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福岡県土木情報システムについて

福岡県土木部企画検査課参事
 補佐兼土木電算開発係長
三 宅 明 治

1 はじめに
福岡県では,昭和56年に大型汎用コンピュータを導入して以来,オンライン方式による大量定型業務を中心とする事務処理の電算化を進めてきた。
土木部でも,昭和56年に設計積算,平成2年に財務会計,平成3年に執行管理(工事の発注から完成検査までの工事関係事務)について電算化が行われた。これにより事務改善はあったものの,一方では,入力業務が多い割には出力帳票が限られ欲しい情報が得られないとの不満があった。
このため,既存のシステムの再構築を図るため,昨今の情報処理に関するハード,ソフトの進歩も視野に入れて平成4年度に「土木情報システム基本構想」を策定した。

2 「土木情報システム基本構想」について
土木情報システムとは,簡単に言えば,業務のうえで発生する情報,例えば,工事に関する情報(設計書,入札,契約,検査情報等)や,文書の情報(通達文,要領・令規集,技術図書等)を電算に登録し,必要なときに必要なだけの情報をいつでも素早く取り出せるようにして,業務の拡大・高速化を図るものである。
「土木情報システム基本構想」は土木行政に関して今後予想される電算化要件を体系化したものであり(図ー1),以下の6システムを構想している。

(1)政策立案システム
① 地域整備計画支援サブシステム
社会ニーズを反映した公共事業の企画計画機能を強化し,生活の質を重視した社会基盤整備を図る。
② 防災計画立案支援サブシステム
災害に関する情報管理や対応処理等防災に関する行政機能の総合的把握支援を行う。
(2)事業計画支援システム
① 事業実施計画立案支援サブシステム
事業に関する計画を横断的に管理することにより業務負荷の平準化を図り,効率的かつ整合性のある事業計画立案を行う。
② 環境保全計画立案支援サブシステム
長期的広域的な視野に立ち,計画的な建設副産物の活用と適正処理の推進を支援する。
③ 建設・維持計画立案支援サブシステム
工事発注の平準化による労働者不足の解消や事務処理の的確化を実現し,かつ建設資材の安定供給の確保を支援する。
④ 用地計画立案支援サブシステム
計画的用地取得の推進および円滑な用地交渉事務を支援する。
(3)事業管理システム
① 設計積算サブシステム
応答時間やデータの再利用を考慮した機械化推進による単純事務負荷の軽減を図るとともに,各種統計処理に必要な労務・資材等の情報を集積する。また,当業務に関わる一連の事務手続きとの連携を図り流れの一元化を実現する。
② 入札・契約管理サブシステム
起工から契約までを一連の流れで管理することによりデータの信頼性の向上と着実な入札契約業務の執行および事務負荷の軽減を図る。
③ 工事進行管理サブシステム
工事進捗等の管理および各種検査の執行や支払状況の管理を行い,工事の計画的な執行を支援する。
④ 用地管理サブシステム
用地事務の一連の流れを管理することにより進捗状況や用地取得計画を随時把握可能とする。
⑤ 建設副産物管理サブシステム
各事業における建設副産物の情報を管理し,廃棄の適正処理と有効活用を推進する。
⑥ 台帳管理サブシステム
台帳のデータベース化により一括管理を行い,必要なデータなどを即時に検索可能とし各種調査事務負荷を軽減する。
⑦ 統計分析支援サブシステム
土木事業に関する各種情報を蓄積し,統計や解析により企画・計画・判断業務と各種調査事務に対してシステム的支援を行う。
(4)人材育成システム
① 人材計画立案支援サブシステム
職員および業者の技術情報を活用し,総合的な観点より官民交えた技術者の育成を図るとともに健全な建設産業の育成を行う。
② 職員育成支援サブシステム
職員の技術状況を把握し,人材育成計画に反映する。
③ 業者評価支援サブシステム
業者の技術状況を把握し,業者育成計画に反映するとともに業者指名情報を管理することにより指名業務を支援する。
(5)基盤情報システム
① 技術情報管理サブシステム
各種土木技術情報を一元的に管理し,ノウハウの共有化を図るとともに各方面での積極的有効利用を図る。
② 情報提供サブシステム
土木行政をとりまく各種情報を提供することにより市町村との連携機能の強化と住民啓発を図り,土木事業の円滑な執行を実現する。
(6)予算編成管理システム
① 予算編成支援サブシステム
事業の実績額等を活用することにより,予算要望額算出の適正化と単純業務負荷の軽減を図る。
② 予算管理サブシステム
予算の令達から執行までのデータを管理し,執行計画に基づいた事業の早期着手を図るとともに予算関連業務の適正化と軽減を図る。

