一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
高品質・高規格材料を活用したトンネル支保構造
に関する試験施工について
佐藤博信
田中良幸

キーワード:東九州自動車道・高規格支保パターン・コスト縮減

1.はじめに

道路トンネルの設計・施工の考え方は、他の土木構造物のそれらと大きく異なっており、過去の設計や施工実績及び経験を重視する特有の手法が用いられている。すなわち通常の道路トンネルでは、『道路トンネル技術基準(構造編)・同解説』に基づき、地山等級に応じた、吹付コンクリート・鋼製支保工・ロックボルトといった支保部材から構成される標準支保パターンを適用する設計が一般的であり、標準支保パターン自体は、設計施工実績の蓄積によって適時な見直しの実施が必要である。
近年、コスト縮減を図るために高品質・高規格な支保部材を適宜組み合わせ、部材厚さの薄肉化、材料の軽減を図る支保構造の変更で経済的な支保パターンとすることが行われている。
東九州道(佐伯~蒲江)大越トンネル新設工事(図-1)は、佐伯IC(大分県佐伯市)~蒲江IC(大分県佐伯市蒲江)間延長20.4㎞のうち、当面暫定2車線整備(設計速度80㎞/h、幅12.0m、高さ4.5m)の道路トンネル、全延長L=1,221mの新設を行うものである。トンネル位置の主要地層は、堅硬・塊状の四万十層群堅田層砂岩である。
施工の結果、地山は砂岩を主体とした比較的良好な岩質と判定できる地山等級CⅡに該当し、延長は773.5mで、全体の約63%を占める。
今回、この地山等級CⅡに該当した延長の一部区間114mに対し、「高品質・高規格材料を活用したトンネル支保構造に関する試験施工」を実施し、コスト縮減を目指すこととした。本報告では、支保構造の仕様(支保部材の耐力算定手法や高品質・高規格な支保部材の採用実績による高規格支保パターンに決定)と、その適用結果について報告する。

2.支保構造の仕様変更

『道路トンネル技術基準(構造編)・同解説』にある、現在用いられている標準的な支保構造の組み合わせの目安を表-1に示す。支保パターンを決定する支保構造の設計において、表-1の組み合わせが標準として定められたものと誤解しがちであるが、同表はあくまでも「支保構造の組み合わせの目安」であり、また解説でも「施工の段階において・・・・・・・そのトンネルに最も適したものへと修正・変更を加えることが必要である。」とあるように、同表はあくまでも当初設計を合理的に行うための目安としている。したがって、より詳細な設計、計画を行うためには、支保あるいは進行長をトンネル条件に合わせて適切な組み合わせとすることは本来必要な検討事項である。

そのため、施工段階において合理的かつ経済的に支保構造を設定するためには、日々得られる計測データや切羽観察調査情報を基にした地山状態の評価に応じて、弾力的に個々の支保部材の増減を行う必要があるが、その妥当性を評価する基準は確立されていないのが現状である。
しかしながら、近年、コスト縮減を図るために高品質・高規格な支保部材を適宜組み合わせ、部材厚さの薄肉化、材料の軽減を図る支保構造の変更で経済的な支保パターンとすることが行われている。
表-2に一般的なトンネルと高規格化トンネルの支保部材の仕様を示す。吹付コンクリートについては設計強度が2倍、ロックボルト耐力については1.6~2.7倍程度の耐力を有している。
今回、大越トンネル新設工事においてもコスト縮減を目的とした支保構造の仕様変更を支保部材の高品質・高規格化により実施することとし、数値解析上、構造的に安定していることと、現地での試験施工によりその妥当性(施工性、安全性および経済性など)を検証し、新たな支保パターンとして設定することとした。

3.大越トンネル新設工事における高規格支保パターンの適用
3.1.高規格支保パターンの適用位置

高規格支保パターンの適用位置は、CⅡ区間(STA.211+92~212+52、209+47~210+57)の170mを計画した。
<選定理由>
  1. 大越トンネル位置の主要地層であり、堅硬・塊状の四万十層群堅田層砂岩が主体で、比較的良好な地山と判定できる。
  2. 既施工CⅡ区間について吹付コンクリート、ロックボルト、鋼製支保工に対し局所的な荷重作用による変形・変状が発生していないことからも比較的安定した地山状況が期待できる。
  3. 他の支保パターンに比べ、支保構造の仕様変更、施工延長等により、最も効率的にコスト縮減が図れると試算される。
図-2に大越トンネルの地質縦断図と計画区間の
位置を示す。地質縦断図の黄色部分が砂岩である。

