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総合評価落札方式の取組みについて
~実施事例の紹介~

国土交通省 九州地方整備局
 企画部 技術管理課長補佐
後 田  徹

国土交通省 九州地方整備局
企画部 技術管理課
 技術審査係長
阿 部 成 二

1 はじめに
公共工事の発注者としては,「公正さを確保しつつ良質なモノを低廉な価格でタイムリーに調達し提供する『発注者責任」」を有しています。その適切な実践のためには,「価格のみの競争」から「技術力を含めた総合的な価値による競争」への転換が必要であり,企業の技術力を的確に評価するスキームが重要となります。
そのため,企業の技術力を的確に評価できる多様な入札契約方式を拡大していくことが重要であり,積極的でスピーディーな施策展開を進めるために,ある程度の枠組みを整えた段階で現場において施行してみる事が極めて効果的となります。
今年度,九州地方整備局で特に力を入れている総合評価落札方式は,「価格のみ」による落札ではなく,「価格と価格以外の要素」を総合的に評価して,発注者にとって最も有利なものを落札者とする方式です。(図ー1参照)
九州地方整備局においては,平成12年度から当該入札方式に取り組んでおり,特に今年度は大幅な適用工事の拡大を図っているので以下に取組みについて紹介します。

2 取組み状況
(1)今年度の取り組み状況
平成14年度は発注予定金額の2割を総合評価落札方式で実施すべく鋭意取り組んでおり,現在までに34件(H14.11.15現在)の工事で契約を締結しています。(図-2,3,表ー1参照)工種別では「機械設備」「橋梁」「舗装」,評価項目では「工期短縮」「騒音低減」を数多く実施しています。評価項目の工期短縮は,工事における交通規制期間を極力少なくするための指標として,また騒音・振動そのものの値が計測できない現場においては指標を工期に置き換え,これを短縮することにより騒音・振動による周辺への影響を極力軽減するなど,間接的な評価指標として用いています。

(2)適用拡大のための対策
総合評価落札方式は標準ガイドライン(H12.9.20)に基づいて実施しています。提案内容を評価するときの技術力評価のウェイトは,目標状態の概算工事費を算出して,それを基に点数配分を決定しています。この際の「目標状態の設定」「概算事業費の算出」等,作業量が膨大になることや,目標状態の事業費等によっては工事価格に対する技術力の評価ウェイトが極端に低くなること等,工事の内容によっては当該方式の特徴が活かされていない状況がありました。
そこで,これらの事務手続きを簡素化するとともに,加算点も原則最大10点(工事費の1割)とすることにより,技術力評価のウェイトを高くする試行通達(H14.6.13)の活用により,総合評価落札方式の適用を増大させています。

3 入札・契約手続きの流れ
総合評価落札方式は入札時VEとなることから,施工業者から技術提案を受け付けることとなります。技術提案は,入札説明書に示された発注者が想定する標準的な施工方法に対しての提案を行うもので,提案範囲の違いにより以下の二種類があります。

【施工提案型】
入札参加希望者は,予定する技術提案についての考え方等を含む技術資料を提出する。主に,施工方法等に関するものであり工事目的物の変更等は行わない。
【設計施工提案型】
入札参加希望者は,発注者が設計図書等において参考として示した標準的な設計及び施エ方法等に対し,これと異なる設計・施工方法等により施工しようとする場合に,その技術資料(設計施工のVE提案)を提出する。工事目的物の変更も可能となる。

これらの手続きの流れは,公募型を例とした場合,通常タイプに比べ技術提案を受付ける関係上,技術提案期間を標準30日間確保することや,技術資料作成のための説明会を開催する事などが必要になります。(図ー4参照)

4 代表的な実施例
(1) 排水機場ポンプ設備工事の事例 ~排水ポンプの能力向上~
① 必要性
都市化が進み浸水被害が頻発している地区での排水ポンプ設置工事において,規定排水量以上のポンプ能力を発揮することにより,規定の内水対策以上の効果発現(浸水頻度低下,早期排水)により民生安定化が強く求められています。一方,ポンプ性能はインペラ(羽根)の形状・寸法により左右され,メーカー独自の設計・製作ノウハウによって排水量が決定されます。
技術提案は,従来と同じコストでより効果を発揮させるための排水量アップを求めるものです。