3 開発スケジュール
前項のとおり,システム化要件は広範囲に亘っている。そのため,開発順位を次のように設定した。
・他のシステムが稼働するうえで前提となるシステムの開発は優先的に行う。
・現状業務の実態を勘案し,土木情報システム構築の目標である「事務処理の効率化・省力化の推進」の実現を最優先と考え,システム構築による単純業務の負荷軽減メリットを早期に享受する。
・現状業務の改善課題のうち早急に対応が必要な事項に密接に関連する部分のシステム開発については最優先と考える。
・現状において必ずしも明確化・定着化しているとはいえない企画・計画業務等については,業務組織体制の整備をシステム開発をより優先させる。これに基づき,現在,一次開発として図ー1に網かけで示した6サブシステムについて開発を行っている。
開発スケジュールは表ー1のとおりである。
開発にあたってはプロポーザル方式で基本構想から一次開発詳細設計までアンダーセンコンサルティングに委託した。設計積算ソフトについては,同じくプロポーザル方式で日本電気㈱の「PRECIS」を採用した。
一次開発のサブシステム・サブメニューは以下のとおりである。
(1)予算管理
個所登録,事業指定,事業指定変更,令達要求,令達承認用FD作成,令達承認,決算,令達額照会,予算残高照会
(2)設計積算
設計積算,設計書鏡,仕様書出力,仕様書鏡作成
(3)入札・契約
発注契約,起工,指名表案作成,指名委員会開催状況作成,入札処理,工事契約処理,他団体への委託協定書締結,工事情報照会,業者情報照会
(4)工事進行
工程計画登録,本庁検査予定,本庁検査要求,検査調書作成,検査結果,工事中止,変更指示処理,工事進捗登録,工事支払処理,科目更生,契約外支出
(5)用地
用地取得計画,画地/補償項目登録,用地起工,用地交渉,用地契約締結,用地契約変更,登記前支払登録,用地検査,用地支払,科目更正,用地契約繰越,未登記処理,買戻し,税務・市町村関係書類,用地情報照会
(6)統計分析
統計分析支援

4 新システムの構成
一般的にホスト系と分散機系の切り分けの基準は次のとおりである。
・ホスト系
 大量一括処理,大量出力処理
 高い信頼性が要求される処理・データ
 全部門にまたがる処理・データ
・分散機系
 部門で閉じた処理・データ
 高度な表示処理
 簡単な入力項目検証処理
新システムの構成は部内で閉じた高度処理が主なので既存のホスト系処理も残したサーバクライアント方式の分散機系とした(図ー2)。

5 開発基本方針
設計積算については,市販のソフトを利用するため,開発についてここで特に述べる必要もないので,今回は,事業管理系のシステム開発について述べる。
土木情報システム構築にあたっては,以下の点で留意している。
(1)基本構想における思想の一貫性の保持
開発が長期に亘るため,開発意識の維持を図る。
(2)システム全体の視点での作業の実施
広範囲な開発のため各部分を担当する開発要員の意志統一を図る。
(3)適用可能な新技術への対応
日進月歩で進化するハード・ソフトウェアは極力最上のものを導入する。
(4)常駐体制での共同作業
ユーザから様々な要求を常駐で作業することにより吸収し,ユーザが使いやすいシステムを構築する。また,詳細設計以降の余分な設計見直しを防止する。

