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河川環境処理機の開発について

国土交通省 九州地方整備局
 九州技術事務所 機械課 整備係長
井 上  淳

1.はじめに
熊本地方の緑川水系と菊池川水系では,ホテイアオイやブラジルチドメグサ等の外来水草が非常に強い繁殖力によって,毎年その繁茂地を拡大している。
これらの異常繁殖した外来水草は,河川の生態系への悪影響や樋門,樋管等の河川管理施設の操作障害さらには海域まで流出し漁網等に引っ掛かる等,様々な弊害を引き起こしている。行政はもとより地域住民によるボランティア活動で水草回収を行っているが,繁殖量全てを回収できていない。
そこで,水草回収から搬送に至るまでの処理機の開発を行い,水草陸揚作業の合理化,コスト縮減や環境保全等良好な結果が得られたので報告するものである。

2.外来水草の概要
今回対象としている外来水草を下記の表ー1に記述する。

3.外来水草の分布状況
ホテイアオイ,ウォーターレタスの分布状況は,西日本を中心に各地で拡がっており,いずれも異常発生による被害状況が伝えられている。九州では緑川水系加勢川と佐賀平野のクリークで繁茂している。
ブラジルチドメグサについては,平成10年に菊池川水系鴨川で発見されたのが最初である。3年後の平成13年5月の調査によれば,支川の合志,上内田,迫間川の上流まで確認されており,非常に強い繁殖力を持っているのがわかる。

4.水草の除去作業の現状
4.1 緑川水系
河川管理施設である六間堰と野田堰では,堰前面に網場を敷設して,流下してきたホテイアオイとウォーターレタスをせき止め,船外機付きボートで河岸まで押し寄せ,水切り効果の高い網状の特殊バッケットを装着したロングアーム式バックホウにて高水敷へ陸揚げされている。(写真一3・4)

4.2 菊池川水系
ブラジルチドメグサは根が岸辺に絡みつくため,人が河川内に入り人力で切断作業を行った後,ボートで河岸まで押し寄せ,バケット底部に多数の水切孔を設けたバックホウにて陸揚げされている。平成13年度の異常発生時での除去作業は延べ1,000人以上のボランティアの協力のもとに行われた。(写真一5・6)

5.水草回収方法の検討
5.1 開発機械の構成
両河川の現地調査を行い,河川環境処理機を設計する為の基本条件(水草発生量,回収能力,繁茂位置・状況)の整理を行った。その結果,1台の機械に水草の回収及び処理機能を持たせると装置が大型化し,河川敷内のトラフィカビリティ不足から河岸まで搬入する事が困難と判断した。
よって,回収装置と搬送装置を分離する事で軽量化を図り,回収装置のみ河岸まで接近できるようにした。図ー1にその基本構成を示す。

5.2 水草の回収方法
回収方式を①河川内方式と②陸上方式について検討した。その結果,①の水面を移動しながら河川内に散在する水草を回収する方式に比べ,②の作業船で1箇所に水草を掻寄せ,陸上から陸揚げ回収する方式がより効率的であり,開発機は陸上回収方式とした。回収装置は河岸水辺近くに設置したバックホウのアタッチメント方式とした。
なお,搬送装置は回収水草の搬出に便利なように堤防に近い箇所に設置する事とした。図ー2に回収方法の全体イメージを示す。

5.3 設計条件
開発に当たり水草の流出による水産業への影響及び膨大な発生量を抑制するために,発生初期に回収を行うものとして下記の4条件を設けた。

設計条件
(条件1)日当たり運転時間5時間
(条件2)年運転日数60日間
(条件3)回収水草面積60,000m2
(条件4)水草単位質量18㎏/m2

水草回収面積60,000m2はブラジルチドメグサの繁茂域である菊池川の白石堰上流から,支川の末端まで,感潮区域外流路延長60,000mの両岸に幅0.5mで繁茂した水草の回収を条件に入れたものである。(図ー3)

この結果処理機の回収能力は200m/時間(3,600kg/時間)となる。

6.河川環境処理機の製作
上記の設計条件を目標に実験機の製作を行った。図ー4に処理機の概要と図ー5に全体構成図を示す。

6.1 回収装置
バックホウの先端アタッチメントとして脱着可能な装置を開発した。バックホウは0.5㎥クラスとすることによって,高水敷でのトラフィカビリティを確保し河岸直近まで接近可能で,バックホウのアームが届く範囲であれば回収可能である。(写真一7)

