河道内樹木の再繁茂抑制方法
-効果的な河道内樹木の管理に向けて-
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萱場祐一
キーワード:河川、樹林化、再繁茂抑制
1. はじめに
河道内樹林化(以下、樹林化)は1990 年代中頃より認識され始めた現象であり、その後行われた数多くの調査・研究により日本全国の河川で進行していることが確かめられている1)。河道内の樹林化は、流下能力の低下、偏流や高速流の発生や堤防・護岸の被災を引き起こす可能性があるほか、流木化して橋脚などに集積し水位をせき上げる等の治水上の問題を引き起こす2)、3)。また、元来河川が有していた生息場所の分布割合を変え、裸地や草地に依存する群集に対して影響を及ぼす4)~ 7)、河川巡視の妨げとなる等の課題が指摘されている8)。
拡大しつつある樹林地を管理するためには、樹林化のプロセスを明確にし、河道計画・河道設計に反映することが一つの方策となるが、既に樹林地が拡大している、拡大しつつある場合においては、維持管理段階において樹木を伐採し、治水・環境の両面から適正な樹林域へと誘導していくことが必要となる。しかし、伐採された樹木は伐採株・枝・根から萌芽が再生し、早期に樹林地を形成することが知られている9)。このため、施工性・コストの視点も踏まえ萌芽再生の抑制効果が高い伐採方法が必要となる。本報告では、以上に鑑み、樹木伐採を実施した後、伐採株・根・枝からの再萌芽を抑制する方法を幾つか選定し、主要な管理対象樹種であるヤナギ類、ハリエンジュ、タケ・ササ類に適用した際の有効性を紹介する。再萌芽の抑制は再樹林化抑制の一プロセスに過ぎないが、このプロセスの成否はその後の樹林抑制に重要である。
2.河道内樹林化および樹木管理の現状
2.1 管理対象となる主要樹種
河道内で樹林を形成し河川管理上課題となっている樹木の種類(樹種)は、地域によってもその立地場所によっても異なる。また、樹種によって生育特性や有効な管理方法も異なるため、地域別にどのような樹種が優占しているかを知ることは重要である。河川水辺の国勢調査の植物調査結果(2004 年度~ 2008 年度)(図-1)及び各地方整備局の河川管理者に樹木管理の実態に関するアンケート調査を実施した結果(図-2)から、生育面積が大きく実管理上も課題となっているのは「ヤナギ類」、「ハリエンジュ」、「タケ・ササ類(マダケ及びメダケ)」であることが分かった1)。これら3 種で管理対象全体の7 割以上を占めているため、本報では、これらを主要3 樹種として、生育特性や再萌芽抑制方法について記述する。
2.2 主要3種の生育特性と管理上の課題
樹木管理の実態に関するアンケート調査結果から、主要3種の管理方法は伐採が半数、伐採後に除根まで実施する場合が残りの半数を占めている(図-3)。しかし、これらの樹種は、いずれも栄養繁殖(種子からの発芽ではなく、伐採株や根、枝からの萌芽)を行うため、伐採を行っても伐採株・枝・根の一部が残り、そこから萌芽再生し、樹林地を形成する。萌芽再生の仕組みは樹種によって異なるため、主要3種の生育特性そして伐採を行った際の応答特性を知ることが重要である9)。
①ヤナギ類
ヤナギ類は種子繁殖と栄養繁殖によって再生産を行う10)。花期は概ね3~6月であり、結実後、5~7月にかけて綿毛のついた種子が放出される2)。種子は風もしくは水によって散布されるが、その寿命は短く湿潤な場所でないと発芽しない。伐採株・枝からも萌芽再生し(写真-1)、かつ、種子からの発芽と比べて成長が早く、伐採株からの萌芽再生の場合、約2年で高木(4m)に成長することが知られている1)。
②ハリエンジュ
