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平成6年度技術士試験をかえりみて
(建設部門出題傾向と解答例)

日本技術士会九州地方技術士センター
育成委員会 専門委員
総     括     矢 野 友 厚
土質および基礎     野 林 輝 生
鋼構造およびコンクリート   是 石 俊 文
河川砂防および海岸   上 村 俊 英
道     路     加 藤 啓 文

平成6年度技術士第2次試験の筆記試験は,昨年8月24日および25日に福岡市ほか7ケ所の試験場で実施され,筆記試験合格者に対する面接口頭試験は,同年11月26日から12月12日までの間に東京で実施された。技術士試験の指定試験機関である㈳日本技術士会の発表では,6年度の技術士第2次試験の受験申込者総数は21,308名で,前年度に比し実に3,121名(+17.1%)の増で,2万人の大台を軽く突破したほか,10年前の昭和59年度の8,774人に対して2.4倍強,合格者総数もまた,昨年度を24.6%上回る2,006名に達したと報じている。(なお,平成7年度の受験申込者総数は23,326名に達し,うち,福岡試験場での受験申込者数は1,883名である。)
また,建設部門の受験申込者総数は,全部門申込者総数の60.6%に当る12,913名で,このうち筆記試験受験者数は7,309名,最終合格者数は,1,121名で,合格率は筆記試験受験者数に対して15.3%,受験申込者総数に対して8.7%で,国家資格としてますます評価が高まるなか,これまでどおり試験合格は相当に厳しく狭き門であることを示している。
わが国の社会資本の一層の充実や地球環境への積極的対応,海外への技術援助等,国の内外から山積する問題について指導解決を強く要請されているなか,多くの合格者が生まれるよう期待したい。
一方,6年度より技術士試険制度の改善が実施され,建設部門と深い関係がある環境部門の新設による試験が実施された。
この新設部門は,既制度の中の建設部門の選択科目である「建設環境」と競合する懸念はないかと心配されたが,他の単一部門のみに対応する出題を除外する趣旨が実行され,いわゆる多数の他部門にまたがる環境に関連する広範な知識を問う出題として実施された。
初年度である平成6年度の設問は,例年の解答例に採択している河川砂防および海岸の出題方式と類似しており,Ⅰ-1およびⅡの問題全文を次に示す。

選択科目(19-1,2)環境保全計画環境測定
Ⅰ-1 次の問題について解答せよ。(5枚以内)あなたが体験した環境保全計画(環境測定)に関する業務について,下記3設問に答えよ。
(1)技術士業務としてふさわしいと思われるものを3つ挙げ,それぞれの業務について,技術的内容を簡潔に述べよ。
(2)(1)項に述べた業務のうちから1つを選んで,技術的問題点について詳述するとともに,あなたが果たした役割およびあなたがとった技術的解決策とその理由について述べよ。
(3)(2)項について,現時点における技術的な評価および今後の課題について述べよ。

(19-3)自然環境保全科目については,ほぼ同文であるが,(1)の技術士業務としてふさわしい云々が,得意とするに語呂が変更されているに過ぎない。
また,午後の部の環境一般の出題全文を示すと次のとおりである。

必須科目(19)環境一般
Ⅱ 次の2問題のうち,1問題を選んで環境部門全体の問題として解答せよ。
Ⅱ-1 新たな「環境基本法」の理念を踏まえ,今後の環境保全施策にどのような展開が期待されるか,あなたの意見を述べよ。
Ⅱ-2 新たな環境リスク(地球環境問題も含む。)のアセスメント(評価)とマネジメント(管理)の課題を述べよ。

以上出題について分析すれば,多数の他部門にまたがる,環境に関連する広範な知識を要求する内容となっている。
本論に戻ると,平成6年度の筆記試験ならびに面接口頭試験の試験科目と設問傾向には殆ど変化はなく,具体例をあげてその概要を記述すると次のとおりである。
まず,筆記試験選択科目Ⅰ-1(午前9時~12時の3時間で解答記述)の問題は,受験者がこれまで体験してきた技術士に相応しい業務をいくつか具体的に示させ,その業務における技術的問題点と,それに対して受験者が採った技術的解決策を具体的に記述させ,その業務の技術的特色を明らかにさせる仕組みとしている。このⅠ-1の問題は,建設部門の11種類の専門科目の全てにおいてこの10余年間,問題設問文章の文言に多少の変化はあるものの本質的に内容として同性質の設問形式をとっている。ここに一例として河川砂防および海岸I-1の問題全文を示して,受験における考え方を説明する。

