有明海沿岸道路・佐賀福富道路の整備状況について
~軟弱地盤対策と有明海沿岸地域への幹線道路ネットワークの効果~
~軟弱地盤対策と有明海沿岸地域への幹線道路ネットワークの効果~
鳥井雪広
キーワード:軟弱地盤、ストック効果、広域幹線道路
1.はじめに
広大な佐賀平野を有する佐賀県は、地域資源を生かした産業の立地や活発な経済活動を促進するうえで、高速交通ネットワークによる時間・距離の短縮と定時性の確保が重要課題であり、県内の交通体系において地域高規格道路として、県南部に「有明海沿岸道路」を、南北方向に「佐賀唐津道路」を配し、走行性の高い広域幹線道路ネットワークの形成を目指している。
そこで、佐賀県は、有明海沿岸道路ついて、国土交通省からの整備区間の指定により、佐賀市嘉瀬町から白石町福富までの約10.5㎞区間を「佐賀福富道路」とし、白石町福富から白石町深浦までの約10㎞区間を「福富鹿島道路」として整備を進めている。
また、唐津市から佐賀市までの約40㎞の佐賀唐津道路は、有明海沿岸道路と有機的に連結を図り幹線道路ネットワーク効果を加速させるように、佐賀市側の未整備区間(約15㎞)のうち、佐賀市鍋島町(国道34 号)から佐賀市嘉瀬町(有明海沿岸道路との佐賀JCT(仮称))までの4.2㎞区間を「佐賀道路」として、佐賀県で平成28年度より新規事業として、事業を進めるところである(図-1)。
本稿では、非常に軟弱な地盤を有する佐賀平野において、佐賀県が有明海沿岸道路の整備を進める上で、地盤環境への影響に配慮する技術的対策と事業効果等をメインに整備状況について紹介する。
2.事業の概要
有明海沿岸道路は、福岡県大牟田市を起点に、大川市、佐賀県佐賀市、小城市、白石町等の有明海沿岸地域を経由し、鹿島市に至る延長約55㎞の地域高規格道路であり、三池港、九州佐賀国際空港などの広域交通拠点等および高規格幹線道路である九州横断自動車道や佐賀唐津道路の整備と一体になって、事業の進捗を図っている。
この道路は時速60㎞~ 80㎞で走行できる無料の自動車専用道路であり、有明海沿岸地域の都市群の広域的な交流・連携を促進するとともに、一般国道208 号、444 号等の現道およびその周辺道路の混雑緩和と交通安全の確保を目的として計画された道路である。
有明海沿岸道路の延長約55㎞のうち佐賀県内の区間の「大川佐賀道路」(約9㎞)については国土交通省が所管し、「佐賀福富道路」(10.5㎞)と「福富鹿島道路」(約10㎞)は佐賀県が所管し、3区間に分けて整備を進めている(図-2)。
2.1 佐賀福富道路
まず、「佐賀福富道路」の佐賀JCT(仮称))~白石町福富(福富IC)間は、
・道路延長 10.5㎞
・設計速度 80㎞/h
・車線数 4車線(暫定2車線)
・幅員 20.5(10.5)m
・道路規格 第1種3級( 自動車専用道路): 無料
となっており、まずは、暫定2車線での整備を進めているところである。
平成13年度から事業に着手し、平成18年12月には用地買収を始め、平成19年2月に工事に着工している。
平成23年3月に「有明嘉瀬川大橋」を含む嘉瀬南ICから久保田ICまでの区間(1.7㎞)を、さらに平成25年3月には久保田IC から芦刈ICまでの区間(2.8㎞)が供用開始し、計4.5㎞が開通している。更に今回、芦刈IC から芦刈南IC間(2.0㎞)が、平成28年3月26日に新たに供用開始となり、6.5㎞の開通となった(図-3)。
2.2 福富鹿島道路
次に、「福富鹿島道路」は、平成19年度から環境影響調査を実施し、平成26年度までには環境影響評価書の公告・縦覧を実施し、環境アセスの手続きを完了している。
今後は、現地調査や測量など事業化に向けた準備を進めていくこととしている。
3.建設に当たっての課題と対応
3.1 課題
