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福岡都市高速道路室見川地区橋梁景観検討について

福岡北九州高速道路公社
 企画室 調査役
堂 上 幸 男

1 概 要
福岡都市高速道路は福岡市を東西に結びさらに都心との連絡を図る高速1号線を主軸として,南部方面へ連絡を図る2号線,空港方面との連絡を図る3号線,東部方面へ連絡を図る4号線が放射状の道路網を形成している。4路線の全長は28.6kmで昭和55年供用開始以来管理延長も16.5kmとなっており,通行台数7万台/日平均の都市交通に対応している。
近年,これら都市施設としての道路構造物はその目的のとおり人の移動と物流を円滑かつ安全に行うという名のもとに,その機能を主として高度成長と共に建設されてきたが,一方都市社会が発展成熟してきた今日,都市施設,特に都市高速道路に対しても従来の目的外により多くの内容(騒音,振動,排ガス,日照,景観等)が計画,設計,施工において要求されており,これらの問題は避けて通れない検討事項である。
本資料は高速道路1号線を延伸する中でこれらの問題の検討事例の一つとして紹介するものである
百道~愛宕地区は福岡市内でも代表的な景観を有し,その中央に位置する室見川を横断する長大橋を含む高架橋計画は,室見川および周辺環境を考慮し,なおかつ,十分都市景観を有する必要がある(図ー1.1)。

このため,福岡都市高速道路1号線百道~愛宕間,基本設計の実施に先だち産学を含めた有識者,専門技術者による「室見川橋梁景観検討委員会」を設置し,基本的な橋梁構造形式および橋梁景観の検討を行い,これらの成果を基本および詳細設計へ反映させた(図ー1.2)。

2 景観設計について
都市高速道路は,連続する高架の構造物として都市を象徴する景観を形成するものであるため,他の構造物や施設,周辺環境等との調和を図ることが大切である。
都市高速道路は,日常人の目に触れる機会が多いため,十分な道路空間の確保・周辺環境に適合した構造形式の選定・構造の細部形状や排水施設・防音壁等の道路付属物の形状,配置の方法,植栽や色彩などについても配慮する必要性があり,景観要素間の相互関係,地域全体の景観の状況を把握した上で望ましい姿ヘコントロールしていく計画が必要となる。
福岡北九州高速道路公社においても,道路景観整備を重視し,景観整備に関するガイドラインを設けている。景観整備の検討は基本的に図ー2.1のフローに示した手順で進める。更に橋梁の景観設計についてそのフローを示すと図ー2.2のようになる。図ー2.2に示した各項目を整理すると,その作業内容は表ー2.1のようなものがある。
また,都市高速道路におけるデザインプロセスとして図ー2.3があげられる。個々の景観設計はこれらフローチャートおよび作業内容,特に地域の特性を把握した上で進められる。

3 景観委員会について
「室見川橋梁景観委員会」(九州大学教授太田俊昭委員長)は,福岡都市高速道路が福岡市の代表的景観を有する室見川河口部を横断する長大橋梁計画に当たり橋梁の構造性,経済性のみならず河口を含む周辺環境に配慮した橋梁景観の検討を行い,円滑に事業を進めることを目的としたものである。
委員会議題,日程は表ー3.1に示したとおりであり審議内容は次のようであった。

(1)第1回委員会
第1回委員会は幹事会との合同会議形式で行われた。各委員への計画内容の周知徹底を図るため愛宕神社からの遠望,室見川右岸埋立地からの近景等,現地見学を行うとともにルート概要,計画の制約条件について事務局より説明が行われた。
委員からはルート計画,線形,ランプ位置等について質問が出された。
景観討議の範囲として室見川本橋と連続する高架部分とが一つの視野に入るため,これらを含めて考えていくこととなった。また,高速橋と隣接,一部交差する市の街路橋についても景観的な整合を図ることとなった。
(2)第2回委員会
橋梁案として3径間および4径間連続鋼床板箱桁,3径間連続鋼斜張橋が提案され,景観面から審議が行われた。
斜張橋の場合,Sカーブに対する構造上の諸問題の他,愛宕山を背景にした場合景観的に良くない等,問題点が指摘され,経済性も含めて4径間連続鋼床板箱桁が選定された。
桁の断面変化については,応力変化に対応して支点上で高くなるように変断面形状とする所であるが,平面的にSカーブとなっているため視点アングルによって歪んで見えるとの意見もあり等断面とすることで集約された。
一方,河川条件として隣接する市の橋梁の橋脚位置と流心方向で一致させることとしており,このため,街路橋を6径間で計画することが必要となるが経済性でも有利性が保てるとの判断から6径間案が推奨された。
なお,街路橋については市当局で今後形式等について検討することになる。
(3)第3回委員会
第2回委員会で検討区間の模型および,河川内橋脚の模型の作成が決定されており模型を示して脚形状について討議された。討議の結果V型,Y型系で考えることとなった。
桁および鋼製脚の塗装色についてカラーシミュレーション結果から桁はミスト・ブルー,脚はエクリュとし,全体に淡色で統一された。
愛宕側のラーメン脚は梁と柱の隅角部に若干曲面を付け,柱の角は丸みをつけ,面取りを行うよう指示があった。
百道側アプローチは当初計画ではPCホロースラブとしていたが,豊浜側からの眺望を考えて脚高6m程度まで鋼桁を連続させることが決定された。
以上,委員会での主な討議,決定事項をまとめた。なお,詳細設計では景観委員会での決定事項を可能な限り取り入れるとともに,脚形状等詳細を検討していく事となった。