選択科目(9-4)河川砂防および海岸 9~12時
Ⅰ-1 次の問題について解答せよ。(答案用紙5枚以内にまとめよ)
あなたが受験申込書に記入した「専門とする事項」について,技術的専任者として実際に行った仕事のうちから1例を挙げ技術的に説明し,現時点で評価して満足する点および反省すべき点について説明するとともに今後の技術的課題について述べよ。

1 テーマ選定の基本
テーマ選定の基本を全く誤解している人が意外と多い。例えば,①大規模な事業に従事したこと,②有名なプロジェクトに関与したこと,③目新しい仕事をなしたこと等,全く必要ではない。どこにでも見受けるような平凡な仕事であっても,「自分の頭で考えて創意工夫を生み出した」という中味である。自分自身の体験業務を選定することのみが試験官の要求している内容で,必ず理解せねばならない不可欠事項である。
なお,体験論文を仮に他人に書いて貰って筆記試験をパスしても,口頭試験の際の厳しい設問において,必ず化けの皮がはがされる運命をたどるので,絶対に自己の体験業務であること。
2 テーマ表現の良否の事例
業務の背景をうたい込み,業務の中に施した自分の働きを表現した特色を出すこと。
  悪い事例 △△橋の設計,道路の計画
  良い事例 路線選定を伴う山岳道路橋の調査,計画と評価
3 体験論文作成上の具体的配慮
① 受験申込書に記入した「専門とする事項」に整合していること
② 専門的応用能力を発揮した内容であること。
③ 社会性・経済性・地域性に富む内容であること。
④ 施工性に対する検討がなされていること。
4 論文の流れの基本
一般に「起・承・転・結」換言すれば「序論・本論・結論」という文章構成が必要である。
論文構成の概要は,①はじめに,②問題点,③技術的対応,④現時点からの批判,⑤おわりに のようにまとめれば書きやすい。
ここに文章構成の全体の流れを有する形態を紹介する。
“この事象の原因を○○○の方法で調査した。特に留意した項目は△△△であり,得られたデータを□□□の方法で分析したところ○○○であることが分かった。したがって原因は△△△であると判断し,対策の検討を行った。設計にあたっては,□□□のような点に留意し,いろいろなことを比較検討して,このような計画を立てた。結果も非常に良好であった。”
論文をドラマチックに盛りあげるよい方法であると思われる。
5 「現時点での評価」記載の一例
平成7年は年頭初より阪神大震災が発生し,国土,建造物は大災害を受けた。一方,地球環境に関する諸問題は,ますます重要度を加えている。
したがって,体験論文が構造物であれば,その安全性と環境に及ぼす影響の2点から,反省評価を加えることも忘れてはならない。
6 体験論文合格が全試験の第一ハードル
筆記試験は,午前の部として体験論文,午後の部には選択科目の必須問題と専門問題の解答を要求されるが,結果的に,午後の部がいくら良くできても午前の部の判定結果が合格ラインに達していなければ全体での合格ラインに達し得ない。
なぜか,午後の部の問題は知識を問う傾向が強く,技術士合格の補完的役割を演じているためである。したがってまず体験論文作成に全力を傾倒されたい。

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次に,筆記試験選択科目Ⅰ-2(午後1時~5時の間に,Ⅱの問題と一緒に出題)の問題は,各選択専門科目ごとに,各専門技術分野における最近の技術動向をふまえ,専門的事項について解答論述させるもので,設問内容は本稿の次項以降に土質および基礎,鋼構造およびコンクリート,河川砂防および海岸,道路の4科目についてそれぞれ一例を示したように,比較的各技術分野の基礎的技術にかかわるものが主体となっている。
I-2の問題と一緒に出題される筆記試験必須科目,Ⅱの問題は,建設部門全体に共通する事項で例年2題出題し,いずれか1題を解答させる方式で,平成6年度の問題は次のとおりである。

