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東風平こちんだ高架橋における内・外ケーブル併用
PC箱桁橋の計画と施工について

沖縄総合事務局 南部国道事務所
 所長
冨 岡 正 弘

沖縄総合事務局 南部国道事務所
 工務課長
香 西 邦 信

建設省 九州地方建設局
 道路部道路工事課 課長補佐
(前)沖縄総合事務局 開発建設部道路建設課
 課長補佐
田 中 幸太郎

株式会社フジタ 九州支店
迫 間 正 人

1 はじめに
那覇空港自動車道は,沖縄自動車道と那覇空港間を南北に直結し,沖縄本島北部,南部および那覇空港間の交通の定時性・高速性確保,および那覇市内の交通混雑緩和を図るため,建設が進められている総延長約20kmの自動車専用道路である。
その内,豊見城東道路に位置する橋長842mの東風平こちんだ高架橋は,ランプ接続のため幅員が21.5mから37.2mと大きく変化している。幅員の変化および径間長に応じて鋼連続箱桁,PC連続中空床版およびPC連続箱桁の3種の橋種により合理的な設計・施工を行い,コスト縮減に取り組んだ。
ここでは,P6~P8橋脚間のPC2径間連続箱桁橋に関して,九州地方で初めて施工することになった内・外ケーブル併用方式を採用した経緯を紹介するとともに,設計および施工の概要について報告する。
全景を写真-1に,断面図を図-1に示す。

2 工事概要
工事の概要は以下の通りである。
 (1) 工事名 :東風平高架橋上部工(上りP6~P8)工事
 (2) 工事場所:沖縄県島尻郡東風平町字外間地内
 (3) 工  期:平成11年3月~11月
 (4) 道路規格:第1種 第3級 設計速度:80km/h
 (5) 構造形式:PC2径間連続箱桁橋(2室箱桁)
 (6) 橋  長:74m(支間割:37.2+35.2m)
 (7) 幅員構成:上り線 10.9m(0.75+9.00+1.15m)

3 橋梁形式の選定および設計概要
(1)主桁断面の選定について
主桁断面の選定については,1室断面(上床版はPC構造)と,2室断面(上床版はRC構造)の二案について比較を行なった。
① 経済性
2室断面は中間ウェブが必要となるが,上床版をRC構造にできるため,1室断面に比べ経済性においてわずかであるが有利である。
② 景観
上床版をRC構造にすることで,隣接する他の構造形式との間で張出し床版幅を統一させることが可能となり,景観上から見ても好ましい。
上記①,②により,上床版RC構造の2室断面を選定した。

(2)ケーブル方式の選定について
ケーブル方式の選定については,一般的な内ケーブル方式と内・外ケーブル併用方式の2案について比較検討を行った。
外ケーブル方式とは,PC鋼材をコンクリート部材の外側に配置し,定着部および偏向部を介してコンクリート部材にプレストレスを与える方式である。外ケーブルの構造図を図-2に,横桁設置状況を写真-2に示す。
内ケーブル方式と比較した場合,以下の長所が上げられる。

① 軽量化
外ケーブル方式では,PCケーブルをコンクリート部材の外側に配置するため,ウェブ部材厚を薄くすることができ,主桁自重の低減が可能となり設計上有利となる。
② PC鋼材維持管理の有利性
内ケーブル方式はPCケーブルの保守点検・交換は事実上不可能であるが,外ケーブルは再緊張およびケーブル交換が可能である。
さらに,定着横桁および偏向部横桁(ディビエータ部)に予備孔を設置することで,将来荷重の増大に対応可能である。
③ 施工性の向上
施工性のメリットを下記に示す。
 a)コンクリート打設の施工性向上
ケーブルを部材外に配置するため,部材の配筋作業,コンクリート打設作業が容易となり,工期短縮にも寄与する。
 b)緊張作業の合理化
内ケーブルは両引き緊張が標準であるが,外ケーブルは摩擦による緊張力のロスが少なく,一方向からの片引き緊張が可能である。
 c)グラウト作業の容易性
グラウト作業の確認が容易。グラウト注入が不十分な場合でも再注入が容易である。

