎春日線から池上町の都市計画道路野口清水線までを3工区として熊本県熊本土木事務所が担当して整備を行っている。道路規格としては、4種1級で設計速度60㎞/h、将来交通量が24,300台/日としている。
平成23年3月12日の九州新幹線の開業に併せ、新幹線乗り場となる熊本駅西口へのアクセス道路として1工区及び2工区を暫定供用している。

2.トンネル概要

万日山トンネルは、春日池上線3工区(1,282m)に計画された万日山(標高138m)を貫く442mの超近接トンネルである。
地質は、古金峰火山岩類の凝灰角礫岩を主体としており、一部安山岩礫が混在している。
本トンネルの地山等級は各種地質調査からCL~D等級に分類されているが、超近接トンネルであるため、トンネル相互の影響を受け、地山のゆるみが懸念されることから、DⅠ相当とし、2本分の全幅相当の土被り30mを坑口部とした。
当初計画では、トンネルの内空断面を、車道幅員7.5m、歩道幅員3.5m、管理歩道0.75mを確保するよう計画していた。また、トンネル縦断は、起点側から0.5%の勾配で設定していた。
掘削については、周辺環境及び地質条件により、機械掘削での施工を採用し、近接トンネルで施工事例の多かった導坑先進掘削によるセンターピラーを有する構造とし、掘削断面98㎡から121㎡(導坑分を含む)で施工を行うこととしていた(図-3参照)。
施工基地については、発生土の運搬経路や、施工ヤードの確保、周辺環境等を検討した結果、終点側からの逆堀とした。
施工期間としては、平成20年10月1日から平成23年11月30日を予定している。

3.トンネル施工
3-1無導坑掘削の検討

平成20年9月30日に、鹿島・山本・大政・諫山建設工事共同企業体(JV)と、契約を行ったところ、工期短縮及び工事費の縮減を期待できるとして、無導坑全断面掘削による施工提案がJV側から行われ、熊本土木事務所の所長を会長とする地質及び工法判定検討会(以下「検討会」という。)を立ち上げ、無導坑全断面掘削による施工法について検討することとした。
検討会には、発注者である熊本県、設計を担当した㈱協和コンサルタンツ、施工を担当したJVに加えて、有識者としてトンネル工事等に精通しているNPO法人臨床トンネル工学研究所の中川理事長にも参画していただいた。
無導坑全断面掘削による施工提案で検討した項目は、
  1. 掘削を導坑先進掘削及びショートベンチカット方式から無導坑全断面掘削方式へ変更する
  2. センターピラーを設けないことによる中間地山の補強対策を検討する
  3. インバート部分に支保工(インバートストラット)を用いるとともに早期閉合を行う
  4. 無導坑全断面掘削による切羽安定のための補助工法を検討する
等とした(図-4参照)。

これらの提案について、検討会では、
  1. 工法変更による構造安定等に関する検討
  2. 工程計画や施工計画に関する検討
  3. 工事費に関する検討
等について、工法変更の妥当性を評価した。

3-2検討会

トンネル構造の安定性及び支保構造は、当初設計の地盤及び部材の物性値を使用し、無導坑全断面掘削の影響をFEM解析で、坑口部及び一般部で解析を行ったところ、坑口部での応力は許容値内となるものの、一般部では、先進坑の応力が許容値以上となることが確認できた。
対策として吹付コンクリートの強度を標準の18N/㎜2から36N/㎜2に変更することで解析した結果、許容値内に収まることが確認できた(表-1参照)。

本トンネルの頂部には、熊本市の配水池があり、トンネル掘削による沈下の影響が懸念されていたため、無導坑全断面掘削による沈下の影響をFEM解析で解析した結果、許容値25㎜に対して、23㎜の沈下予測となり問題ないとの評価に至った(図-5参照)。