4 橋梁基本構造決定
基本構造を検討する際,次の3工区に区分し,相互の関連に配慮しつつ選定作業が進められた。検討区分は,①室見川右岸百道地区高架,②室見川横過部および③愛宕地区高架部とした。各区間の選定経緯は次のとおりである。
(1)百道地区高架(アプローチ)
半地下構造と室見川本橋を連結するアプローチ区間であり経済性からはPCホロースラブが選定されるが,本橋の鋼床版箱桁(桁高4.0m)と比較すると桁高に3m程度の段差が生じ,色彩的にも異種構造となるため景観的連続性がない。
図ー4.1は本橋からアプローチの連続性を構造的に比較したものである。
視点場は百道側宅地部と対岸豊浜側からの2ヶ所が考えられる。
このうち百道側は環境帯として築山様の堤防植栽構造が計画されており,実際は視界に入らない。
従って豊浜側からの景観が主な対象となる。
景観委員会では,豊浜からの距離を考慮すると地表面からの6m程度の構造高となる位置まで本橋と材質,色彩を統一するのが良いとの見解が出され,この位置まで鋼桁とし桁高は本橋部桁高4.0mからの連続的に桁高を変化させ,PCホロースラブにすり付ける構造を採用した。

(2)室見川橋梁
室見川本橋は百道側から斜角約45度で上流に向かい愛宕側左岸までの約500mのS字カーブ橋である。
橋種決定は景観に重点を置いているが,道路の縦断線形,平面線形からくる制約,河川管理施設等構造令による制限条件を満足しなければならず構造選定に自由度は大きくない。
例えば,スルータイプのトラス,アーチ系橋梁等はS字カーブに適合しない。従って,デッキタイプの橋梁を中心に考えなければならない。
図ー4.2は橋梁計画上の諸条件をクリアーした上で選定された3形式である。
斜張橋は一般的に景観が優れた形式の一つであるが,本橋の場合曲線橋であり斜材が交差して見える。背後の愛宕山と景観的に合わない。
遮音壁の設置が難しくなる等が指摘され不採用となった。
3径間鋼箱桁と4径間を比較すると,3径間では桁高が大きく,交差する街路からの視点が圧迫される。
4径間では桁高が3径間の1/2程度になり等断面の桁ですっきりさせることが出来ることから4径間鋼床板箱桁橋が選定された。
なお,構造的には支点上桁をアップすることも考えられるが,道路の平面線形がS字カーブの場合桁が歪んで見え,等断面とするのが景観的に優れている。

(3)愛宕地区高架橋
室見川左岸堤から国道202号までの高架区間は街路と二層構造を構成し,道路計画幅の制約からセンターランプ方式としている。このため橋脚設置位置は街路両側の環境施設帯内となり,門型ラーメン脚が標準構造として採用されることになる(図一4.3)。
景観上の配慮として桁構造は箱桁として橋脚間隔を広く,高架下を明るくする工夫がされている。橋脚は隅角部に曲面を設ける。
断面隅角部に曲面の面取りを付ける等直線的な構造イメージを避けている。

5 色彩検討
5-1 色彩検討の目的
高速道路の美しさは洗練された造形,合目的性から生まれた機能美など橋自体が持つ美しさと,その背景で構成する総合美ではないかとの考えの基に,今回,福岡都市高速道路1号線の延伸計画にあたり,現在の1号線ルートである博多湾に面した臨海ルートから内陸部の住宅密集地および郊外空間に入り込むルートであり,背景となる周辺環境が変わり,その環境に調和した色彩の検討が必要とされるものである。
また,延伸区間の一部である室見川~愛宕間は都市計画変更時において室見川を含む周辺地域に適合した橋梁景観を検討する必要性があり,それを受け学識経験者から構成された室見川橋梁景観検討委員会を設置し,その中において延伸ルートの色彩の検討を行ったものである。
5-2 環境色彩調査と分析
(1)調 査
色彩検討に先立ち1~3号線供用区間および延伸区間の周辺がどの様な環境を持ち,景観色彩を有しているか調査,検討を行い,周辺環境との調和をはかり色彩設計の資料とした。
(2)現行の福岡都市高速道路1,2,3号線の色彩

