新長崎県庁舎における電源システムの信頼性と
維持管理性の向上について
維持管理性の向上について
長崎県 総務部 管財課 主任技師
今 里 太 郎
キーワード:電源設備、BCP対策、受変電設備の色分け、受変電設備のメンテナンス
1.はじめに
長崎県庁舎は建設から60 年以上が経過した旧庁舎が抱える老朽化、狭隘化、分散化といった問題に加え、防災拠点としての機能確保といった喫緊の課題の解決を図るため、新県庁舎の整備を行い、平成29 年11 月にJR 長崎駅に隣接した長崎魚市跡地に竣工した。
新県庁舎は、行政棟、議会棟、駐車場棟、警察棟の4 つの庁舎から構成されており、「県民生活の安全・安心を支える庁舎」、「県民サービス向上のための機能的で新時代環境共生型の庁舎」、「県民に優しく、県民が親しみを感じる庁舎」とすることを基本方針として、県民とともに新しい時代を切り拓く庁舎として整備した(図- 1)。
県庁舎の防災拠点施設としての機能を確保するため、庁舎の構造や建築設備等は、国が定める耐震性能基準の最高ランクのものを採用している。さらに、行政棟、議会棟、警察棟は、免震構造の建物とすることにより、書架やOA 機器等の損傷や散乱の発生を抑えた安全性の高い庁舎としている。
その中でも最も重要な機能の1 つとして、災害発生時においても防災拠点施設として建物内の電力供給をし続けられるような電源システムの信頼性の確保が挙げられる。また、その信頼性を確保し続けるためには日頃からの維持管理が重要となる。
また、設備等については15 年から30 年程度で更新を行う必要があるため、更新のし易さも求められる。
本稿では、防災拠点施設としての機能を維持し続けるため、電源システムについて様々な取り組みを行ったのでその内容について紹介する。
2.工事概要
名 称:長崎県庁
所在地:長崎県長崎市尾上町3 番1 号
述床面積:53,416.98㎡
最高高さ: 39.96m
構造階数:行政棟鉄筋コンクリート造地上8 階
議会棟鉄筋コンクリート造地上5 階
工 期:平成26 年12 月~平成29 年11 月
3.電源設備の業務継続計画(BCP)について
3-1.電力引き込み
電力引込みは、信頼性の高い受電方式の22kV3 回線スポットネットワーク方式とした。防災緑地を含む敷地一体の電力を行政棟2 階特高受変電設備で受け、6.6kV に降圧後、行政棟、議会棟、警察棟、駐車場棟の高圧受変電設備に送電している(図- 2)
3-2.電源構成
行政棟の特高設備は、必要容量の50%の変圧器× 3 台構成とすることで、事故やメンテナンス時に1 回線停電しても残りの2 台で100% 負荷を賄えるようにした。
高圧系は、A 系B 系の2 系統に分けることで変圧器やVCB(真空遮断器)等の故障、停電点検による影響を受けにくい構成とした(図- 3)。
重要機器については、A 系、B 系のどちらにも切り替えられるAB 系とした。
また、サーバー室や防災行政無線機器等の瞬断も許容されない最重要機器については、AB 系とした上で無停電電源装置を設けた。
なお、無停電電源装置は150kVA × 3 台(N+1台)とし故障や更新時の対応を行った。
電灯、コンセント等はA 系、B 系の千鳥送電(A+B系)とした(図- 4)。
熱源系統は吸収式冷温水機をAB 系、ヒートポンプチラーをA 系、ターボ冷凍機をB 系とし、2次ポンプをAB 系とした。このことで、A、B 系どちらが送電できなくなった場合でも、電灯、コンセント、ファンコイルは半分が稼動し、熱源は3 分の2 が稼動するようにした(表- 1)。
非常用発電機は、冷却水が不要な空冷式とし、都市ガスと液体燃料(A 重油)の両方で発電が可能なデュアルフューエル発電機を採用した。
容量は2,000kVA × 1 台構成で燃料タンクは3日分(30,000㍑× 2 基)、都市ガスの供給により7 日間連続運転可能である。
なお、警察棟は独自の非常用発電機を設置している。
3-3.津波、浸水対策
東海・東南海・南海・日向灘を震源とする4連動地震の津波シミュレーション結果により、長崎市において標高4m の最大津波高(最大水位)が予測されている。
その結果を踏まえ、津波や浸水対策として行政棟、議会棟の1 階フロアの主要な床の高さを標高4.8m 程度とし、安全性を確保した。
受変電設備(特高受変電設備、高圧受変電設備)を2 階に配置し、非常用発電機は8 階に設置した。
また、燃料タンクの送油ポンプは揚程高さの関係で1 階に配置しているが、最大津波高以上の標高4.1m 以上になるように架台を設置した。
その他、免震層内におけるポンプ付属ケーブルとの接続材を水没対応品とし、照明・コンセントのスイッチは漏電遮断器とした。また、屋外や1階の分電盤の取り付け高さを標高4.1m 以上となるようにした。
4.受変電設備のメンテナンスについて
4-1.メンテナンスの基本方針
