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異常気象時通行規制区間の指定解除に向けた取り組み
九州地方整備局 日名子信広
1.はじめに

近年、道路整備は着実に進み、九州地方においても、各地方を結ぶ幹線道路網の整備が進んでいます。
しかしながら、地方部においては代替路線が周辺に無いところも多く、一旦、道路が通行止めになれば、地域間交流は遮断され、地域経済に多大な影響を及ぼす状況にあります。
また、過去に整備された道路では、法面対策が十分でない箇所が多数存在し、過去に数多くの災害が発生した箇所では、現在でも、異常気象時に事前に通行止めを行う区間として指定しています。

2.通行規制区間について
通行規制区間には、異常気象時通行規制区間(以下、事前通行規制区間と称します。)と特殊通行規制区間があります。(図-1,表-1)
事前通行規制区間は、平成21年4月時点で九州地方整備局管内に12箇所指定されています。指定箇所は、九州北部の福岡県八木山・烏尾地区、九州西部の長崎県雲仙・小浜地区、九州南部の宮崎県宮崎・日南・都城地区、鹿児島県竜ヶ水・川辺峠・牛根地区となっています。
各規制区間には、九州地方整備局の雨量計が設置されており、その雨量計の連続雨量が基準値に達したと同時に災害が発生していなくても、その区間を全面通行止めとしています。

また、連続雨量だけでなく落石の恐れがある場合に全面通行止めとする区間もあります。 事前通行規制を解除するためには、時間雨量が2mm以下を3時間連続しなければなりません。現場では雨が降っていなくても通行止めを解除することが出来ないため、通行車両への説明に苦慮しているところです。
特殊通行規制区間は、九州地方整備局管内に5箇所が指定されています。うち4箇所は越波があり通行が危険と判断される場合に通行止めを行います。指定箇所は熊本県宇土地区、大分県別大地区、鹿児島県姶良地区、前之浜地区となっています。その外、鹿児島県桜島の爆発、土石流による通行止め箇所1箇所があります。

3.事前通行規制の現状と課題
九州地方整備局管内の過去10年間(H11~H20)の事前通行規制回数は、合計で98回(平均 約10回/年)実施しており、平成16年度では1年間で19回もの事前通行規制を実施しています。(表-2,図-2)

最近は、主に宮崎県、鹿児島県の国道220号、国道225号の地方部で事前通行規制が発生している状況です。
特に国道220号宮崎県南部地方では周辺に代替路線となる幹線道路がないため、通行止めが長引けば通院や買い物もできず、地域住民に大変不便をおかけしているところです。
なお、直近過去3年(H18~H20)の事前通行規制の実施(24回)においては、実際に災害が発生したのは平成20年度の1回(国道220号土砂崩落:宮崎県日南市宮浦)のみとなっています。幸いなことに、国道220号宮浦の土砂崩落では人身事故は発生していません。
最近は事前通行規制区間内の災害の発生件数は少なくなっていますが、結果として、事前通行規制の実施により災害から身を守れたこととなっています。
事前通行規制を開始すると、車両の通行はできません。事前通行規制区間内に住んでいる方々は、規制区間外にでることも出来ませんし、規制区間外から自宅に帰ろうとしても帰れません。事前通行規制は地域住民や通過車両の安全を守るために実施するわけですが、このように規制区間内住民及び周辺住民にかなりの制約をかけることとなり、事前通行規制区間が指定されている地域住民から、早期に事前通行規制区間の指定解除を切に要望されている状況にあります。
事前通行規制の実施にあたっては、10分毎に計測される連続雨量の状況をみながら、通行止めを実施するための職員の招集、現地への出発指示を行い、連続雨量が基準雨量に達すると同時に現場で通行止めを行います。
<しかし、平成21年7月中国・九州北部豪雨においては、最大115mm/時間の豪雨が発生し、規制区間に行く経路において冠水や交通渋滞等が多数発生し、国道201号八木山・烏尾地区で通行止め基準の連続雨量に達しても通行止めができない状況が発生しました。/div>

