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カードゲームを活用した防災教育の推進

長崎県 長崎振興局 建設部
 道路建設課 技師
本 多 翔 平

キーワード:カードゲーム、防災教育、生き抜く力

1.背景
 近年、全国各地において、毎年のように想定を超える自然災害が多発し、平成30 年の土砂災害発生件数は3,459 件に達している。また、令和2 年度7 月には熊本県を中心に九州や中部地方などの日本各地において、豪雨による甚大な被害も発生している。

図1 土砂災害発生件数の推移

平成26年8月の広島市で発生した土砂災害をきっかけに、ハード対策に加え、基礎調査結果の速やかな公表や指定予定箇所における住民説明会、その他警戒避難体制の整備等のソフト対策についても推進しているところである。
また、「施設では防ぎきれない災害は必ず発生するもの」へと意識を変革し、社会全体で自然災害に備えるためには、大人だけでなく子供に対しても質の高い防災教育を実施していく必要があり、「生き抜く力」を育てることが急務となっている。

写真1 広島市(平成26年8月)

2.課題
学校防災教育の現場においても、より効果的な取り組みを模索しているが、防災に関する知識を確実に定着させることは困難を極めている。
長崎振興局では、砂防工事等を行っている周辺の学校を対象として、「防災講話」や「親と子の現場見学会」等を行い、“どこが危ないのか”や“いつ危ないのか”を中心に、ハザードマップの活用や防災気象情報の解説、避難行動等について説明している。
一昨年、長崎市立三和中学校(168名)を対象に実施した防災講話において、従来行っていた説明を行い、その後、記憶の定着率を検証するため、講話の1ヶ月後にアンケートと小テストを実施した。
人間の記憶は徐々に薄れていくものであり、小テストの正解率5割という結果が防災教育の難しさを物語っていた。
アンケートでは、防災講話の内容を難しいと感じた生徒が2割程いたため、この割合を0に近づける必要もある。アンケートでは、防災講話の内容を難しいと感じた生徒が2割程いたため、この割合を0に近づける必要もある。

1枚目:大雨が降ると・・・(A)のカード
2枚目:自分の家が洪水に・・・(B)のカード
3枚目:巻き込まれてしまうことがあるよ!・・・(C)のカード
4枚目:そうならないために、自分の家や通学路が、危ない場所かどうか調べることが大事!・・・(D)のカード

カードゲームを活用した際の予想される効果は以下の通りである。
≪考える力≫
・主体的に取り組むことで考える力が身につく
≪インパクト≫
・イラストはイメージしやすく記憶に残りやすい
≪反復≫
・カードを校内に掲示することで復習できる

3.新たな取り組み
子供たちが正しい知識を身に付け、適切な避難行動を取れるようになるためには、『考える力×インパクト×反復』をバランスよく高めることが重要ではないかと考え、カードゲームを活用した防災教育として、カードの開発やカードを活用した避難訓練等を実施し、検証を行うことにした。

(1)防災カードゲーム
防災教育の題材として、国土交通省によって作成された『防災カードゲーム「このつぎなにがおきるかな?」』を活用することにした。カードには、「津波(地震)編」、「水害編」、「土砂災害編※」の3種類(3種類×7セット×4枚)があり、防災について楽しみながら学べるようなイラスト付きのカードになっている。(※「津波(地震)編」と「水害編」は平成29年度、「土砂災害編」は令和元年度に国土交通省によって作成された。)図-2に、防災カードの一例を示す。

図2   防災カード「水害編」の例(国土交通省HP)

写真2 カードを作成する様子

(2)防災カードゲーム(土砂災害編)開発
平成30年度の時点で、国土交通省により開発済みのカードは「津波(地震)編」、「水害編」の2種類であった。「土砂災害編」が無いのならば自ら開発しようと段取りを計画しているときに、4名の中学生職場体験受け入れの話があり、子供たち自身でカードを開発することで、より防災への意識を高めてもらえるのではと考えた。

(2.1)開発方法
職場体験における、カードゲーム開発に要した時間を以下に示す。
①土砂災害に関する講話(30分)
②カードの文章を考える(90分)
③カードのデザインを考える(120分)
④厚紙に清書(60分)

(2.2)結果
一目で状況が分かる「文章」と「イラスト」を中学生が自分たちで考え、話し合って作成する作業は時間も要し、苦戦も強いられたが、最終的には8セット32枚のカードを完成することができた。
図-3及び写真-3に完成したカードを紹介するが、とてもレベルが高いことが一目でわかるだろう。

