熊本駅周辺地域の整備について
山内桂王
キーワード:駅、駅前広場、デザイン
1.はじめに
来春の2011年3月12日、いよいよ九州新幹線鹿児島ルートが全線開業します。これにより熊本~博多間の所要時間は33分に、また、山陽新幹線との相互直通運転も実現し熊本から関西圏は最短2時間59分で結ばれることになります。ダイナミックに変わるビジネスや人の動きに、地元では地域が飛躍するビッグチャンスと捉えています。
本稿では、平成23年3月の九州新幹線開業を契機とした熊本駅周辺地域の整備について紹介します。
2.九州新幹線建設事業と在来線高架化事業
熊本駅周辺地域の整備は、九州新幹線建設と在来線の高架化が同時に進む、全国にも前例のない複雑な事業です。
九州新幹線建設事業は、博多~鹿児島中央間約249km、総事業費約15,210億円のビッグプロジェクトです。平成13年4月に九州新幹線鹿児島ルートの全線フル規格化が認可され、博多~鹿児島中央間全線の事業が本格化しました。平成16年3月には新八代~鹿児島中央間約128kmが部分開業し、熊本市が含まれる博多~新八代間約121kmは平成23年3月の開業を目指して、鉄道・運輸機構が事業を進めています。
一方、在来線高架化事業は、JR鹿児島本線の熊本駅及び上熊本駅を含む約6km、及び豊肥本線約1kmを対象としています。完成は、新幹線開業から6年後の平成28年度を目標としており、総事業費は約550億円です。現在、新幹線高架下に在来線の軌道を移す2次仮線工事を施工しています。
3.熊本駅周辺地域整備の概要
熊本市の中心市街地から南西に約3kmに位置する熊本駅は、明治24年の鉄道開通以来、熊本の陸の玄関口として大きな役割を担っていました。しかし、熊本駅周辺地域は、中心市街地から離れていることや、鉄道により東西に分断され、また駅西側は低層の密集市街地で、道路も狭隘であるため人口も減少し周辺商業も衰退が見られるなど、その拠点性が機能していない状況にありました。
しかしながら、当地域はJRを始めとする公共交通機関の結節機能を活かした副都心としての発展が期待されていたことから、九州新幹線全線開業を機に熊本駅周辺地域の整備を図ることとし、熊本駅を中心に約63.2haを対象とした「熊本駅周辺地域整備基本計画」を熊本県と熊本市で平成17年6月に策定しました。
この整備の特徴としては、①デザイン調整システム、②くまもとアートポリス、③新幹線先行2段階方式が挙げられます。
1)デザイン調整システム
一般的に都市整備におけるデザインの統一性及び一貫性を担保するには、現行の発注体制や計画、設計、施工等の流れを管理する必要があり、とりわけ、事業が長期間に亘り、多様な事業主体が存在する駅周辺整備の場合は、整備全体を理解し、個々のデザインを調整する体制が必要です。
このため、熊本駅周辺地域の具体の整備にあたっては、「熊本駅周辺地域都市空間デザイン会議」を設置し、デザインを調整するシステムを導入しています。また、会議の下部組織に、地元の学識経験者らで構成する「都市空間デザインワーキング」を置き、公共空間、民有空間を問わず、各事業間のデザイン調整を行い、全体的な調和を図っています。
2)くまもとアートポリス
くまもとアートポリスとは、熊本県下を舞台に豊かな自然や歴史、風土を活かしながら、後世に残り得る文化的資産としての優れた建造物をつくると共に、人々に都市文化、建築文化などの関心を深め、地域の活性化に資する熊本独自の豊かな生活空間の創造を目的した事業です。1988年(昭和63年)から事業を開始し、今年で22年が経過。
平成22年4月現在、くまもとアートポリスによるプロジェクトは84件あり、うち竣工したものは70件になります。くまもとアートポリスの特徴はコミッショナー制度であり、コミッショナーが国内外から適性と能力を備えた建築家を推薦したり、設計競技(コンペ)を実施するなど、その事業に最適な設計者を選定することにあります。
熊本駅周辺地域においても、暫定形の東口駅前広場や西口駅前広場、熊本駅交番などの整備がくまもとアートポリスで実施されています。
3)新幹線先行2段階整備
熊本駅周辺地域整備基本計画では、①九州新幹線の完成(平成22年度)までに完了を目指す事業、②JR鹿児島本線等鉄道高架化後の熊本駅東口駅前広場の完成(平成30年度)までに目指す事業と整備時期を2段階に分けて設定しています。
