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技術者復権 -九州でのCIM の展開に向けて-
小林一郎

キーワード:CIM、試行、マネジメント

1.はじめに
CIM(Construction Information Modeling/Management)とマネジメントを付け加えるのは少数派だ。本誌55巻で、桒原氏もそう書いている。すばらしいことである。読者にはまずその原稿を読んでいただきたい。本原稿は、その続編である。
CIM とは、デジタル情報を駆使することで、何かを可能にすることだが、それは人によって異なり、必ずしも正解はない。最低で月並みなのは『コスト削減』だ。滅び行く産業の最後の目標ということだろうか。悲しいことだ。筆者の答えは、表題の通り。本来、技術者の使命は、あらゆる知識と道具を駆使し、『良いものを造る』ことではなかったのか。維持管理しかないような世界に若者は何の魅力も感じない。人々が賞賛するようなモノを少しずつでも造って行きたい。そのために必要であれば、CIM を使うべきだし、必要なければ使わなくていい。
せめて九州だけでも、道具の正しい使い方を心がけたい。そのためにこそ、マネジメントとしてのCIM は必要不可欠だ。特に、①発注者にとって必要なデータとはどんなものか、②建設のライフサイクルで利用可能なモデルとはどんなものか、は実践を通して答えを探る必要がある。本稿では、筆者のCIM に関する取り組みと私見をまとめた。

2.小林研奮闘の日々
3D に興味を持ったのは、22 年前に留学していたフランスで、①実際にクラス単位でAutoCAD を用いた教育を行っていたこと、②多言語が入り交じる工事現場で安全管理や工事の打ち合わせに3D の画像表示が使われていたことを知ったからである。要するに「説明責任」の意味合いが日欧で全く異なるということだろう。政治家も技術者も一般市民に平易な言葉で、より本質的なことを示し理解を得ようと心がけるか否かだ。模型か映像かが問題なのではない。より解り安い手法はなにか、ということへの配慮の有無だ。
そのような契機で、帰国後まず、阪神淡路大震災後の高速道路アプローチ部の桁撤去問題に取り組んだ。都市部の狭い空間の夜間工事で、3基のクレーンで桁をつり上げ、空中で切断し、トラックに収める。20 年前のことであるが、施工検討に3D は圧倒的な効果があると思った。図-1 は、困難な研究をまとめた学生が研究室に残した壁紙である。

その後、営々と実証研究をやってきた。「そんなモノは研究ではない」といまだに言われ続けてはいるが、当時と比べ、ハードもソフトも劇的に変化し、技術者の日常の道具として、使用するものになる日は決して遠くはない。現在研究室で利用している協議システムの概要は、図-2の通りである。3次元データで情報空間(モデル空間)を作り、はじめは、情報交換場で、意見交換と情報共有を図り、話の方向が見えてくれば、関係者が集まり(合意形成場)、案件の議論と決定を行う。これを繰り返すことで、設計が進められる。以下に、この仕組みで実施されたCIM の典型的な先行事例を示す。

2.1 曽木分水路建設事業( 業務空間のマネジメント)
平成18 年7 月の川内川流域の大水害に対し、採択された激特事業の一環として、本分水路が建設された。地形改変を最小限に抑え、治水機能を満足させつつ、アメニティの確保や周辺の豊かな環境創出を試みた。同時並行で進められた各業務のモデル利用の中心に3次元地形モデルを置き、図-3のように、①住民説明用の広域地形模型の作製、②景観検討用のシミュレーション、③水路解析用のデータの受け渡し、④細部地形デザイン用の骨模型作成用のデータ受け渡し等を行った。物理モデル(模型)と電子モデル(3DCAD)とを併用した。

激特事業のため、設計検討の時間が半年とわずかであったが、水路の線形を3案(図-4)検討し、そのうちの1案について、さらに細かい詰めの検討を7案議論した。モデル利用の効果は絶大であった。なお、本事業は2012 年グッドデザイン・サステナブルデザイン賞を受賞した。
本件に関しては、JACIC で詳細な報告書(CIMに関する人材育成の教科書用テキスト)が準備されつつある。ご一読いただければ、幸いである。