5-3 色彩設計について
(1)長大橋の色彩設計
長大橋のような巨大構造物はその色彩が地域環境に及ぼす影響が極めて大きいと考えられ,①自然環境の中における長大橋の好ましい色彩,②長大橋の色彩と環境の調和を評価する方法について検討し,カラーイメージ構造,長大橋への適合色を基に,周辺環境との適合を加味して福岡都市高速1号線の延伸区間の提案色を選定した。
(2)橋梁部の色相,色調について
高速道路としての色彩を周囲の事物や自然環境とどの様に対置させ,美しく優れた景観を生み出していくかは次の項目を基に考えていく必要がある。
①周囲の自然環境との調和を重視する場合
②周囲に自然が乏しく高速道路自体を美しく見せる必要がある場合
③周囲に飛行場,航路等があり道路を目立たせる必要がある場合
④高速道路自体に丈夫さ,頼もしさを強調する場合
aグリーン系(草木)
bブルー系(空水)
cブラウン,クリーム系(土石)等があり,私達が日常自然界でよく見慣れている色彩がそれに当たる。
この内グリーン系とブルー系は現行色として既に使用されている色であり,新設高速の色と現行色との色の調和を考慮するとやはりグリーン系が適している。
また色調については明るく爽やかな雰囲気を演出するためLight Tone(明るく,浅い色調)を中心に検討を進めた。
5-4 カラーシミュレーション
(1) シミュレーション対象地域
シミュレーションは地域ごとに最適な色を選出するため1号線室見川~福重間を5地域に分け高速道路完成予想図を作成した。
(2) カラーシミュレーションの作業手順
① ポジフィルムの作成
 パースや実在の建築物を近接撮影してシミュレーション用フィルムを作成する。
② 色彩検討箇所の決定
 上記5地域とする。
③ マスキング作業
 色彩検討箇所が色替えできるようマスキングを施す。
④ シミュレーション
 フィルムを装填した各々のプロジェクターから光が同じスクリーン上に投影され,プロジェクターの色光を調節することにより,スクリーンに任意の色が得られる。
⑤ スライド作成
 スクリーン上に投影した映像を35㎜のポジフィルムに撮影しスライドフィルムとする。
(3)カラーシミュレーション
カラーシミュレーションは9種類の提案色と5地域の背景図を基に検討し,決定色を桁はミストブルー,脚についてはエクリュにしぼり,橋梁景観検討委員会第3回幹事会に提案した。
桁についてはミストブルーが推奨され,脚については桁の色に合う明るい色を基調とするよう意見が出され,桁のミスブルーの明度を変えたものと,それに合う配色案を追加するよう意見が出された。
防音壁(外装板)については目立つラインは好ましくなく,色分けは明度で変化させた方が良いという意見が出された。
5-5 カラーシミュレーション結果と塗装色の決定
色彩検討における委員会の基本的な考え方は都市景観におけるビルや高架橋等の長大構造物は構造自身もさることながら,色彩を含め,自己強調誇張的で目立ちがちであるが,都市景観からするとむしろ都市になじむ自然な色彩,つまり淡彩色が良いとの事でカラーシミュレーションの結果,委員会の提案は桁はミストブルー,脚についてはエクリュ,また防音壁の外装板の塗装色は目立つラインは避け,色分けをする場合でも同一色の明度を変える事とした。

6 橋脚および付属施設構造の検討
橋脚形状は河川内に設けるため,断面形は小判形としなければならない。
図ー6.1(a),(b),(c)は脚形状の比較案を示したものである。
(a) は一般的な柱,張出し梁で構成されたもの。(b)は柱と梁を連続局面で処理したもの。(c)はV形脚である。脚壁体方向は河川流心方向に設置し,梁は桁の斜角が厳しくならないように設置すべきであるが,景観的には柱と梁方向を一致させるのが好ましい。また,構成要素が少ない方が景観的に優れているとの事等から(c)のV形脚を選定した。
付属物については本景観検討委員会では審議時間の制約から大部分は詳細設計での検討事項となったが,①主桁張出し部分をカバリングすること。②防音壁のアクセントラインは防音壁本体と同系色が好ましい等の意見が出された。

7 あとがき
都市内での高速道路計画はランプの設計条件,交差道路等の空間高の確保の条件,埋設諸施設との関連等,様々な制約条件を受ける。
このことから道路の縦断線形,平面線形が決定され,景観的視点から好ましい条件が必ずしも備わっているということはない。
室見川架橋については更に河川管理上の諸規定を満足する必要もあり,景観検討の自由度は必然的に小さくなってくる。
また,高速道路を利用する通行車両による振動,騒音,大気汚染に対する環境アセスメントの結果付加される構造条件,例えば防音壁の設置等と景観設計,修景設計を行う立場との整合をどのように考えるかという問題が生じてくる。
室見川架橋および前後の高架部の計画においては,上記の諸問題がある中で,学識経験者を中心とする「景観検討委員会」が構成され,福岡市臨港地域の重要なビューポイントと位置付けられる室見川河口に構築される構造物としてふさわしい景観性が検討,審議された。
現在,詳細設計を実施中で,員会での審議内容に沿った景観的内容となるよう努力している所である。

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