必須科目 (9)建設一般 1時~5時
Ⅱ 次の2問題のうち1問題を選んで建設部門全体の問題として解答せよ。(茶色の解答用紙を使用し,解答問題を明記し,4枚以内にまとめよ。)
Ⅱ-1 わが国の公共事業における新しい入札,契約制度について概説し,今後の建設部門のあり方についてあなたの意見を述べよ。
Ⅱ-2 社会経済情勢が変化するなかで,わが国の社会資本整備はいかにあるべきか,あなたの意見を述べよ。

以上のⅠ-1,Ⅰ-2,Ⅱの3科目の問題のうち,Ⅰ-1は前述のとおり問題設問文章が本質的に固定化に近い状況のため,予定答案をあらかじめ作成し,完全に丸暗記して試験にのぞむことが可能であり,3時間の解答時間で制限文字数一杯の解答を書くのが普通である。しかし,Ⅰ-2およびⅡの午後からの科目問題に対しては,受験者自身の筆記速度を考慮し,各問題に対しバランスのとれた時間配分を行うことが肝要で,以降頁の解答例に付記しているような留意が必要である。
筆記試験合格者に対して行われる面接口頭試験における設問事項にも,これまでと異なった傾向は殆ど認められず,平成6年度試験においても設問項目は次の3項目に分類要約できるようである。
① 受験者の技術的体験を主眼とする経歴の内容と応用能力を問う。
② 必須科目および選択科目に関する,技術士として必要な専門知識と見識を問う。
③ 技術士としての適格性および一般的知識を問う。
以上が平成6年度技術士試験の概要と出題傾向であるが,以下に同年度筆記試験選択科目の4問題を選定し,当育成委員会の技術士に解答の執筆をもとめ,模範解答例として参考のため例示する。
当技術士センター育成委員会は,例年,技術士試験受験者のための総合受験対策講座を継続的に実施し,九州地域受験者の受験対策に役立ってきており,技術士資格取得を目ざす技術者は気軽に当センターに相談されるようお奨めする。
なお,平成7年度の必須科目Ⅱの問題中1問は
阪神大震災による被害状況に鑑み,あなたの専門とする分野で,構造物の安全性の確認に万全を期する観点から,その指針のあり方について意見を述べよ。
これに類する出題がなされることが予想される。

土質および基礎 平成6年度
I-2 次の11問題のうち5問題を選んで解答せよ。ただし,Aグループから3問題,Bグループから2問題を選択すること。(緑色の答案用紙を使用し,問題番号欄および解答欄の書き出し欄に解答問題番号を問題ごとに明記し,Aグループについては問題ごとに用紙をかえてそれぞれ1枚(表・裏,2ページ)以内に,Bグループについては1問題1枚半(3ページ)以内にまとめよ。

問題がややシビアになった傾向はあるが,ここではBグループの2問について解答例を記載。

I-2-Ⅱ(B) 長大なのり面となる軟岩の切土計画(道路)がある。以下の設問に答えよ。
(1)軟岩の種類とその特性について述べよ。
(2)下図に示す切土の設計・施工計画のための調査・試験方法を述べよ。
(3)調査の結果,図に示した勾配では安定を確保できないことが判明した。図の勾配を確保するための対策工とその採用理由について述べよ。

1 軟岩の種類とその特性
一般的に軟岩にはその成因から堆積軟岩・風化軟岩・変性軟岩等に分類される。堆積軟岩・風化軟岩には泥岩・シルト岩・頁岩・砂岩等があり,変成軟岩に蛇紋岩・角レキ凝灰岩等がある。軟岩は土質的性質から岩質的性質までの広範囲な物質挙動を示し,一般に地滑り地帯を形成する場合が多く,次のような性質を有する。
① 軟岩は一般的に1軸圧縮強度が10~100kgf/cm2範囲にあるものを指す場合が多い。
② 物理的・力学的性質は土と岩との境界領域に位置し,マスとしての挙動は地質学的不連続性よりも地層構成物質の力学特性に支配される。
③ 地山における粒子間にセメンテーションがある程度期待できるが,堀削等の環境の変化により容易に低下する。
④ 間隙水圧は力学的挙動に大きな影響を与え硬岩とは異なり有効応力の原理が適用される。

