一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
新しい工夫を楽しむ
「仕事と研究が趣味?」「柳の下に泥鰌どじょうが5匹?」

㈱福田組専務 兼
 防災工業㈱社長
帆 足 建 八

世の中で,仕事や研究が趣味の様に楽しくて,生き甲斐を感じるとしたら,こんなに良い事はない。読者の中には私の多彩な趣味?の中に「仕事と研究」があるだなんて‘とんでもない’と云い眼をむく方々が多いことは先刻承知のうえで書いているので,しばらく辛抱してこの奇妙な経緯を聞いて頂きたい。
昨年4月,福田組の関連会社の社長を兼務する事となった。この会社の本社は,東京にあるが,私は主として福岡市に在住し,九州・中国地区で仕事をしている関係上,どうしてこの会社を経営運営して行くか,いささか困惑したものであった。幸いプロパーの優れた副社長が資金繰りをはじめ日常の業務は指揮・指導する体制となっていたので,九州で何とか経営に関しては,名前だけの社長で1年半を過ごしたことになる。この会社は,河川・海岸の根固・消波ブロックの鋼製型枠のリース業を主体とするものである。
さて,最近,河川ではコンクリートブロックは自然環境保全の見地からあまり好ましい工法ではないと云う判断で,やや敬遠され,業績は衰退の一路を辿っている。一方,コンクリートは強度・施工性・耐久性・経済性から見て,その優位性に替わるものは無く,発注者サイドも自然環境保全に配慮した工法を模索している状況だった。‘何よりも魚の生息し易い’工法は無いかと云うのが最初の注文であった。
幸い,筑後川の上流支川玖珠川で少年時代魚捕りに熱中し,北陸の関屋分水路で魚道の設計をし,厳木ダムの環境調査で,魚類の生息実態調査を経験した私には最も興味のある分野で,学問的に系統立った勉強はしていなかったが,さほどの抵抗も無くこの問題に挑戦する気持ちになった。
<持ち前の強心蔵?>と<スピードだけが取り柄?>の特性を発揮して,筑後川の所長時代から色々とご指導をして頂いた元九州大学農学部教授のK博士に相談に伺った。

<泥縄式答案は,100点満点と一100点を足して0点>
全く予習なしで試験を受け,0点では恥ずかしいと思い,全くの泥縄方式で2つの私案を持ち込んだ。
一つの案は,根固ブロックの下に竹を含む粗朶と玉石を敷き,ここを魚の隠れ場所とし,ブロックの底面に大きな溝を設け,溶存酸素を十分含んだ流水がブロックと粗朶,玉石の間に流れる様に工夫したもの。もう一つの私案はコンクリートの表面に大鋸屑おがくずを塗布するものであった。
前者は,「材料に玉石と粗朶を使用していることは誠に理にかなっている。古来より玉石を河中に積み上げ,そこに入る魚を捕る「アグラ」「ヤグラ」という漁法もある。一方,粗朶も佐賀県のクリークで実用化されていた「ヌクメ」と云う漁法がある」とのことであった。私はその様な知識を持ち合わせておらず,全くの‘まぐれ当たりでしょうが’と云う前置き入りの激賞を頂いた。本人は,小学生がはじめて先生より100点満点を頂いた気持ちになり,有頂天で,後者の大鋸屑おがくず塗布案を説明した。しかし,哀しいかな泥縄式提案が魚類の不勉強の馬脚を現すこととなった。K博士は人格者であるが故に,私の不勉強を咎めずに「魚の趨触すうしょく性(好ましい物に寄り添う性質)の点で云うと大鋸屑おがくずが腐るとコンクリート面が剣山の様になり,コンクリートの滑らかさがなくなり,最悪になる。これは全く逆効果でマイナス点である」事を言外に説明された。その後,度々,ご指導を受け,先生の薦めもあり,魚好ブロック,魚好木竹束ぎょこうもくちくそく(木と竹を組み合わせた粗朶束)の2つの特許申請をする運びとなった。また,海外にも特許出願しておいた方が良いとのことであったが,諸事情で断念した。幸い,この工法が当たり,既に施工済みが1カ所,設計中のものが5~6カ所と初めて社長として,会社に貢献することが出来,社員の志気を鼓舞する結果となり,ほっと一息ついたものだった。何よりの収穫は,‘新しい工夫が仕事になり,利益を生む源泉になる’ことを私が自覚した事である。

