一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
広幅鋼矢板の活用
(建設省九州地方建設局における公共工事
コスト縮減対策の平成9年度実施結果)

建設省九州地方建設局 企画部技術管理課
 施工調査係
安 仲  努

1 はじめに
現在,我が国の国家財政は危機的状況にあるとして,財政構造改革が進められている中で,政府は公共工事に関するより一層のコスト縮減のために「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」(以後「政府行動指針」という。)を策定し,同時に建設省も「公共工事コスト縮減対策に関する行動計画」(以後「建設省行動計画」という。)を策定した。(政府行動指針,建設省行動計画とも平成9年4月4日策定)
九州地方建設局は,政府行動指針並びに建設省行動計画を踏まえ,九州地方建設局として実施可能な具体策(4分野13項目115具体策)を取りまとめた「建設省九州地方建設局公共工事コスト縮減対策に関する行動計画」(以後「九州地建行動計画」という。)を平成9年7月8日に策定した。現在,九州地方建設局では九州地建行動計画を基に,鋭意コスト縮減に関する取り組みを行っているところである。
本稿は,平成9年度における九州地方建設局のコスト縮減対策の実施結果のうち,特に縮減効果の大きかった「広幅鋼矢板の活用」について紹介するものである。

2 広幅鋼矢板の概要
鋼矢板は,河川工事,道路工事等における矢板工法(土留め,締切り,止水壁,河川護岸等)に広く用いられている(図ー1参照)。

従来,矢板工法に用いられている鋼矢板は有効幅400mmの製品であったが近年鋼矢板の製造機械の進歩等により,有効幅600mmの鋼矢板(広幅鋼矢板)が新たに開発された(従来型の鋼矢板Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ型→広幅鋼矢板Ⅱw,Ⅲw,Ⅳw型)。図ー2に従来型(有効幅400mm)の鋼矢板と,広幅鋼矢板の形状を示す。

3 広幅鋼矢板の特長
広幅鋼矢板は,従来型の鋼矢板と比較すると,以下のような特長がある。
(1)必要打設枚数の減
広幅鋼矢板は有効幅が600mmであり,従来型の鋼矢板と比較して有効幅が広いため,銅矢板の必要打設枚数が従来の鋼矢板の2/3に低減される。
(2)断面性能の向上
表ー1に従来型の鋼矢板と広幅鋼矢板の断面特性を示す。鋼矢板の断面性能は,断面係数(=断面二次モーメント/製品の中心軸から縁までの距離:製品の曲げモーメントに抵抗する度合いを表す)により評価することができる。表ー1の中の,壁幅1m当たりの断面係数を比較すると,広幅鋼矢板は従来型の鋼矢板に比べて,Ⅱ型で約14%,Ⅲ型で約34%,Ⅳ型で約19%向上している。これは,表ー1に示すように広幅鋼矢板の有効高さが従来の鋼矢板に比べて高くなったため,断面二次モーメントが大きくなったからである。断面性能の向上により,例えば従来の鋼矢板Ⅳ型で施工していたものを,広幅鋼矢板Ⅲw型で施工することが可能になる。
(3)壁面積当たりの鋼重の減
表ー1の中の鋼矢板1m当たりの単位質量(kg/m)より,壁幅1m当たりの単位質量(kg/m)を算出すると,以下のようになる。
Ⅱ型  48.0(kg/m)×1/0.4(m)=120(kg/m)
Ⅱw型 61.8(kg/m)×1/0.6(m)=103(kg/m)
Ⅲ型  60.0(kg/m)×1/0.4(m)=150(kg/m)
Ⅲw型 81.6(kg/m)×1/0.6(m)=136(kg/m)
Ⅳ型  76.1(kg/m)×1/0.4(m)=190(kg/m)
Ⅳw型 106(kg/m)×1/0.6(m)=177(kg/m)
上記より,いずれの形式においても,壁面積当たりの重量が低減しているのがわかる。

