都市基盤整備,商業集積整備と一休となった『まちづくり』
への取り組み ~日豊本線日向地区連続立体交差事業~
への取り組み ~日豊本線日向地区連続立体交差事業~
宮崎県土木部都市計画課
主任技師
主任技師
那 須 紘 之
1 はじめに
全国的に中心市街地活性化の必要性が叫ばれる中,宮崎県日向市においても,駅前(JR日豊本線日向市駅)の旧来の中心市街地の空洞化が進行しています。
特に,にぎわいを創出していた商業については,既存大型商業核の撤退に加え,郊外への大規模小売店舗の新規立地により,駅前商店街の人通りが少なくなり,その結果,空き店舗率も20%を越えるなど,中心市街地の衰退が進み,街としてのポテンシャルが低下しております。
このため,日向市では,中心市街地の活性化を図るべく「いかにして街に人を集めるか」をコンセプトとして中心部の再構築を行おうとしており,その核事業として,地元が実施する土地区画整理事薬や商業施設の整備などとあわせて,宮崎県が,市内中心部の鉄道を高架化する「日豊本線日向地区連続立体交差事業」を進めています。
2 現況
(1) 日向市と周辺町村
日向市は,宮崎県北部の太平洋岸に位置する人口約6万人の都市であり,周辺の2町5村とともに,日向・入郷地域(人口約10万人)と呼ばれる生活圏を形成しています。
この地域は,従来からの深い結びつきに加え,「日向入郷地域広域連合」として各種サービスを共用化するなど一体となって地域の振興に取り組んでいます。
日向市駅のある中心市街地については,宮崎県北地方拠点都市地域における生活文化交流拠点であるとともに従来から,日向・入郷地域における都市的サービスの提供の場として発展してきた地域です。
このような状況のもと,中心都市である日向市において,地域の特性を活かした個性ある活性化への取り組みを実施することは,日向市のみならず,地域の広域的な活性化につながるものと考えています。
(2) 連続立体交差事業
日向地区の連続立体交差事業は,JR日豊本線の日向市駅を中心とした事業区間2.07km,高架化区間1.67kmの鉄道高架事業です。
市内中心部の交通渋滞の緩和や,線路東西地域の一体化の促進を主目的として,平成10年度に国の補助事業として採択され,都市計画決定や事業認可などの手続きを経て,今年度に,高架本体工事に着手したところであり,平成18年度の完成を目指して事業を進めています。
去る11月2日には多数の関係者出席のもと,高架橋本体工事着工の起工式を開催したところです。
3 まちづくりへの取り組み
(1)連続立体交差事業
① 駅舎等のデザイン計画
連続立体交差事業を施行していくにあたり,街づくりのコンセプトや駅周辺の土地区画整理事業と連動した事業展開を行っていく必要がありました。
このため,連続立体交差事業の高架部や駅舎部等について,詳細設計に着手する前の段階から,景観の専門家や住民代表等様々な立場の方々からの意見をいただきデザイン計画に反映させるべく,「日向市駅鉄道高架デザイン検討委員会」(委員長 篠原修東京大学大学院教授)を平成10年度(平成11年1月)に発足させ,平成13年10月までに,計5回の委員会を開催しました。
委員会における検討事項としては,
a 駅舎
b 東西の駅前広場
c 鉄道の高架橋(高架構造物)
の大別して3つの事項について,デザインの検討を行っており,その検討にあたっては,日向・入郷地域の景観や,駅部を含む高架沿線の土地利用,また,高架下の有効な利活用等を踏まえながら,日向・入郷地域の玄関口としてふさわしく,景観に配慮した圏域のシンボルとしての駅舎及び高架橋を目指してきました。
a 駅舎
b 東西の駅前広場
c 鉄道の高架橋(高架構造物)
の大別して3つの事項について,デザインの検討を行っており,その検討にあたっては,日向・入郷地域の景観や,駅部を含む高架沿線の土地利用,また,高架下の有効な利活用等を踏まえながら,日向・入郷地域の玄関口としてふさわしく,景観に配慮した圏域のシンボルとしての駅舎及び高架橋を目指してきました。
② 駅舎デザイン