6 プロジェクト推進体制
プロジェクト推進体制は以下のとおりである。
(1)土木情報システム整備委員会
土木部次長を委員長に本庁各課長を委員とし,プロジェクトチームの作業実施方針審議,懸案事項についての方向付け,作業成果物の内容審議等を行う。
(2)企画振興部電算システム課
全庁的情報化推進の観点からプロジェクトに助言を行う。
(3)土木行政高度情報化委員会
土木情報システムのユーザとなる部門および電算システム部門の実務担当者で構成され,プロジェクトチームのヒアリングヘの協力,ユーザの視点からの仕様確認を行う。
(4)プロジェクトチーム
プロジェクトチームは委託先の開発要員10余名と県の担当職員5名で構成される。開発要員は提案書に基づき当課に常駐して開発を行うため各課の協力をいただき課内に作業スペースを確保した。

7 作業手順
(1)基本設計の確認
一般に,開発業者が提示した基本設計に対して発注者から意見がないのは,理解不足による場合が多い。このため,基本設計で示された仕様を判り易くするために,表面上は稼働時と同じ流れのプロトタイプ画面を作成して基本設計に対するユーザの意見の取り込みを行った。具体的には,15土木事務所の実務者から工務,庶務,用地の各業務毎5名に依頼し,半年間にわたり週1回半日のペースで延べ946時間かけてユーザ意見を集約した。これに基づく意見の数は1,139件であった。
(2)詳細設計
前項の経緯を踏まえ,現在,詳細設計を行っている。その成果については各開発要員から県の担当職員が半日単位で30回位の予定で説明受けている最中である。入念な仕様確認作業を経ているがこの時点でも若干の修正が出ている。この作業を経てプログラミングが行われる。この本が発刊される頃にプログラミング作業が本格的になるであろう。

8 進捗管理・品質管理
今回のプロジェクトで特徴的なのは進捗管理・品質管理である。
(1)進捗管理
進捗管理は受注者が詳細作業項目別に開発担当者,着手予定日,完成予定日等を定義した作業スケジュールを作成し,それに基づき週次の進捗会議で実績を確認することによって行う。発注者は受注者から各開発項目実施予定作業・実施済作業・残作業の報告を受ける。遅れが有れば,受注者は対応策を適宜実作業に反映して次回の進捗会議で報告する。具体的には,項目毎に未着手,検討中,レビュー中,完了の工数比率に応じた点数を設定する。例えば,未着手0点,検討中40点,レビュー中60点,完了100点を進捗得点とする。
・作業スケジュールを週単位で作成する。
・作業スケジュールから週単位で進捗得点を算出する。
・実績の進捗得点とスケジュールの進捗得点で週単位の進捗を定量的に進捗会議で確認する。
・遅れがあれば,翌週までに回復する。
・週単位で進捗会議で確認する。
このように,開発着手段階から入念な進捗管理を行い工期末への工程しわ寄せを防止している。
(2)品質管理
当プロジェクトは受注者の専門分野であり,我々発注者は貧弱な情報しか持っておらず,両者の情報に圧倒的な差がある。このような場合,一般的に財・サービスの取引は情報を持つ方に有利になるため,製造過程での品質管理の方法が重要になってくる。そのため,当プロジェクトでは後で第三者でも品質管理運営の全体の流れがわかるように,各段階ごとに徹底した文書化を行っている。
ちなみに,当プロジェクトは受注者がISO9001認証申請の際の調査事例としてISOの監査を受けている。最近,受注者からISO9001認証を取得したとの報告があった。

9 おわりに
システム構成については基本的にマルチベンダー方式を目指したが,最終的には,性能,コスト,保守体制,障害対応,積算ソフト(日本電気㈱製PRECIS)との相性の観点からハードについては、NEC製品が主体となった。
土木事務所のパソコンネットワークの機器構成は図ー3に示すとおりである。
福岡県土木情報システムは平成9年度に一次開発が完了する予定であるが,その時には,本庁と15土木事務所にLANが設置され,サーバ17台,クライアント300台,ユーザ1,000人を超えるシステムとなる。

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