ハリエンジュは種子繁殖と栄養繁殖によって再生産を行い、栄養繁殖には伐採等により損傷受けた幹(株及び枝)からの萌芽と水平根からの萌芽(根萌芽)とがある10)(写真-2)。栄養繁殖力は旺盛であり、伐採のみを行った場合は、伐採株から萌芽再生して約3年で高木(4m)に成長するだけでなく1)、1株から多数萌芽するため伐採により密度が高くなる恐れがある。特に、水平根からの根萌芽は伐採によって萌芽が誘発されるため、除根を行ったとしても、取り除けなかった根から萌芽再生を行い、再樹林化を引き起こす。
③タケ・ササ類
主に地下茎からの栄養繁殖により分布域を拡大する11)、12)(写真-3左)。地下茎は毎年伸長し、新たな筍(発芽個体)を出すが、伐採によって萌芽が誘発される特性を有する12)。このため、伐採のみを行った場合には地下茎から萌芽再生し、1 年で元通りまで成長することがある1)。また、伐採後に除根まで行っても、取り除けなかった根から再生する1)(写真-3右)。
次に、上記を踏まえ伐採を実施した際の課題を整理してみよう(図-4)。ヤナギ類は「伐採株」、「枝」の対策が、ハリエンジュは「伐採株」・「根」の対策が、タケ・ササ類は「根」の対策が課題となる。つまり、樹木管理を行うためには伐採に加えて、それぞれの種の再繁茂の特性に応じた対策が必要となることがわかる。
3.再萌芽抑制方法とその効果
伐採のみでは再萌芽の抑制は困難である、対象とする樹種の特性に応じて他の方法を組み合わせて再萌芽を抑制することが必要となる(独)土木研究所河川生態チームでは、主要3種に対する再繁茂抑制方法の検討を行い、幾つかの有効な方法を抽出し、その効果の検証を行ってきた。以下からは検証対象となった方法の概要を説明し、その有効性を検証した実験結果を概説しよう。
3.1 再萌芽抑制方法の概要
再萌芽抑制方法としては前述した伐採に加えて、①環状剥皮、②除根、③天地返し、④土砂掘削に加えて再伐採、樹皮剥皮、塗料塗布、覆土等の方法が考えられる。ここでは、再萌芽抑制効果に加えて現場での施工性、コストを踏まえ、実際の河川管理に適用可能な方法として①~④を取り上げ、その概要を説明する(図-5)。なお、これ以外の方法の有効性については、文献9)に詳細が記載されているので、こちらを参考にしてほしい。
①環状剥皮→伐採
環状剥皮とは、樹皮を剥ぐことにより樹皮の内側にある師部を破壊し、葉から根への栄養供給の遮断する方法である。伐採前に実施することによる地下部に蓄えられた養分を減らし、伐採株からの萌芽再生を抑制することができる。また、葉から根への供給が遮断されると、根が弱り、地上部に必要な栄養が巡らなくなるため枯死させることができる。ヤナギ類、ハリエンジュのように伐採後に残った幹・枝・根から再繁茂する樹種に対しては、事前に環状剥皮が有効と考えられる。
②伐採→除根
伐採後に伐採株と根を重機により引き抜く方法であり、伐採株・根からの再萌芽抑制に効果があると考えられる。特に、根からの再萌芽が課題となるハリエンジュ、タケ・ササ類に有効な方法と考えられる。
③天地返し
伐採・除根後、地下茎を含む上層土と下層土を入れ替える方法である。地下茎が多く存在する上層土を深い位置に移し、光を遮断することで萌芽再生を抑制することができる。地下茎からの再萌芽が課題となるタケ・ササ類に有効な方法と考えられる。
④土砂掘削
土砂掘削は土壌中に存在する根茎を土壌ごと掘削除去する方法であり、地下茎から再萌芽するタケ・ササ類に有効な方法と考えられる。
3.2 再繁茂抑制方法の効果と課題
①~④の方法の有効性について(独)土木研究所が九頭竜川、天竜川、那珂川で実施した実験結果を紹介する。適用した方法は、主要3種の特性に鑑み、ヤナギ類については①環状剥皮、ハリエンジュについては①環状剥皮、②除根、タケ・ササ類については②除根、③天地返し、④土砂掘削とした。
(1)ヤナギ類