2.2 熊本市の新水前寺地区交通結節点改善事業(業務経過のマネジメント)
平成23 年3 月の九州新幹線全線開通に伴い、JR 駅舎と鉄道高架橋の新設(JR 九州)、立体横断施設、道路拡幅工事(熊本県)、駐輪場新設(熊本市)、電停と軌道の移設(熊本市交通局)等が行われた。現場は、様々な調整を必要としていたので、これらの工事をすべて含む範囲をMMS と固定式で、レーザー計測し、点群データを取得した。これを、4 者間の調整に利用するとともに、立体横断施の設計検討に参加した。①歩道橋の予備設計でのスパン割の検討、②詳細設計でのデザイン検討(図-5は、歩道橋の階段の検討例)と施工計画の確認(図-6は、施工検討の例)、③県を始めとする4 者間での工程計画の確認などである。これらの解決のために、研究室がデータ監理を行った。このため、CAD データ等の散逸がなく、つねに、データ管理者がそのデータの作成意図を理解していた。副産物として、④完成後歩道橋周辺のサイン計画、⑤交差点回りでの停止線位置や信号機の設置位置に関する警察協議、⑥旧歩道橋の撤去シミュレーションなどができた。この例は、何より、発注者側にCIM を理解し、それを推進しようとした技術者がいたこと、大学が最初から最後までデータ監理をしたこと、SNS掲示板(CIM-LINK の旧版)を活用し、遠隔地の方や子育て中の女性建築家(彼女は朝早くに連絡を入れてくれた)との意見交換を行ったこと、などが重要であった。この事例は、長期的な設計業務でCIM が利用された最初の事例である。なお、事業は2012 年度の熊本景観賞の地域景観賞を受賞した。CIM 運用の観点からの詳細も近々に冊子としてまとめる予定である。

   

3.分科会の成果
国土交通省九州地方整備局のCIM 導入検討会には3つの分科会がある。①トンネル、②ダム、③河川である。各分野の局の専門家と、いくつかの実証現場の担当者が参加している。さらに分科会には、それぞれ、CIM の先端的な取り組みに参加している各団体からボランティアで専門家がオブザーバー参加している。①にはCMI(一般社団法人日本建設機械施工協会施工技術総合研究所)、②はJACIC(一般財団法人日本建設情報総合センター)、③はACTEC(一般財団法人先端建設技術センター)である。
トンネル分科会で議論したのが、4段階モデルである(図-7)。CIM の初年度の試行事業では、設計段階での詳細な3 次元モデルの作成と属性付与(たとえば、部材ごとの材質や単価)を行っていた。しかし、それらの多くは、施工段階では参照されず、施工に必要なデータ(周辺の土質分布など)は別に3 次元化されていた。このため、CIM が理想とする建設ライフサイクルでのデータ運用とは連動せず、モデルを作ることが目的のCIM であった。そこで、筆者が上京したときに、CIM やトンネルの施工に詳しい研究室OB 十数人に集まってもらい、理想型について議論した。それが、後日4 段階モデルとなった。これを分科会で披露すると同時に、局の方針ではなく、小林研の成果として土木学会の研究会でも発表した。

その結果、現時点で行われている九州のCIM試行の施工現場(3 件)は提案モデルとほぼ同等のモノが作られている。成果が楽しみである。今後の課題は、調査段階からモデルをきちんと作り設計モデルへと引き継ぐことである。さらに分科会で検討中なのが、管理モデルの構築である。各種データのうち管理で必要となるものの取捨選択と、管理段階での運用法の確立が課題となる。
河川分科会では、熊本河川国道事務所の河川系の担当者とモデルとは何かについて、数回の意見交換を行った。その結果、ゆるいCIM(地方の事務所と地場コンサルがまずはできることから実行する)の展開である。白川の激特区間での景観委員会で利用する資料作成(図-8)に3次元CAD(Sketch Up)を用いたことである。パラペット形状を細かく検討(図-9)し、実際に試験施工により施工性を確認した(図-10)。

   

また、樋門上屋のデザインにも、細かな注文が出て、歩行者から丸屋根はどんな風に見えるかの検討をその場で行えるかとの注文が出たが、30 分後には、大方のイメージを全員が確認し(図-11)、後日最終案が示された(図-12)。

