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九州における情報化施工の取組みについて
高田英二

キーワード:情報化施工、九州、ICT

1.はじめに

情報化施工とは、建設生産プロセスのうち「施工」に着目して、情報通信技術(Information and Communication Technology、以下「ICT」という。)の活用により各プロセスから得られる電子情報を活用して高効率・高精度な施工を実現し、さらに施工で得られる電子情報を他のプロセスに活用することによって、建設生産プロセス全体における生産性の向上や品質の確保を図ることを目的としたシステムである(図-1)。

現在、数技術ある情報化施工技術の中から、「マシンコントロール(モーターグレーダ)技術」と「トータルステーション(以下、「TS」という。)による出来形管理技術」の2技術については、平成25年の一般化に向けて積極的に取り組んでいるところである。
情報化施工を普及促進するため「情報化施工推進会議」(委員長:建山和由立命館大学教授)が設置され、平成20年7月に情報化施工推進戦略(以下、「推進戦略」という。) が策定・公表された。
この推進戦略に基づき、全国の直轄現場にて情報化施工を試験的に導入し、その効果検証等を行っているところである。
早期に実用化を図る必要性には、現在の建設業界が抱えるいくつかの課題が背景にある。その課題の一つとして少子高齢化社会への対応があり、建設業従事者の約43%が50歳以上と10数年後には建設業従事者の人口が激減することが予想され、加えて少子化であることを考えれば、人口の激増は考えにくい状況である(図-2)。また、安全面に対しても課題を抱えており、全産業での労働災害のうち、約4割を土木分野の労働災害が占めている。施工効率を向上させ、省人化を進めるため、また重機の操作ミス等による労働災害を減らすためにも情報化施工技術の普及の促進に努めているところである。

2.情報化施工技術とは

情報化施工技術とは、製造業の工場ライン生産技術の考え方を建設業の施工現場に活用したものである。
製造業においては、高精度な計測技術と統計的品質管理手法の導入により公差を設定し、NC(Numerical Control:数値制御)工作機械を導入することで大量生産を実現した。さらには、CADデータと連携した高精度な機械制御技術により大量生産から多品種生産へと移り変わり、ICTの導入により、生産システムの最適化、プロジェクト全体の管理を行い、国際競争力を身に付けている。
オートメーション化された機械により高品質の製品を迅速にかつ安定して生産できることが、日本の製造業の成長を支える技術だと考える。
それでは製造業での成功例が建設業にもそのまま適応できるかというと必ずしもそうではなかった。建設業では、現場毎に違う地形や条件の下で、建設機械の位置を特定する技術が無かった。
しかし、近年のTSやGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)等の測位技術の発展が、高精度な計測を可能とし、これにより建設機械の位置特定が可能となった。製造業の工作機械に当たる建設業の建設機械の数値制御が可能となったのである。さらにはICT機器の発展によりCADデータと連携した高精度な建設機械操作によりマシンコントロール技術、マシンガイダンス技術が実現された。これにより、熟練オペレーターでなくとも一定の施工精度が確保でき、土木構造物の出来形向上に寄与するだけでなく、施工速度の向上も期待できるようになった。
また、建設業の現場は、現場毎に大幅に条件が変わるため、製造業の様に全自動化することは困難であり、施工業者や発注者側の監督職員、検査職員による施工段階毎のチェック、言い換えれば施工管理が土木構造物の品質を確保する上で非常に重要となる。施工管理はできあがった土木構造物の形をチェックする出来形管理と密度や強度といった品質をチェックする品質管理からなる。従来の出来形管理においては、巻き尺やレベル測量により幅や高さを管理しており、この手法は確実ではあるが手間が掛かっていた。一方、TSによる出来形管理技術は、光波により距離と角度を測定することで、算出された測定地点の位置情報から瞬時に設計データとの差が表示され、施工効率が格段に向上し、また、TS自体の性能にもよるが一人で出来形計測が可能である。さらに帳票作成ソフトを使用することでTSから電子データとして取り込んだ測定値を簡単に帳票として出力されるため、転記ミスや判読ミス、計算ミスなどの発生も抑えられる(図-3)。
以上の様に情報化施工技術は、これらかの日本の社会の実態に即したメリットを有し、今までの施工現場での施工管理、施工方法を大きく変える技術革新の一つではないかと考える。