特高受変電設備のメンテナンスは、特高設備の3 回線のうち1 回線ずつ停電させて点検を行うことで、行政棟、議会棟、警察棟、駐車場棟の高圧設備を停電させずに点検が可能である。
また、行政棟の高圧設備は、A 系B 系の片系統ずつ停電させて順番に点検を行うことで、A、Bどちらかの系統は稼動するため、執務や来庁者への影響を最小限にとどめての点検が可能である。
なお、行政棟、議会棟の低圧設備の重要系や最重要系については系統の切替えが可能なため、必要に応じて系統の切替えを行うことでその部分の電源を生かしたままの点検が可能である。
4-2.色分けについて
一部の電源を生かしながらのメンテナンスとなり、作業時の安全確保を図るため、系統毎に色分けを行うことでメンテナンス箇所を分かりやすくした。
特高受変電設備は、変圧器、盤類を1 系統毎に、赤(駅前1 号線)、緑(駅前2 号線)、青(駅前3 号線)の3 色に塗り分けた(図- 5)。
また、高圧受変電設備、分電盤は盤類のA 系をピンク、B 系を水色、AB 系を紫、UPS 系を黄緑に塗り分けた(図- 6、7)。
更に、コンセント設備についてはOA タップを系統毎にA 系を白、B 系を青、UPS 系を緑とし、ブロックコンセントも同じ色とした(図- 8)。
その他、コンセントは回路番号を表示するテプラの色をA 系は白、B 系は青で表示する工夫も行った。
このことで、メンテナンス作業の安全も確保しつつ、職員や来庁者への影響を最小限に留められるようにした。
5.非常用発電機について
5-1.非常用発電機の概要
非常用発電機の容量は2,000kVA × 1 台であり、運転時には一部の空調機器使用を停止し、照明を減光または消灯させることで、庁舎内全てのコンセントを含む電源を稼動させるようにした。また、燃料は液体燃料(A 重油)に加えて、ガス(中圧ガス)でも発電が可能なデュアルフューエル発電機を採用した。
5-2.非常用発電機の構成
デュアルフューエル発電機の機器構成は、通常の液体燃料のみの構成に加えて、ガス圧縮機等のガス燃料機器設備が必要となる(図- 9)。
また、発電機室の隣にガスコンプレッサー室を設けた。
5-3.非常用発電機の運転
非常用発電機は商用電源が途絶した際に停電信号を受け始動開始する。始動時と停止時は液体燃料で運転を行い、電圧確立後はガス燃料を優先した運転を行う。
5-4.非常用発電機の更新
5-4-1.更新の基本方針
非常用発電機更新の際は、新しい発電機を設置後、古い発電機を撤去する必要があり、そのための予備スペースを確保しておく必要がある。
今回設置したデュアルフューエル発電機は液体燃料のみでも運転可能なため、更新時にまずガスコンプレッサー室のガス機器類を撤去し、そこに新しい発電機を配置し、部屋を入れ替えることで、将来用の予備スペースが不要となり、また、更新時の発電機停止時間の短縮にもなるようにした(図- 10)。
5-4-2.事前対応事項
将来的な発電機更新時に発電機室とガスコンプレッサー室を入れ替えられるように下記対応を行った。
①発電機、ガスコンプレッサーのどちらの機器も設置できるような基礎配置を行った。
②外壁がECP(押出成形セメント板)であり将来開口を設けることが困難であるため、機器を入れ替えた際の煙道ルートを想定し、あらかじめ外壁に開口を設けた。なお、開口はSUS(ステンレス)板で止水処理を行った。
③更新後の煙道ルート上にも基礎がくるように配置を行った。
その他、小出槽用の防油堤の設置を行ったほか、ケーブルルートの検討、変更後のダクト用のインサートを設けることを行った。
これらの対応をすることで、更新時に必要となるスペースを不要とし、更新時の発電機停止時間の短縮、更には更新時の建築コストを抑えることができる(図- 10)。
6.おわりに
これまで述べたとおり、新県庁舎を建設するにあたり、防災拠点施設としての機能を維持し続けるための工夫を行った。特に、受変電設備の色分けについては、設計者、施工者の方々のご協力を得ながら進めることが出来た。また、現在実際に維持管理を行う中、その効果についても実感しているところである。
県庁舎建設については、設計から施工まで一貫して関わらせていただいた。また、現在は維持管理にも関わらせてもらっている。今後も引き続き適切な維持管理を行い、安全・安心な庁舎づくりを目指していきたい。
最後に、設計者である日建・松林・池田特定建設関連業務委託共同企業体、監理者である日建・松林・アトリエプランニング特定建設関連業務委託共同体、行政棟電力工事の施工者である九電工・チョーエイ・長崎電業特定建設工事共同企業体ほか、建設に関わられた全ての方々に深く感謝申し上げます。
【参考文献】
1)道崎祐士 九電工㈱” デュアルフューエル発電機の配置検討について 電気設備学会“(2017.9)
2)白土弘貴、佐藤孝輔、松村早千絵、岡田悠介㈱日建設計” 長崎県庁舎 建築設備士(pp2-10 2018.8)