新しい水質指標「ろ紙吸光法」を用いた水質評価
九州技術事務所 調査試験課
水質試験係長
水質試験係長
高 倉 香
九州技術事務所 調査試験課長
古 賀 唯 雄
1 はじめに
現在,河川・ダムの水質を評価する水質指標としては河川においてはBOD(生物化学的酸素要求量),ダムにおいてはCOD(化学的酸素要求量)が使われている。これら指標は全国的に普遍的に用いられており,そういう意味では水質に携わる人にとっては便利な指標である。しかし,一般の人にはBODやCODの概念は理解されにくく特にBODは測定に5日間かかるという欠点がある。そのため感覚的にわかりやすく迅速に測定できる水質の指標が望まれている。
また,近年の河川水質は下水道事業,浄化事業の進捗あるいは住民による環境活動により改善傾向が見られ,九州管内の大半の河川がBOD2mg/L以下という状況である。このような背景から清流河川においてBODにかわる新たな水質指標が望まれている。
土木研究所で開発された「ろ紙吸光法」は光学的な手法を用いるので精度は高く,安価ですぐ結果がでるという特徴がある。そこで九州の河川,ダムの水をろ紙吸光法を適用してその有効性を検討した。
2 ろ紙吸光法の概要
通常の吸光度法が溶液の吸光度を測定するのに対し,ろ紙吸光法は試料水をガラス繊維ろ紙でろ過し,ろ紙上に残った懸濁物質に光(220~850nm)をあて波長毎の反射光を測定し,それを吸光度曲線で表現する方法である。分析方法とろ紙吸光法の特長を図ー1に示す。
分析により得られる吸光度曲線から3つの指標を得ることができる。吸光度曲線の見方と3つの指標の説明を図ー2に示す。
3 調査概要
九州の一級水系および直轄ダムで定期調査分析で実施しているSSのろ紙を送付してもらい,このろ紙の吸光度を測定した。調査概要を表ー1に示す。ダム地点はダムサイトである。
4 調査結果
(1)3つの指標と水質項目との相関
既往文献により,ろ紙吸光法の3つの指標と水質項目には相関があることが示されている。そこで,ろ紙吸光法の3つの指標と各水質項目の相関式を作成した。
相関分析は以下の式で回帰分析を行った。
① 直線回帰式 C=a・(各水質指標)+b
② 指数関数式 C=a・(各水質指標)b
③ 2次式 C=a・(各水質指標)2+b・(各水質指標)+c
C :各水質
a,b,c:係数
(各水質指標):ろ紙吸光法の3つの指標
上記3つの回帰分析の結果のうち水域別相関係数を表ー2に示す。
相関の高い項目については,分析費も安く早く分析できるろ紙吸光法で測定すれば水質項目のだいたいの数値を把握することができ,水質管理上有効であるといえる。
(2)河川の清流度ランキング
河川は水質をBODで評価しているが,ろ紙吸光法の総吸光度での評価を試みた。
総吸光度は濁りを表す指標であるので,河川の清流度指標といえる。総吸光度とBODの平均値を用いランク付けしたものを表ー3に示す。ろ紙吸光法はろ過量が適正でないと,精度がおちる(このろ過量の検討については4.(5)で述べる。)ので表ー3は適正ろ過量データを用いた表である。ただしデータ数が5以下となる遠賀川,六角川,緑川,白川,菊池川,番匠川,五ケ瀬川については全データの値を用いた。
清流度とBODのランクが一致すれば着色部分にのる。着色部より3ランク上に位置する白川は無機態の濁りが清流ランクを下げていると考えられる。また着色部より5ランク下に位置する肝属川は溶解性BODが清流ランキングを上げていると考えられる。
この表のBODランク0.8~1.0には大淀川,小丸川,大分川の3河川あるが,総吸光度の評価つまり見た目の清流度は大分川,小丸川,大淀川の順にきれいであることがわかる。
