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建設技術をとりまく最近の動向

建設省九州地方建設局企画部
 技術調整管理官
森  将 彦

1 はじめに
我が国の建設技術は第二次大戦後の国土復興期から高度成長期を経,今日までめざましい発展をとげてきた。
ブルドーザーやダンプトラックに代表される機械化施工による施工の効率化,大型化といった側面から,長大橋や高層ビルに代表される素材や設計施工技術の高度化による建設物の大型,長大化といった側面,公害など建設行為に付随する負影響の抑止や克服といった側面,さらには近年の自然や生態地球環境,省資源からゆとりや感性など幅広い環境の保全や創造といった側面など,時代ニーズと共に広範な発展をとげてきている。
これらは安全や公害等の施工環境を含めた広義の品質とコストニーズに対処する,技術の基本使命に即した発展である。
一方,近年の公共業務における入札契約制度の改革やWTOなどの国際化とも関連し,技術評価の透明性,客観性を支える技術の確立が課題となっている。
また機能や生産環境等を含めた広義の品質やコスト側面においても,個々のパーツとしての視点から,生産システム全体としての視点,利用者や社会全般とのかかわり,施設ライフサイクル全般からの視点など,運用やシステムを含めたより広い視点にたった対処が要請されてきている。
また,最近の阪神大震災や北海道でのトンネル事故などに見られたように,危機管理や緊急対処などの非常時間題や,安全度等の技術前提となる根幹部分の社会理解やコンセンサスなど,技術根幹への社会の関心も高まってきている。
これら最近の動向は,ユーザーがセクションの専門家に委ねた時代から,技術前提や手続,品質結果などの要所は広範なユーザー視点での理解や,客観証明などを求める時代へと進展しているようにうかがえる。
換言すれば,すべてをセクションの専門家のみに委ね得ない,専門家にとっては厳しい時代に入りつつあると見ることもでき,また逆の視点に立てば,建設技術への社会の関心や参加意識が高まった証しでもあり,建設技術発展の重要な環境ステップと考えることもできる。
また,これらは従来よりの多様なニーズに向けた技術発展への取組と並行して求められている新たな技術視点であり,建設技術への要請が広領域化している証しでもある。
本稿では,これら最近の建設技術に寄せられる新たな視点について,公共建設事業をとりまく動向を概観しつつ,いくつかの例示をまじえ,考察することとする。

2 建設技術をとりまく新たな視点
(1)技術評価の客観性,透明性の確保
近年の公共調逹の入札契約制度の改革は手続の透明性,客観性,競争性の確保をベースとして構築されている。
手続等の客観性,透明性の確保は個々の技術や品質などの技術評価の透明性,客観性と連動するものであるが,これら評価技術はまだまだ未確立の分野が多く早急な開発が待たれる技術課題も多い。以下にいくつかの技術視点を例示する。

① 品質評定技術
品質検査に基づく成績評定(点数評価)においては定性的,定量的な各評価要素を共通の数値尺度で評定するものである。
個々の強度や出来型,また施工過程の安全対策などの性格の異なる品質要素を共通の尺度で評価し全体としての評定を下す技術である。
これらは公共調達の成果評価と共に,担当企業や技術者評価とも連動するものであることから客観,透明性のある評価技術としての確立が待たれている。
これらは以降に述べる検査技術や品質証明技術などと連動して構築されるものであり,個々の客観判定技術を基とした総合評価技術としての確立である。

② 検査技術
検査判定や品質評価の客観,透明性を支えるものとして個々のパーツでの検査や品質証明技術が重要となっている。例えば
・複雑な鉄筋組立てでも瞬時に鉄筋配置,間隔や径,かぶりなどを計測できる,パソコンと一体化した撮影計測技術
・ITVや判読性能の高い高精度カメラなどを複合化した遠隔監視からマクロ,ミクロ判定や事後証明などを可能とする技術
・コンクリート強度や盛土密度測定や鉄筋検知技術などの非破壊検査技術の高度化
などの個々のパーツや段階での品質検査,証明への技術の確立である。
これらは前述の品質評定や後述する品質証明等の根幹となるものであり開発が待たれている。

