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「あたたかさ」と「ゆとり」と「ふれあい」のある応急仮設住宅
~熊本地震応急仮設住宅整備の取組み~
田邉肇

キーワード:平成28年熊本地震、応急仮設住宅、アートポリス、みんなの家

1.はじめに
平成28 年熊本地震を受け、県は「被災者の痛みの最小化」「創造的復興」「復旧・復興を更なる熊本の発展につなげる」という3 原則を掲げて復旧・復興に取り組んでいる。ここでは、応急仮設住宅整備における「被災者の痛みの最小化」のための具体的な取組みと、今後に向けての課題等について述べる。

2.「くまもとアートポリス」による応急仮設住宅の整備
平成28 年4 月14 日夜の前震、16 日未明の本震という二度の震度7 の地震により、18 万人が避難所に押し寄せ、その対応に追われた市町村の様々な事務が滞ったため、市町村と連携して進める応急仮設住宅の現地調査が始まったのは22 日だった。 ( 一社) プレハブ建築協会(以下「プレ協」)の協力を得て配置計画案が次々に作成されたが、その図面を見たとき、一年前に訪れた東北地方で目にしたぎゅうぎゅう詰めの仮設住宅の様子と「孤立」「孤独死」という言葉を思い浮かべた。そこで、「被災者の痛みの最小化」のために、1.5 倍の広さの敷地で仮設住宅を計画することとし、併せて仮設住宅の集会施設を「みんなの家」として整備する方針を固め、「熊本のために」と27 日に駆けつけた「くまもとアートポリス」※ 1のコミッショナーで建築家の伊東豊雄氏に配置計画の助言を頂くことになった。「みんなの家」は、平成23 年の東日本大震災のときに、仮設住宅などの状況を見た伊東さんが「被災した方々が集い、新しい生活を回復していくための拠点にしたいと思い」※ 2 賛同者とつくったコミュニティ施設をいい、宮城県仙台市の仮設住宅に最初の「みんなの家」が「くまもとアートポリス」の取組みとして整備されている(写真- 1 参照)。

平成24 年の熊本広域大水害で阿蘇市に整備した仮設住宅においても、アートポリスで2 棟つくっていただき、現在、いずれも移設されて公民館や市営住宅の集会所として活用されている。
伊東さんは知事との面会直後からアートポリスアドバイザーの桂英昭氏とともに、プレ協が作成した2 団地の配置計画案の隣棟間隔、住棟当たりの戸数、駐車場や集会施設(みんなの家)の配置などに手を加えられ、見違えるようにコミュニティの生まれやすい配置計画が完成した。そこで、この配置計画を基に、1 戸当たり敷地面積150m2( 従来100m2 )、隣棟間隔5.5m 又は6.5m( 従来4m) などを定めた応急仮設住宅整備基準を定め、各仮設住宅団地に適用することとした( 図- 1、図- 2 参照)。

仮設団地の配置は、この基準に沿ってプレ協等が作図した計画すべてに桂アドバイザーが昼夜を問わずスピード感をもって修正を加えていき、110 団地4303 戸の仮設住宅を発災7 ヵ月後の11 月14 日に整備を終えることができた。改めて桂さんの献身的なご尽力とプレ協をはじめとする関係各位のご協力にこの場を借りて感謝の意を表させていただく。

※ 1  昭和63 年から熊本県が行っている事業で、コミッショナーが設計者を推薦すること等により、建築文化の向上等を図っている。
※ 2 「日本語の建築」(伊東豊雄著、PHP 研究所発行)より。

3.応急仮設住宅の仕様の改良
応急仮設住宅の仕様については、発災直後から検討を開始した。熊本広域大水害で阿蘇市に48 戸の木造仮設住宅を整備する際に、断熱性、遮音性などについては検討が行われていたので、今回の木造は阿蘇の仕様をベースに他県からの派遣職員の方々などの意見も参考に改良を加えることとした。
また、最初に整備する西原村で木造とプレハブの仮設住宅が併存することなども配慮して、プレハブの仕様を限りなく木造の仕様に近づけるようにし、その結果、東日本大震災のプレハブよりも優れた居住性、遮音性等を有することになった。
さらに、阿蘇の木造仮設住宅は15 戸を仮設建築許可の期限2 年を超えて使用するために1,800万円もかけて木杭をRC(鉄筋コンクリート)で補強したことから、今回は基礎をはじめからRCとすることについて内閣府に相談した。内閣府担当官は、強い余震が頻発していることや台風も多い土地柄を考慮され、建築基準法に規定された基礎という意味でRC 基礎は可能とのご回答をいただけたので、木造はRC 基礎とすることにした。なお、プレハブについては、最大のメリットがスピードであるので従来通り木杭等とした(表- 1、表- 2、表- 3、写真- 2、写真- 3 参照)。