2 切土の設計・施工計画のための調査・試験方法
①地形・地質調査…地滑地形・地質分布・地山の風化変質度
②地下水調査………地下水位・透水係数・帯水層
③土質調査………ボーリング調査・標準貫入試験・地山弾性波速度
④土質試験………1軸圧縮試験・3軸圧縮試験変形係数
3 対策工とその採用理由
① 地下水排除工
当該地域は地下水位が比較的高いことから,地山の間隙水圧が軟岩の有効応力に大きく影響することが考えられるため,水平方向水抜きボーリング等を実施することにより地下水位の低下を図る必要がある。また軟岩の透水係数が比較的高い場合には,集水井工も有効な対策といえる。
② 抑止杭工
一般に軟岩と基盤との境界部分は,風化が著しく粘土化している場合が多く,当該地域のごとく法面を築造した場合,基礎上の軟岩がマスとして移動し,法面の崩壊につながる場合が考えられる。このことから基礎上の軟岩の移動を抑止するために,場所打杭等による抑止杭工が有効な対策と考えられる。また基盤が比較的浅い位置に存在することが確認される場合,グラウンドアンカー供用による法枠工も有効な対策といえる。
③ 設計法面勾配の変更
軟岩の地山強度が低く,設計法面勾配による法面築造が不可能と考えられる場合,法面勾配を緩くする必要がある。但し,法面の長大化・用地の追加買収等の問題を有するため,充分な検討を必要とする。

I-2-8(B)市街地において,次図に示すオフィスビルを杭基礎で建設する計画がある。以下の設間に答えよ。
(1)杭基礎の設計・施工上の留意点をそれぞれ3つ示せ。
 設計上の留意点を検討するための調査・試験方法について述べよ。
(2)この地盤は最もふさわしいと思われる杭基礎を下記の4つより選定し,その選定理由を述べよ。
 ・打込みRC杭 ・埋込みPHC杭
 ・中堀り鋼管杭 ・リバースによる場所打杭

1-a 設計上の留意点
① 機種の選定
杭に作用する荷重は,地盤強度や杭体材料強度から決定される許容支持力以内に設定し,かつ建築物の重要度に応じて杭径・本数・配置等について検討する必要がある。調査・試験方法としてボーリング調査(標準貫入試験併用)は不可欠である。
② 液状化対策
地下水位(GL-2m)が比較的高く,細砂層(N=4~10,GL-10m)が存在することから,地震時に液状化するおそれがあるため対策が必要と考えられる。調査・試験方法として標準貫入試険(N値)・粒度試験等がある。
③ 地盤沈下によるNF対策
シルト層(N=2~4)の圧密沈下が考えられる場合,杭に負の周面摩擦力(NF)が生じ,この荷重と建物設計荷重との合力が杭先端地盤支持力を上回り,杭が沈下する可能性があるため対策が必要と考えられる。調査試験方法としてボーリング調査,標準圧密試験等が必要である。
1-b 施工上の留意点
① 杭材・施工機器の搬入
杭材・施工機器等の搬入に際しては,周辺道路状況を充分に留意する必要がある。
② 残土処理・排水処理
非排土杭の場合,残土処理・排水処理は不可避であるため,周辺環境を充分に考慮した施工計画が不可欠である。
③ 隣接構造物
隣接構造物の位置・構造・使用状況・重要度等を充分に調査検討し,杭施工が可能でかつ地域住民のコンセンサスを得る対策を検討する必要がある。
2 中堀り鋼管杭
以下の理由により中堀り鋼管杭工法を採用することが望ましいと考えられる。
① 施工場所が市街地であるため,無振動・無騒音工法の選定が望ましい。
② 支持層を砂礫層(N>50)とすると,杭長が約32m程度となるため,比較的軽量かつ陸送可能な短尺杭で,施工時における現地接合が容易な杭が望ましい。
③ 中間の砂礫層(礫径5~10cm,N=30)は,比較的大きな地下水流速(4m/min)を有するためリバースによる場所打杭工法は不適と考えられる。
当該工法は埋込式工法に属するものであり,支持力を向上させるため最終工程においてハンマーにより打止めるか,セメントミルクを注入して根固めを行うことも検討すべきである。

