延長床版システムプレキャスト工法の概要および
塩見川橋での施工について
塩見川橋での施工について
今井栄蔵
村里創
村里創
延長床版システムとは、上部構造の床版を橋台背面の土工部にまで延長する構造で、伸縮装置を桁遊間部から土工側に移設することで遊間部に発生する騒音・振動を低減させ、遊間からの漏水を防止することで桁端の錆や支承の劣化を防止するシステムである。プレキャスト製品を使用することで急速施工を可能にし、その実績は、NEXCO関連の橋梁で19橋、国土交通省関連では2橋を数える(平成22年10月現在)。ここでは、当技術の概要、設計および東九州自動車道塩見川橋における施工について報告する。
キーワード:延長床版、騒音・振動低減、プレキャスト製品、桁端の防錆、支承の劣化防止
1.はじめに
昨今、国内の道路橋において、伸縮装置部で発生する振動・騒音および漏水による劣化進行の抑制などから、橋梁ジョイント構造に延長床版システム1)が採用されている。延長床版システムは、上部構造の床版を橋台背面の土工部まで延長するような構造で、伸縮装置を遊間部から土工部に移設させることで、車輌走行による騒音・振動の低減や遊間からの漏水を防止する目的で採用される工法である。
西日本高速道路㈱九州支社延岡高速道路事務所が担当する東九州自動車道門川~日向間(約13.9㎞)では全12橋のうち、3橋に延長床版を採用、そのなかの1橋、塩見川橋の延長床版の施工について紹介する。
2.延長床版システムプレキャスト工法の概要
本技術は、図-1に示すようにプレキャスト版を使用して、橋梁床版を土工部まで延長し、遊間部直上にある伸縮装置を土工部に移設する工法である。延長床版部は、橋梁と連結されているため、温度収縮による桁の伸縮に追従しながら、底版上を常時滑動し、その伸縮を土工部に移設した伸縮装置で吸収する。
本工法の特長は以下の通りである。
- ・伸縮装置が土工部に移設されることで遊間からの騒音・振動を低減できる。
- ・遊間を塞ぐ事により、支承・桁端部に雨水および凍結防止剤の侵入を防ぐことで、劣化を防止できる。
- ・延長床版部、底版部は分割されたプレキャスト製品を用い、図-2に示す特殊継手(コッター式継手2))で接合するため、急速施工が可能である。
3.延長床版システムプレキャスト工法の設計
本工法の設計は、安全性、使用性、耐久性を考慮し、理論的な妥当性を有する手法等の適切な知見に基づき、図-3に示すような設計フローとしている。以下に主な設計項目について示す。
3-1.延長床版長
延長床版システムプレキャスト工法を採用する目的は、主に騒音低減、振動低減、遊間からの漏水による桁端防錆および支承の劣化防止等が挙げられる。これらの目的によって延長床版システムの構造を検討する必要があり、特に低周波振動低減効果を期待するか否かで延長床版長の検討方法が異なる。
(1)低周波振動低減効果を期待する場合
(独)土木研究所の研究3)より、車輌のバネ下振動は、橋梁の10m手前に段差(20mm程度)が発生しても橋梁本体までにほぼ減衰してしまうことから、床版を橋軸方向に10m程度延長することで車輌による橋梁への影響を小さくできることが確認されている。このことから、延長床版システムを採用する上で振動低減を期待する場合は、延長床版長を10mとしている。
(2)振動低減効果を期待しない場合
活荷重が作用することで橋梁にたわみが生じ、その回転変位により延長床版端部が浮き上がり、伸縮装置部に段差が生じ、車輌の通行に伴って騒音・振動が発生する。このことから図-4に示すように延長床版長を橋梁のたわみによる回転変位と延長床版の死荷重によるたわみが同程度になる長さを式(1)より求めて決定している。なお、プレキャスト製品の製作上の制約から最小長さを2mとしている。
- L:延長床版の長さ(mm)
- Ec:コンクリートのヤング係数(N/mm2)