4.新幹線開業に向けた取り組み
熊本駅周辺地域については、各事業主のもと様々な事業が進行しています。ここでは新幹線開業に向けた取り組みについて説明します。
■東A地区市街地市街地再開発事業
熊本駅前に位置する東A地区は、駅前の相応しい魅力と活力と賑わいのある都市空間の創出を図るため、熊本市が全国的にも稀な第2種市街地再開発事業で都市機能の更新や公共施設の整備を計画しました。また、建設業務代行制度で事業者を選定し、平成21年5月に着工しました。
敷地面積1.4haに駅周辺のシンボルとなる35階建の高層マンションや図書館、ビジネス支援センターなどが入る情報交流施設、商業施設の3棟を整備しています。
■熊本駅西地区土地区画整理事業
新幹線駅の西側一帯は古くから主に住宅地として市街地が形成されていましたが、4m未満の道路も多いなど都市基盤が脆弱であり、また、老朽化した木造建築物等密集する地域であるため防災上も不安な状況となっていました。このため、熊本市では、熊本駅西土地区画整理事業を計画(面積約18.1ha、移転戸数430戸)し、良好な住居環境が整ったまちづくりを進めています。事業の完成は、在来線高架化事業が完了する平成28年度を目標としています。
■西口駅前広場
交通結節機能を強化するため、新幹線駅前に新たに設けられる西口広場は、熊本駅西土地区画整理事業で整備します。新幹線駅舎と同様に熊本城をイメージし、バス、タクシーなどが入るロータリーと歩道の仕切りに黒と白の壁を配置しているのが特徴です。デザインコンセプトは、「半屋外の公園」で、くまもとアートポリスで選定された佐藤光彦氏が設計しています。
■合同庁舎
熊本駅周辺の市街地形成に先導的な役割を果たす核施設として期待されている国の合同庁舎は、2棟の建物で計画されています。このうち、A棟は地下1階、地上12階建延べ約2万6700㎡で、6官署の職員1,200名が入居する予定です。
■東口駅前広場暫定整備
新幹線開業時の東口駅前広場は暫定形。市電の乗り場を兼ねた大屋根は、この度、建築界のノーベル賞といわれる「米プリツカー賞」を受賞された、建築家の西沢立衛氏が設計しました。この雲のような大屋根は、熊本の強い日差しから人々を守り、新たなタマリ空間を提供しています。また、同広場と東A地区を連絡する立体横断施設も設置されます。
■市電のサイドリザベーション
今後交通量の増加が見込まれる熊本駅周辺には、円滑な交通を確保し、良好な住環境を創出するため、県と熊本市で都市計画道路を整備しています。その中で、東口駅前から田崎橋までの熊本駅城山線約600mは、市電の利便性を向上させるため、市電軌道を西側(合同庁舎側)の道路端に移設するサイドリザベーション化を実施しました。本格的なサイドリザベーション化は全国で初めてです。軌道緑化を実施し、周辺景観にも配慮しています。
5.在来線高架化に向けた取り組み
在来線高架化に向けた取り組みについては、在来線駅舎の整備や現在の駅舎を撤去したあとに拡張される東口駅前広場の完成形整備を予定しています。
■在来線駅舎の整備
在来線高架化事業で実施する新しい熊本駅舎のデザインは、本年の文化勲章受章者で、世界的な建築家の安藤忠雄氏が設計します。外観には熊本城の石垣「武者返し」や長塀のイメージを取り入れています。
■完成形駅前広場
完成形東口駅前広場は、在来線の高架化が完成した後、平成30年頃に完成する予定です。この完成形東口駅前広場デザインも、くまもとアートポリスで選定された西沢立衛氏が設計しています。デザインコンセプトは、「公園のような駅前広場」で、駅前広場に求められる機能をおおらかに包み込む雲をイメージしたコンクリートの上屋が特徴的です。
6.おわりに
熊本駅周辺地域は2段階の整備を計画しており、九州新幹線が全線開業する平成23年3月には新幹線熊本駅舎や駅前広場が完成し、新たな駅の姿を見せます。その後6~7年を掛け、在来線駅舎や完成形駅前広場の整備も進められることになります。九州新幹線開業時はもちろん、完成時においても世界的な建築家が手掛ける熊本駅。既に話題のスポットとして注目を集めつつあります。
熊本県では、県民や熊本を訪れた方々に愛着を持っていただけるよう、駅周辺の整備に取り組んで参りますので、今後とも進化する熊本駅にご期待ください。