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平成3年度技術士試験をかえりみて
(建設部門出題傾向と解答例)

日本技術士会九州地方技術士センター
受験対策委員会専門委員
総     括     矢 野 友 厚
土質および基礎     野 林 輝 生
鋼構造およびコンクリート   是 石 俊 文
河川砂防および海岸   中 島 義 明
道     路     久保田 信 一

平成3年度技術士第2次試験の筆記試験は,昨年8月21日および22日に福岡市ほか7箇所の試験場で実施され,筆記試験合格者に対する面接口頭試験は同年11月30日から12月15日までの間に東京で実施された。技術士試験の指定試験機関である㈳日本技術士会の発表では,3年度の技術士第2次試験の受験申込者総数は14,852名で,6年連続して10,000人の大台を越え,10年前の昭和56年度の5,802人に対し実に2.6倍弱,合格者総数もまた技術士制度創設以来の最大数1,469名に達したと報じている(なお,平成4年度の受験申込者総数は17,517名に達し,うち福岡試験場での受験申込者数は1,301名である)。
建設部門の受験申込者総数は9,109名で,このうち筆記試験受験者数は5,156名,最終合格者数は814名で,合格率は筆記試験受験者数に対して15.8%,受験申込者総数に対して8.9%で,国家資格として評価が高まるなか,これまでどおり試験合格は相当に厳しく狭き門であることを示している。わが国の社会資本の一層の充実が要請される中,多くの合格者が生まれるよう期待したい。
同年度の筆記試験ならびに面接口頭試験の試験科目と設問傾向には殆ど変化はなく,具体例をあげてその概要を記述すると次のとおりである。
まず,筆記試験選択科目Ⅰ-1(午前9時~12時の3時間で解答記述)の問題は,受験者がこれまで体験してきた技術士に相応しい業務をいくつか具体的に示させ,その業務における技術的問題点と,それに対して受験者が採った技術的解決策を具体的に記述させ,その業務の技術的特色を明らかにさせる仕組としている。このⅠ-1の問題は建設部門の10種類の専門科目の全てにおいて,この10年余問題設問文章の文言に殆ど変化が見られず,次に示す一例(河川・砂防および海岸Ⅰ-1問題全文)に見られるような設問形式を毎年踏襲し続けている。

選択科目(9-4)河川砂防および海岸  9~12時
Ⅰ-1 次の問題について解答せよ(答案用紙5枚以内にまとめよ)。
あなたが受験申込書に記入した「専門とする事項」について,直接体験した業務のうち,技術士としての業務に最もふさわしいと思われるもの1例を挙げて,下記3項目について述べよ。
 (1) その業務の技術的内容
 (2) あなたが果した役割
 (3) 技術的な評価および今後の課題

次に,筆記試験選択科目Ⅰ-2(午後1時~5時の間に,Ⅱの問題と一緒に出題)の問題は,各選択専門科目ごとに,各専門技術分野における最近の技術動向をふまえ,専門的事項について解答論述させるもので,設問内容は本稿末尾に,土質および基礎,鋼構造およびコンクリート,河川砂防および海岸,道路の4科目についてそれぞれ一例を示したように,比較的各技術分野の基礎的技術にかかわるものが主体となっている。
Ⅰ-2の問題と一緒に出題させる筆記試験必須科目,Ⅱの問題は建設部門全体に共通する事項で,例年2題出題し,いずれか1題を解答させる方式で,平成3年度の問題は次のとおりである。

必須問題(9)建設一般  1~5時
Ⅱ 次の2問題のうち1問題を選んで建設部問全体の問題として解答せよ(茶色の答案用紙を使用し,解答問題番号を明記して4枚以内にまとめよ)。
Ⅱ-1 自然と調和のとれた快適な社会環境を実現するために,わが国の社会資本整備はいかにあるべきか,あなたの意見を述べよ。
Ⅱ-2 わが国の建設部門における市場開放や外国人の就労が話題となっているが,これについてあなたの意見を述べよ。

以上のⅠ-1,Ⅰ-2,Ⅱの3科目の問題のうち,Ⅰ-1は前述のとおり問題設問文章が事実上固定化されているので,予定答案をあらかじめ作成し,完全に丸暗記して試験にのぞむことが可能であり,3時間の解答時間で制限文字数一杯の解答を書くのが普通である。しかし,Ⅰ-2およびⅡの午後からの科目問題に対しては,受験者自身の筆記速度を考慮し,各問題に対しバランスのとれた時間配分を行うことが肝要で,本稿末尾の解答例に付記しているような留意が必要である。
筆記試験合格者に対して行われる面接口頭試験における設問事項にも,これまでと異なった傾向は殆ど認められず,平成3年度試験においても設問項目は次の3項目に分類要約できるようである。
Ⅰ 受験者の技術的体験を主眼とする経歴の内容と応用能力を問う。
Ⅱ 必須科目および選択科目に関する,技術士として必要な専門知識と見識を問う。
Ⅲ 技術士としての適格性および一般的知識を問う。
以上が平成3年度技術士試験の概要と出題傾向であるが,以下に同年度筆記試験選択科目の4問題を選定し,当受験対策委員会の技術士に解答の執筆をもとめ,模範解答例として参考のため例示する。
当技術士センター受験対策委員会は,例年,技術士試験受験者のための総合受験対策講座を継続的に実施し,九州地域受験者の受験対策に役立ってきており,技術士資格取得を目ざす技術者は気軽に当センターに相談されるようお奨めする。