一方,外ケーブルの短所としては
① ケーブルの偏心量
ケーブルが部材内側の空間に配置される構造上,内ケーブル方式に比べPC鋼材の偏心距離が小さくなり,PC鋼材量が多くなる可能性がある。
② ケーブル張力の許容値
外ケーブルは内ケーブルと違いコンクリートとの付着が無いため,平面保持の仮定が成り立たない。そのため,終局荷重作用時にはPC鋼材張力を降伏点まで評価することができず,許容値を安全側に低く設定する必要がある。
③ 偏向部・定着部の補強
ケーブル全体がコンクリート部材と定着する内ケーブルと違い,偏向部および定着部の限られた部分で主桁コンクリートと一体化させるため,充分な補強が必要である。
④ ケーブルの耐久性
ケーブルがコンクリート部材から分離しているため,ケーブル防錆処理等保護に配慮が必要である。
以上のように,軽量化,施工性に関してはメリットがあるが,ケーブル設計上は不経済な面がある。以上の条件を比較検討した結果,本橋においては内・外ケーブル併用方式が工費において経済的であることから,この方式を採用することとした。

(3)内・外ケーブル併用方式の詳細
内・外ケーブルは下記の通りである(配置は図-1参照)。
・内ケーブル:SWPR7B,12S12.7B(225t型) L=872m(12本)
・外ケーブル:SWPR7B,12S15.2B(320t型) L=398m(6本)
内ケーブルは一般的な12S12.7Bとし,外ケーブルは1本当りの効率を上げることを目的におおきめ12S15.2Bを採用した。

4 外ケーブル方式の具体的仕様の決定
外ケーブル方式は,施工例が限られており,本橋の設計・施工にあたっては以下の点を考慮した。
(1)一般部のケーブル保護について
外ケーブルの保護に配慮が必要な点は先述したが,施工地域は塩害を受ける地域であり,より一層の防錆対策が必要である。
外ケーブルの防錆対策として,近年研究され始めているメッキ型,塗布型および複合型の防錆方法も考えられたが,実績が少なくケーブル単価も非常に高価である。
そこで,過去の実績の多い保護管内充填型(セメントグラウト方式),つまり通常のケーブルを使用し,防錆対策としてPE(ポリエチレン)管をケーブル保護管として採用し,ケーブル緊張後,保護管内グラウト材を充填する方式とした。
PE管を採用した理由は以下の通りである。
 ① グラウト材と反応しない。
 ② グラウト材注入の最高圧力に対して十分な強度を有する。
 ③ 腐食その他の劣化に対して耐久性がある。

(2)偏向部のケーブル保護
外ケーブルは折れ線状の配置となるため,横桁および偏向部横桁部材に設けられた貫通孔を偏向装置(ディビエータ)とし,ケーブルの形状保持を行った。偏向部横桁(ディビエータ部)のケーブル保護対策を以下に示す。
① ステンレス製フレキシブルシースの採用
 防錆対策として,耐錆性に優れたSUS316製フレキシブルシースを工場製作により所定の形状にそ性歪を与え曲げ加工し,横桁コンクリート部材に配置した。
② 内面スパイラル補強PE管の採用
 ケーブル緊張時の摩擦ロス低減を目的とし,①のステンレス製シースの中に,内面を硬鋼線のスパイラルで補強した内面スパイラル補強PE(ポリエチレン)管を配置した。
上記①,②の採用はケーブル保護とともに,鋼管の保護管に比べ軽量化を実現し,施工性向上にも貢献した。
偏向部(ディビエータ部)の構成を図-3,設置状況を写真-3に示す。

