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都市高速道路の交通特性について

建設省山口工事事務所長
(前 福岡北九州高速道路公社
企画室長)
瀬戸口 忠 臣

1 はじめに
都市高速道路は,業務交通や通勤交通等を処理する自動車専用道路で,現在九州地方においては福岡市と北九州市の2つの百万都市で供用されている。
供用延長は,平成4年度末現在で福岡都市高速道路17.4km,北九州都市高速道路45.6kmであり,市街地関連交通の重要な部分を分担し,地域における動脈として機能している。今後,都市高速道路は,高速道路のI.Cに向かって延伸され,地域の高規格道路のネットワークの一翼を形成する計画となっており,その重要性は今後ますます増大することが予想される。
ところで,都市高速道路は有料であるため,一般道路の交通特性,利用形態とは大きく異なる点が見受けられる。また,供用延長の増大や料金改定は,利用交通に大きな影響を与えている。
本稿では,都市高速道路の利用交通の推移を一般道路との比較において整理し,供用延長の増大や料金改定が利用交通にどのような影響を与えているか,また,これらの影響が地域特性とどのような関連を有しているか,福岡,北九州,名古屋それぞれの都市高速を対象に比較検討したものである。

2 利用交通の推移と変動特性
(1)利用交通の推移
福岡,北九州,名古屋それぞれの年平均日交通量は,図ー4に示すとおり供用延長の増大や他の有料道路との接続もあり,順調に増加している。福岡都市高速は平成4年度約73,300台(対昭和60年比3.36倍),北九州都市高速は北九州道路北九州直方道路との一体化もあり,約114,600台(同10.80倍),名古屋都市高速は約124,000台(同3.97倍)になっている。

また,これら都市高速の供用開始以降の月平均日交通量を示したものが図ー6~8である。供用延長の増大(図中〇印)のあった当該月前後の交通量は確実に増大傾向を示し,料金改定と供用延長の増大がセット(図中□印)で行われた場合は,改定,延伸距離の大小により変動状況が異っている。供用延長当りの年平均交通量は,図ー5に示すとおり,平成4年度,福岡都市高速約4,200台(対昭和60年比1.43倍),北九州都市高速約2,500台(同1.63倍),名古屋都市高速で約4,100台(同1.97倍)となっている。特に名古屋都市高速が東名阪と接続した昭和61年には,供用延長が9.3km増加したにもかかわらず,延長当り年平均日交通量は増大し,利用交通を底上げする上で効果が非常に大きいものとなっている。しかしながら,料金アップと延伸がセットで行われる場合は,供用延長当りの年平均日交通量は,対前年に比較し減少する傾向にある。

(2)都市高速道路と一般道路の分担関係
都市高速道路の利用交通量は,社会経済環境の動向に加え,競合する一般道路の混雑状況により大きく左右される。図ー9~11は,表ー2に示す断面位置において,都市高速と一般道路の分担関係を示したものである。分担割合は方向別の交通需要の多寡にもよるが,いずれの都市高速も分担率が増加傾向にあり,特に福岡,名古屋の都市高速は分担率が40%を越えている。

分担率と混雑度の関係を示したものが図ー12であり,一般道路の混雑度が上昇すれば都市高速の分担率が高まる傾向を示している。特に,名古屋高速は,わずかの混雑度の振れに敏感に反応している。しかしながら,北九州高速は一般道路の混雑度とあまり相関がみられない。

(3)供用延長の増大と交通変動
① 供用延長の増大のみによる場合
表ー3に示すとおり,いずれの都市高速も漸次供用延長を増大させている。特に,北九州高速と北九州道路および北九州直方道路とが一体化した平成3年,名古屋高速が東名阪自動車道と直結した昭和61年の交通量は前年度に比較し大幅に増加している。

図ー13は,延伸距離と延伸した前後における交通量の変化率を示したものである。なお交通量については,延伸部の供用開始日がその月の前半か後半かにより,当該月の交通量を大きく変えることから,当該月を除く前後2ヶ月の月平均日交通量の平均によるものとした。
供用延長の増大は,利用圏域を拡大し,交通量を確実に増加させる。特に4km以上の延伸はその効果が大きく,1.4倍程度増加させるものとなる。
名古屋高速と東名阪が直結した場合がこれに該当し乗継ぎ交通により交通量は1.6倍程度増加している。

