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コンクリート標準示方書(平成8年版)改訂の要点

福岡大学工学部 教授
大 和 竹 史

1 はじめに
土木学会のコンクリート標準示方書(以下,示方書と記す)が今回,改訂された。今回の改訂作業は,設計編,施工編,ダム編,舗装編および規準編の改訂部会ならびに12の調査研究部会を通じて行われた。改訂の経緯や改訂の基礎となる考え等は,同時刊行のコンクリートライブラリー85号(以下,ライブラリーと記す)に詳述されているので参照されたい。紙面の都合で改訂の内容を網羅することはできないので,筆者なりに重要と思われる項目に絞り,改訂の要点をまとめた。

2 設計編改訂の概要
設計編は,昭和61年に従来の許容応力度設計法から限界状態設計法に変更され,平成3年に改訂されている。今回の改訂でも,基本的な構成は従来と同じである。耐震設計編は別途,刊行予定であるので設計編から耐震設計に関する事項は,原則として削除された。改訂内容の概要は以下のとおりである。
(1)材料の設計用値
主な改訂点は以下の4項目である。
① 適用するコンクリート強度が50N/mm2(ほぼ500kgf/cm2)以下であったのを80N/mm2まで拡大した。これは,シリカフューム等を用いた高強度コンクリートの製造実績を考慮したためである。
② クリープ・乾燥収縮に関する数値を従来のヨーロッパ委員会(CEB)提案のものから阪田らの研究成果に基づいたものに変更した。
③ 乾燥収縮だけでなく,セメントの水和反応による収縮(田沢の指摘)もあることから「乾燥収縮」としていた箇所を「収縮」に変更した。
④ 低温度(-40~-100℃)におけるコンクリートの影響を取り入れた。
(2)終局限界状態の検討
主な改訂点は,せん断力に対する安全性の検討である。「面部材の設計押し抜きせん断耐力」,「面内力を受ける面部材の設計耐力」,「設計せん断伝達耐力」の従来の計算式を,より合理的で精度の高い計算式に変更した。
スラブの自由縁の影響を考慮した低減係数を導入して,押し抜きせん断破壊荷重を次式により定義している。

RC部材のせん断伝達耐力はコンクリート自体による応力伝達,ひび割れ面の鉄筋のダボ効果(ホゾ効果)および鉄筋軸力のせん断方向成分によって負担される。今回の改訂では,ひび割れ面の鉄筋曲率による軸方向剛性の低下および鉄筋のダボ効果を考慮に入れ,設計せん断伝達力を変更した。
(3)使用限界状態に対する検討
主な改訂点は,次の2点である。
① ひび割れに対する検討において,特に,水密性に関する既往の研究成果を取り入れた。
② 長期の変位・変形量の算定にクリープや乾燥収縮の影響を,取り込めるように算定式を改訂した。
①については,軸引張力作用時(貫通ひび割れを対象)および曲げモーメント作用時(非貫通ひび割れを対象)の水密性を考慮した。前者の場合水密性と許容ひび割れ幅を,表ー1に示すように定めた。

(4)一般構造細目
「耐震設計編」が独立して刊行されるため,従来の9章「耐震に関する検討」が「一般構造細目」となった。一般構造細目でも,部材の耐震性能を配慮して,フープ筋および中間帯鉄筋の配置,鉄筋の定着,継手等については,配筋図を明確なものにすることなどで対応している。
(5)プレストレストコンクリート
主な改訂点は,以下の3項目である。
① 外ケーブルのプレストレストコンクリートを取り入れた。
② 曲げひび割れの限界状態を,従来は3段階に分類していたが,今回はひび割れを許容する場合と許容しない場合の2段階として簡素化した。
③ ひび割れを許容する場合について,永久荷重作用時のコンクリート応力を算定する際,鉄筋の拘束効果を評価した。
②に記した2段階とは次に記すPC構造およびPRC構造である。
PC構造:
・プレストレスを導入したPC鋼材を曲げ補強の主体とした構造
・使用限界状態では,コンクリートの引張強度以下の引張応力しか生じずひび割れが発生しないことを前提とする。
・鉄筋量が小さいため,クリープおよび乾燥収縮の影響には鉄筋の拘束作用を考慮しなくてもよい。
PRC構造:
・プレストレスを導入したPC鋼材および異形棒鋼の両者により曲げ補強した構造。
・使用限界状態においてひび割れが発生することを前提とし,ひび割れ幅を制限する。
・クリープを導入したPC鋼材および鉄筋の両者による拘束作用を考慮する。
(6)鋼・コンクリート合成構造
コンクリート充てん柱やサンドイッチ構造等についての研究および使用実績も増え,これに関する指針類も刊行されているので,示方書に取り入れることになった。内容の大部分は新規のものである。コンクリート充てん柱の強度は,一般的には鋼とコンクリートの強度を重ね合わせたものでなく,これよりはるかに大きな耐荷力を持ち終局に至るまでのじん性も大きい。その他,充てんコンクリートが鋼板の局部座屈を抑える,外側の板はプレキャスト部材,または型枠として利用できるなどの特長を有している。