4 建設省九州地方建設局における平成9年度の広幅鋼矢板の活用によるコスト縮減効果の実績
建設省九州地方建設局(以後「九州地建」という。)における平成9年度の広幅鋼矢板のコスト縮減効果の実績を示し,従来型の鋼矢板と比較した広幅鋼矢板のコスト縮減効果について紹介する。
(1)実施された工事件数及び工種
平成9年度九州地建で発注された工事において広幅鋼矢板が用いられた工事件数は計55件であり,すべてが河川工事において実施されている。さらに工種別に示すと図ー3のようになる。同図で分かるように,ほとんどが護岸基礎工,遮水矢板工等の本設工で用いられている。

(2)使用された広幅鋼矢板の形式
実施された55件の中で用いられた広幅鋼矢板を.重量ベースで形式別(Ⅱw型,Ⅲw型,Ⅳw型)に分けると図ー4のようになる。同図でわかるように,Ⅱw型の割合が約6割と最も多い。

(3)鋼矢板総重量の低減度
広幅鋼矢板を実施することによって,従来型の鋼矢板と比較して鋼矢板の重量がどれくらい低減されたかを図ー5で示した。同図は総重量の低減度とともに,形式別(Ⅱ・Ⅱw型,Ⅲ・Ⅲw型,Ⅳ・Ⅳw型)の低減度をも表したものである。同図で分かるように,まず鋼矢板の総重量が低減されている(7765t→6375t,約18%の減)。次にⅡw型,Ⅲw型の全体重量に対する割合が増加している(Ⅱ型57%→Ⅱw型59%,Ⅲ型16%→Ⅲw型28%)のがわかる。これは,前節の(2)で述べたように,断面性能の向上により,従来の鋼矢板のIV型で施工したものが広幅鋼矢板のⅢw型での施工が,Ⅲ型で施工したものがⅡw型での施工が可能になったことに起因する。

(4)使用する鋼矢板の形式が変わった事例
(3)で述べたように,構造計算の結果,使用する鋼矢板の形式が変わった工事が5件あった。その結果を下記に示す。

 事例1)仮締切工において
     Ⅳ型608t → Ⅲw型435t
 事例2)土留工において
     Ⅳ型133t → Ⅲw型95t
 事例3)矢板護岸工において
     Ⅳ型318t → Ⅲw型228t
     Ⅲ型75t → Ⅱw型52t
 事例4)矢板護岸工において
     Ⅳ型123t → Ⅲw型89t
 事例5)矢板護岸工において
     Ⅳ型123t → Ⅲw型89t
     Ⅲ型42t → Ⅱw型29t

(5)コスト縮減結果
広幅鋼矢板を活用したことによる,平成9年度の九州地建におけるコスト縮減結果を,算出方法と全体の縮減額,縮減率をあげて以下に示す。
・A工事(遮水矢板工)
 (従来型の鋼矢板)
  Ⅱ型(32.7t,135枚,L=2m,11m)
   材料費(購入)    2,660千円
   施工費(矢板打込)  710千円
  Ⅲ型(99,5t,99枚,L=16.5m,17m)
   材料費(購入)   8,160千円
   施工費(矢板打込) 1,200千円
   従来の鋼矢板  計 12,730千円
 (広幅鋼矢板)
  Ⅱw型(27.8t,90枚,L=2m,11m)
   材料費(購入)  2,280千円
   施工費(矢板打込) 480千円
  Ⅲw型(90.2t,66枚,L=16.5m,17m)
   材料費(購入)  7,400千円
   施工費(矢板打込) 720千円
   広幅鋼矢板  計 10,880千円
 縮減率(12,730-10,880)/12,730≒15%

上記の算出方法により,平成9年度九州地建全体の広幅鋼矢板を活用したコスト縮減結果は,以下のようになった(間接費を含んだ工事費による比較)。
・従来型の鋼矢板(A)   約11億円
・広幅鋼矢板(B)     約8.7億円
・縮減額(C=A-B)   約2.3億円
・縮減率(C/A)     2.3/11≒20%

5 おわりに
九州地建は,平成9年度コスト縮減の効果が得られた広幅鋼矢板を,平成10年度以降も建設省直轄工事において積極的に活用し,コスト縮減により一層努めていく所存である。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