通り名で道案内
九州地方整備局長 岡本博
タクシーに乗ったり、或いは人に道を訪ねられた時に誰もが「2つ目の信号を右折して、その次の交差点を左に曲がって・・・」などと案内しているのが一般的であり、案内がしづらいというのが実情ではないだろうか。これは、我が国の住居表示方法が「博多駅東2丁目10番」というように道路、鉄道など恒久的な施設、または、河川などによって区画された「街区方式」となっているのが要因となっている。一方、欧米では「SOUTHWARK ST.A3200」のように通りの名称とその建物を示す番号を表示する「道路方式」が住居表示として使われている。これだとホテルやマンションの部屋番号のようなもので、地域に不慣れな人でも容易に通り名の標識と各建物の番号を見るだけで目的地を特定しやすいことから、「道路方式」が道案内には優れている。
そのため、日本でも新しい標識システムとして、平成18年度から19年度にかけて全国27地区で「通り名」と「位置番号」による「通り名で道案内」の社会実験が実施された。このうち九州では長崎市の寺町地区など10地区で実施されている。この社会実験に対するアンケート結果では、「観光客に場所を教えやすい」、「お客に店の場所を教えやすい」、「目的地の場所がわかりやすい」、「道を聞きやすい」などといった回答が約9割を占めており、施策の有効性が確認された。「通り名で道案内」は、現在のところ地域の発意による自主的な取り組みである。「通り名」は、先人より受け継いでいる名前を後 世に残すためにも既存の通り名を使用することとし、通りに名前がついていない場合は、新たに名前を付ける必要があり、地域住民が参加するワークショップによる合意形成が必要とされる。ワークショッを行うことで高齢者の方が通りのいわれや歴史を語り、また、薄れていたコミュニティー活動の回復のほか、民と行政の信頼性の確保にもつながったなどの報告もされている。
「通り名で道案内」には、「①通りに名称をつける」、「②通りの起点から概ねの距離(10m単位)の位置番号とする」、「③通りの起点を背に右側に奇数、左側に偶数を付ける」といったルールがある。このルールに基づいて、標識板による「現地表示」とわかりやすい「通り名マップ」を用いて、地域のお店などが道案内をすることとなる。しかし、位置番号などの意味が理解されていないといった回答も多いことから今後は、来訪者に位置番号の意味などが理解されるための広報活動も必要と考えている。
九州では、現在、長崎市の寺町地区や福岡市の天神・大名地区など11地区で整備されているので体験していただきたい。また、この取り組みは、地域の歴史を知ることで郷土愛が育まれ、そして地域の活性化や観光振興にも寄与するものと考えており、今後は、九州全域に展開されていくことを期待している。