河川表面に浮遊する水草を底面と前面の3つのカッターで切断し.水切りしながら爪に引っ掛けて掻揚げる。回収した水草は掻揚げ爪の移動に伴って回収装履の後部に送られ,チェーンコンベアで搬送口へ送る。装置内部にある1次・2次切断カッターにより長さ5cm程に切断し,搬送ホース内での閉塞,滞留を防止する。(図ー6)

6.2 搬送装置
搬送装置は,4tユニック車で運搬可能な質量と形状にした。(写真一8)

吸引力を作り出すルーツブロワと水草を一時貯留する気固分離器,ダンプトラックの荷台まで搬送するチェーンコンベアからなる。(図ー7)

現状の水草回収は,仮置きによる周辺部の汚濁や乾燥工程でのバクテリア,蚊,蝿の繁殖等,環境の問題点がある。回収装置から搬送装置を経由してダンプトラックヘ直接積込む事で仮置き積込みの2重作業を不要とし,蚊,蝿等が発生せず周辺環境は向上した。
写真ー9~12に装置の写真を,表ー2に装置全体の諸元を示す。

7.水草回収方法
河川環境処理機の全体平面·側面図に水草の流れを表示する。

【水草の流れ】
①水面に浮遊している水草を回収装置内部の爪付きチェーンコンベアで気中に掻揚げ,カッターで切断した後搬送ホース入口まで搬送する。

②φ100の搬送ホースにより気固分離器へ吸引し,水草と空気を分離して貯留する。

③分離器内部に溜まった水草を,下部に取り付けてある2枚のシャッターの交互運転によって,下のチェーンコンベアに放出する。

④水草はチェーンコンベアによりダンプトラックの荷台へ排出される。

8.水草回収と評価
平成17年9月に加勢川でホテイアオイ・ウォーターレタスを,11月に菊池川でブラジルチドメグサの回収作業を行った。
現状の回収作業と比較すると下記の5点の成果が得られた。

【評価】
①設計回収能力3,600kg/時間をクリアする事ができた。
②回収する際に水草を小さく切断する事で体積の70%の減容化ができた。また,掻揚げ方式により離水もできる為,最終処分場へ運搬するダンプ荷台へ連続的に積み込む事で,高水敷きや河川の汚濁を防止する。
③従来のバケットの掬い上げ方式では大型ゴミが混入していたが,水草を爪に引っ掛け,引き上げる方式によりゴミの混入を防ぐ事ができ陸揚げ後の分別作業を不要とした。
④搬送用ホース長さは50mまで可能である。ダンプトラックが進入できる所までの搬送距離が拡大する事でキャリア等の特殊運搬車が不要となった。
⑤回収装置を使わず搬送装置のみで浮遊する水草を回収する事も可能である。但しこの場合は1,800kg/時間と回収装置を用いる場合の半分程度の能力となる。

9.今後の課題
9.1 回収水草の有効利用への可能性
堆肥への利用で考えた場合,小松菜の生長比較実験によると,回収直後の破砕された水草を混ぜた土壌に播種された小松菜の生長が極めて良好である。しかし,土壌に混ぜる水草の回収後日にちが経過するほど発育は悪くなる。

回収水草の取り扱いが安易であり,例えば天日乾燥場所等の仮置き場所で,地域住民に家庭菜園等の肥料として引き取ってもらう方法もある。
これにより,有効利用のほか水草回収への取り組みについての地域住民へのアピール,そしてコスト的には埋設費用処や分場持ち込み費用(運搬費・処分費)の削減にもつながる。

9.2 回収コスト
回収搬送や天日乾燥による水草減容化がコスト縮減へ大きく貢献しているものの,回収装置や搬送装置の運搬バックホウヘの脱着に要する経費等,仮設経費が高くなり,トータルコストは現状のバックホウによる陸揚げ作業よりもやや高くなってしまった。
今後水草回収作業で使いながらコスト縮減を考慮した作業の見直しや,回収方法の検討,及び開発機の改良等も行ってゆきたいと考える。

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