図3 開発したカードの一例

写真3 完成した8セットのカード

(3)カードを活用した避難訓練等の実施
学校教育の現場は、授業数の確保、体育祭、文化祭、その他特別学習の実施と多忙を極めている。そこで、各校が必ず実施しなくてはならない避難訓練の時間に着目し、小中学生に対するカードゲームの効果を検証した。
使用方法は以下のカードのうち4枚目(D)のカードを空欄にし、生徒・児童に考えてもらうこととした。
「災害から身を守るためはどうしたらよいか?」
1枚目:危険な状況(事実)・・・(A)のカード
2枚目:原因 ・・・(B)のカード
3枚目:どうなるか ・・・(C)のカード
4枚目:どうすればよいか・・・(D)のカード

図4 カードの4枚目

(3.1)実施方法

長崎市畝刈地区の学童児童(小学生1~6年生)、旧長崎市立式見中学校において、カードを活用した防災講話を以下のとおり実施した。カードは、「津波(地震)編」、「水害編」、「土砂災害編」の3種類を活用し、開発したカードも併用した。
 ①自然災害に関する講話(10分)
 ②カードの答えを考える(5分)
 ③発表(5分)

生徒・児童それぞれに違う内容のカードを配り4枚目(D)のカードの内容を考えてもらったが、カードの答えは一つではなく複数の答えが存在することがこのカードの特徴である。
講話時には災害教訓を伝承していくために、全国で起こった災害に併せて、県内で起こった代表的な災害も紹介し、身近に感じてもらえるように工夫した。

写真4 4枚目(D)を作成している様子(長崎市畝刈地区の学童児童)

写真5 カードを発表している様子(旧長崎市立式見中学校)

(3.2)結果
中学生においては、自ら考えた内容のカードを発表することや他の生徒が考えた答えを聞くことで、防災に対する意識が高まったとの感想を得た。
小学生においては、カードを使った学習のため分かりやすかったとの感想を得た。ただし、低学年の解答を見ると、より分かりやすい学習方法の工夫が必要だと感じた。

(4)考察
以下の通り、カードの有効性を確認した。
・カード開発は時間を要するが、自らカードを作成することで、より防災への意識を高めることができる。
・カードを活用した避難訓練等は短時間で実施可能であり、自ら考えた内容のカードを発表することや他の生徒が考えた答えを聞くことで、より防災への意識を高めることができる。
・3種類のカードを活用することで、津波(地震)だけではなく、水害や土砂災害といった山地が多い長崎県特有の自然災害についても総合的に学ぶことが可能となる。

写真6 長崎大水害による被害状況(長崎市芒塚町付近)

写真7 長崎大水害による被害状況(眼鏡橋付近)

(5)今後の展開
カードゲームを活用した防災教育の今後の展開として、学校の避難訓練等の場(学童を含む)で県職員が防災講話を継続していくことを考えている。
砂防工事等を行っている周辺校はもちろんのこと、土砂災害警戒区域等に該当する学校も併せて実施していくことが肝要であるため、今後の案件獲得に向け、すでに動き出しを開始している。
また、もう一つの展開として、教職員によるカード活用の拡大である。一昨年度、長崎市において教職員向けに開催された『安全教育推進研修会』において、カードの有効性・活用法を講師として伝えた。将来的には下記に示すような形で、教職員の方々にも実践していただきたいと考えている。

図5 今後の展開のイメージ

【①認知】
 県職員が定期的に開催されている校長会や研修会に参加して、カードゲームによる防災教育を認知してもらう。
【②興味・関心】
 教職員にカードゲームによる防災教育に対して、興味・関心をもってもらう。
【③比較・検討】
 教職員にこれまでの防災教育との比較・検討を行ってもらう。
【④購入・申込】
 カードゲームを活用した防災教育を推進してもらう。
【⑤継続】
 カードゲームを活用した防災教育を継続して行う。
【⑥紹介】
 近隣や市内の学校に取り組みを紹介する。
【⑦発信】
 県内の学校へ取り組みを発信していく。

(6)おわりに
今回の防災教育の場で、ある生徒から「もっと災害に関する学習をさせるべきだ」との意見もあった。近年、毎年のように大規模な災害が起こっている現状を踏まえると、災害について学習させることは、大人たちの義務であり、土木の分野で働く私たちが今まで以上に、積極的に防災教育に取り組んでいくことの必要性を改めて感じた。今後、地域の次世代を担う子供たちの「生き抜く力」を更に育てるためにも、質の高い防災教育の推進に努めたい。

写真8 意欲的に取り組む生徒たちの様子

参考文献
1.国土交通省防災カードゲーム「このつぎなにがおきるかな?」(「津波(地震)編」と「水害編」)
https://www.mlit.go.jp/saigai/saigai01_tk_000005.html
2.国土交通省防災カードゲーム「このつぎなにがおきるかな?」(「土砂災害編」)
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sabo/bousaicardgame_doshasaigaihen.html

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