- Ic:コンクリートの断面二次モーメント(単位幅当り)
- q:死荷重(単位幅当り)
- θ:桁の回転角
3-2.延長床版部断面力の照査
延長床版部において橋台より土工部側に位置する部分は、底版に面支持されており、弾性床上の版構造として考えることができる。従って、延長床版を路盤で支持されたコンクリート舗装版と同等と考え、舗装設計施工指針を準用しコンクリート舗装の断面力を用いて設計を行う。
3-3.底版部断面力の照査
路盤上に設置する底版は、踏掛け版を兼用するか否かで検討方法が異なる。新設橋および沈下が収束していない既設橋においては、基本的に踏掛け版と底版を兼用させるため、踏掛け版の設計4)に準じて検討を行う。また、沈下が収束している既設橋においては、すべり版としての機能を主として考慮し、延長床版および伸縮装置より分散された活荷重等の影響に対して安全であるような最小版厚および最小鉄筋量を検討する。
3-4.橋梁床版との接合部の照査
橋梁床版との接合部は、曲げモーメントを発生させないようにヒンジ構造としている。常時およびレベル1地震時においては、応力が円滑に伝達でき、レベル2地震時では橋梁本体に致命的な損傷を与えないように検討する。例えば、図-5に示すように接合部をメナーゼ構造とし、レベル1地震時ではメナーゼ鉄筋の発生応力を許容値以下になるようにし、レベル2地震時においてはメナーゼ鉄筋が降伏するような鉄筋量としている。
3-5.伸縮装置の検討
延長床版システムは、橋梁桁端の遊間部にあった伸縮装置を土工部に移設する構造形式であることから、適用可能な設計伸縮量は従来と同等であると考え、その範囲を図-6に示す。
4.施工について
塩見川橋における構造平面図を以下に示す。図-7は底版平面図、図-8は延長床版・伸縮装置平面図である。
図-7にある底版は踏掛版兼用であり、プレキャスト製品のため工場にて製作後、橋台部より土工側に全幅で6枚の底版を設置した。
図-8にある延長床版・伸縮装置部も同様に工場にて製作後、現地に搬入し設置した。延長床版は、橋梁床版と後打ちコンクリートにて接続し橋梁床版と一体化させた。伸縮装置部の橋梁側(可動部)は、延長床版と接続し橋梁の常時移動に追従させ、土工側(固定部)は底版と固定させた。
以下に東九州自動車道における塩見川橋で実施した延長床版システムプレキャスト工法の施工について報告する。
4-1.土工部整正
施工に先立ち、橋台背面盛土および基礎砕石の整正を行った。
写真-1に背面盛土の整正状況写真を、写真-2に基礎砕石整正状況写真を示す。
基礎砕石についての基本的な考え方は以下の通りである。
- ①構造物の基礎砕石として: 砕石t=100mm程度
- ②背面盛土の一部である不陸調整として:砕石t=30mm程度
- ③道路土工の路盤として:砕石t=150mm程度
塩見川橋では②の背面盛土の一部である不陸調整材として施工し、出来形管理として施工範囲における厚さが設計値以上であることを確認した。
また、NEXCO構造物施工管理要領においては、平板載荷試験を行い、支持力係数が設計値以上あるか確認する旨記載されているが、本現場では底版を踏掛版として設計しているため、地盤支持力を設計時に使用していないことから平板載荷試験を行っていない。この試験は底版を設計する際、FEM解析を行った場合や地盤上の梁として考えた場合に必要となる。
4-2.底版設置
背面盛土及び不陸調整材の整正後、橋台に底版固定用のアンカー孔を削孔し、路盤上に裏込めグラウト材浸透防止用シートを敷いた後にラフタークレーンにて底版を設置した(写真-3、4、5)。
ラフタークレーンは、分解組立の必要のない50tクレーンで設置し、設計時においても想定したクレーンの定格荷重から製品重量を算出し、その製品重量を満足する製品寸法を決定している。