ヤナギ類は「伐採株」と「枝」の対策が重要となる。最初に環状剥皮が伐採株の再萌芽に及ぼす効果を伐採のみの効果と比較して見てみよう。実験では、最初に処理区の樹木に対して環状剥皮を行い(H22.9)、剥皮後8 ヶ月経過した段階で、処理区・対照区の樹木の伐採を行った(H23.5)。萌芽調査はその2 ヶ月後に行っている(H23.7)。伐採のみの処理区では1株あたり6.7 本の萌芽再生があったのに対して、処理区では1 株あたり2.5本の萌芽再生に抑制することに成功している。次に、環状剥皮が枝の萌芽再生に及ぼす効果を確認する(図-6)。環状剥皮を実施し(H22.9)、20 ヶ月経過後(H24.5)に処理区・対照区から枝の採取し30㎝程度の長さに切断して、プランタに挿し木して、2ヶ月後(H24.7)に萌芽再生の有無を確認した。処理した枝からの再萌芽は全く見られず、皮が栄養を遮断し、ヤナギを枯死に至らしめたことが推測できる(図-7)。このようにヤナギ類については環状剥皮が伐採株、枝の再萌芽抑制に有効であるが、環状剥皮後どの程度の時間が経過した段階で伐採を行うかによって効果が異なる点に留意する必要がある。これは、最初に示した実験では、この期間がやや短く、結果として処理したヤナギの萌芽数を完全に抑制できなかったのに対して、枝を対象にした実験では、処理後の経過時間が長く再萌芽を完全に抑制できたことからも理解できる。ただし、この期間が長過ぎると、枯死した樹木が倒れ、流木化する可能性もあるので、剥皮実施から伐採までの期間は慎重に設定する必要がある。
(2)ハリエンジュ林
ハリエンジュは「伐採株」、「根」に対する対策が課題となる。最初に環状剥皮が伐採株、根に及ぼす効果を見てみよう(図- 8)。ヤナギにおける実験同様、最初に環状剥皮を行い(H22.9)剥皮後8 ヶ月経過した段階で処理区・対照区の樹木を伐採した(H23.5)。萌芽調査はその2 ヶ月後に行っている(H23.7)。伐採のみの萌芽数が1 株あたり9.4 本に対して環状剥皮を実施した萌芽数が6.2 本となり、ヤナギ類と比較して環状剥皮の効果が小さいことがわかる(写真-4)。また、再萌芽抑制のもう一つのポイントとなる水平根からの萌芽については(図-9)、伐採のみの区間では1本/㎡の萌芽再生があったが、環状剥皮の実施区では0.3 本/㎡と一定の効果が見られたが、根絶には至らなかった。次に、伐採後に除根を行ったケースを見てみよう。除根により株が消失するため伐採株からの萌芽数は完全に抑制できるが(図-10)、抜根時に根の一部が現場に残され、そこから再萌芽が生じて単位面積当たりの萌芽数は伐採のみのケースと同程度になっている(図-11)。このように、ハリエンジュの場合はヤナギと比較して環状剥皮の効果が低く、除根を行った場合でも根を全て除去できないために、残った水平根からの再萌芽が生じる。また、萌芽した後は窒素固定を行い速やかに成長するため12)、13)、一度萌芽してしまうと数年で元どおりとなる可能性が高い6)、14)。このように、ハリエンジュ林の地下部の完全枯死または完全除去は難しいため、毎年萌芽の刈り取りを行うなど、継続的な管理が必要だろう。
(3)マダケ林
タケ・ササ類
タケ・ササ類は「根」の対策が重要であり、伐採に加えて除根を行うことが必要となる。現地においてマダケを対象として伐採・除根(処理区)、伐採(対照区)を行い(H23.2)、その後の地下茎からの萌芽数を調査した(H23.5)。伐採のみの対照区では15 本/㎡なのに対して、伐採・除根を実施した処理区では1 本/㎡程度に再萌芽が抑制されており、伐採・除根に一定の効果を確認できた(図-12)。また、伐採後に再伐採(7月)を実施すると、密度抑制により効果が認められた。マダケは、伸長時に地下茎に貯えられた養分を使うため、伸長最盛期の初夏に地下茎の養分を著しく減らすことが報告されている15)。このため、初夏に再伐採を行うと再萌芽の抑制に効果的かも知れない。