土質および基礎 平成3年Ⅰ-2-12(C)
下図に示すように,図中の右側の地山を切土し,これを盛土材料として軟弱な沖積土上に盛土して宅地造成する計画がある。敷地境界に道路,民家が隣接している。以下の設問に答えよ。
(1)施工中および完成後に発生すると思われる問題点を挙げ,それについて説明せよ。
(2)(1)に挙げた問題点に対する対策について述べよ。

1 施工中および完成後に生じると考えられる問題点
(1)施工中に生じると考えられる問題点
① 基礎地盤が沖積軟弱粘性土(N=0~2)であることから,造成盛土工事におけるトラフカビリティ確保のため高盛土施工となり,盛土の充分な締固めを行うことが困難となり,その結果,盛土端部法面の破壊および盛土の圧縮沈下等の原因となることが考えられる。
② 盛土施工による基礎地盤上への急速な上載荷重の増加により,基礎地盤の滑り破壊および側方流動等が生じ,盛土端部法面および近接構造物(道路盛土・民家等)に変形・破壊等が発生することが考えられる。
(2) 完成後に生じると考えられる問題点
① 盛土高さが4m程度であることから,盛土による沈下量はさほど大きくはないが,沈下が将来にわたって継続する可能性があり,地下水の汲み上げによる広域地盤沈下と相まって障害となることが考えられる。このような圧密沈下は盛土周辺基礎地盤を引き込む形での不同沈下を生じさせ,近接する道路では勾配の変化による平坦性の悪化,および道路舗装の破壊が生じ,また近接する家屋および地下埋設管等に変形・破壊が生じることが考えられる。
② 一般に谷部の軟弱地盤では,腐食土や有機質粘性土が上部軟弱層を形成している場合が多いため圧密沈下量が非常に大きくなり,また,土量のバランスを図るうえから台地を切り取って谷部へ埋めることが多いため高盛土となり,この面からも更に沈下量が大きくなり,切盛境部に不同沈下が生じることが考えられる。
2 上記問題点に対する対策
(1)施工中における対策
① 盛土施工時におけるトラフカビリティを確保するために,ジオテキスタイル等を活用した浅層地盤改良工法の採用が必要であり,また施工中の盛土の安定を図るために,施工管理による入念な施工が必要である。
② 盛土施工に伴う基礎地盤の滑り破壊および側方流動等を防止するため,盛土速度のコントロールを行って基礎地盤のセン断強度の増加を図るか,次図に示すように,近接構造物(道路盛土・民家等)が存在する敷地境界附近に鋼矢板・地盤改良杭等による応力遮断壁を設置する必要があり,更に動態観測を実施しながら盛土を行う,いわゆる情報化施工が極めて重要である。

(2)施工後における対策
① 一般に,宅地造成が完了した場合直ちに分譲および住宅の建築が開始される場合が多いことから,造成盛土完了後の地盤の残留沈下をどの程度に抑えるかが極めて重要な問題となる。このため,造成完了後の残留沈下量を抑えるために地盤改良工法の採用が必要となる。
近年の軟弱地盤における造成工事の地盤改良工法としてサンドドレーン工法,パックドレーン工法等が広く採用される傾向にあるが,これらの工法を採用する場合地質条件・経済性・施工計画等を総合的に検討することが不可欠である。更に大規模な地盤改良を実施する必要がある場合,現地に適した工法を選定するために試験施工を実施して効果の確認をすることも必要であろう。
② 切盛境部では,盛土の転圧不足や浸透水・地下水の盛土への浸入等などにより盛土の不同沈下が生じやすいことから,地山部分の段切りによる入念な締め固めおよび暗渠排水施設の設置等により不同沈下の緩和をはかる必要がある。

鋼構造およびコンクリート 1-2-11-(C)
コンクリート構造物の施工の省力化を図る工法を3つ挙げ,その現状を述べるとともに今後の展望についてあなたの意見をのべよ。

1 コンクリート・ディストリビューター工法
コンクリート圧送工法では先端のフレキシブルホースは200kg以上と重いうえ,コンクリート打設時の脈動のためボンプ工が数名で筒先を抑えて打設している。その作業は大変な重労働で,要する労務量も大きい。また配管盛替え時に打設が中断され,打設能率の低下をまねく。
そこで,コンクリートポンプにより連続圧送したコンクリートを,コンピューター制御による自動位置決めで自動的に分配して回るデイストリビューターによって打設するシステムが開発され定着した技術となった。
建設省のMダム工事の非常用洪水吐のコンクリート施工では自走式(最大打設半径26m,最大打設高24m)とインクライン搭載式(最大打設半径16m,最大打設高25m)が使用された。また,原子力発電所建設工事では更に大型のデイストリビューター(最大吐出量100m3/h,最大リーチ32m,旋回角度400°,使用輸送管125 A)が使用されている。なお,同様の機能を持つものにコンデイスクレーン(自動制御式プレーシングクレーン)がある。

