肝属川甫木水門 の老朽化対策(改築事業)について
鶴本慎治郎
伴和美
上小牧和貴
伴和美
上小牧和貴
キーワード:老朽化、水門改築、河川改修事業(県事業)との連携
1.はじめに
(1)甫木川の概要
肝属川の支川である甫木川は、その源を鹿児島県鹿屋市串良町の中央部、笠野原台地の北端(標高115m)細山田地区のシラス台地に発し、水田地帯を流下し、肝属川(左岸5.4㎞地点)に注ぐ一級河川である。その流域面積10.0k㎡、管理(鹿児島県)区間延長4.96㎞、計画合流点流量125m3 /s(1/10 年)である。
現況の甫木川は、流下能力(45m3 /s)が低く、過去、国道220 号より下流地域は、平成5 年、平成9 年、平成17 年に浸水被害が発生した。このため、鹿児島県により甫木川の治水対策検討が行われ、河道改修整備(現況45.m3/s から125m3/s へ)が進められることとなった。
これに伴い、大隅河川国道事務所として、老朽化が進捗している旧甫木水門も、鹿児島県が実施する甫木川河道改修整備と相まって、計画合流点流量(125m3/ s)を安全に流下できる水門へ改築する事業に着手することとなった。
2.旧甫木水門の状況
(1)老朽化した旧甫木水門
旧甫木水門が建設された昭和43 年当時は、コンクリート骨材に「海砂」が使用された時期と重なり、水門のコンクリート強度が懸念された。そのため、施設全体の健全度を調査した結果、下記に列挙する事項が確認された。
1)コンクリート強度
コンクリート強度は設計基準強度を満たさない状態にある。特に函体部は設計基準強度に対し平均で「約50%」の状態であり、構造物としての力学的性能が大きく低下している。表-2に各部位の強度を示す。
2)コンクリート劣化状況
過去、機能回復を図るために「ひび割れ部への補修材注入」や「断面修復工のコンクリート補修」を実施してきた。しかし、現状はコンクリート性能の低下が顕著でひび割れや剥落が生じ、部材性能への影響が極めて大きい状態にある。
①門柱、川表翼壁部;「0.2~0.5(㎜)」の横方向または鉛直方向へのひび割れが多数発生するとともに、一部では剥落して鉄筋が露出している。
②函体部;天井および側壁面に「0.5㎜以上」のひび割れやジャンカが多数発生している。漏水には錆を含んでいることから鉄筋にも腐食が生じている。
3)老朽化(機能低下)の進行
本体コンクリート構造は、経年劣化が著しく、強度低下をきたしている。補修工を実施してきたにもかかわらず、さらに多くの変状が発生しており、再補修による機能回復は見込めないと判断される。以上のことから、構造物全体の健全度は低く、老朽化(機能低下)が急速に進行していると判断した。
(2)特定構造物改築事業として事業実施
上記に記載したとおり、旧甫木水門は、設置後40 年以上が経過し、開閉装置・管理橋の取替や扉体塗装塗り替え及び本体コンクリート補修を実施してきたが、著しく老朽化が進捗している状況であった。そこで、旧甫木水門については、供用期間が耐用年数を超過し老朽化が著しく、さらに、全体事業費が多大(概ね17 億円)との理由から、特定構造物改築事業として採択された。
(3)新・旧水門の諸元
現在施工中の甫木水門の諸元について、下記表-3に記載する。
3.水門改築の工事工程
(1)連携した事業の全体工事工程
甫木川の河川管理者(鹿児島県)が実施する甫木川改修事業と甫木水門改築による一体効果により、家屋浸水被害を早期に解消する(図-5を参照)目的から、甫木川改修と甫木水門改築スケジュールは、下記表-4の通りとしている。
鹿児島県(甫木川改修事業は、H16~H27)、国土交通省; 大隅河川国道事務所(甫木水門改築事業は、H21~H27)として計画施工している。
それにより、整備効果として、①甫木水門改築により排水機能の保持と信頼性の向上、②平成5年8月規模の洪水に対して浸水家屋73 戸の解消(図-6)、③重要施設(国道220 号、県道鹿屋高山串良線、消防署、公民館)の浸水被害解消、が早期に実現可能となる。
具体的な工事としては、甫木水門新設・甫木川改修、下小原排水機場の整備を第1期施工(H24年度~ H26 年度)とし、既設甫木水門の撤去を第2期施工(H27 年度)としている。
現在、第1 期施工を受注した㈱奥村組九州支店により鋭意進捗させている。第二期施工は、平成27 年上半期を目途に工事発注、着手の予定である。また、鹿児島県も鋭意甫木川改修工事を実施中である。
4.甫木水門改築工事の課題と対策
(1)甫木水門基礎対策
甫木水門の基礎地盤は、沖積層(シラス母材の砂質土・粘性土)と入戸火砕流堆積物の2層で構成されている。上記地盤については、調査結果から、下記に列挙する特徴が示唆されていた。
①沖積層は軟弱な土層で、構造物を支持するには適さない。
②入戸火砕流堆積物(シラス)は支持地盤層として十分であるが、傾斜が大きく、設計支持層との設定には注意が必要である。
③地震時に不安定となる土層については、検討を実施し土質定数の低減等を考慮する必要がある。
水門基礎地盤の液状化は、土層モデルで検討を実施し、FL < 1.0 の判定結果となり、基礎杭において、土質定数の低減を考慮した設計を行った。
支持層については、支持地盤となる入戸火砕流堆積物層の傾斜が心配されたことから、確実な支持層への基礎着底のため、N ≧ 50 ラインを支持層とした。
基礎形式については、現場条件を踏まえ、経済性を加味し、比較検討を実施し、現場に適した杭基礎(支持杭形式)を選定した。