③ 品質保証,品質証明技術
調達契約においては受託者が成果にかかる品質の責任を持つものであり,生産者としての成果品質の証明も重要な課題の一つである。また生産システムや体制全体として品質の保証や信頼をどう提供できるかは,企業等の公正透明な評価の重要な要素であり,これら課題にかかる制度や技術の確立も重要な課題である。例えば
・個々の企業で取組まれている現在の任意社内検査においても,今後は契約成果としての品質証明システム,また技術体系として発展,確立する必要が生じている。
・生コンなどの主要資材等での試験や常時品質管理,個々現場での検査から第三者監査や評価などを含めた生産システム全体としての品質評価や認定制度,技術なども課題である。
・ISO9000番シリーズのような国際的品質保証制度は,WTO(政府調達協定)の発効等とも関連し今後の課題である。
などの制度やシステム,技術の確立などである。

(2)多角的視野からのコストニーズヘの対処
内外価格差,民間におけるリストラや価格破壊等とも関連し,所要の品質確保を前提としつつ,従来の慣習や常識にこだわらない新たな発想や,より広範な視野から技術やシステムを発展,高度化させ,一層のコスト縮減を図っていくことが強く求められている。
また,これらの領域においては企業や産業界での対応と共に,関係行政や利用者も一体となった幅広い取組が望まれる課題もある。
以下に,いくつかの技術視点を例示する。

① 内外価格差の活用
所要の品質のもとでは安価なことが選択の原点であり,内外価格差でのコストメリットの活用という視点である。
ここでの技術課題は前節の品質評価の客観性,透明性確保とも関連するが,海外資材や技術の評価や保証といった技術制度と,流通からアフターサービスまでを含めたシステム全体としての制度や技術である。
また国際化の中での国際障壁の低下と共に,資材等の海外生産も拡大していくことが予想されるが,海外資源等をベースとした生産技術,管理技術なども今後の重要な課題である。

② 規格等の標準化と生産性向上
資材や製品等における,個々の利用者ニーズに対応した生産者の多品種の品ぞろえは,往々にして全体としての生産性を下げ,ひいてはコストアップしているようなことがある。
例えば,コンクリート製品や鋼材等の各種資材等においてもこれらの傾向がうかがえる。
本来価格は需要と生産コストにより設定されるものであるが,現実には売れるもの売れないものが混同化された全体価格体系となっているケースが多い。
本来は,売れないものは高くなり市場の中で自然に規格種が淘汰されるものであるが,まだまだ顧客と生産者の立場としての課題もあり,利用者においても規格等の標準化を促し,生産性向上とコストメリットを誘導してゆく必要がある。
これらは利用者と生産者との意志疎通と広い領域での運用を促す情報を含めたシステム技術である。
また,標準化においては多用されている標準設計等においても人件費のコストアップとも関連し,資材,労力等全体コストからみた作りやすい標準設計化も課題となっている。

③ ライフサイクルとしてのコスト
公共資産は長い時代にわたり広く一般に供用することを使命としており,当然生産コストと共に長い時代の維持コストが必要である。
維持は膨大な時間の維持体制コストが伴い,これらを含めた意識が必要であり,長い時間軸での品質とコストの総合評価技術である。
これらは従来からの重要な技術課題の一つであるが,品質ニーズや維持コストの変貌をも勘案した高度の総合評価技術課題である。

④ 情報化による重複コストの縮減等
公共資産の生産に際しては,調査計画から設計,積算,発注,施工,監督検査,完成,供用,維持管理へと各プロセスがあり,プロセス間における情報の共有と伝達は品質確保はもとより全体としてのコストに大きな意味合いを持っている。
昨今の情報通信技術の発達によりパソコンネットワークを通じた情報の伝達や共有,意志決定などが可能な時代となってきており,図面等の情報化技術(CADなど)の発達とも連動して建設分野においても建設CALS(公共事業支援統合情報システム)の検討や開発が進められている。
またここでは入札契約等での電子調達のような領域までも将来的には想定されており,調達行為を含めた広い領域での情報化とペーパレス化を促し,セクション間の重複業務や作業を省き,情報の共有化による効率や品質向上,意志疎通の敏速化など業務推進体制全般の効率化と品質向上,そしてコスト縮減を意図するものである。