鋼構造およびコンクリート
I-2-12(D)
高強度コンクリートを使用する際の,材料,配合(調合)および施工上の留意点について,あなたの意見を述べよ。

1 材料に関する留意点
(1)セメント……設計基準強度(fck)500kgf/cm2程度迄は早強・普通ポルトランドセメント等を用いて差支えない。それ以上の高強度コンクリートでは水セメント比は30%程度以下となり一層粘性が高くなるので,より練り混ぜがし易く施工性の良い,高流動,高強度コンクリート用に開発された新しいセメント(例えば粒度調整セメントなど)を用いるのが望ましい。
(2)混和剤……f´ckが360kgf/cm2程度では通常のAE減水剤の使用で良いが,500kgf/cm2程度以上の場合は高い減水性能を発揮し,練り混ぜ性能を向上させるとともにスランプ低下抑制機能を持つ工場添加型の高性能AE減水剤を使用すべきである。しかし高性能AEに高水剤には多くの製品があり,主成分,品質,性能にもそれぞれ特徴がある。したがって,関係学会,協会等の品質に適合するものを使用し,有効かつ適切な使用を図らなければならない。
(3)混和剤……f´ckが600kgf/cm2を超える配(調)合においては,シリカフューム,高炉スラグ微粉末,フライアッシュフュームなどの混和材を使用すると製造が容易になる。各混和剤にはそれぞれ特徴があるので,品質・混和率などについては十分に調査し,適宜使い分けるとともに,適切な管理を行わなければならない。
(4)骨材……吸水率が小さく,石質としての岩石強度が大きくて,岩質と粒径に支配される破枠値の小さい骨材でかつ適切な粒度分布および微粉分を含むものを使用する必要がある。また,アルカリ骨材反応に関しては,高強度コンクリートでは単位セメント量が多くコンクリート中のアルカリ量が多くなるため,無害と判定される骨材を使用することを原則とすべきである。
2 配(調)合に関する留意点
(1)試し練り……配(調)合は,使用材料,ミキサーの能力,生コン工場の設備,品質管理能力,工場から現場迄の運搬距離などによって異なるので,プラント実機によって多数回の試し練りを行い,その特徴を把握した上で定めることが必要である。
(2)ワーカビリティーの評価……通常コンクリートのようにスランプでワーカビリティーの評価を行うことは難しい。流動性の評価はスランプよりもスランプフローの方が適当であり,スランプフロー速度等を併用することが望ましい。
(3)配(調)合強度……f´ckが600kgf/cm2以上とか大断面部材を施工する場合は,あらかじめ施工実験などによって,管理材令における標準養生供試体強度と構造体コンクリートの温度履歴に追随させた養生による供試体強度との相関を正確に求めておき,さらに偏差などを考慮して決定する必要がある。
3 施工における留意点
(1)製造管理……高強度コンクリートは,単位セメント量が多く,必然的に混和剤の使用量も多くなり,粘性の高いコンクリートとなる。したがって,十分な練り混ぜ性能を持つ強制二軸ミキサー,パン型ミキサーを使用するのが望ましい。
また練り混ぜ時間を長くする必要があり,ミキサーの負荷電流を測定することによってスランプフローを推定する製造管理が有効である。
(2)ポンプ圧送性……高強度コンクリートは一般に粘性が高くなるため,ポンプの圧力損失は通常のコンクリートに比べて大きくなり,4~6倍にも達する場合がある。ポンプ車の機種選定,配管計画を慎重に行う必要がある。
(3)仕上げ・養生……単位水量を少なく,ブリーディングもほとんど無いため,表面の乾燥が極めて早くひびわれが出やすい。仕上げ終了後,直ちに散水することが効率的である。