<泥縄方式から図書館通いへ>
前者は,赫赫たる成果をあげつつあり,私を多少,有頂天にさせるものであったが,問題は不勉強の泥縄式提案によるまぐれ当たりと云う撓倖を反省することである。‘まぐれ当たりは2度はない’‘新しい工夫(技術開発?)は,地味な研究の積み重ね以外にはない’この2つの事を肝に銘じ,泥縄方式を改め,福岡市の図書館に通い,異分野,学際領域の基本的な知識を修得する事に努めると同時に,新しい分野については,経験も少ないので出来るだけ現地見学をし,それでも未解決の事項については,その道の権威の先生に学ぶ方式を取る事とした。

<柳の下に泥鰌どじょうは何匹も居る?>
人間とは面白い動物である。‘柳の下で泥鰌どじょうを一匹捕まえると,同じ柳の下に何匹も泥鰌どじょうが居る気がしてならないものである’この気持ちが‘仕事と研究が趣味’に近づける原動力になっているらしい。ただし,ここで云う‘仕事と研究’は,自分が好きで,かつ,社会的ニーズがある技術開発が会社の仕事と偶然一致した場合に限ることは云うまでもない。

<予習をして,3匹目の泥鰌どじょうを狙う>
近年,コンクリートブロック積護岸の施工で,魚の隠れ場所が極端に少なくなっている。
この問題を解決するために,コンクリートの間知ブロックの裏側の玉石,栗石と一部粗朶を併設したフィッシュホーム護岸(省略:F.H護岸)を開発した。これは,淡水魚の習性を本格的に学び,工夫した工法で,魚の向流性(流れに向かって泳ぐ習性)と,魚の趨触すうしょく性と,魚体の規模に応じた空隙を好む習性を追求した物で,昔の空石積の優しさとコンクリートの強度を併せ持つ我が国初の魚の習性を積極的に利用した護岸と自負している。今年12月大分県宇佐土木事務所管内の津房川で,試験施工することとしている。
果たして,理論通り,魚が棲むか否か,通信簿は来年,秋頃には魚達がきっちりとつけてくれる。その中に3匹目の泥鰌どじょういるか否か,今の私は知る由もない。

大鋸屑おがくずブロック案の汚名返上のチャンス来たる>
学際領域とは云え,泥縄式の大鋸屑おがくず塗布方式のブロック案はあまりにも無知のなせる技で,私の脳裏に沈潜していた。今年3月あるステンレス工場見学の際,チタン合金の金網に海藻が着生し困っていると云う話を聞き込んだ。兼々コンクリートに付着藻類が継続的に着生する事を念願していた私にとって大鋸屑おがくずブロック案の汚名返上の好機到来とばかり,ドンキホーテ宜しく無謀にもこのテーマに挑戦を試みることにした。チタン合金でさえ,海藻が着生するなら,コンクリートに藻類が着生してもおかしくないと云う全く単純で理論的根拠もなしに,持ち前の好奇心と天性の楽天家の本領を発揮して,チタン合金の話を伺ったM金属と新日鐵関連会社で高炉のスラグの研究をしているSコンサルタントを仲間にし,共同研究をすることとなり,悪戦苦闘の末,ほぼ,6ヶ月でコンクリートの間知ブロックの表面に珪藻を継続的に着生させる技術開発に成功した。しかし,最初に目標とした10年間の継続着生は室内の浸漬溶出試験の結果だけでは確証となり得ないと思っている。
大分県津房川で試験施工し,来春から夏にかけてアルジー(藻類)コンクリートブロックに着生した珪藻に鮎の群が喰む姿を思い浮かベ一人悦に入っている。こうして,4匹目の泥鰌どじょうは手の平までとどいている。

<5匹目の泥鰌どじょうを求めて川を下り海に出る>
こうした工夫を成し遂げた喜びは,例えば長く練習を重ねた「スポーツ」の大試合で勝利を得た時の気持ちと同じような達成感爽快感がある。その作用のせいか,次はコンクリートに海藻を着生し易くしようとする試みを企て,とうとう川を下って大海に出る事になった。
‘そもそも泥鰌どじょうは淡水魚である’図に乗るにも程がある。海で5匹目の泥鰌どじょうを捕まえようなんて!
何処かで誰かが笑っている様な気がする。しかし,泥鰌どじょうは我が国ではえら呼吸だけでなく,皮膚呼吸や腸呼吸が出来るただ一種の淡水魚である。ひょっとして海にもしぶとくその偉そうな髭が自慢げな5匹目の泥鰌どじょうが棲んでいるかもしれない。しかし,一つの気掛かりは,残念ながら,海浜に柳が生えていない事である。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