② 供用延長の増大と料金上昇がセットの場合
都市高速道路の供用延長の増大と料金アップはおおむねセットで行われ,その際の交通変動は,料金上昇額,延伸距離等と関係するものと考えられる。図ー14は,延伸長当りの料金と交通量の変化率を示したものである。
これによれば,延伸距離当りの料金が60円/km程度までは,料金アップに伴う利用交通の減少を延伸に伴う利用交通の増加が上回って交通量が増大するが,それ以上の料金になると,料金アップ直後の交通量は減少する傾向を示す。
ところで,延伸と料金アップがあった場合の交通量を長期的に見ると(図ー6~8参照),延伸距離当りの料金にかかわらず,利用交通の変化幅は除々に小さくなり,次第に増加傾向に転じるものとなる。これは延伸によって利用便益の高いランプ付近では,料金水準にもよるが,改定直後は利用交通が減少するものの,次第に利用圏域が拡大し,徐々に利用交通が定着するためと考えられる。

(4)料金改定と交通量変動
北九州都市高速道路は,平成3年3月に北九州道路および北九州直方道路の管理を道路公団から引継ぎ,都市高速道路として一体化されることになった。
ところで,北九州道路および北九州直方道路は対距離料金の有料道路であったが,均一料金制の都市高速の料金体系へ移行にするにあたり,料金の激変緩和措置が実施された。
これは一体化後,平成5年3月までは暫定料金,それ以降は均一料金とするものである。
表ー5は,北九州都市高速4号線において,乗継交通を除く内々交通について,料金改定前後の変化を示したものである。また図ー15は表ー5をもとに,料金変化幅と交通量変化率をプロットしたものである。なお,交通量についてはいずれも日交通量であり,一体化前は平成2年10月16日,暫定料金時は平成3年10月16日,均一料金時は平成5年4月14日の値である。
これによれば,料金変化幅と交通量変化率は,負の相関が見られ,特に料金の増加に対して,その直後の交通量は敏感に反応している。一方,料金の低減に対しては,交通量は増加する傾向にあるものの,あまり敏感ではない。
これら,料金改定の交通量に及ばす影響を,激変緩和措置期間を通してみると次のとおりとなる。
料金が低下する場合は,利用交通量は徐々に増加するものの,増加の幅は小さく,低下による効果が顕在化するまでに数ヶ月を要するものとなっている。
一方,料金上昇の場合は,利用交通量が改定直後に減少し,その傾向が相当期間継続するものとなっている。

3 需要の料金弾力性
表ー4,5に示した交通量の変動について,弾力性という指標で考察すると,以下のとおりとなる。

(1)料金上昇のみの場合
経路・手段選択の代替性が低い場合,一般的に需要の料金弾力性は小さいと言われており,首都高速道路ではe=0.25程度と報告されている。
表ー5に示す北九州高速の4号線の内々交通量では,e=0.4~0.7と比較的高い値となっている(表ー6)。これは,図ー12に示すとおり,高速道路の利用が一般道路の混雑度とあまり強い関連性がないことが一つの要因であると考えられる。すなわち,北九州都市圏においては,名古屋や福岡と比較して,一般道路のネットワークの代替性および経路選択の自由度が高く,これが弾力性を押し上げているものと考えられる。

(2)料金低減の場合
料金が低減した場合の弾力性は,表ー7のとおり,その値はバラついている。弾力性はほとんどが1.0以下であるが,料金が800円から360円へと440円低下した区間については,弾力性が1.692と非常に大きなものとなっている。
このように,利用料金の大幅な低下は,経路選択に関して代替性を向上させると同時に,割安感という心理的要因も作用し,弾力性を上昇させるものと考えられる。

(3)料金上昇と延伸がある場合
料金上昇と供用延長の増大がある場合は,それぞれの要因が利用交通に影響を及ぼすため,単純比較はできない。ここでは,増大交通量を延伸距離で除した形で弾性値を算出し,延伸による交通量の変動を同一尺度で扱うものとした。
表ー8は,表ー4に示す値をもとに,それぞれの都市高速の弾力性を算出したものである。
これによれば,料金上昇と延伸がある場合は,弾力性は必ずしも安定していないが,都市別の傾向として,名古屋都市高速,福岡都市高速,北九州都市高速の順に,その値が高くなっている。