② 評価方法
a 配点の考え方
●過去の実績よりポンプ排水量の㎥/s当り単価を算出
●実績のポンプ効率から能力向上の技術的限界値を仮定し,目標状態の概算事業費を算出
●基準排水量の事業費と目標状態の事業費の割合から加算点を設定。

③ 掲示文(抜粋)
(  )提案されたポンプ1台当りの排水量が5m3/sを満足すれば基礎点を与え、更に提案されたポンプ排水量が5m3/sを0.05m3/s 越える毎に0.25点の加算点を与える。なお、提案するポンプ排水量は、最大5.5m3/s とする。
(  )VE提案における条件は以下のとおり
 1)設計条件
  ・ポンプ形式 立軸軸流(Ⅰ型高Ns)
  ・ポンプロ径 1500mm(コラム長4m以上)
  ・計画排水量 5.0m3/s
  ・計画全揚程 3.5m
  ・原動機 空冷デイーゼルエンジン
  ・ポンプ所要動力は「揚排水ポンプ設備設計指針(案)同解説」
 (平成13年2月)に基づく設計において、291Kw以下であること。
 2)損失額
  ・排水量0.05m3/s当りの損失額1,250千円。
(  )VE提案資料の作成
  1)VE提案資料は、作成要領に基づき作成するものとする。
  2)VE提案は、ポンプ排出量及び施工計画を提出するものとする。
    ポンプ排出量は0.05m3/s 単位とする。

④ 入札結果

(2) 道路法面工事の例 ~間伐材の使用量~
① 必要性
当該工事は,道路法面の防災工事として法枠工を実施するものですが,当該地区は日南海岸国定公園内に位置し,年間を通して多くの観光客が訪れる箇所であり,施工にあたっては工事後の自然法面への再生を考慮する必要があります。また環境対策の一環として地域に豊富な間伐材の再資源化も重要な地域課題です。
技術提案は,法面の自然化を促進させるため,法枠工施工における間伐材の使用量を求めるものです。

② 評価方法
a 配点の考え方
●法枠工部における間伐材の使用量(m3)の提案を受け,加算点として最高の提案値に10点,標準的な使用量に0点を付与し,その間の提案値は按分して配点します。

③ 掲示文(抜粋)
(  ) VE提案による施工計画が適正と認められる場合又は、標準案により施工する場合に基礎点を与え、更にVE提案による間伐材の使用計画のうち本体工事(仮設は含まない)に係る間伐材の使用量のうち、合理的と認められる部分に対して加算点を与える。また、現場で発生する建設発生木材等については、間伐材には該当しないものとし、加算点の対象としないが、可能な限り再利用化を図るものとする。
(  )VE提案における条件は以下のとおり
 1)すべり面内部摩擦角をφ=25゜とし,法枠工及びアンカー工により下記及び別添図に示す各工区毎のすべり面勾配による必要抑止力を確保すること。
 ①工区~すべり面勾配:26°
   必要抑止力:353.62kN/m
 ②工区~すべり面勾配:27°
    必要抑止力:219.16kN/m

なお,当該工事はより高い技術力の提案を受けるため,目的物である「法枠工」自体の構造変更も認めることとしました。

④ 入札結果

(3) 機場新設工事の例 ~交通渋滞・騒音振動軽減のための工期短縮~
① 必要性
当該工事は,導水事業計画に基づき機場を新設するもので,周辺には公共施設,工業団地が存在することから,工事の早期完成が強く望まれています。また周辺は地域特有の軟弱地盤地帯であり,基礎掘削等による周辺地盤への影響を極力抑える必要があります。技術提案は,これら複数の影響項目を軽減する具体的な手法が設定困難なことから,特に振動騒音,地盤沈下等の影響要因と成りうる基礎掘削・仮設工(矢板打込み,引抜き)を対象に工期の短縮日数を求めるものです。