   
もう一つの成果が2.5 次元モデルの提案である。河川は管理が主体であり、多くの設計図、航空写真、土質分布図等は、2 次元情報として保存されている。全員の意見が一致したのは、これらの情報を最小限の加工で利用すること、堤防の根入れ部の可視化。定期横断測量の成果との比較、土質情報の可視化等であった。そこで、平面図を基本モデル(たとえば、図-13)とし、そこに、調査から管理までの各段階の情報を立面的に配置するという方法である。図-14 は、堤防の立面図と定期横断測量の関係図と堤防付近の土質断面図である。これらを用いることで、地面内の堤防の根入れ位置や土質分布の概要が確認できる。
   
さらに着目すべき点は、2.5 次元データは基本的に線か画像からできているので、データ量が少なく、iPad 等の機器に表示できる点にある。これを現地で見ることができれば、管理者にとっては好都合である。この部分は後述のOCF 関係者の協力を得て試作ソフトを開発中である。

4.CIM 支援会議
分科会が、局レベル(構造物別)のCIM のあり方を考える場であるのに対し、実現場での案件について検討するのがCIM 支援会議である(我々は総称してCIM 勉強会と呼んでいる)。図-15に組織の概要を示した。OCF(Open CIM Forum)は、CIM 推進における技術的な課題の解決に、ソフト・ハードのベンダーが一体となって取り組む組織であるが、その中の有志10 数名が、参加している。現場での具体的な問題の掘り起こし、と解決策の検討を行うものとし、①霧島砂防ダム群、②宮崎市津屋原沼の防潮堤建設事業、③白川・激特区間堤防建設事業、④烏尾トンネル建設事業、⑤大分川ダム周辺整備事を対象とした。

各事務所の担当者、受注者、大学とOCF メンバーが集まり意見交換を行っている。①では、平板測量から得られた地形情報をいかに迅速に3次元化するかが検討されている。②では、住民説明用の地形表現の検討や景観デザイナーの設計案の忠実な3次元化に関する対応を模索中である。③では、2.5 次元モデル作成システムやビューアーの開発が試みられている。④では、上述の4段階モデルの表現に従った実務での展開が始まっており、細かなデータ処理について考察が行われている。⑤では、単にダム本体のCIM に関しては、受注者が独自に個別の会社との間で技術開発を進めているようであるが、勉強会では、ダム周辺の整備計画検討のために、CIM が威力を発揮できるかを検討中である。

5.CIM チャンピオン講座
発注者側の専門家養成は、大きな課題であるが、それに先行し、受注者側にも、技術者でCAD が駆使できる人材は極めて少ない。CAD オペレータができるのはオブジェクト作成だ。一方技術者は何らかの目的でそれを作る(たとえば、堤防の勾配変化する部分のおさめ方など)。これは、あきらかにマネジメントであり、技術者がなすべきことである。
ところが、このような趣旨を理解し、実践する人材が少なすぎる。大学の偏った研究重視の教育にも問題があるが、コンサルの若手でも、本当に現場の様子を理解した上でCAD を駆使できる人は極めて少ないのが現状だ。小林研では8社(9組)の受講者をつのり、月一回10 回のスクーリングと掲示板での質疑応答によって、社内で最もCIM を理解し、実践できる人(チャンピオン)を養成しようと考えている。

6.研究室の試行
筆者の現時点での最大の関心は調査段階のCIM
(正確に言えば、管理から調査に至るマネジメントの支援)である。以下の2 件の近況について述べる。両案件とも景観検討委員会に関連し、構想段階から具体的な設計支援まで一括して3D モデルを運用しようとしている。

6.1 ダム周辺景観整備
現場は、ダムの施工段階の指定工事案件であり、その成果は別途報告されるはずである。ただし、あえて苦言を述べるが、CAD データが外に出てこない。会社があえて出さないのか、出せないのか。試行の今こそ、あらゆる可能性を試すべきなのだが、発注者が強く望めば、上記のどちらが原因かはすぐ分かり、改善の方策がとれると考える。ある会社が情報を抱え込むのであれば、試行工事にする必要はないと思っている。もちろん、会社がノウハウを磨き、差別化を図るのは当然のことであり、そのことを批判しているのではないと言うことは理解願いたい。それだけを実行したいなら試行でやるべきでないと思っている。
さてこの現場では、周辺整備に関連した景観検討委員会が発足し、本研究室が下部組織であるワーキングに参加し、CIM 導入の可能性を追究している。図-16 のような地形を作った。白っぽいのが堤体である。上が湛水前、下が湛水後である。まずは、地形表現の精度の確認を行い、以下のような検討を順次実施していく。①管理棟、販売所、コア倉庫等国道周辺の建物の統一的なデザイン、②周辺の回遊道路(多くは、工事用道路の転用)における大規模斜面の発生箇所の予測と対策、回遊道路の利用計画(歩道・自転車道など)、③完成後のサイン計画、など。