無導坑全断面掘削によるインバートストラットでの早期閉合については、センターピラーに代わる中間地山の補強が必要となり、坑口部の中間地山には注入式、一般部の中間地山には充填式のグラスファイバー製のロックボルトによる補強を行うこととした。また、全断面掘削による坑口部の崖錐堆積物の切羽の自立対策については、鏡ボルト(FIT)による補強を行うこととした。
工期については、先進導坑の掘削が無くなるが、全断面掘削によるインバートストラットの施工増等により全体で1ヶ月程度の短縮となるが、JVの企業努力による施工機械の大型化等で更なる工期の短縮が可能であると判断した。
また、覆工コンクリートについては、当初、DⅢ区間を複鉄筋、DⅠ区間を単鉄筋で施工する予定としていたが、インバートストラットによる早期閉合により坑口の5m間を複鉄筋とし、その他については単鉄筋を配置することとした。
工事費についても、先進導坑の掘削及びセンターピラーの施工による費用とインバートストラットや補強ボルト等の施工による費用を比較したところ、無導坑全断面掘削の方が有利であるとの結果であった。
以上のような経過を経て、無導坑全断面掘削による施工が採用となり、施工中は検討会を随時開催して切羽の確認を行いながら、更なる工期短縮や施工方法の改善に向けて検討を行うこととした。

4.施工

施工については、平成21年6月から仮設備等の準備を行い、下り線の掘削を終点側より平成21年9月に開始した。
終点側坑口部の施工に関しては、防音壁による対策により、施工を開始したが、硬質な巨礫が多数介在し、破砕に伴う工事騒音が、騒音基準値を超えることが確認されたため、防音扉の設置を検討した。予測の結果、併用することで騒音基準以下での施工が可能となり、防音扉の設置による施工が可能となった平成21年12月から24時間2班体制での施工を行うこととなった。
下り線では、坑口部切羽の地質が、崖錐堆積物から凝灰角礫岩へ早期に移行したため、切羽が自立する状況となり、鏡ボルトの施工を一部取り止め、計測結果も想定の範囲内で収束して掘削を進めることができた。
配水池付近の掘削については、一部地山が不安定な箇所が見られたが、計測結果も10㎜程度で収束し、掘削を進めることができた(写真-1参照)。

下り線の掘削が起点側に近づくに従い、夜間の掘削に伴う騒音振動に対する苦情が起点側住民からあり、騒音振動計を設置して観測しながら掘削を進めた。
その後、起点側坑口部の掘削では、複数の住民から寝られない等の苦情があり、騒音振動計の値も基準値に近い値となっていたため、再度、現地調査を行った結果、騒音振動計での数値以上に騒音振動を感じられることが確認されたので、夜間22:00から朝6:00までの騒音振動を伴う施工を制限して掘削を続け、平成22年6月に下り線を貫通することができた。
上り線の掘削については、平成22年3月から開始したが、下り線と同様の地質状況であったため、防音扉を移設して、施工を進めた。
坑口部については、下り線同様、切羽が凝灰角礫岩に早期に移行したため、鏡ボルトの施工を一部とりやめた。また、沈下等の計測結果も想定よりも小さく収束したため、併せて補助工法であるAGFの本数を31本から23本に変更して施工を行った。
配水池付近の掘削においては、顕著な変状はなく、沈下量が予測の23㎜に対して15㎜の沈下で収束し、安全に掘削を進めることができた。
起点側の騒音については、下り線が貫通していたことが影響していたため、防音シート等を設置していたにもかかわらず早い段階から苦情が寄せられたため、再度、現地確認を行い、騒音振動を伴う施工を下り線と同様に制限して掘削を進め、上り線は平成22年11月に無事貫通することが出来た。
覆工コンクリートについては、上下線の掘削完了後の内空変位等の収束が1ヶ月確認出来た平成22年9月から下り線覆工に着手した。
掘削完了後の内空の変位が想定を下回るものであり、内空断面の変状等も見られなかったため、検討会でDⅠ区間の単鉄筋をとりやめ、天端の剥落防止として、覆工コンクリートに非鋼繊維を混入することとした。

5.終わりに

本工事は、県内初の超近接トンネルの施工となったが、検討会において中川先生から工法検討に対する的確なアドバイスを得ることが出来たことや地質の状況が比較的良好であり、湧水等の影響も少ない地山であったことから掘削を順調に進めることができた。
また、JV提案による大型機械での施工等により、契約時点での工事の遅れを取り戻しつつある。
3月末の時点で、上り線の覆工コンクリート工及び下り線の坑門工を施工中であり、排水工、舗装工及び設備工等を残している。
4月の異動により担当では無くなってしまったが、無事に供用開始となって、通れることを楽しみにしている。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