4 地域特性と弾力性
弾力性は,料金水準,交通条件,社会経済条件によって左右され,また図ー4に示すとおり長期間になれば交通量の変動が大きくなることから,比較期間が長い場合,弾力性は大きくなる。そのため,弾性値の大小が長期的な需要特性を明示するものではない。
ところで,弾力性を規定する要因としては,経路・手段選択といった交通サービスに対する代替性,通勤交通のような本源的需要の代替性,運行経費,利用料金等の総費用に占める割合,貨物輸送のように梱包・積卸しといった付帯サービスにかかる費用の割合等が考えられる。これらの要因は地域によって異なり,また弾力性に対するそれぞれの要因の重みも地域によって異なってくる。表ー9は,各都市高速の弾力性とこれと関連する指標を示したものである。以下では,これら地域指標と弾力性がどのような関係にあるかを,所得,産業,交通関連指標との係りにおいて整理し,これらの指標のうちどのような指標が支配的であるか考察する。

(1)所得関連指標
高速道路の利用台数を推計する場合,転換率式が用いられており,転換率を規定する要因として時間評価値があげられ,時間評価値が高くなれば転換率は高くなる。
弾力性についても,所得が高く総費用に占める交通に関連する費用(利用料金,運行経費)が小さければ,弾力性は小さくなると指摘されている。表ー9に示す1人当り所得,世帯当り消費支出,交通通信費の割合を見ると,名古屋市がおおむねその傾向を示しており,これを裏付けるものとなっている。
(2)産業関連指標
都市経済活動の特化度合を示す1人当り工業製品出荷額と1人当り小売業販売額の2つの指標と各都市の弾力性を比較すると,前者とはあまり相関はないが後者とは相関している。
このことは,高速道路の利用交通の変動が業務交通の度合により,影響を受けているためと考えられる。
(3)交通関連指標
総費用に占める交通に関連する費用の割合が低いほど,また梱包・荷作り等他の要素の代替性が大きいほど,弾力性は小さくなるとされている。
図ー16は,各都市高速別の目的別割合を示したものである。いずれの都市高速も帰社,貨物輸送を含め,業務目的割合が50%を越えており,福岡・名古屋の順にその構成割合が高くなっている。これと都市別の弾力性を比較すると,おおむね相関があり,業務交通の割合が高いほど弾力性を押下げるものとなっている。

一方,混雑度に関連のある都市内道路の整備状況と弾力性を比較すると,明快な相関は見られず,弾力性が交通サービスの代替性のみでは説明しきれない側面も持っていると考えられる。
自動車の保有状況については,相関はあるが弾力性とは指数的な関係にある。
以上のように,弾力性と地域指標を比較すると,都市計画道路の整備率や混雑度といった交通条件そのものに関連する指標より,むしろ所得や消費性向あるいは一人当りの小売業販売額といったサービス産業的要素が支配的となっており,各都市の経済・社会のソフト化の動向は,都市高速の利用特性に大きな影響を及ぼしていると考えられる。

5 おわりに
本稿では,都市高速道路の交通変動特性について,料金改定,供用延長の増大を踏まえた弾力性をもとに検討してきた。
これによれば,九州管内の都市高速の弾力性は名古屋都市高速と比較してや、高く,料金改定や経済環境の変化に対して交通量が敏感に反応するきらいをもっている。
図ー17は都市高速の開業以降の交通量の変動を例示的に示したものである。種々の要因変化がありながらも,利用交通量は漸増傾向となる。

都市高速道路のネットワークの展開に当っては料金改定や延伸による影響をできるだけ排除し,安定的,定常的な料金収入を確保することが重要な課題となる。
本稿でも示したとおり,料金上昇は,短期的にではあるが利用交通を減少させる。しかしながら,ある一定以上の延伸を適正なる料金水準(60円/km)でセットすれば,需要の落込みはカバーできる結果となっている。今後,高速道路のI.Cに向けて都市高速は延伸されるものと考えられるが,需要の定着動向,期間等を踏まえ料金改定を行っていく必要があろう。
また,需要の料金弾力性という観点からは,所得,第3次産業的要素が支配的になっていることから,今後,都市高速は新たな都市機能形成に資する展開を図っていく必要があろう。

参考文献
1)岡野行秀:交通の経済学 有斐閣

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