有明海沿岸道路が通過する有明海湾奥部の低平地は、佐賀平野及び白石平野が広がっており、九州最大の沖積平野である。一帯は極めて軟弱な粘土層が9m ~ 16mにわたり堆積しており、地盤の強度を表す標準貫入試験のN値が1未満と非常に小さく、圧密による沈下も大きいため、従来から軟弱地盤対策工法の選定には検討委員会を開催しながら試験盛土による慎重な検討を行った。
今回の有明海沿岸道路は自動車専用道路であり、既存の道路や河川、水路と立体交差するため、高盛土の計画となり、それを安定させる工法選定が重要な課題であった。
また、軟弱地盤の下の砂質層は、透水層となっているため、地下水への影響に配慮する必要があった(図-4)。
3.2 軟弱地盤対策
有明海沿岸道路の橋梁や函渠以外は高さ4.5m から8.5mの盛土構造であり、全体の7割強を占めている。軟弱地盤対策については、学識経験者、行政関係者を委員とする「有明海沿岸道路(佐賀福富道路) 軟弱地盤対策工法技術検討委員会」で各種解析・検討や試験盛土の結果を経て決定された。
対策工法の選定にあたっては、対策効果(安定、沈下、周辺変位)、経済性、施工性、環境への配慮の項目により評価を行い、「深層混合処理工法非着底式(全面改良)」を最適工法に選定した。
対策工法の実施設計を行うにあたり、主な検討条件は次のとおりである。
(条件)
・道路本体部での残留沈下30㎝程度以下とする。
・盛土法尻部(用地境界付近)での変位量を5㎝程度以下とする。
・深層混合処理による地下水への影響を考慮し、透水層から1m以上のフロートとする。
などの項目を設定し、FEM解析等で検討した結果、次のような工法(フロート式(非着底))を選定した。
・スラリー式機械攪拌工法 (写真- 1)
・改良強度 quck = 600KN/㎡
・改良率 ap = 30%
・改良の深さは、有明粘土層下端(透水層)から1.0 m程度フローティング。
3.3 施工状況(結果)と今後の改善すべき点
工事中の盛土の沈下状況は、高さ6.5mの盛土で施工開始から盛土完成までの約90 日間に20㎝~ 30㎝程度の初期沈下があり、その後、沈下経過観測中の60日間でさらに約10㎝程度の沈下があったが、その後は収束している状況であった。
開通区間では、盛土の沈下はほぼ安定しており、一部に簡易的な補修で対応できる程度の沈下がみられるが、走行など機能的には支障なしと判断しているところである。これまでの供用区間の沈下状況について継続的に調査を実施しており、今後の整備のため貴重なデータを収集している。
また、地下水への影響については、平成19年度から毎年7箇所の水質調査を実施しているが、調査当初から盛土施工による地下水の変化は見られない状況である。
今回、芦刈ICから芦刈南ICまでの区間(約2㎞)を延伸して、更なる事業進捗を図ってきたところであり、現在、当区間の最大橋梁である六角川大橋(全長:982m)はじめ福富ICまでの区間の施工が本格化していく予定である。
今後は、特に福富地区については他の地区と比べて軟弱地盤層が厚いことや有機質層もあることから、更なるコスト縮減、安定的な沈下抑制及び施工中の安全対策等が求められており、試験盛土の結果等を踏まえ、軟弱地盤対策工法を慎重に進めていく必要がある。
4.整備効果と期待される整備波及効果
今回の芦刈IC から芦刈南IC 間を開通させたことにより、約2か月の間で有明海沿岸道路及び周辺道路の車の流れも大きく変化した(写真-2)。
今回の交通の変化を把握するために5月下旬に24ポイントで交通量調査を実施した。
調査結果をみると、武雄方面からの車はあまり変化が少ないが、鹿島方面から国道444 号を経由して佐賀市に入ってきた車の一部が、有明海沿岸道路を利用するようになって交通量の増加に繋がっている(図-5)。
これから、高速道路など他の幹線道路と一体となって、有明海沿岸地域の生活を便利にするとともに、産業や観光のための道路としてさまざまな効果が期待されている。