(3)多様な品質へのニーズ
目的物の機能や資質,生産過程での環境影響などの広義の品質ニーズヘの対応は従来からの技術開発の視点であり,ここで取り上げるテーマではないが,最近の新たな動向として,例えば阪神大震災等を契機とした安全にかかる国民意識の高まりの中での,危機管理も含めた安全への技術体系の開発,確立への要請。
また,安全対策技術や環境保全,省資源,リサイクル技術など採算ベースで捉えにくいが,行政の支援やシステムと一体となって開発確立が要請されている技術課題などである。
これら課題は民間サイドの開発を待ってのみ達成される性格でなく,発注機関や行政サイドも一体となった対処が求められている技術課題である。
これらの品質ニーズにかかるいくつかの視点を以下に例示する。

① 安全確保と危機管理
安全性とコストは一般的に反比例するものであるが,ものによってはコストを越えた意識が求められるものもあり,また安全率等の技術の根底部分においても,専門家の理解のみでなく広く社会や一般の理解や賛同が求められるものもある。
このような技術の安全の前提や危機管理等においては,社会理解や社会参加の誘導等を念頭においた技術や指標,システムが重要であり,また危機管理に際してはノウハウを持った経験者等の支援体制や情報体制等を日頃より構築しておくことも重要である。

② 多様なニーズヘの多様な対処
社会ニーズはありつつも民間レベルのみでは開発が進みにくい技術課題も多い。これらにおいては行政と一体となった共同開発や行政側での技術の取扱いや技術仕様などの中で社会ニーズに沿った技術発展を促していくことが求められるケースも多い。例えば
・昨年は労働災害死者が大幅に増大し,交通もらい事故なども顕著な増加を示しているが,「運転者が悪い」,「任意仮設だから施工者まかせ」でなく,安全仮設の技術開発支援や技術要件を定めた技術仕様の設定など。
・自然生物の生息環境保全等を意識したエコロジー技術,さらにはエコロードのような施設計画,設計,管理体系全般としてのエコ技術の開発,確立など。
・省エネルギーの観点から,例えば施設メンテナンスに要している膨大な電気などを自施設空間での技術工夫で生む技術思想など。
など建設事業にかかわる各立場の者が適切な役割を分担しつつ,一体としてニーズに対処していくことが求められている課題も多い。

3 おわりに
本稿においては,昨今の建設技術によせられる従来とはやや異なった視点等について,いくつかの事例例示を通し概観してきたが,これらの視点は従来からの各分野での品質やコストにかかる技術のさらなる発展と連動して要請されているものである。
またマクロに捉えれば,従来の個々の領域での技術開発をベースとし,生産者や利用者から社会全体までの広い視点から個別の技術を連携させ,制度やシステムといった側面までも含めた技術体系として取組むことが求められてきていると考えることも出来る。
また,これら新しいニーズ視点には従来の慣習や常識から離れ再度,原点から見るという視点も重要な要素として含まれている。
九州においてもこのような広範な立場や領域から建設技術を考えていくために,地方行政や関係業界等を含めた「九州建設技術開発会議」を設置し技術意識の高揚や技術開発の推進,また新しい技術情報の提供などの活動も行っており,本年度は「コスト縮減技術」や「検査技術」,「施工管理の情報化,ペーパレス化技術」などを重点テーマに設定し,技術開発の推進や支援にかかる取組を推進していくこととしている。
建設技術の発展,高度化は社会やユーザーの視点を根底に意識し,企業や業界,発注者,行政そして研究機関それぞれが,建設技術への意識を明確に持ち,意志疎通や役割分担などの連携を保持しつつ,すべての関係者が一体となってユーザーに良質,安価な成果を提供するという構図が重要となってきている。
また,こられの連携対処に際しては,各者の役割と責任を明確にしていくことも重要な要素である。

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