河川砂防および海岸
I-2-3(B)
河川堤防の破堤原因を列挙するとともに,それぞれの原因ごとに堤防護岸等を設計,施工する際の留意事項について述べよ。

河川堤防は一般に,土砂により築造されるいわゆる土構造物であり,それゆえに被災あるいは破堤・土砂の浸食やすべりなどの現象として発現する。河川堤防の破堤原因を外力と事象に分けて列記すると

堤防は,降雨による事象が洪水により発生する事象を助長したり,洪水による事象でも洗掘と浸透が助長し合ったりして破堤に至るものと考えられる。
河川堤防を設計・施工する際には次に示すように上記の原因に応じた対策工を選定・実施することが重要である。
〇 降雨による堤体への影響が大きいと判断される場合は,堤体内への雨水の浸透を抑制したりあるいは堤体面の強化を図ることとし,天端や法面に保護工を施工する。
〇 洪水に伴う洗掘に対しては,洪水の海岸付近の掃流力を低減させるために水制工を用いたり河岸の耐洗掘力を向上させるために護岸工や保護工を用いる。
越水に対しては,想定される河川水位に対して十分な堤防高を確保したり,堤体面の耐洗掘力を向上させて耐越水堤防とするなどの対策を実施する。浸透に対しては堤防断面を大型化あるいは緩傾斜化する。遮水壁やブラケット等を施すなどの対策を実施する。
なお,いずれの破堤原因に対しても,堤体土そのものの強度を向上させるために十分な締固めを行ったり,良質土・改良土を用いたりすることも重要な対策である。
更に,水衝部や旧河道部などの地形条件にあっては流速が大きかったり,透水性の高い基礎地盤で漏水しやすいこと,また,構造物周りにあっては流況が乱れたり,堤体内でのルーフィングが発生して漏水しやすいことなど水理的・土質的に不利な場所については上記のような対策を十分に実施することが必要である。
一方,河川には共有のオープンスペース,景観といった地域社会の多様なニーズ,あるいは多自然型川づくりなどに見られるような生態系の保全の場としての期待が寄せられている。これら河川への期待は破堤対策を実施する上で制約となる場合もあり,護岸等の設計・施工においては工法の選定や構造等に十分留意する必要がある。
例えば,親水性や景観性を向上させるために堤体を緩傾斜にしたり,材料や形状に配慮した護岸工を用いることが行われている。また,河川改修による生態系への影響を最小限におさえるために護岸面を現地発生土で被覆する,かくれ護岸の構造や,河川水を抑制するとともに自然の力でビオトープを形成できる水制工などの工法を設計・施工することが望まれている。
われわれの社会・経済活動が増大するにつれて,河川氾濫源への人口・資産の集中も著しくなってきており,河川堤防の安全性の向上が一層要求されている。
更に河川には,地域社会の多様なニーズや環境保全に関する期待も高まってきている。堤防,護岸等の設計・施工においては,破堤原因に応じた対策工を選定するとともに,その対策工が地域社会のニーズや環境保全に対しても十分に配慮されたものとすることが肝要である。

選択科目(9-7)道路
I-2-1 道路の機能は,交通機能と空間機能とに分けられるが,これらについて具体的に述べるとともに,これを踏まえ今後の道路整備のあり方について述べよ。