底版の設置完了後に高さを調整し、グラウト材の注入を行った。グラウト材は製品目地に注入する目地グラウト材と底版裏面・路盤間に注入する裏込めグラウト材がある。
グラウト材注入作業に関しては、はじめに裏込めグラウト材を注入し、続いて目地部に目地グラウト材を注入し、注入後に版表面にある各種治具の穴埋めを行った。この際、底版表面より低めに仕上げ、延長床版のスライドを阻害する可能性のある凸部を作らないように留意した。
目地グラウト材硬化後に製品同士を接続するため、特殊継手(コッター式継手)の締め付けを行った。コッター式継手は挿入するH型金物が楔状になっているため所定のトルクを掛けることによって目地部に圧縮力を導入させ、製品同士を一体化させる構造になっている(写真-8)。
出来形管理は、NEXCO構造物施工管理要領に従い、設置高さ及び幅員について管理した。また、品質管理は、それぞれのグラウト材のフロー値および強度確認、継手のトルク値確認を行った。
4-3.延長床版・伸縮装置(着脱式床版)設置
底版と同様に50t級のクレーンを使用し設置した。施工は、伸縮装置部(着脱式床版)、延長床版の順で設置した。
写真-9において手前が土工側、奥が橋梁側で、伸縮装置部(着脱式床版)が土工側に設置されていることが確認出来る。
また、幅員方向両端の部材においては、高欄露出筋を出しており、延長床版と高欄を一体化させている。高欄を一体化させることで桁端部及び橋台全面に雨水等が流れ込まない構造になっている(写真-10、11)。
設置完了後に目地グラウト材を注入し、表面各種治具の穴埋めを行い、目地グラウト材の硬化後に継手の締め付けを行った。
出来形管理としては、底版と同様に設置高さと幅員を確認した。NEXCO構造物施工管理要領に示されているように延長床版の高さの規格値は-45~+5mm、伸縮装置部の高さの規格値は±3mmであり、伸縮装置部の高さが支配的な規格値となる。品質管理は目地グラウト材のフロー値、強度および継手の締め付けトルクを確認した。
4-4.橋梁床版との接続
延長床版と橋梁床版の接続を図るため後打ちコンクリートを打設した。
接続部は延長床版より鉄筋(メナーゼヒンジ鉄筋)を露出させておき、コンクリートとメナーゼヒンジ鉄筋との付着で橋梁床版と一体化させている。また、コンクリートは超速硬コンクリート(σ3h=24N/mm2)を使用した。超速硬コンクリートを使用した理由は、橋梁が常時温度伸縮しているため、コンクリートの硬化に多くの時間を要すれば、硬化前に鉄筋との付着が切れてしまう可能性が想定できるためである(写真-12)。
メナーゼヒンジ鉄筋の長さは、鉄筋の降伏強度よりも付着力が大きくなるように計算して鉄筋付着長を決めている。また、延長床版部の自重×摩擦係数(μ=1.2)および輪荷重に対し、鉄筋の応力が許容値内に収まる本数にしている(写真-13)。
出来形管理は、打設範囲の寸法と配筋の確認を行った。また、品質管理については、超速硬コンクリートのスランプと強度を確認した。写真-14に施工完了後の状況を示す。
5.まとめ
本文は、延長床版システムプレキャスト工法の概要、設計法および東九州自動車道塩見川橋における施工ついて報告した。今後は、経年による沈下に伴う段差・舗装へのクラック・延長床版の挙動等を把握するための追跡調査も必要と思われる。
起稿にあたり、塩見川橋延長床版施工協力業者である㈱ガイアートT・K 亀井健大氏のご協力を戴き感謝申し上げます。
参考文献
- 1)土木学会:2006年次講演会「延長床版システムの性能照査に関する検討(塩畑ら)」
- 2)土木学会:2006年土木学会論文集F「RCプレキャスト版舗装による空港誘導路の急速補修(八谷ら)」
- 3)土木学会:2002年次講演会「鋼単純桁橋における伸縮装置部段差が橋梁主構造及び車両に与える影響確認実験(新井ら)」
- 4)NEXCO:設計要領第二集橋梁建設偏