4.応急仮設住宅の敷地確保の課題~ “ かくれ” レッドゾーン~
今回の応急仮設住宅の敷地は、従来の1.5 倍、1 戸当たり150m2を標準としているが、「敷地にできるだけ多くの仮設住宅をつくりたい」と言う首長は少なくなかった。そこで、「数を優先して隙間のない仮設住宅をつくってしまうと、避難所から仮設住宅へ移ったときは喜ばれるかもしれないが、仮設住宅で暮らすうちに窮屈さを感じ、2年間の暮らしが決して楽しいものではなくなる可能性があり、直接的ではないにしても孤立や孤独死へと繋がっていくのではないか。そうしたことを少なくするために敷地にゆとりをもたせて配置を工夫したい。」という県の考えを伝えて、ご理解いただいた。

とはいえ、敷地選定には各市町村とも苦労された。予め仮設住宅の候補地を定めていた市町村もあったが、今回の地震ではすべてがうまく機能したわけではない。その一つが、地震による地割れ等により敷地として使えなかったということだ。そして、もう一つが、“ かくれ” レッドゾーンのような形で、災害リスクの比較的高い土地が仮設住宅予定地とされていたことである。前者は、やむを得ないとも思うが、後者については、「応急仮設住宅建設必携」(H24.5、国土交通省住宅局)にも建設候補地の事前調査に際し、二次災害の危険性(浸水、土砂災害等)について事前調査すべきチェック事項とされており、今後の各自治体の仮設住宅候補地選定においても十分留意する必要のあることだと思う。

土砂災害防止法の特別警戒区域「レッドゾーン」では、土砂法23 条、建築基準法20 条により住宅等の建築には土砂災害の衝撃に耐えられる構造が必要な区域とされており、仮設住宅の建設を可能な限り避けるべきと考えられる。一方で、このレッドゾーンやイエローゾーンの区域を見極めるための基礎調査は、住家が立地している箇所か、市町村から要請があった箇所(開発が予定されている箇所など)を対象に実施しており、例えば山裾を切り開いて造成したグランドなどは、住家が無く、開発予定も無いため市町村の調査要請箇所にも計上されていなかった。その結果、発災後、仮設住宅予定地について、市町村から県に情報提供が入った後、レッドゾーンに該当するか否か基礎調査を行うこととなった。調査の結果、そこに応急仮設住宅を建設すれば即座にレッドゾーンに指定せざるを得ない区域が含まれていることが判明した。また、洪水リスクについても、建設候補地が浸水想定区域内に含まれているケースも確認された。

こうしたことから、市町村から仮設住宅の敷地として県住宅課に情報が提供される度に河川課・砂防課と連携して、土砂災害リスクと浸水リスクのチェックをした。

その結果、132 箇所中、42 箇所については、土砂法のレッドゾーン、イエローゾーン、洪水ハザードマップの浸水想定区域内に該当することが判明して、市町村に用地選定の再検討やイエローゾーン域等にかからないような住戸配置の調整等を行ってもらうことになった。仮設住宅には2年間は建築基準法の規定は適用されないが、入居者の安全・安心を確保する意味で当然の措置であったと思う。

また、仮設住宅建設予定地を対象とした土砂法に基づく基礎調査については、今後の災害への備えとして事前に実施することとし、現在、県内12 市町村から申請のあった61 箇所を調査中であり、今後も追加申請に随時対応することとした。

5.応急仮設住宅の集会施設としての「みんなの家」の整備
仙台市や阿蘇市の「みんなの家」は、いずれも仮設住宅の入居者との意見交換会を行いながらつくられてきた。しかし、今回は仮設住宅の入居者にできるだけ早く使ってもらえるように、84 棟中76 棟については予め用意した標準設計によりつくることとした。もちろん、標準設計はアートポリスの取組みとしてコミッショナーにお願いし、仙台市や阿蘇市の「みんなの家」をベースに60m2と40m2の2 タイプが作成され、「規格型みんなの家」と呼ぶことにした(写真- 4、写真- 5 参照)

2 棟以上「みんなの家」が整備される仮設住宅団地については、1 棟を本来の住民参加型の整備手法により設計を進めることにし「本格型みんなの家」と呼ぶことにした。伊東コミッショナーが推薦した県内の若手建築家などが担当し、入居者の方々との意見交換などを行いながら設計を進めてゆき、合計8 棟が最初のクリスマスまでに完成した。この意見交換などにより入居者のコミュニケーションが活性化し、「みんなの家」完成後の有効利用につながっている(写真- 6、写真-7 参照)。

6.応急仮設住宅とユニバーサルデザイン
応急仮設住宅は発災直後の混乱期に整備を進めるため、どういう被災者が入居するのか把握するのが極めて難しく、また、応急仮設住宅のタイプごとの1 戸当たりの床面積が公営住宅などに比べて極めて狭く規定されているため、スピード感をもって整備するうえで最小限のユニバーサルデザインとならざるを得ない。収納空間の確保などを優先すると、せいぜい住戸内の段差をできるだけ少なくし要所に手すりを設け、10 戸に1 戸の割合でスロープを設置するといった対応となる(写真- 8、写真- 9、図- 3 参照)