図-17 は、管理棟のレベル(結果は堤体天端と同じ高さになった)や位置を検討している。実際には、東京の建築事務所から完成予想のオブジェクトも送られており、それを見れば、かなりの精度で完成形が予想できる。今回は諸般の事情で掲載しないが、完成後には、どこかで紹介したい。空間がすべて作られているので、たとえば、ボーリング柱状図を地下に並べるとか、施工計画の検討とか、様々な応用の可能性は広がるものと考える。関係者各位の協力に期待したい。

6.2 防潮堤の景観設計
この現場も、CIM の指定事業で、予備設計の段階からCIM を利用している。予備段階では、環境に関する検討がおもで、環境委員会が主体となり、防潮堤建設予定地の沼周辺の堤防案3 案のうち、2 案がCIM 化され、委員会や住民に示された(図-18 にB,C 案の概要を示す)。このうちC 案(沼周辺の水際に沿って防潮堤を建設する案)が採択されたが、委員会等でもCIM の動画が提示された。

その後、筆者らの研究室が景観検討を行うため、ワーキングに参加した。第一回目の住民説明会では、1 案想定しつつ景観マスタープランを作成した。この段階では、平面図のみを用いた。具体的な形状ではなく、動線の確認と堤防の平面線形の確定が主目的であった。が、住民説明・意見交換を行った。当初幅員7m の天端は、住民意見として車道案が推奨されていたが、数名の女性から「お月見をしたい」との意見が出され、歩道案が有力となり、その可能性も含めて、平面線形の確定とCIM の提示が予定されている。堤体の横断形状の詳細の詰めを行っている。
平行して、C1 からC3 までの平面線形案を示し、事務所内での比較検討の結果、C1 案が採用となった。図-19 は、複数の視点から見た現地の完成予想図である。この一部は、第二回目の住民説明会で披露され好評であった。

なお、両現場とも初期段階でのCIM 利用のため、Autodesk 社のIW(インフラ・ワークス)を使用している。空間表現に優れているため、予備段階での構想検討には、今後有力な道具となるであろう。

7.おわりに
国交省は各地で実証試験を行っているが、同じような事例が多い。実際はやっていないが後追いでデータを作ったり、一つの先導的(先進的とは思わないが)事例を踏襲したり、・・・。簡単に言えば、同じことを100 回やって、「全部成功」という結果(たとえば「見える化」は有効とか、)が出ても試行の意味がない。実証なのだから100 件異なる事例に挑戦すべきだ。90 位は効果なしで良い。のこり10 件を育てていくことで、次の方向性を見極めるべきだ。まず、九州で目指したいのは、多様性の追求(発注者が不得意なことではあるが)。
次は、やはり、現場優先でありたい。各現場で、それぞれ異なる問題点に対しCIM の試行をやりたい。そのためには、受発注者のみの現場は動かない。両方が道具の使い方に不慣れだからだ。CIM を熟知した専門家の橋渡しが必要だ。九州は分科会でも、CIM 勉強会でも、少しずつは成果が出ている、是非これは、続けてほしいものだ。
最後は、発注者支援の仕組み作りについて書きたい。マネジメントであるかぎり、CAD データが計画段階から管理まで流れていく必要がある。どの地方整備局もこの問題には取り組んでいない。新水前寺の事例から、結論づければ、当面は大学の研究室がデータ監理を行うのが最善であると考えている。これがうまくいけば、CAD マネジャーのような新しい職能が確立されるに違いない。
九州は、ゆるいが面白い事例が目白押しである。そのうちのいくつかは先駆的な成功例となるだろう。その成果が楽しみであるし、筆者も全力でバックアップをしたいと思っている。

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