3 施工編改訂の概要
今回の改訂では,調査研究部会の活動を「施工編」に取り込むと同時に,平成3年版刊行後のコンクリート分野の「社会的および技術的な変化あるいは進歩」を踏まえた記述の修正,品質管理および検査に関する条文の大幅な再検討等を行っている。改訂内容の概要を以下に記す。
(1)コンクリートの品質
① コンクリートに要求される「均質性」,「ワーカビリティー」,「強度」,「水密性」,「耐久性」,「ひび割れ抵抗性」および「鋼材を保護する性能」の各性能に関し,基本的原則あるいは共通的原則に関する条文・解説の大幅な改訂が行われた。
② コンクリートの単位水量の上限の推奨値を,粗骨材の最大寸法が20~25mmの場合には175kg/m3とし,40mmの場合には165kg/m3とした。
③ 耐久性から要求される水セメント比の上限値は原則として65%とした。
(2)材料
① セメントに「低発熱形セメント~マスコンクリートを主体に用いるもの」の記述を追加し,三成分セメントの他にビーライトの含有率を高めたセメントの使用について解説している。
② 骨材事情の悪化により不適切な骨材を用いる恐れもあるため,絶乾比重および吸水率に関する規定値を加えている。
③ 鋼材については,エポキシ樹脂塗装鉄筋および亜鉛メッキ鉄筋を解説に加えている。
(3)コンクリート配合
① 高性能AE減水剤を用いたコンクリートについての内容が加えられた。
② 粗骨材の最大寸法の制限について,“かぶりの3/4″を加えている。
③ 「AEコンクリートの空気量」に,軽量コンクリートも加えた。
(4)運搬および打ち込み
① 運搬車に関する条文を,「現場までの運搬」と「現場内での運搬」に分けて記述している。平成8年3月改正のレディミクストコンクリートを使用する場合は,JIS A 5308の運搬方法の改訂に従うこととしている。
② 高性能AE減水剤を用いたコンクリートおよび自己充てん性のコンクリートに関連する条文および改正を加えた。
(5)品質管理および検査
所要の品質を有するコンクリート構造物を造るために必要な項目を,品質管理および検査の対象として材料から養生,ならびにコンクリート構造物に区分して規定しており,内容・構成に全面的な改訂が行われている。各項目には,試験・検査方法,時期,回数,判定基準(許容誤差)などを具体的に示すように,また,検査結果の判定・処置についても,新しく規定している。
(6)マスコンクリート
昭和61年に改訂されてから約10年経過しているので今回は材料的,施工的な面で新材料・新工法を取り入れて全面的な改訂が行われた。その主な改訂内容を以下に記す。
① 近年,低発熱形のセメントが開発され,多用されているのでその系統的な分類を示している。
② 配合の解説で,自己収縮ひずみに対する留意点を示している。特に,水結合材比が40%以下で比較的富配合で,かつ,高炉スラグ微粉末を多量に用いる場合を挙げている。
③ 温度ひび割れ指数による評価の箇所で,「温度ひび割れ指数と温度ひび割れ発生確率」との関係図を見直し,修正している。
④ PC構造物,特に橋梁ではマスコンクリートで,早強ポルトランドセメントの使用実績が増えているので,コンクリートの断熱温度上昇特性を決める標準値の中に,新たに早強ポルトランドセメントを加えた。
(7)プレストレストコンクリート
PC構造物に最近適用されている外ケーブル工法,アンボンド工法,後付着工法(アフターボンド工法)および新素材緊張材について概要が記述されている。

4 ダム編改訂の概要
昭和61年改訂より大幅な改訂が行われなかったので今回,最近のコンクリート技術およびダム技術の進歩を考慮してダムコンクリートの特性,設計,施工,コンクリートの温度規制等について改訂が行われた。以下に主要な改訂点を記す。
① ダム施工法として確立されたRCD工法を取り入れた。また,新材料であるビーライト系低発熱ポルトランドセメント,二成分および三成分混合セメント,石灰石微粉末を取り上げている。
② ダムコンクリートの圧縮強度はフルサイズの骨材を用いたコンクリート供試体からのコアにより求めるのが望ましいとした。
③ コンクリートダムの構造設計に関する条文を表ー2に示すように,改訂した。

④ コンクリートダムの施工における温度ひび割れの制御に関する新しい技術(例えば,断熱温度上昇量の抑制)を取り入れ,温度制御に関する記述を全面的に改訂している。さらに,コンクリートの温度規制について,旧版が施工中心であったのに対し,今回の改訂版では計画・設計中心の記述になっている。

5 舗装編改訂の概要
コンクリート舗装版の構造設計に関する部分を取り込んだために,構成および内容が大幅に改訂されている。従来のコンクリート舗装の設計は,基本的には,所定の設計耐用年数内に曲げひび割れが発生しないように版厚を求める考え方であった。新版では,力学的計算方法と経済的方法とを併用しており,「サービス性能限界状態」に基づいた設計法を採用している。
サービス性能限界状態は,サービス性能Ⅰ限界状態およびサービス性能Ⅱ限界状態の二つに区分している。前者は,「要求される高水準の機能」が満たされなくなる限界状態であり,後者は,「要求される中水準の機能」が満たされなくなる限界状態である。本編は,Ⅱの限界状態までを設計の対象としている。

6 あとがき
執筆に際しては,平成8年版のコンクリート標準示方書〔設計編〕,〔施工編〕,〔ダム編〕,〔舗装編〕およびコンクリートライブラリー85「コンクリート標準示方書改訂資料」を参照した。また,平成8年3月7~8日に東京で開催された「コンクリート標準示方書(平成8年版)制定に伴う講習会」でのメモも参考にした。各編が従来とどのように変わったかを知るためには,ライブラリーが非常に重宝である。〔規準編〕については,改訂の概要を省いたのでライブラリーを参照されたい。なお,〔耐震設計編〕は目下,審議中である。本誌の発行時は,〔耐震設計編〕の発行予定時期でもある。阪神大震災の教訓をもとに鋭意審議された〔耐震設計編〕に注目されたい。

参考文献
1)ライブラリー85のP.21より引用
2)ライブラリー85のP.59より引用

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