都市機能の特性による生活搬路改善の検討について
元 国土交通省 九州幹線道路調査事務所
調査課長
(現 国土交通省 佐賀国道事務所
調査課長)
調査課長
(現 国土交通省 佐賀国道事務所
調査課長)
大 成 和 明
1 はじめに
日頃健康な人でも,救急車のお世話にならないと言いきれる人は少ない。現在の救急活動の実態をみれば,どの消防署も,年々救急活動の出動回数は増加している状況にある。また,九州内の救急救命活動は,もっぱら救急車による患者の搬送を行っているが,一方では,救急車が入れないような細街路に面している人家も多い。
道路整備効果の種々の検討を行う中,地理的な特異性を持つ地域で道路整備の効果の表現ができないかと考え,色々な分野の方々に話を聞いた。その中で,坂道が多い長崎都市圏において,生活路を支援するための検討協議会に参加する機会を得た。
長崎都市圏においては,斜面市街地を多く抱えているという地域特殊性から,生活を営む上での安心・安全性の確保は,進行する高齢化とともに,ますます重要な課題となっている。
以下に,その検討会に参加した際に気がついた,地域の特異性についての報告を記する。
2 検討協議会の構成と目的
検討協議会は長崎市企画部を中心に,都市計画部,土木建築部,都市建設部,病院管理部,福祉保健部,消防局,長崎県土木部及び長崎実地救急医療連絡会代表(医師)から構成され,九州地方整備局からも参加した。
検討協議会は,平成13年度の終りに3回ほど開催された。検討協議会の検討テーマは,救急救命活動において,「生活安全性の改善」と言った観点から,都市基盤や都市施設整備のあり方について,ハード・ソフトの両面からの改善策を検討するものであった。
3 調査検討のフロー
調査検討は,最初に「救急救命活動の現況把握」として,
① 車両による搬送区間の設定
② 徒歩(担架)による搬送区間の設定
を道路現況からそれぞれ設定した後に,実際に救急活動を行っている実態による補完を行うため,
③ 搬送径路選択の実態ヒアリングを行った。
① 車両による搬送区間の設定
② 徒歩(担架)による搬送区間の設定
を道路現況からそれぞれ設定した後に,実際に救急活動を行っている実態による補完を行うため,
③ 搬送径路選択の実態ヒアリングを行った。
これにより,救急救命搬送の現況ネットワークを作成した。次に,モデル地区を設定した上で,
① 搬送手段,距離,速度などのデータ整理
② 重要な救急救命施設の選定
③ シミュレーションによる時間計測
を整理し,モデル地区の「救急・救命活動時間地図」を作成した。
① 搬送手段,距離,速度などのデータ整理
② 重要な救急救命施設の選定
③ シミュレーションによる時間計測
を整理し,モデル地区の「救急・救命活動時間地図」を作成した。
以下に,今回の調査検討のフローを示す。
4 対象ネットワークの設定
市街地の中に,急斜面を多く抱える長崎都市圏では,救急救命の搬送手段として,人力による徒歩搬送(担架搬送)を如何に加味するかが,検討の重要な要素となる。
このため,この特性を反映した搬送ネットワーク作成には,実際に救急・救命活動を実施している消防署ヘヒアリングを行い,生活道路のうち階段の道路など,実際の搬送経路を追加し,より実態に近い表現ができるように工夫した。
5 モデル地区の救急・救命活動実態
徒歩による搬送の場合,救急隊員の出動時(患者無の場合)は登り坂,搬送時(患者ありの場合)は下り坂とすることが,最も効率が良い。
しかしながら,一方通行や人家の位置によっては,逆の搬送時に登り坂となる場合もあり得る。
この場合,実際のケースとしては,救急車を迂回先回りさせ,消防隊員の活動が最大限効率的となるように工夫しているのが,実態である。
搬送経路の選択を,単に計算上の距離時間だけで決定すると,実態と異なった経路選択となり,選択の精度低下が大きくなる。このような地域は,消防署ヒアリングにより把握が可能であるため,特殊な搬送手法ケースとして,搬送シミュレーションでも再現が可能となるように考慮している。
6 時間地図の作成
時間地図は,出発地点(消防署等:9箇所),着地地点(病院11箇所〈4グループ〉)についての到達時間を5分ピッチに区分して,ピーク時とオフピーク時の2ケースを作成した。
時間地図の結果からは,昼間には,そのほとんどが20分以内で搬送されるエリアとしてカバーされている。一方,夜間においては,対応する病院が輪番で担当することとなるため,カバー率,及び圏域に大きな変化が発生することがわかる。
7 おわりに
今回作成された時間地図は,道路整備効果が高い路線の選別に使用できる他,救急救命活動のハザードマップとしても活用できる。
また,救急活動従事者にとっては,到達時間の実態から,消防署の適正配置の検討,救急処置法のスキルアップにも活用できる。
今後,検討された活用計画の具体化に,期待をするものである。