3.2.高規格支保パターンの検討

高規格支保パターンとするため、設計標準CⅡパターンを基準にコスト縮減を目的とした支保構造の仕様変更を支保部材の高品質・高規格化により実施する。検討にあたり、以下の2点を留意した。
  1. トンネル支保工が地山に与える外圧(支保内圧)が大きくなれば、より変位が少なく支保部材に変状をきたすことなくトンネルを掘削できる。この考えのもと、支保内圧に着目し、これの算定に、HoekとBrownが提案した支保内圧算定式(図-3)を用いて、設計標準CⅡパターンと支保構造の仕様変更を行った高規格支保パターンの支保内圧を比較し、設計標準CⅡパターンのそれを下回らないよう、各支保の諸元を設定し、支保部材の構造、組合せを決定する。
  2. 高品質・高規格の支保部材の採用実績や過去の事例を適用することで、合理的に高規格支保パターンを設定する。今回は、第二東名に代表されるような高規格支保材料の適用実績を蓄積した結果、仕様化した、『設計要領 第三集 トンネル編 平成21年7月改訂版 NEXCO』の支保パターンを参考にする。
以上2点を踏まえ、表-3に設計標準CⅡパターンと高規格CⅡパターンの比較表を示す。

3.3.試験施工実施方法の検討

高規格CⅡパターンを適用するにあたり、コスト縮減が目的ではあるが、その妥当性、特に安全性と施工性を無視することはできない。
  1. 支保部材(吹付コンクリート、鋼製支保工、ロックボルト)に対する支保内圧算定の上では標準設計CⅡパターンよりも高規格CⅡパターンの方が優位であると判断できるが、施工時にどのような応力が発生するか計測を行い検証する必要がある。
  2. よって、計測A(天端沈下・内空変位測定)による支保工全体の挙動を計測するのは勿論のこと、計測B(ロックボルト軸力測定、吹付コンクリート応力測定、鋼製支保工応力測定)を追加することにより、支保部材自体に想定以上の応力が発生していないか確認する。
  3. 切羽観察により本試験施工の適用パターンであるCⅡではないと判断された場合には、増し吹付け、増しロックボルトにより、支保の補強を行うとともに、施工継続の是非を判断する。
  4. 地山の変状に起因し、安全上有害であると判断される切羽からの岩塊の肌落ちや崩落等が発生した場合にも、施工継続の是非を判断する。
  5. 本試験施工の施工継続中止となった場合には、対象区間のうち未施工区間については、標準支保パターン(切羽判定委員会を開催)により施工を行う。既施工区間については、設計標準CⅡパターン{吹付厚15㎝、ロックボルトの追加施工(計21本)}に戻すこととする。
  6. 本試験施工実施区間ではない設計標準CⅡパターンにも計測Bを設置することで、高規格CⅡパターンで得られたデータとの比較を行う。
以上5点を踏まえ、試験施工を実施することとした。

4.試験施工結果と考察

本試験施工は、実際の地山状態を確認し支保パターンを決定する切羽判定委員会の結果、図-4に示すとおり、STA.211+76.5~212+52.1、209+75.7~210+12.9の114mに適用する結果となった。施工中は、切羽状態も比較的安定し、心配された安全上有害であると判断される切羽からの岩塊の肌落ちや崩落は発生せず、試験施工の継続中止になるような事態は発生しなかった。

4.1.計測結果について

計測については、計測Aは15m毎に計測点を設置し、計測BはSTA.211+76.5~212+52.1:75.6m区間に2測点、標準設計CⅡ区間のSTA.209+64.9に1測点設置し、トンネル全体の挙動と各支保部材に発生する応力を計測した。計測Aの結果は、全体的に天端沈下・内空変位量に5~7㎜程度の比較的小さい変位が発生した程度で、掘削完了後には変位が収束する傾向が確認された。計測Bの結果は、3測点ともに発生応力値自体が小さく、特に吹付コンクリートにはほとんど応力が発生しない結果が得られた。また、高規格部材と設計標準部材に発生する応力の傾向も同様であり、明確な違いは得られなかった。

4.2.コスト縮減額について

コスト縮減額は、高規格CⅡパターンとするため、設計標準CⅡパターンよりも高品質・高規格な材料を使用することでコストアップになる部分を部材厚さの薄肉化、材料の軽減や掘削断面積の縮小により、約108万円縮減達成することができた。

5.まとめ

  1. 今回の高規格パターンは、高規格・高品質な材料を使用することで、支保内圧を標準CⅡパターンに比べ、大きめ(安全側)に設定した(高規格支保内圧:0.781 標準CⅡ支保内圧:0.623)。
  2. 計測の結果、各支保部材の発生応力が小さく、変位量も微少なものであった。つまり、比較的良好な地山においては、地山自体が比較的自立していると言える。よって、支保工の役目は、地山の土圧に対抗するものではなく、掘削初期段階の緩み・岩塊の抜け落ちを抑えることにあると考えられる。
以上より、高規格・高品質な材料を使用して支保内圧を大きめに設定したことは、結果的にオーバースペックであったとも言える。つまり、支保内圧を小さくすることで、コスト縮減額はさらに見込まれる。
今後、支保内圧をどの程度で設定すれば、経済的かつ安全なのかを探るべく、今回のような試験施工を積み重ねることが必要である。そして、いずれ標準化することで今後のトンネル設計・施工において、支保構造の変更によるコスト縮減効果が期待できると考える。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