3.全国の取り組み

全国で平成20年度より試験施工に取り組み、その結果から技術毎の普及状況等を勘案した新たな普及方針をとりまとめた「情報化施工技術の一般化・実用化の推進について」が平成22年8月2日に国土交通省より公表された。
国土交通省では、ここ数年の各技術の普及状況や管理要領等の整備状況を考慮し、既存の情報化施工技術を技術の成熟度毎に区分し、早期に一般化が図れる技術とそれ以外の技術でそれぞれ普及方針を立案している。

(1) 平成25年度に一般化する情報化施工技術

平成25年度に一般化する情報化施工技術としては、施工管理において活用する技術である「TSによる出来形管理技術」と施工において活用する技術である「マシンコントロール(モータグレーダ)技術」を掲げている。
TSによる出来形管理技術については、「トータルステーションを用いた出来形管理の監督・検査要領(案)」が策定され、土工工事(河川土工と道路土工)に適用される。本監督・検査要領では、情報化施工に対応した管理基準や検査頻度が設定されており、受注者の施工管理と発注者の監督・検査業務が効率的に行えるようになった。
マシンコントロール(モータグレーダ)技術では、平面的な位置情報(x,y)に加えて高さ情報(z)が入力された設計データを用いることで、設計データ通りに排土板を自動で上下させる技術である。このため、オペレーターはモータグレーダを前後に運転するのみでよく、丁張りの設置が大幅に削減され、検測回数も削減される。また、これまでの試験施工では、日あたり標準施工量に対して1.5倍もの施工量を実現している現場も報告されている。施工現場の効率化、検測作業員の減少による省人化に資する技術であり、舗装工(路盤工)に多く適用されている。

(2) 早期実用化に向けて検討を進める情報化施工技術

次に早期実用化に向けて検討を進める情報化施工技術は、施工管理において活用する技術では、「TS/GNSS(Global Navigation Satellite Sysytem:GPSを含む衛星測位システムの総称)による締固め管理技術」、施工において活用する技術では「マシンコントロール/ マシンガイダンス(ブルドーザ)技術」、および「マシンガイダンス(バックホウ)技術」である。

4.九州地方整備局の取り組み

九州においても平成20年度から情報化施工の試験施工に取り組んでいるところであり、平成20年度は2件、平成21年度18件、平成22年11月時点では28件(31技術)と年々増加傾向にある。技術的には、TSによる出来形管理技術と締固め管理技術が殆どを占めている状況となっている。さらに平成22年度は、施工者からの提案で情報化施工を実施するケースが多い状況でもある。
このような状況の下、より多くの方に情報施工技術のメリットについて知ってもらうため、九州地方整備局では、8月17日に「情報化施工サイト」をホームページ上に開設した。情報化施工の概要や施工するための管理要領等の掲載を行っているところである。その他にもサイトの中では、各事務所で行っている情報化施工技術の現場見学会の案内と申し込みも受け付けている。平成22年に実施した見学会でアンケート調査を行ったところ、情報化施工技術に興味はあるが、情報化施工技術に関する知識が無い、初期投資にどの位必要なのか不安であるといった等の意見あった。実際に施工している現場を見てもらい、情報化施工技術を実施するための準備事項や機材、失敗談等を聞いて触れてもらうことで情報化施工技術に対する不安を取り除くことが出来ればと思っているところである。
今年度は、これまでに6カ所の施工現場において現場見学会を実施しており、TSによる出来形管理技術とTSによる締固め管理技術についてそれぞれ実施している。現場見学会の参加者は、総勢約150名を超えている。現場見学会以外にも周知を図る目的として各事務所で工事受注者向けの講習会を開催したり、建設フォーラムで情報化施工推進会議の委員長である建山教授に講演をして頂く等、総勢約2,700人の方に情報化施工技術の取組方針を聴講してもらっているところであり、今後も引き続き実施していきたいと考えている。

5.おわりに

情報化施工技術が、施工現場において当たり前のように使用されることが、現在の建設業が抱える課題を解決し、品質の良い社会資本を建設、維持していくための一助となると考え、今後も積極的に情報化施工技術の普及に向けて取り組んでいきたい。普及に当たっては、建設業界のご理解とご協力を、引き続き、お願い申し上げる。

九州地方整備局情報課施工サイトはこちらから
http://www.qsr.mlit.go.jp/ict/

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