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有明海沿岸道路における軟弱地盤対策工法の検討

国土交通省 福岡国道工事事務所
 調査第二課長
久 野 隆 博

1 はじめに
有明海沿岸道路は,福岡県大牟田市から佐賀県鹿島市までの約55kmを結び,同地域の交通連結による広域的な交流促進や地域活性化を図るため計画された地域高規格道路である。そのうちの福岡県分,大牟田市から大川市までの約29kmを福岡国道工事事務所が担当している。
当該地域はいわゆる有明粘土と呼ばれるわが国有数の軟弱地盤地帯が広がっており,本道路の建設にあたっては,あらかじめ有明粘土地盤特有の技術的課題を克服しておく必要がある。加えて先の大地震の経験から,災害時の緊急輸送道路としての期待も大きい。このように建設時および完成後の要求に応えるためには,新しい思想に基づく道路建設・管理手法の確立が求められている。
これらの課題を解決するため,「有明海沿岸道路軟弱地盤対策工法検討委員会」(以下,「委員会」という)を設置し検討を進めている。
本報告では現在までの委員会での軟弱地盤対策工法の検討について報告するものである。

2 検討委員会の設置
軟弱地盤対策工法検討委員会は,①有明海沿岸道路における軟弱地盤対策技術基準の策定,②最適工法の選定等を行うことを最終目的として平成11年度に設置した。委員会メンバーは学識経験者および国土技術政策総合研究所,土木研究所,九州地方整備局,福岡県,佐賀県の専門技術者等で構成している。

3 委員会における検討課題
委員会では,平成11~12年度に検討条件を整理し基礎検討を行い,平成13年度には本格的な検討データ収集のため,実物大の試験盛土工事に着工した。委員会の流れを図ー2に示す。
委員会で抽出した検討課題は表ー1に示すとおりであり,最終的な結論は試験盛土の結果を反映し,取りまとめていくものである。

4 当該地域の地質状況
これまでに実施したボーリング調査結果から,当該地域の軟弱地盤対策工法を検討するにあたり,表ー2に示す4つの地盤タイプに区分した。計画路線における地質断面模式図を図ー3に示す。
軟弱地盤対策の対象となる有明粘土層は,概ね層厚10m前後で分布し,起点側で層厚3~9m程度,終点側では層厚19m程度と厚く分布している。
一般的な有明粘土の場合,N値0(自沈),自然含水比は100%以上を示し,乱すと著しく強度が低下する鋭敏性の高い土質特性をもっている。

5 試験盛土
(1)試験盛土計画
当該地区での道路盛土建設の際の実挙動を把握し,施工管理基準値の設定,および地盤改良効果確認など実施工へのフィードバック情報を得るための検討手法として,実物大での試験盛土を実施するものである。
試験盛土における検討課題を以下に示す。
 ①技術基準の検討・評価
 ②軟弱地盤対策工法の適用性
 ③代替え盛土材の評価
 ④環境への影響評価
試験盛土サイトの選定にあたっては,用地取得状況,地盤状況等を考慮し,大牟田市昭和開地区と三池郡高田町地区で計画した。今回実施する試験盛土箇所の位置図を図ー4に示す。

(2)試験盛土工法概要
試験盛土で実施する軟弱地盤対策工法は,環境条件,施工管理,品質管理,工期,コスト,新技術開発等を考慮し,従来工法および新工法・新技術の中から工法を抽出し,その中から適用可能性の高い6工法を選定した。各工法における改良諸元は,サイト地で実施した事前地質調査から詳細な地盤定数を検討したうえで沈下・安定・変形解析により決定した。
試験盛土工法の概要と目的を表ー3に示す。

今回の試験盛土では、深層混合処理工法の設計にあたって新しい考えを採用している。以下に設計上のポイントを示す。
〇従来設計での滑動・転倒による検討はチェックに止めた。
〇改良幅は原則として円弧すべりにより決定した,ただし,水平変位量が大きくなるため,FEM解析からのり尻水平変位量を20cm以下となる改良諸元とした。

