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九州技報 第19号 巻頭言

佐賀大学低平地防災研究センター
センター長
三 浦 哲 彦

公共事業にVE制度を導入しようとする動きがある。Value Engineering(価値工学)は,簡単に言えば,“定められた費用の中で,より高い機能を引出す工学的手法”と表現できよう。従来から知られている類似の概念としては費用便益分析がある。当然とも思えるVE概念が今になって大きくクローズアップされた背景には,費用便益分析の単なる再認識,拡張解釈にとどめるべきではない,という意図が感じられる。公共工事における計画・設計・施工・維持の一連の作業が,慣習化されてしまっている現状を見直し,担当者たちに総合的かつ技術的観点から仕事を再検討する動機を与える,というインセンティブな側面が大きいのではないか。
VEのことにふれたのは,公共工事をトータルコストで実施することのVE的効果をごく最近経験したからである。軟弱地盤上に道路を施工する,と完成後間もなく舗装体重量と交通荷重の影響で圧密沈下を生じ,杭支持された構造物との境界で段差が発生する。佐賀平野のような地盤沈下地帯においては,新設道路は交通荷重に解放される前に段差が生じることがあり,年度替わり早々に手直しを余儀なくされる場合もあって,担当者は単年度工事の制約と解決可能性の間で悩む。
慣習的な従来法に対する代替案として,初期投資型方法とトータルコスト法の二つが考えられよう。前者の例として道路全線に深層混合処理工法を適用すること等が考えられる,が一時的投資額が大きく,しかも完全な問題解決とはならないのが難点である。トータルコスト法については,維持費の一部を初期建設費にまわすことで両者合計を最小にできないか,との期待がもてる。軟弱地盤上の道路の残留沈下量を横座標に,コストを縦座標に選ぶと,残留沈下量が大きくなるに従って初期建設費は小さくなり,維持費は大きくなる。そして両者のトータルコストは極小値を示すことが予測される。このことが共同研究で実施した試験舗装において実証されたのである。
共同研究でわかったことは,初期建設費と段差緩和のための維持費の和で比較する限り,従来工法は高くつき,初期建設費の高い工法の方が経済的であるということである。また,従来工法に少しの追加投資を行うことでトータルコストは最小値に近づく。これらの結論を導くには,道路沈下に及ぼす交通荷重の影響などの地盤工学上の判断が求められ,またトータルコスト法が採用できる,との前提が必要である。この検討結果に到達したときに技術者は大きな責任を果たせたという満足感を味わうことができた。トータルコストの視点に立ち,さらに利用者の快適性を加味した観点から公共工事を見直すことは,すなわちValue Engineering的検討を加えることであるといえよう。
この考え方が本格的に導入されて,技術者の意識改革が進展することを期待したい。

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