② 評価方法
a 配点の考え方
・工期短縮の対象工種である土工(掘削),基礎工,仮設工(矢板関係)において標準工期内であれば基礎点100点を与え,さらに最大短縮日数を提案した者に10点,標準工期に0点を付与し,その間の提案値は按分します。

③ 掲示文(抜粋)
(  )VE提案における条件は以下のとおり
 1)標準工事 104日(実工期日数)
標準工期は,日曜,土曜,祝祭日,年末休暇(6日),夏期休暇(3日),日雨量10mm以上,積雪5cm,風速15m以上の日数を含まない日数である。
 2)標準工期日数は着工準備,跡片付けを含まない日数である。
 3)1日当りの実作業時間は8時間とし,その累計を実作業日数とする。
 4)関連工事として,機械設備工事,上屋工事があるが実作業日数から除く。

④ 入札結果
この工事では,最低価格提示業者以外が落札しました。

5 ペナルティの設定
総合評価落札方式は,入札時に価格以外の要素を価格と同じレベルで評価することから,落札者は実際の施工において提案通りの施工を行われたか,発注者の確認を受けることとなります。
さらに,提案が履行できなかった場合は再度施工(やり直し)を基本とし,再施工が困難なものについては減額措置とし,さらに減額のための貨幣換算が困難なものについては工事成績からの減点を行うこととしております。以下に現在採用している再度施工以外のペナルティの設定事例を紹介します。

(1)金額によるペナルティ
① 社会損益から設定
工期短縮などにおいて,1日当たりの工事通行止で生じる社会損益費を工期短縮不履行時の1日当りの違約金として減額する。

② 代替措置に要する費用から設定
水機場の工期短縮において,機場停止期間中の代替案(排水ポンプ車)にかかる1日当たりの費用を工期短縮不履行時の1日当りの違約金として減額する。

③ 工事対象物の単価から設定
ポンプ排水能力の向上において,既存ポンプから推定した排水量単価(〇m3/s/〇億円)を提案値不履行時の違約金として減額する。

④契約時の評価点と契約金額の関係から設定
落札者は評価値((基礎点+加算点)/応札価格)で決定することから,施工後に提案に不履行が発生すれば加算点を下げる必要が生じるので,評価値が変わらないように応札価格を変動試算し,この変動額を不履行時に減額する。

(2)工事点数の減点によるペナルティ
① 最大減点を設定し不履行率によって減点
工期短縮の不履行においては,工事成績評定要領に準じて,「工程管理」のウェイト≒10点を最大減点幅として,不履行率の度合いによって減点を段階別に設定して評価する。

6 入札時VEの企業のメリット
総合評価落札方式での技術提案内容は,入札時の加算点の対象となると共に,VE評定の対象となります。入札時VEにおいては,VE評定(基本評定)が決定すると技術提案された企業へ通知されます。その後,現場施工を経て工事終了後に完成時評定として最終的なVE評定が確定します。なお評価項目によっては施工1年後の性能等を規定したものもあり,この場合は施工1年後に事後評定が行われ最終的なVE評定が確定します。VE評定が付与された工事においては,有資格業者名簿の登録作業(2年毎)において工事請負業者の技術評価点数への割り増しが行われます。なお,VE評定の付与は指名・非指名,落札・非落札に係わらず内容の優れている技術提案に付与されるため,たとえ技術資料を提出された工事に指名されない,あるいは指名されても落札できない状況であってもVE評点が付与されていれば,技術評排価点数への割り増しが行われます。

7 おわりに
本年度においては,総合評価落札方式の大幅な適用拡大を目指し鋭意取り組んでいるところであり,契約済み及び入札契約手続きを開始したものを含めると52件となっています。また,技術力の評価という視点では適用拡大の試行通達の運用により2件の工事において「最低価格者以外の落札」がありましたが,今後ともさらに多様な工種への適用を試み,企業の技術力を的確に評価できるシステムづくりを進める必要があると認識しております。
ほとんどの工事で,施工はこれから本格化することとなります。施工中あるいは施工後において,技術が確実に履行されたか確認する必要があることから,引き続き施工業者の方々等にはご協力を頂くこととなりますが,これらの工事が無事に完了するよう工事の安全を強く願うものです。

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