a コンセプト
駅周辺地区は,土地区画整理事業により,ほとんどの建物が建て変わることとなるため,駅舎を核としながら日向固有の都市景観の形成を図り,それが,入郷地域の風景と相まって圏域住民の「心の原風景」となるような整備を図っていくこととしました。
駅舎の設計にあたっては,景観デザインに配慮すると共に,地域性を考慮して地域産の木材を使うこととしていますが,これには上記理由の他に以下の効果を期待しています。
ⓐ 全国でも有数の杉素材生産量を誇る同地域において,地域性豊かな「地域の顔となる駅舎」の建設を目指すと共に,沈滞化している地域産業の活性化を図る。
ⓑ 地元日向市の進める「木の香りあふれるまちづくり」の先導的建築物となり,全体として調和のとれた街並みの形成を図る。
また,雨天時などにおける駅利用者への配慮から,駅東西にキャノピー(ひさし)を設置する計画であり,駅舎本体と一体となってデザイン設計に取り組んでいます。
キャノピーについては,日向市が施行する計画であり,現在,基本設計にとりかかったところですが,今後,駅前広場や近隣施設の利用計画とあわせ,設計を進めていくことになります。
b 駅舎木造化のための取り組み
駅舎に使用する材料については,当初は,内層部を県産材とし,外層材に高強度の外国産材を使う異材種集成材の使用を検討しましたが,県林務部や地元の耳川広域森林組合,学識経験者等との協議を重ねた結果,地域特性や県産材の利用促進を考慮し,地域産材100%の集成材を使用することとし,利用のための技術開発も含め,新たな情報発信に取り組むこととしました。
県産材の大型建築物への使用については,ここ数年,大型ドーム(日向市,日南市,南郷町など)の実績や木橋(西米良村)での取り組み等でデータがそろってきたところですが,日向市駅舎に関しては,
ⓐ梁に偏断面湾曲集成材を用いる計画であり,材質や製作方法及び材の使い方について検討が必要であること。
ⓑ木材と鉄の組み合わせによるハイブリッド構造体であり,ジョイント部の検討が必要であること。
ⓒ不特定多数の人が利用する公共建築物であり,安全性の確保に最善の注意が注がれること。
ⓓ管理者となるJR九州と共同して木造化の検討を行う必要があること。
ⓔ県産材の利用促進に大きく寄与することが期待できること。
以上の理由等により,宮崎県木材利用技術センター(県産材利用促進のための加工技術等の開発のためH13に新設)を中心として,県林務部や日向市,JR九州,設計担当者,木材関係者等からなる「木材ワーキング」を設置し,木造化のための技術的課題解決に取り組む事としました。
現在までに,駅舎の大梁やクリープ試験体,ジョイントモデル等の製作を行うとともに,クリープ試験やジョイント部の破壊試験を実施しており,今後は,実施設計から施工監理まで取り組むこととしています。
③ 駅部における高架下の活用策
鉄道の高架化においては,市街地の分断を解消することを目的としているものの,現実には駅舎や高架下施設のために,いつでも自由に行き来できる状況にはない例が多く見うけられます。
そこで,日向市駅では,駅付近の高架スパンを広くするとともに,駅前広場部の高架下には敢えて壁をつくらずオープンスペースとすることにより,これまで鉄道によって分断されていた街の中心部が,24時間自由に利用(自転車,歩行者)できるように配慮しています。
これにより,
ⓐ高齢者や障害を持つ方が駅を利用する際,迂回することなく行き来できるようになる。
ⓑ東西の駅前広場と高架下が一体となって広く自由度の高い空間を確保できるため,雨天時でもイベントなどの開催が可能となる。
また,道路上では規制の多い屋台やオープンカフェなど,まちづくりの多用な活動に寄与できるものと考えています。
今後,駅前広場の整備計画等にあわせ,まちなかに人を集める場としての利用策をさらに検討していくこととしています。
(2)木の香りあふれるまちづくり