なお、掘削工法(水門本体部)については、当初中堀杭工法であったが、VE 提案により、すべてプレボーリング工法で実施した。また、事業損失対象施設(排水機場上屋・集落・養鰻場など)が近隣に位置することから、振動の影響を避けるため打撃工法は不採用とした。
※下記に基礎杭関係の図面などを掲げておく。
甫木水門の基礎杭の施工は、支持地盤(入戸火砕流堆積物)へ確実に杭を打設する必要があり、間接的な確認方法として、オーガーの電流抵抗値にて確認した。また、当現場では、直接的な確認方法についても検討し、低コストで試験が可能となる杭の衝撃載荷試験を選定した。
本試験は、施工した本杭中の2 本( φ 350L=32.0m・L=34.0m)選定し、4t のハンマーを杭頭に衝突させ、杭に作用した打撃力と地盤反力を分離測定するため、杭頭にセンサー加速度計とひずみゲージを取り付けて、動的支持力を推定した。推定された動的支持力は、短期・長期支持力ともに設計長期必要耐力の2倍の支持力が確認された。
以上、打設した杭の支持力性能は、必要耐力以上を十分満たしている健全な杭であると判断した。
(2)本体コンクリートのひび割れ対策
甫木水門コンクリートについては、水門本体の壁厚が最大で2.0m、延長が24.0m のマスコンクリートであり、ひび割れの発生が懸念されたため、発注段階において打設コンクリートひび割れ対策を検討し、低熱高炉セメントと膨張材を加え、ひび割れ防止対策を実施した。
また、施工業者である㈱奥村組九州支店甫木水門作業所から下記に列挙する対策提案があり、・鉛直パイプクーリング、・ハイパーネット、・スパイラル内部振動機、・充填センサーの配置計測、などを実施し、適切なコンクリート打設の施工管理に努めた。
上記対策を実施するにあたっては、鹿児島大学のコンクリート工学の専門家に、現地視察をお願いし、対策への助言をいただきながら、本体へのコンクリート打設を完了させた。
実施したコンクリート対策を具体的に記載する。a)低熱高炉セメントB種、b)膨張材の使用、c)鉛直パイプクーリングを用い、その他、d)型枠断熱材(表面のひび割れ防止)、e)ガラス繊維ネット(ひび割れ幅の拡大防止)、さらに、コンクリート工学の専門家のご提案による打設締め固め状況の目視確認ができるf)透明型枠も採用している。
ひび割れ低減対策は、ひび割れ指数で「ひび割れの発生をできる限り制限したい場合1.4 以上」を目標として実施した。また、温度応力解析による検討も実施し、ひび割れの抑制を図った。上記の対策を実施した結果。コンクリート打設後のひび割れ状況は、左岸側リフトおよび右岸側リフトの壁体に、高さ2 ~ 4m の間隔(打設リフト高に近い)で、軽微な0.1 ~ 0.3㎜幅程度のものが観察された。上記のひび割れは、打設から約2週間程度経過し発生したものであり、深さは、鉄筋かぶり程度の深さ(超音波測定結果)と確認された。
外部拘束が低減される上部リフト部分は、ひび割れの発生は少ないものとなった。なお、発生したひび割れは全て、注入補修を実施した。
ひび割れ低減対策のまとめとして、下記に列挙する事項が挙げられる。
①低熱高炉セメントB種と膨張材の使用および鉛直パイプクーリングの適用により、コンクリートのピーク温度を抑えることができ、ひび割れ指数の増大が得られた。
②かぶり部分に軽微なひび割れは生じたが、温度応力による有害なひび割れは発生せず、ひび割れ低減効果が得られた。
③壁体コンクリートの計測と温度応力解析の比較によって、効果の大きさを定量的に検討し、それぞれの対策の有効性を確認できた。
(3)その他の対策
1)新しい甫木水門を現状甫木川のやや左岸下流側へシフトしたことから、旧甫木水門に隣接する流入排水機場(下小原排水機場:鹿屋市管理)の流入水門の改築が必要となった。そこで、鹿屋市と協議調整し流入水門を検討し、施工実施した。施設変更に伴い下小原排水機場の操作規則の修正も合わせて実施した。
2)環境調査・景観対策
旧甫木水門において、平水時甫木川と肝属川との合流部は段差が生じており魚類が行き来できない状況であった。改築工事においては、肝属川と甫木川の縦断方向の連続性を確保するため、護床ブロックを用いたスロープ式河床として、平水時の水面連続性を確保している。
旧甫木水門において、平水時甫木川と肝属川との合流部は段差が生じており魚類が行き来できない状況であった。改築工事においては、肝属川と甫木川の縦断方向の連続性を確保するため、護床ブロックを用いたスロープ式河床として、平水時の水面連続性を確保している。
また、甫木水門構造物(上屋・門柱・ゲート)については、地域景観である、緑豊かな田園風景に存在する集落の生活空間を大切にした、集落と木々の緑が一体となった空間の創出を踏まえ、可能な限り周辺の田園風景と馴染む(溶け込む)色合いを採用している。
5.おわりに
甫木水門は、甫木川流域の安全と安心をもたらす重要な構造物である。この水門が完成することにより、治水安全性の向上(浸水被害の解消)が図られることとなる。今年、着手から3 年目を迎え、鋭意工事を進捗させ、来年(平成27 年度)には、旧甫木水門の撤去に着手する予定である。事業を担当するものとして、地域の方々への、早期の効果発現を図るため、一日でも早い竣工を目指して、鋭意努力していく所存である。
今回の本稿を記載するにあたり、工事受注業者である㈱奥村組九州支店甫木水門作業所や関係各機関のみなさまに資料や情報提供、文章内容の確認修正など、大変お世話になった、ここに感謝の意を表しておきたい。