水質分析の測定限度は透視度は100が測定上限,濁度は1が下限,SSも1が下限,BODは0.5が下限であり,非常にきれいな河川では差がでにくい。図ー3に番匠川の平成14年度の水質グラフを示すが,透視度は1年中100以上,SS・濁度は1年中1,BODもほぼ0.5という状態であるが,ろ紙吸光法で測定した結果では変動があることを示している。このように清流度の高い河川ではその微妙な変動をろ紙吸光法により把握することができる。
(3)ダムの清澄度ランキング
ダムはCODで評価しているが,ろ紙吸光法の総吸光度と藻類指標で評価を試みた。2つの指標を選んだのは下記の理由である。
ダムの清澄度の視点は第1に見た目の清澄度の透明度であり,第2に色である。
清澄度については総吸光度指標を用いた。色についてはプランクトンの増殖と濁水の流入であるが,定期調査は出水時はさけるので今回のランキングについてはプランクトンの指標である藻類指標を用いた。
2つの指標を下記の通りランク付けし,ダム清澄度ランクを表ー4に示す。左上がきれいで右下が汚濁しているマトリックスである。
(4)総合水質指標
ろ紙吸光法は懸濁物質に光りをあて分析するので溶解性の成分を表現できない。このため簡易に分析でき溶存態成分を表現する指標として導電率を用い,3つの指標TA, AI, UVAIとあわせて4つの指標で水質を総合的に表す指標とした。この総合水質指標のイメージを図ー4に示す。
またこの指標による代表的水質のイメージを図ー5に示す。
たとえば, TAが高くAI, UVAIが低い場合はシルト等の無機態の濁りである。AIも高いときは植物性プランクトンが増殖した富栄養化状況といえる。UVAIも高いときは生活排水等の有機汚濁が流入しているといえる。
(5)ろ過量の検討
ろ紙吸光法はろ紙上の懸濁物質に光をあてその吸光度を測定するため,懸濁物質が重なり合うと下の懸濁物質に光が届かないため,精度良く分析ができない。この懸濁物質の重なりによる影響はpackage-effectとよばれている。
そこで,濁度とクロロフィルaを対象にpackageeffectが生じないろ過量の検討を行った。濁度とクロロフィルaによるろ過量では分析に時間がかかるため,濁度は透視度との関係,またクロロフィルaは透明度との関係を求めろ過量を決定することとした。
このようにして決定したろ過量の目安を表ー5および表ー6に示す。
今後は,この適正ろ過量により分析を行いデータの精度を高めていくものとする。
5 ろ紙吸光法の活用
ろ紙吸光法の特徴を生かして下記の活用ができると考えられる。
(1)河川の水質管理
河川の流域全体を把握するためには多くの調査地点で測定することが望まれる。ろ紙吸光法は水質を総合的に判断でき,測定法が簡単で迅速かつ管理には有効な測定方法である。継続した連続観測により,水質保全対策立案の基礎資料として活用できると考えられる。
(2)景観・親水活動の水質指標
河川での親水活動が盛んであるが河川環境機能の評価には水質は重要な要因である。人の親水活動にどのような水質を望んでいるのかという観点より水質管理が必要である。ろ紙吸光法のろ紙は水質を視覚的に表すことができ,きれいさを精度良く表現できることから景観・親水活動の指標として適用を図ることができる。
このことは一般住民に水質に関心を持ってもらうために適しているといえる。
(3)ダムの水質管理
ダムに流入する多くの地点を細かく調査することにより,より細かな水質が把握でき様々な水質障害の原因や水質保全対策を実施することができる。
クロロフィルaと藻類指標の相関関係が高いため植物プランクトンを測定する替わりに藻類指標を測定しプランクトンの発生状況分布状況を連続的に把握でき水質保全対策の基礎資料として活用できると考えられる。
参考文献
・ろ紙吸光法による清流河川の推定透明度に関する研究:中村圭吾,島谷幸広,環境システム研究,Vol.27,1999年10月
・ろ紙吸光法によるクロロフィルa測定の有用性について:薗田顕彦,中村圭吾,島谷幸広,環境システム研究,Vol.27,1999年10月