しかし、整備を進めるうちに、車いすの入居者への対応を要望する市町村が出てきたため、木造仮設住宅のスロープを設けた棟について出入り口の段差解消や浴室を広くするなどの改良を加えて対応した。また、さらなるバリアフリーが必要な住戸については内閣府と協議のうえ1.2 倍の床面積として改良した住戸もつくった。これらの対応は、木造仮設住宅の基礎をRC とすることができたことによりユニットバスと脱衣スペースの段差解消が容易であったことにより実現した。本稿に平面図を掲載させていただくので、今後の仮設住宅の整備に際し参考にしていただければ幸いである(写真- 10、写真- 11、写真- 12、写真-13、図- 4、図-5 参照)。

7.応急仮設住宅の住環境の向上と「くまもとアートポリス」
応急仮設住宅の整備は完了したが、そこには1万人以上の被災者が暮らしている。「孤立」「孤独死」を防ぐための建築的な工夫をしたが、被災者の方々が生活再建を成し遂げるためには、さらなる生活空間の向上やコミュニケーションの活性化が必要である。
「くまもとアートポリス」は、伊東コミショナーと桂英昭氏、末廣香織氏、曽我部昌史氏の3 人のアドバイザーという体制で事業を進めているが、世界的な建築家である伊東さんのネットワークに加え、アドバイザーがすべて大学で教鞭をとられているため国内外の大学との連携もしやすく、近年ではアジア国際シンポジウムの開催や「阿蘇内牧温泉・みんなの家」の国際学生コンペなどでも、その利点を活かすことができた。
今回の地震においても、末廣アドバイザーらの働きかけによりKASEI(九州建築学生仮設住宅環境改善プロジェクト)が「熊本地震の被災地に建設された仮設住宅地の環境改善活動を行い、居住者に安らぎのある住環境と、それら一連の活動を通じて豊かなコミュニティを築くことに『加勢(かせい)』することを目標」に組織され、花壇や緑のカーテンづくり、家具づくりなどによる応急仮設住宅の住環境整備や「みんなの家」の入居者意見交換などに積極的に取り組んでいただいている。応急仮設住宅の入居者には高齢者も多く、なかなか外部からの働きかけに積極的でないという傾向もあるが、KASEI の取組みは入居者にとって孫の世代の若い男女の学生が寄り添ってくれるため、心を開きやすいという効果もあるようだ(写真- 14、写真- 15、写真- 16 参照)。

また、伊東コミッショナーが理事長を務めるNPO 法人「HOME-FOR-ALL」の働きかけに賛同した企業による桜の植樹や、伊東建築塾(伊東豊雄理事長)などによる「みんなの家」のための椅子の寄付など、伊東コミッショナーのネットワークを活かした支援も、本県にとって大きな財産となっている(写真- 17 参照)。

8.終わりに
応急仮設住宅の整備が完了し、熊本地震からの復旧・復興、被災者の自立再建への取組みは、今からが本番である。
まず、自立再建住宅については、地震に強く、県産材を使い、コスト低減に配慮した地元工務店による木造住宅を「くまもと型復興住宅」と定義し、県内最大の仮設団地である益城町テクノ仮設団地に3 棟のモデル住宅を展示(1 棟目は昨年12 月2 日、2 棟目は1 月14 日から公開中。3棟目は3 月上旬公開予定)している。いずれも、一千万円以下(税抜き)のプランであり、連日100 人を超える来場者でにぎわっている。そして、県と建築関係団体等で組織する熊本県地域型木造住宅推進協議会においては、39 の地元工務店グループによる55 件の「くまもと型復興住宅」のモデルプランを紹介するガイドブックを作成するなど、自立再建の後押しをしている(写真- 18、写真- 19、写真- 20、写真- 21 参照)。

また、自宅の建築等が困難な被災者のための災害公営住宅については、「あんしん」「あたたかさ」「ふれあい」の3 つの視点を重視し、応急仮設住宅整備と同様に「くまもとアートポリス」の取組みとして市町村と連携しながら整備に踏み出したところである。
これらの取組みが順調に進み、応急仮設住宅やみなし仮設住宅に住んでいる被災者が一日も早く次のステージへと進んでいくことを願っている。最後に、この場を借りて、今まで支援していただいた国、自治体、企業、団体、個人の皆様へ感謝申し上げるとともに、今後とも息の長い御支援をお願いする。

追記
建築行政職員の皆様におかれては、「応急仮設住宅建設必携」(H24.5、国土交通省住宅局)を今一度ご覧いただきたい。地震はいつどこで起きるか分からないのだから。

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