(3)PE管接続部のグラウト漏れ対策
外ケーブルのグラウトに際しては,内ケーブルの様に保護管がコンクリートに拘束されていないためグラウト漏れの危険性が生じる。
そのため保護管接続については下記の仕様により対処した。
 ① まずPE管接続部にブチルテープを巻く。
 ② ブチルテープ中間に○リングを挿入する。
 ③ PEジョイントを覆せた後,熱融着する。
 ④ さらにグラウト漏れ防止効果を高める為に,ステンレス製リングを設置する。
PE管ジョイント部の詳細を図-4に示す。

(4)防振対策
偏向横桁(ディビエータ部)間の一般部については,外ケーブルが部材コンクリートに拘束されない状況となるため,防振対策として10m程度の間隔で防振装置(突起)を設けた(配置は図-2参照)。

5 施工結果について
内・外ケーブル併用方式による箱桁橋の施工実績は少なく,関係者と協議検討を重ねながら施工計画を立案し慎重な実施工に臨んだ。結果,良好な品質の橋梁を安全に施工する事ができた。施工上の留意点を下記に示す。
 ① 薄肉部材のコンクリート打設方法について
 ② 内・外ケーブルの緊張手順について
 ③ コンクリート部材塩害対策について

(1)コンクリート打設
打設計画は,以下の点を考慮して決定した。
 ① コンクリート打設は断面的に均等に行ない,型枠に偏圧を生じさせない。
 ② コンクリートの打継目を少なくする。
コンクリートの打設順序を図-5に示す。

コンクリート打設は2回に分け,1回目は上床版ハンチ下までの打設とした。
外ケーブル採用により,ウェブが薄い部材(厚さ30cm)となった。
その薄い部材中に内ケーブルシースを並列配置(2列2段,計4本)するため,コンクリート充填対策を取る必要があった。
そこでシース下側にシースの線形に沿って,内型枠にコンクリート打設時の空気抜き兼充填確認孔(径1cm程度,間隔50cm程度)を設け,充填確認後に栓をした後,上部コンクリートを打設した。

(2)ケーブル緊張
① 緊張順序
緊張する順序は,桁端定着される内ケーブルを先に緊張し,続いて外ケーブルを緊張する。断面図心軸に近い方から図心軸に対して対称に行う。また,作業性も考慮して緊張順序を決定した。緊張順序図を,図-6に示す。

② 緊張用開口部
外ケーブルの緊張作業および上床版の型枠支保工材料搬出用として定着横桁背面に開口部を設置した。開口部寸法は,外ケーブル用K350型ジャッキ(380kg)の設置を考慮して1.3m×1.1mとした。
なお開口部の断面は,開口部閉塞後の押し抜きを避けるため,側型枠は25㎜のテーパーを付けた。また,緊張作業の効率を考えて,上床版の鉄筋を機械継ぎ手とした。緊張ジャッキ設置状況を図-7に示す。

(3)塩害対策
コンクリート部材の塩害対策として以下のことを実施した。
 ① 鉄筋等の鋼材は,所定のかぶりを確保する。
 ② 鉄筋加工時の曲がり部分には,鉄筋防錆剤を塗布する。
 ③ 鉄筋の結束線は,メッキ結束線を使用する。
 ④ 型枠の組立てにあたっては,型枠相互の継目からセメントペーストが漏れないようにテープおよびパッキン等で処理する。

6 おわりに
本工事の内・外ケーブル併用方式のPC連続箱桁橋工法は公共工事のコスト縮減の一環として採用した。
本橋は2径間連続桁,支間長約36mと箱桁橋にしては短いため,内・外ケーブル併用方式の経済性が顕著には見られなかった。
径間数が多くなり,また支間長が長くなれば,自重軽減効果がより有効に働き,コスト縮減効果もさらに大きくなると考えられる。
今後,外ケーブル方式の利点を生かした施工例が増加すると考えられるが,この方式による橋梁は我が国では築造後10年程度であり,本橋が健全に維持管理されて行くことを願うものである。

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