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オーストラリア・ニュージーランドにおける
道路防災の現状と橋梁の耐震技術

株式会社 建設技術研究所
 技術本部 技師長
松 井 謙 二

1 はじめに
我が国は,地霙や火山活動が活発であり,またモンスーン地帯に位置するため,台風,集中豪雨,豪雪といった厳しい気象条件下にある。このため,震災,火山災害,水害,土砂災害が発生しやすい環境にある。これらの自然災害に対する取り組みは,重要な社会的問題であり,道路利用者の安全性の向上を図り,被害を最小限に止める努力が必要である。近年では,防災施設等のハード的な整備を行うと同時に,道路情報伝達や災害情報システム等のソフト的な対策の構築の重要性が指摘されている。この様な状況の中で,今後の道路防災対策を実施する上で,住民と行政の関わりや危険箇所の情報公開による道路利用者の自発的な災害回避行為の考え方を検討し,情報提供を通じた地域防災管理体制の構築に積極的に取り組み,道路利用者の安全確保のため,総合的な施策を展開する必要がある。
地学的に我が国と同様な位置関係にあり,地震,洪水,火山活動,なだれ等の自然災害経験が多い,オーストラリア,ニュージーランド両国は道路の防災対策の充実度も高い。

2 道路防災の現状
●オーストラリア,ニュージーランドでは,「緊急事態業務手順」(タスマニア州社会資本エネルギー資源局(DIER,Deparfment of Infrastructure,Energy and Resources策定)的な名称のマニュアルが整備されている。
●そこでは,当局の役割と責任が明記されている。
●その整備にあたっては,過去の大災害の教訓が生かされており,かつ数年おきに見直しが実施されている。
●マニュアルには日常での災害防止活動と緊急事態での速やかな応答活動,および被災後の復旧活動が盛込まれている。
●日常の点検活動はコンサルタントや施工会社に委託されており,官民一体となって災害防止に取り組んでいる。
●地震や台風,洪水などの自然現象に対して,期待される大きさだけでなく,より具体的にその再現期間や超過確率など確率的に表現する方向にある。
●マニュアルの末尾には,「用語の定義」が記述され,読み手の誤解をなるべく少なくする工夫がなされている。

3 橋梁の耐震技術
●Thorndon(ソンドン)高架橋のCatch beam
ニュージーランドの首都Wellington地域にも複数の活断層が確認されており,Thorndon高架橋は1本の活断層をまたぐ形で建設されている。本橋は,施工前3年に埋立られたばかりの地点に建設された,延長1.3kmの上下線分離の高架橋である。本断層は最大で3.5mの断層変位を生ずるものと予測されており,その断層変位に対してCatch beam(キャッチビーム)と呼ばれる落橋防止構造を有している点に特長がある。

●Thorndon高架橋における費用便益分析(B/C分析)
ニュージーランドでは新設橋の建設,既設橋の補強を問わず,別途ルール化されている耐震・耐風に対する要求性能をどこまで満足すべきであるか,B/C分析が義務付けられている。本高架橋の例でいえば,B/C分析により「再現期間500年の地震動で設計するのが最も合理的」との結論が得られている。これは,「再現期間100年地震動に対して,完全無被害」から「再現期間2000年地震動に対して,落橋防止」対策までの4段階の耐震性能規範をB/C分析した結果である。なお,新設橋は全て「再現期間2000年」の性能をクリアすることが条件とされている。
●Otira(オティラ)高架橋の耐震設計
Otiraはニュージーランドの中で も高地震地帯に属し,Otira高架橋の建設予定地点から半径50km以内に14の活断層が存在することが知られている。このような状況から,Otira高架橋の耐震設計にあたっては,特別の地震危険度分析が実施され設計に提供されている。地震危険度分析は地質原子力科学研究所(GNS,Institute of Geological & Nuclear Science Limited)によって検討され,個々の活断層の情報(断層長,断層変位量,スリップ率)に基づき,最大生起マグニチュードMs(MCE,Maximum Credible Earthquake)および再現期間のそれぞれの最大値,最小値および提案値を推定している。この結果をうけて,その建設サイトでの応答スペクトル曲線を作成し,実施設計に用いている。この応答スペクトルは「新設建築物のための地震荷重指針」(NZS 4203:1992)や「Transit NZ橋梁マニュアル」(1994)と比べて著しく大きいものとなっている。

●Auckland Harbor橋(AHB)の確率論的B/C分析
AHBでのB/C分析では,4つの耐震性能規範について確定的に分析を実施したものではなくて,これを確率論的に行ったものである。具体的には,全ての荷重とその組合せを再現期間で表現している。設計荷重が確率的に評価しようという世界的な動きのなかで,これから確率論を援用したB/C分析の重要性がこれから一層認識されるものと思われる。
●確率論的地震危険度解析の研究
確率論的地震危険度解析(Probabilistic Seismic Hazard Analysis,PSHA)はニュージーランドではGNSによって研究されている。
「新設建築物のための地震荷重指針」(NZS 4203:1992)はGNSの1985ハザードモデルによったものであるが,指針では地域係数Zとして,全ニュージーランドのMCEによるコンターマップが与えられているだけである。しかし,GNSでは新しい荷重指針策定を目的として,PSHAを研究している。新しいPSHAは地震断層モデルと地震再現期待値を組合せて得られるもので,耐用期間50年の超過確率値を10%と20%(それぞれ475年と2,500年の再現期間に相当する)の推定ピーク地表加速度のコンターマップと5%減衰応答加速度スペクトルを提供する予定である。

4 ニュージーランドでの地震危険度分析に関する研究概観
●現在,ニュージーランド(以下,NZ)ではJoint NZ-Australia Loading Standard策定を目標として,新しい確率論的地震危険度解析(以下,PSHA)を研究中である。
●現行1985ハザードモデル:
Loading Standard NZS 4203:1992の改定を検討している。
●PSHAは,地震断層モデル(seismicity model)と地震再現期待値(earthquake reocurrencerates)を組合わせて検討される。
●PSHAは,耐用期間50年の超過確率値10%と2%(これは,それぞれ475年と2,500年の再現期間に相当する)を持った,0.2sおよび1.0s時の推定ピーク地表加速度のコンターマップと5%減衰応答加速度スペクトルを提供する。
[確率論的ハザードマップ成果(の一部)]
●Peak Ground Acceleration(g)Expected at 10% probability in 50 Years(Class B Sites)
(供用期間50年,超過確率10%[475年再現期待値]の,Class B地盤でのピーク地表加速度マップ)

●Peak Ground Acceleration(g)Expected at 10% probability in 105 Years(1000 Year PGA;Class B Sites)
(供用期間105年,超過確率10%[1,000年再現期待値]の,Class B地盤でのピーク地表加速度マップ)

●本研究での「地震断層モデル」は,活断層の地質学的データ(断層長さ,スリップ比,par­eoearthquakeデータ)と歴史地震カタログの両者を結合した成果に基づく。
●そこでは,現状では認識されていない中規模から大規模の“background”または“floating earthquake”も考慮される。
●活断層は3次元“planer”sourceとしてモデル化される。
●本PSHAアプローチの特長:
 ① 新しい地質学的データ
 ② 改良された歴史地震カタログ
 ③ 歴史地震カタログデータの新規取扱い方法による
 ④ 基盤ピーク加速度推定のための新しい減衰式

また,NZでは上記の研究成果を踏まえて,荷重指針(AS/NZS XXXX:1999)の作成が検討されている。

本稿は,松井謙二の調査記録をもとに,株式会社建設技術研究所九州支社 松永昭吾がとりまとめたものである。

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