日向市では,日向市駅を含む中心市街地のまちづくりを進めるにあたり,「日向市街なか魅力拠点整備検討委員会」等を通じ,その整備方針を検討してきたところですが,その中で,日向市駅舎とその周辺部については,木材を多用することによる「素材としての木」と,駅広場や街路公園等に地場の木を植栽することによる「生きている樹」とにより,日向・入郷圏域の「木の文化」を情報発信する「木の香りあふれるまちづくり」を推進することとしています。
その具現化策については,今後住民と一体となって検討していくことになりますが,街路等の公共施設における具体策として,土地区画整理事業と商業集積整備事業の第1段(弾じゃなかろか)として今年9月に完成した駅西側の第10街区パティオにおいて,地元産の木材を利用した,照明灯やベンチ,ボラードを設置したところです。
パティオでは,祭りなどにあわせ,様々なイベントが開催されており,起工式の際にも,TMOや地元商店街とタイアップして,高架着工記念イベントが開催され,多くの市民が集まったところです。
4 今後のまちづくり
以上が,現在日向市駅周辺におけるまちづくりへの取り組みとしての連続立体交差事業についての概要ですが,最近の話題として,将来のまちの主役となる子供たちと一緒になって取り組んだ住民参加の試みについて紹介します。
(1)まちづくり課外授業
中心市街地を校区の一部とする日向市立富高小学校の6年生児童約90名を対象に,10年後のまちについて考えてもらう「まちづくり課外授業」を10月3日に開催しました。
講師は,日向市駅鉄道高架デザイン検討委員会をはじめ,日向のまちづくりに携っていただいている東京大学の篠原教授,内藤助教授であり,当日は宮崎大学土木環境工学科の出口助教授,吉武助教授をはじめ,多くの関係者にお集まりいただきました。
駅舎を中心とした約400m区間の高架沿線の区域を9つの街区に分け,子供たちに街区ごとに将来のまちの模型(1/100)をつくつてもらい,夢や希望を語ってもらうものであり,講師の方々との会話の中から,自分達のまちに対する愛着や誇りを育てると共に,まちづくりの主役であることの自覚を促すものです。
具体的には,
① まちかど調査により,自分達で歩いてまちを調べる。
② グループ毎にテーマを設定する。
③ テーマに沿ってまちの模型を作る
④ 講師は模型についての説明を受け,それに対し意見感想を伝える。
⑤ 全ての街区をつなげ,子供たちの考える10年後のまちを完成させる。
等の活動が行われました。
① まちかど調査により,自分達で歩いてまちを調べる。
② グループ毎にテーマを設定する。
③ テーマに沿ってまちの模型を作る
④ 講師は模型についての説明を受け,それに対し意見感想を伝える。
⑤ 全ての街区をつなげ,子供たちの考える10年後のまちを完成させる。
等の活動が行われました。
完成したまちは,子供たちならではの自由な発想に基づくものでありながら,緑地の必要性や,バリアフリー対策の充実,環境の保全等について考えられているなど,街の抱える問題点を認識しているものでした。
児童の成長とともに日向のまちも成熟していく中で,この児童たちが高校1年生になった頃に鉄道高架も完成し,10年後に社会人として歩み始める頃には駅周辺のまちはほぼ概成していることからすると,日向のまちづくりの検証者として,今後のまちづくりにおける重要な役割を担い,その役割を遂行していってくれるものと期待しています。
5 おわりに
日向地区の鉄道高架事業は,全国の他の事例に比べ,小規模なものですが,中心市街地活性化策として,土地区画整理事業とともに商業集積整備事業に取り組み,3つの核事業が一体となってまちづくりに取り組んでいる試みは,全国的にも注目を浴びているところです。
地方都市ならではのまちづくりと,その実現のためのハード整備のあり方について,今後も検討し続ける必要があるなかで,比較的短期に完成する連続立体交差事業については特にその重要性が大きくなっています。
日向地区連続立体交差事業においても,これらのことを踏まえ,日向市やJR九州と一体となって,まちのポテンシャルを最大限に発揮するよう,今後の事業を進めていくものです。