6 動態観測
動態観測は,試験盛土の実挙動を把握するとともに盛土の沈下・安定管理を行うために表ー4に示す項目を実施する。また,計器による観測のほか,各対策工法の改良効果を確認するためのチェックボーリング,水質調査および広域地盤沈下の測定も併せて実施することとしている。
観測期間は工事開始前(初期値)~地盤改良施工中~盛土施工後1年程度を計画している。これらの動態観測結果をもとに技術基準の検討および対策工法の適用性の検討を行う。

7 動態観測結果のとりまとめ方針
本試験盛土工事の成果は以下の方針により取りまとめを行う。
(1)技術基準値の検討・評価
 ・地盤定数の設定
 ・設計法の評価
 ・許容値の設定
 ・施工管理基準の設定
(2)軟弱地盤対策工法の適用性
 ・圧密・脱水工法の適用性
 ・側方変形抑止工法の適用性
 ・構造物に対する適用性
 ・ネガティブフリクションの評価
 ・工期短縮の適用性
 ・新工法・新技術の適用性
(3)代替え盛土材の評価
 ・軽量盛土材の適用性
(4)環境への影響対策
 ・地下水の遮断,汚濁の実態評価
 ・広域地盤沈下特性

8 今後の課題と検討
有明海沿岸地区における道路整備に当たり,軟弱地盤という難題を克服し,有明海沿岸道路をより安全で快適な道路にするために試験盛土等を実施して,軟弱地盤対策技術の確立を目指していくとともに,下記内容についても委員会での検討を行い,最終成果へと反映させていく方針である。
(1)地質調査手法の検討
設計に必要な物性値の把握に多くの地質調査を行い,多大な費用と時間を要しているのが現状で,今後は低コストで信頼性の高いサウンディングを併用した効率的な地質調査手法について検討する。
(2)簡易な設計手法の検討
構造物近接箇所の設計では,これまでは高度なFEM解析により変形量を求めている。今後は,試験盛土結果から「変形量と安全率のチャート」を作成し,許容変形量から逆に安全率を設定するような設計手法について検討する。
(3)地震時の検討
地震時の挙動や耐震性を実務的に評価する手法が現状では確立されていないため,大型遠心模型載荷試験と動的FEM解析によりその妥当性を検証する。
(4)地下水流動阻害対策の検討
中間砂層を挟む地盤での深層混合処理工法による流動阻害についての程度を三次元解析により検討する(スリットなど通水確保の検討)。
(5)深層混合処理改良体の品質管理手法の検討
従来のコアサンプルによる品質管理では良好なサンプルのみ採用されるケースが多く,強度を過大評価する傾向がある。今後は実態に即した適正な品質評価が可能な新たな管理手法について検討する。
(6)暫定二車線の検討
当該道路は完成4車線,暫定2車線の計画で事業を行うが,初期投資コスト縮減を図る軟弱地盤対策および盛土形態等について検討する。
(7)段差緩和対策の検討
従来設計では道路横断構造物や橋台基礎は沈下を許容しない構造のため,特に軟弱地盤上では盛土部との境界で大きな段差が生じるケースがある。今後は構造物基礎構造や隣接部の盛土形態を一体とした段差緩和対策について検討する。
(8)橋梁下部工の検討
これまでは一般土工部を対象とした検討を行ってきたが,事業全体でのコスト縮減を図る場合,土工部のみならず橋梁下部工および基礎工を含めた従来設計法の見直しの検討を行う。

7 おわりに
地球環境保全の観点から,道路環境による保全整備および公共工事コスト縮減対策が叫ばれている中,今後の道路計画についてはこれらを十分に配慮していく必要がある。
有明海沿岸道路は,道路環境について「緑の回廊」と位置づけ,道路緑化計画および周辺環境に配慮した「緑のみちづくり」を演出していくこととしている。
また,公共工事コスト縮減対策として,委員会を通じて「有明海沿岸道路軟弱地盤対策技術基準」の策定を行った結果を,今後の有明海沿岸地域への効率的な事業計画へと反映させて行く方針である。
最後に,今回実施する試験盛土は施工完了後約1年間の動態観測を計画しており,平成14年度に取りまとめを行う予定である。
今回のような大規模な試験盛土は全国的にも事例が少ないため,今後も経過報告を行っていきたい。

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