1 道路の機能
道路はわれわれの日常生活の向上や経済活動を支える最も基本的な社会資本であり,極めて多面的な機能を有している。
道路の機能の分類は大別すれば交通機能と空間機能に分けられる。
交通機能は更にトラフィック機能(自動車に限定すればモビリティ機能)とアクセス機能(沿道の土地・建物等への出入機能)に分けられる。両者はトレードオフの関係にあるため,トラフィック機能を重視すべき幹線道路にあってはアクセス機能を制限し,円滑な交通流を確保する必要がある。逆に居住地域内の道路などでは,アクセス機能を重視してトラフィック機能(走行速度,走行の快適性など)は,むしろ制限すべきであろう。
アクセス機能がもたらす間接効果として,土地利用誘導機能があり,都市部においては街区を形成し市街化を図る上で重要である。また,道路整備と地域開発との相互作用は,道路の持つ土地利用誘導機能を介して行われる。
空間機能は公共空間の限定された都市部において特に重要な役割を持っている。避難路,火災延焼防止等の遮断空間としての防災空間,採光・通風,遊び場,社交場としての生活環境空間,上下水道,架線,地下鉄,駐車場,共同溝,地下街等公共公益的施設の収容空間など道路が果たす空間機能は極めて大きく,経済,社会活動や日常生活の多様化に伴い,今後更に重要になるものと考えられる。
2 今後の道路整備のあり方
道路整備の基本方針は,国土構造の骨格としての高速自動車国道から地域社会の日常生活基盤としての市町村道に至るまでの道路網を,それぞれの分担すべき交通の性格に応じて体系的に整備することにある。
道路計画に当たっては,多種多様な機能を持つ道路で構成される道路網を,体系的・統一的に整備していく基本的な軸として道路の機能分類を考え,この考え方に基づき道路の規格。構造を決定しなければならない。
一方,豊かさの実感できる社会の実現,東京一極集中の是正と国土の均衡ある発展の推進,慢性化している交通渋滞の解消,交通安全対策,道路を取りまく環境問題等,わが国が現在抱えている課題解決という視点に立って道路整備を実施しなければならない。
道路は,その道路が担うべきネットワーク特性,交通特性により,主要幹線道路,幹線道路,補助幹線道路,その他の道路に分類することができ,それぞれの道路について配慮すべき事項は次のとおりである。
主要幹線道路は,地方部にあっては,自動車走行の円滑性・快適性を重視し,走行速度を高くし,必要に応じてアクセスコントロールを行うとともに沿道環境に十分配慮する必要がある。その結果,地方圏と大都市圏,地方圏相互が短時間で交通が可能となり,それぞれの地方圏において多様で選択性のある質の高いサービスが享受でき,バランスのとれた国土利用ができる。都市部にあっては,自動車走行の円滑性・快適性を重視し,アクセス械能にも配慮しつつ走行速度を比較的高い水準に保つとともに,都市空間機能,沿道環境に十分配慮する必要がある。その結果,交通渋滞の解消,生活環境へのインパクトを軽減できる。
幹線道路は,地方部にあっては,アクセス機能にも配慮しつつ,走行速度を比較的高い水準に保つとともに,都市空間機能,沿道環境にも配慮する必要がある。
補助幹線道路は,走行速度で高い水準は要求されないが,自動車走行の快適性を損ねないように配慮する必要がある。
その他の道路は,アクセス機能,歩行者,自転車利用者の安全性・利便性を重視し,自動車の走行速度は低くてもよい。都市部にあっては,住区形成等の都市空間機能を考慮する必要がある。
次に,公共公益施設の種類も技術の進歩と国民のニーズの多様化に伴って増加する傾向にある。高度情報化社会の早期実現や,電線等の地中化による歩行者空間の確保,良好な都市景観の形成等のまちづくりのため,道路地下を活用したキャブシステムや,さらには電線共同溝(C·C·BOX)等道路を占用する公共施設は年々多様化大量化の一途をたどっている。したがって,大量の占用物件に関する管理については,従来からの道路台帳・占使用台帳では対応できず,大量の各種情報を総合的に管理する図面処理を基礎とした道路管理システムを開発導入して地下埋設物等の管理の適正化・効率化および迅速化を図り,道路が持つ防災機能や収容空間機能を効果的に発揮させる必要がある。また,緑を提供し,幅広い歩行者空間を確保することにより,通風,採光等良好な景観と環境空間を提供し,歩行者,自転車利用者の安全確保は勿論,沿道の生活環境保全に配慮する必要がある。

答案作成上の注意
① 筆記速度を養成し,I-1以外の全問題答案へ指定枚数の80%以上埋められること。
② 報告文ではない論文となるためには,自分の意見・見解が述べられること。
③ 記載順序を体系づけて,論述の展開へ配慮し,主張内容に一本の筋が通されること。
④ 多義的に読める曖味な表現を避け,一義的にしか読まれない文章が書かれていること。

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