一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
九州におけるインフラストック効果について
小平卓

キーワード:ストック効果、戦略的インフラマネジメント、維持管理

1.はじめに
河川、道路、港湾、公園などの社会資本は一度つくれば、適切に維持管理することで、その役割や機能を持続させることができる。また、これまでつくったものを追加して整備すれば、社会資本として機能を蓄積していくことも可能である。このように、整備により蓄積された社会資本が「ストック」、その整備された社会資本が機能して、効率性や生産性などが向上していく効果を「ストック効果」と呼ぶ。
これまで社会資本整備にあたっては、整備のために資材や雇用などの投資が行われることで、一時的に工事に関連する産業の生産活動が高まる等の経済効果を生むフロー効果に注目があったものの、加速するインフラ老朽化や激甚化する気象災害、人口減少、激化する国際競争等を背景に、近年は社会資本のストック効果をできる限り発揮する戦略的な社会資本整備及び維持管理が求められている。2015年9月に閣議決定された第4次社会資本整備重点計画においても、社会資本のストック効果の最大化を目指した戦略的インフラマネジメントが、持続可能な社会資本整備に向けた基本方針に盛り込まれ、①集約・再編を含めた既存施設の戦略的メンテナンス、②既存施設の有効活用、③社会資本の目的、役割に応じた選択と集中の徹底が謳われている。
そこで、本報文は、地域の暮らしや経済を支えている九州のストック効果に関する事例をご紹介する。

2.九州のストック効果の事例
(1)蘇った紫川人々が集う都市の「顔」に!( 紫川改修事業・下水道事業)
福岡県北九州市を流れる紫川は、急激な工業化と都市化の進展に反し、下水道等の廃水処理整備が遅れたため、昭和40年代には著しく汚染されたが、下水道普及率の増加に伴い、水質が改善した。

また、紫川改修事業にあわせ、川を中心とした一体的なまちづくりを推進し、九州の玄関にふさわしい都市の「顔」としての水辺空間を創出した。この整備により、約2,000億円以上の民間開発の誘発や観光客数の増加を生み出した。

(2)コンテナターミナルと連絡橋が九州の養殖漁業と林業を支える(伊万里港)
伊万里港は国際コンテナターミナルの整備により、平成9年に国際コンテナ航路が開設された。平成15年には伊万里湾大橋が完成し、同年、対岸に養魚飼料会社が立地した。平成16年には養魚飼料の原料の魚粉の輸入量が日本一になるなど、伊万里港は養魚飼料の原料の日本最大級の輸入拠点となった。さらに平成20年に他の養魚飼料会社が立地するなど、伊万里港が九州一円の養殖漁業を支えている。

また、異樹種集成材を製造する大手製材メーカーの拠点工場を中心に木材コンビナートを形成し、九州の林業を支えている。

(3)サバの価格が4倍 出荷戦略を支える西九州自動車道
長崎県北地域では、五島海域から対馬海峡で獲れる寒サバを「旬(とき)さば」として地域ブランドとしており、松浦漁港(長崎県松浦市)の「サバ」は全国3位の水揚量を誇る。
西九州自動車道の整備につれて、新鮮なサバの安定供給や市場を選択しながら出荷できるようにになり、東京卸売り市場での取引価格は、8年間で市場平均の4倍に向上し、漁業就業者の一人当りの生産額も10年で541万円/人から644万円/人に増加している。

(4)堤防ができた!水害リスクが減った!商工業団地がうまれた!(緑川水系加勢川改修事業)
加勢川の堤防整備が完成する以前、熊本県嘉島町は洪水による浸水被害の常習地帯だったが、平成11年に堤防が完成してからは、浸水被害が発生しなくなり、水害リスクが大幅に減少した。

水害リスクの減少により、ショッピングモールや商工業団地の進出などで、商業事業所数が約2倍に増加(H3→H 24)し、第3次産業従業者も約4倍に増加(H2→H 22)し、堤防整備が地域の発展に大きく貢献している。

(5)東九州自動車道(大分市~宮崎市)の開通で、ぐぐっと接近!魅力ある観光資源が身近に!
平成27年3月に豊前IC ~宇佐IC、佐伯IC ~蒲江IC が開通し、大分~宮崎がつながったことにより、東九州道沿線地域の時間距離が縮まり、地域の活性化に繋がっている。

東九州道の整備により、魅力ある観光資源が身近になり、ゴールデンウイーク期間中の観光入り込み客数が宮崎県で約2割増加した。

高千穂峡では九州外からの観光客の割合が8%から22%に上昇している。

東九州道の整備を見越して、過去5年間で佐伯市では19件、延岡市では31件の企業立地が進んでいる。

(6)林業再生!つなぐ、ひろがる、輸出商機!( 細島港、東九州自動車道)
細島港や東九州自動車道整備の進展により、大手製材メーカーが進出している。細島港周辺では、ここ10年間で企業立地が39件あり、設備投資額は約740億円に上る。

また、アジアにおける建設資材などの需要の増加を追い風にして、地域の木材を輸出する新規ビジネスにより、林業が再生している。木材の輸出量や木材価格は最大約2倍に上昇し、地域の雇用増加に寄与している。

(7)堤防整備と街づくりで安全で活気あるまちへ(川内川改修事業)
鹿児島県薩摩川内市では、平成5年度から川内川両岸で堤防整備と区画整理事業を連携して実施し、中郷・瀬口地区は平成20年度に完成した。

事業完了箇所では、浸水に対するリスクが減少したことから、区画整理事業により新たな街なみが形成され、人口が増え、地域に活気が出てきた。中郷・瀬口地区においては年々宅地化が進み、人口は20年前に比べて、3倍程度増加した。

3.おわりに
社会資本は、幅広い国民生活や社会経済活動を支える基盤であり、いつの時代においても、その本来の役割であるストック効果が最大限発揮されることが期待される。厳しい財政制約が見込まれる中、これからの社会資本整備は、限られた財源で、安全・安心の確保、生活の質の向上、生産拡大といったストック効果を高めるための戦略的な対応が一層求められる。
社会資本は、構想・計画から完成までに長期の時間を要するものであり、いわば未来への投資とも言える。今日の我が国の社会経済活動も、過去に中長期を見据えて整備を重ねてきた社会資本に支えられている。これからの社会資本整備も、将来の国土、社会経済を見据えて、中長期的な視点から未来に引き継ぐ使命を忘れてはならない。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