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深層崩壊に関する取り組みについて
まえ  あき ひろ

キーワード:深層崩壊 土砂災害防止法 大規模土砂災害検知システム 河道閉塞(天然ダム)

1.はじめに

斜面崩壊は土層のみが崩れ落ちる「表層崩壊」と土層及びその下の風化した岩盤が同時に崩れ落ちる「深層崩壊」に分類される。このうち、深層崩壊は規模が大きいため大規模な土石流や河道閉塞(天然ダム)などが生じ、被害が甚大になる場合がある。
国土交通省では平成22年8月に深層崩壊に関する調査の第一段階落として、過去の発生事例から得られている情報を基に深層崩壊の推定頻度に関する全国マップを作成し公表している。現在、このマップに示されている深層崩壊の頻度が高いと推定される地域を中心に調査を実施しているところであり、その取り組みについて紹介する。


2.深層崩壊とは

「改訂 砂防用語集」によると「表層崩壊」は「山崩れ・崖崩れなどの斜面崩壊のうち、厚さ0.5~2.0m程度の表層土が、表層土と基盤層の境界に沿って滑落する比較的規模の小さい崩壊のこと」とされている。一方「深層崩壊」は「山崩れ・崖崩れなどの斜面崩壊のうち、すべり面が表層崩壊よりも深部で発生し、表土層だけでなく深層の地盤までもが崩壊土塊となる比較的規模の大きな崩壊現象」と記載されている。深層崩壊の規模は大小さまざまであるが数万㎥から時には数億㎥に達することがある。
深層崩壊に起因する土砂災害としては崩壊土砂がそのまま土石流となり流れ下り被害を及ぼす場合や崩壊土砂が河道をせき止め天然ダムを形成しその後決壊し下流側で被害を及ぼす場が考えられる。


3.深層崩壊による被害

九州でこれまでに発生した深層崩壊の事例について紹介する。
はじめに鹿児島県の針原川で発生した土石流災害を示す。平成9年7月10日午前0時45分頃に高さ200m、幅100mで約15万㎥もの土砂が崩壊し、土石流となり流れ下り死者21名に上る大災害であった。このときの連続雨量は約400㎜であった。
次に深層崩壊が天然ダムを形成した例としては宮崎県の耳川がある。平成17 年9月6日に台風の影響により連続雨量約1,300㎜の豪雨が発生し、耳川の上流の西郷村野々尾地区において右岸側の斜面が約300㎥崩壊し、天然ダムを形成しその後決壊した。
このように深層崩壊は「表層崩壊」に比べ発生する確率は低いものの発生した場合は、規模が大きくなる傾向があり、甚大な土砂災害になることが多い。


4.深層崩壊頻度マップ

全国で明治期以降に発生した深層崩壊について調査したところおよそ200万年前から現在までの地形の隆起量の大きい地域、地質的には付加体や第四期より以前に形成された地層や岩石のある地域に多く存在することがわかっている。これらの結果から国土交通省では平成22年に日本全国の深層崩壊の発生頻度を推定した深層崩壊推定頻度マップを作成している(図-4)。

九州では熊本、鹿児島両県にまたがる九州山地を中心に深層崩壊の発生推定頻度が「特に高い」「高い」地域が分布している。


5.深層崩壊に関する調査

土木研究所では2005 年に宮崎県鰐塚山で発生した深層崩壊の事例を中心に解析し、地形・地質の特徴や数値地図から算出される地形量等に基づいて深層崩壊の発生する可能性の高い地域から、深層崩壊の発生のおそれのある斜面が存在する土石流危険渓流程度の流域を絞り込む手法をとりまとめられた。
これまでの検討・解析結果により「深層崩壊が過去に発生した箇所の周辺は、再び深層崩壊が発生する確率が高い。」、「深層崩壊の前兆現象と考えられるような地形的な特徴(たとえば線状凹地、岩盤クリープ斜面)がみられる渓流では深層崩壊発生確率が高い。」、「斜面勾配が急でかつ集水面積が大きい斜面の方が深層崩壊の発生する確率が高い。」ということがわかっておりこの検討結果を基に調査検討手法が構成されている。
現在、公表した「深層崩壊頻度マップ」の中から推定頻度の「特に高い」地域を中心にこの調査手法に基づき実施しているところである。


6.深層崩壊に関する九州地整の取組み
九州地方整備局ではすでに発表されている深層崩壊推定頻度マップで「特に高い」区域から今年度から地形情報を把握する目的の調査を行う予定にしている。また、「特に高い」地域においては深層崩壊などの大規模土砂移動現象の位置等を検知することを目的とした振動センサーを用いた大規模土砂災害検知システムを整備する予定である。


7.終わりに

昨年、近畿地方をおそった台風12号による災害は死者が78名に上る甚大な災害となった。この災害では土砂災害防止法に基づく緊急調査が必要な河道閉塞(天然ダム)が5カ所発生しており、国による調査及び対策を実施しているところである。これらの天然ダムは深層崩壊とおもわれる大規模な崩壊が原因になっている。
九州でも梅雨や台風による豪雨により同じように深層崩壊が多発することも考えられるため、深層崩壊推定頻度の「特に高い」、「高い」地域での地形情報の把握、センサーなどの設置などが急務である。また、大規模な土砂災害が発生した場合には地元自治体との連携が不可欠となることから日頃からの関係づくりも重要となる。

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