また、県内有数の渋滞ポイントとなっている佐賀市の「嘉瀬新町交差点」、久保田町の「久富交差点」の交通量も減少し、周辺道路にも整備効果が影響しており、利用しやすい状況になっているところである(図-6)。
今後の期待される主な整備波及効果としては、以下のとおりである。
① 地域間の交流支援
全線が開通した場合、大牟田~鹿島間の所要時間が整備前の1時間50分が約45分に、鹿島から九州佐賀国際空港が整備前の1時間が約30分へと約半分になると見込まれている(図-7)。このような時間短縮効果ほかに、信号や交差点がなく定時性が向上する。
所要時間の大幅な短縮は、沿線主要都市間のアクセス性の向上により地域間の交流支援に大きく寄与し、経済活動の範囲が拡大する。
② 生活快適性の向上
一般道の渋滞が緩和され、通勤や買物などの日常生活が便利になる他、他の幹線道路との連結により、レジャーや余暇活動の行動範囲が広がる。
また、交通事故が減少し、騒音や振動も軽減する。
③ 救急医療活動の支援
佐賀市にある3次医療施設(佐賀県医療センター好生館、佐賀大学医学部附属病院)へのアクセスが改善され、救急車がさらに確実に早く到着できる。
④ 災害時の支援
万が一の大雨や地震などの災害時には住民の救援物資等を運ぶ緊急輸送路として活用される。
⑤ その他のストック効果
有明海沿岸道路のストック効果として、平成19年度に福岡県側の有明海沿岸道路が開通したことを契機として、九州佐賀国際空港の利用者数が年々増加(図-8)しており、今後佐賀への延伸によるアクセス向上が図られることで更なる利用者の増が見込まれていることの他、東京卸売市場で取り扱われている江戸前寿司に欠かせないこはだ(このしろ)は、有明海で漁獲されており、有明海沿岸道路の整備により空港までの輸送時間が大幅に短縮されることで更なるシェアの拡大が期待される(図-9)ことなどが挙げられる。
このようなことから、当該道路の整備が進むことにより、更なる経済波及効果が期待されている。
5.おわりに
有明海沿岸道路の佐賀県内区間は、嘉瀬南ICから芦刈南ICまでの区間(6.5㎞)を供用しており、一般道の交通量の減少や渋滞ポイントでの渋滞緩和など事業効果が顕著にみられ、地元の期待の大きさを感じているところである。
有明海沿岸道路の整備については、福岡、長崎、熊本などの有明海沿岸地域との広域的な交流促進による地域の発展とともに、九州佐賀国際空港の利用促進などによる経済波及効果が期待されている。
ところで、道路名に冠された有明海は、昨年度、干潟がラムサール条約湿地に登録され、内湾性の海で湾内は非常に浅く、日本一と言われる潮の干満差は5~ 6m にも達する。このため、干潮時には見渡す限りの広大な干潟が広がり、多様な生物と共に、壮観な風景が見られ、日本一の海苔漁場でもあることから、自然環境に配慮し、大自然と調和した道路づくりも重要となっている。
併せて、近くには世界文化遺産に指定された三重津海軍所跡などの名所もあり、国内外の観光客も増えつつある。
また、佐賀県では平成35年に「国民体育大会・全国障害者スポーツ大会」の開催が予定されており、選手や観客のスムーズな移動のため、本事業をはじめ幹線道路交通網の整備を計画的に進めることが求められている。
有明海沿岸道路の整備により、多様な効果がもたらされると考えられるが、現時点で「佐賀福富道路」(10.5㎞)のうち6.5㎞の供用であり、その効果は、未だ限定的なものとなっている。その効果を、有明海沿岸地域および佐賀県内に最大限に発揮できるように、「大川佐賀道路」、「佐賀道路」などの整備と連携を図りながら事業を推進していきたい。
最後に、本整備にあたり技術的指導をいただいた「有明海沿岸道路(佐賀福富道路)軟弱地盤対策工法技術検討委員会」の委員の方々はもとより、本事業の推進にご協力いただいた地権者の皆様をはじめ、地元住民の皆様方、設計・施工等に携われた関係各位に、厚くお礼申し上げるとともに、早期竣工に向け今後一層のご支援・ご協力をお願い申し上げて、事業の紹介とさせていただく。