次に、天地返し、土砂掘削の効果を見てみよう(図-13, 14)。これらの処理を実施し(H23.2)、2 ヶ月後に萌芽調査を実施した(H23.5)。なお、土砂掘削は80㎝、40㎝の異なる掘削深さで実験を行っている。再萌芽数はほぼ完全に抑制されており、天地返しについては萌芽個体も翌年には全て枯死していた。ただし、地下茎の深さは河床材料の粒度組成によって異なること、掘削については残土の中に地下茎が含まれるため、この処理が課題となる。このように、マダケ林をはじめとするタケ・ササ類については伐採・除根を行った上で、継続的に再伐採を実施するか、天地返し等が有効な方法と考えられる。
以上から、ヤナギの萌芽再生抑制には環状剥皮→伐採が、マダケの萌芽再生抑制には伐採・除根→再伐採(もしくは天地返し等)の方法が有効であることが示された。しかし、ハリエンジュに対しては、伐採後の萌芽再生抑制は困難であるため、毎年刈り取りを行うなど、違う視点での検討が必要になる。今後の課題としたい。
4.おわりに
本報告では、樹木管理の主対象となるヤナギ類、ハリエンジュ、タケ・ササ類の生育特性についてその概要を示し、この特性から考えて有効性が期待できる再萌芽抑制方法について紹介した。再萌芽抑制は樹木管理の一つの重要なプロセスの一つであるが、樹木を除去し、裸地化した場所を草本群落に置き換える等の処理をしなければ、再度樹林化する可能性が高い。本報で紹介した方法に加え、樹林管理全体の戦略そしてこれを実現する技術の確立を行う必要がある。
【参考文献】
1)(独)土木研究所:河道内樹木の萌芽再生抑制方法事例集,土木研究所資料,第4253号,2013.
2)外来種影響・対策研究会監修:河川における外来種対策の考え方とその事例(改訂版),.リバーフロント整備研究センター,2011.
3)伊木千絵美,矢部浩規,中津川誠:樹皮剥皮による河道内樹林管理手法の提案,北海道開発土木研究所月報,No.622号,pp.39-44,2005.
4)丹野幸太,前田諭:ハリエンジュの萌芽抑制の試験施工とその効果分析,リバーフロント研究所報告,第19号,pp.104-111, 2008.
5)楯慎一郎,小林稔:物理環境からみた全国河川の状況,リバーフロント研究所報告,第19号,pp.87-95, 2008.
6)田屋祐樹,増本みどり,赤松史一,矢島良紀,佐貫方城,中西哲,三輪準二;河道内樹林における萌芽再生抑制方法の検討,河川技術論文集,第18巻,pp.59-64, 2012.
7)藤原正季,大石哲也,天野邦彦,矢島良紀:地下茎の伸展と周辺環境の変化に着目したマダケ林の拡大機構,河川技術論文集,第15巻,pp.141-146, 2009.
8)渡辺敏,前野詩朗,渡部秀之,志々田武幸:旭川におけるヤナギ林の拡大機構とその抑制管理のあり方に関する検討,河川技術論文集,第11巻,pp.77-82, 2005.
9)玉泉幸一郎,飯島康夫,矢幡久:海岸クロマツ林内に生育するニセアカシアの根萌芽の分布とその形態的特徴,九州大学演習林報告,第64号,pp.13-28, 1991.
10)崎尾均(編):ニセアカシアの生態学,文一総合出版,2009.
11)Moshki, A., N.P. Lamersdorf:Symbiotic nitrogen fixation in black locust (Robinia pseudoacacia L.) seedlings from four seed sources,Journal of Forestry Research 22,pp. 689.-692,2011.
12)山田健四,真坂一彦:伐採時期の異なるニセアカシアの萌芽枝の動態,日本森林学会誌,第91巻第1号,pp.42-45, 2009.
13)上田弘一郎,有用竹と筍-栽培の新技術-,博友社, 1963.