事前通行規制は土砂災害から人を守るために実施するため、通行止め基準に達すると同時に通行止めができることが必要です。最近は、ゲリラ豪雨が頻発する気象状況となっており、1時間50mmを越える雨量は多発し、1時間100mmを越える雨量も発生しています。このような異常気象のもとでは、通行止めの準備のタイミングが難しいため、九州地方整備局では各事務所において事前通行規制区間の指定解除に向けた通行止め準備に入る雨量基準を見直し、適切に事前通行規制が実施できるようにしました。

4.事前通行規制区間の指定解除に向けた取組み
事前通行規制区間は、地域の安全と安心を確保するために必要なものですが、事前通行規制を行わなくても安全で安心に通行できる道路整備が必要です。
上記の課題を踏まえ、九州地方整備局では事前通行規制区間の指定解除を適宜進めてきており、事前通行規制区間の指定解除にあたっては、次の3項目を確認しております。
        

  1. H8防災点検による要対策箇所の対策工事が完了していること。    
  2. 学識経験者等の診断により、対策工事の効果及びカルテ対応箇所の安全性についての見解・判断を得ること。    
  3. H8防災点検による要対策箇所の対策完了後、道路通行規制基準以上の雨量を経験し、無災害であること。
最近では、平成19年度に国道220号鹿児島県牛根麓地区、平成20年度に国道226号鹿児島県前之浜地区において、通行規制区間検討委員会を開催し、その結果を踏まえ、事前通行規制区間の指定解除を行っています。
以下に2区間の対策内容及び委員会の検討内容について紹介します。

【国道220号鹿児島県牛根麓地区】(図-3)
○規制区間:鹿児島県垂水市海潟新道~牛根麓
○区間延長:L=2.6km
○規制基準:連続雨量150mm
○指定年度:昭和49年
○解 除 日:平成20年4月1日
○内 容
牛根麓地区では、現道の要対策箇所の対策が完了し、合わせて別ルートのバイパス区間(牛根大橋L=381mを含む)が供用されることによる抜本対策が完了。
更には学識経験者の意見を踏まえ、終点側バイパスとの擦りつけ部(H18カルテ箇所)の対策と流末処理を実施しました。

【国道226号鹿児島県前之浜地区】(図-4)
○規制区間:鹿児島市喜入前之浜~喜入前之浜
○区間延長:L=2.2km
○規制基準:連続雨量180mm
○指定年度:昭和51年度
○解 除 日:平成21年4月1日
○内 容
前之浜地区では、防災点検でのカルテ対応箇所である自然斜面区間と要対策箇所である防災対策必要区間の大きく2つの区間に分けて当該区間の安全性を確認しました。
防災対策必要区間(L=1.44km)においては、法面安定化対策工が完了し、沢部において土石流が発生しても国道に影響が及ばないと予測されました。
自然斜面区間(L=0.76km)では、自然斜面と国道の間をJR指宿枕崎線が併走しており、土石流が発生しても国道に影響が及ばないと予測されました。

【検討委員会の見解】
国道220号牛根麓地区及び国道226号前之浜地区においては、バイパスを整備したり、大規模な法面安定化対策を実施したことなど抜本的な対策がとられ、通行の安全が確保されることが確認できたため、事前通行規制区間の指定解除の見解をいただきました。
しかしながら、検討委員会では、事前通行規制区間の指定は解除するが、指定解除=安全宣言ではないという認識を示しています。
確かに最近の異常気象の状況下では、連続雨量が300mm~400mm程度降ることもあり、事前通行規制区間以外でも土砂崩落等の災害が頻発しております。
今後、事前通行規制区間の指定が解除された地域において、地域住民の危機管理意識を持続させることが必要であるとともに、道路管理者として、地域の安全・安心を確保するためにも、定期的な点検・清掃の実施や地域住民への情報提供を行うこととしています。

5.今後の取り組み
九州地方整備局管内には、まだ12箇所の事前通行規制区間、及び5箇所の特殊通行規制区間が残っており、指定を解除していくことが、地域の安全・安心を確保することにつながります。
特殊通行規制区間における全面通行止めの規制は、最近は行われていない状況(車線規制程度の実施はあり)にあるとともに、対策も難しいものがあります。
したがって、事前通行規制区間の指定を早期に解除すべく、事前通行規制区間内に多数存在する防災点検での要対策箇所の防災対策を計画的・積極的に進めていくことが重要であると考えています。

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