2 PC埋設型わく合成床版工法
プレストレストコンクリート板(以下PC板と略称)をプレキャスト部材とし,合成桁の原理にならい,ステージング無しでコンクリート床版その他の部材を施工する方法である。本工法は最初道路橋の床版工事において支保工・型わく工事を改善することにより施工の省力化と工期短縮を図る目的で開発された。
使用するPC板の種類は,平型板・リブ付き平型板・チャンネル型板等(図ー1)で,スパンに応じて選択使用される。これらは型わく・支保工としての役割を果たすだけでなく,現場打ちコンクリートの硬化後は,さらに合成断面の一部として荷重にも抵抗する。
本工法は現在建築の分野でもチャンネル型板を用いて集合住宅・学校・体育館などで活用されている。

3 締固め不要コンクリート工法
バイブレーターによる締固めをしなくても型わくの隅々まで行き渡り,しかも材料分離の少ない高流動コンクリートを使用する工法である。配合設計を十分検討し,品質管理を徹底することによって,市販の材料を組み合わせることだけで締固め不要が実現可能で(表ー1)締固め作業の労務者は不要となる。配合は,開発機関によりかなり異なる。例えば,粉体材料として,セメントの他に高炉スラグ微粉末とフライアッシュを用いる配合・セメントと石粉を用いる配合・セメントのみの配合などである。高流動性の付与および材料分離に対する抵抗性の増大は,固体粒子(粗骨材から粉体粒子まで)の組合わせと高性能減水剤の混和・増粘剤等の高分子剤の添加等によっている。

4 今後の展望
施工現場での作業員と必要な技能工の数を減らし,工期の短縮,作業の安全性の向上などの省力化・合理化を推進する工法として,上記3工法のそれぞれが著しい効果を持つ。
今後更にこれらを有機的に連携すれば,埋設型わくと工場で加工組立てられた鉄筋を現場で組立て,締固め不要コンクリートをポンプからデイストリビューターを通して流し込むという施工法も十分可能となろう。それが実現した場合の省力化効果は非常に大きいと考えられる。上記の3工法の一層の研究開発と進展がおおいに期待される。

河川砂防および海岸 Ⅰ-2-11-(B)
河川管理における河川環境管理の必要性の背景と河川環境管理について基本的考え方について述べよ。  (800字詰2枚以内)

1 河川環境管理の必要性の背景
河川は,国土の重要な構成要素であり,その治水および利水機能の増進によって,私達の生活領域・生産活動の拡大を可能にしてきた。
その一方で,河川は,存在そのもの,すなわち河川環境を通して人々の生活環境や地域の風土・文化等に大きな影響を与えてきた。
近年河川の流域は都市化の進展,生産活動の拡大等によって急激に変貌し,これに伴って河川環境が著しく変化するとともに,地域社会の河川環境に関する要請も一層増大し,かつ極めて多様化するに至った。特に市街地に隣接する河川については,その広大な河川空間に対し貴重なオープンスペースを提供する空間として多くの要請(レクリエーション空間,防災空間等)の受け皿としてその利用が積極的に進められてきた。
しかし,そのような河川空間利用が強まるに従い,人々の自然志向の高まりのなか,河川本来の自然環境の保全や自然とのふれあいの場づくりと地元レベルでの利用要請との調整や,さらに河川の水系一貫としてとらえた適正な河川空間の保全と利用との調整等多くの河川空間の管理を図るための理念を明らかにすることが必要となってきた。
さらに,河川を構成する最大の要因である流水に対しても,水需要の増大や都市化に伴う水質汚濁等,水質・水量の管理のための施策方針を確立することが必要になってきた。
このような背景のなか,昭和56年に河川審議会は「河川環境管理のあり方」として,河川環境管理に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本方針を明らかにするとともに,その実施体制や財源措置等を充実させる必要があるとし,河川環境管理の理念等に対する答申を行った。この答申に基づき,「河川環境管理基本計画」が現在直轄河川109水系のうち107水系が策定され,さらに2級河川についても精力的に策定の作業が進められている。

2 河川環境管理に対する基本的考え方
河川環境の管理にあたっての基本的考えかたを次に示す。
① 河川の環境は,河川ごとに流域の風土・文化や歴史,あるいは河川特性等は異なり,それぞれ個性豊かなものであること。
② 河川沿線に集中する生命・財産を洪水から守る治水機能や生活・産業の維持や発展に必要な利水機能の確保については,河川環境管理を行う場合においても前提となるべき事項である。
③ 河川の持つ自然環境は,他の陸域では得ることのできない特有・多様なもので,かつ身近に接することができる自然である。
④ 河川は流域全体の土地利用等と密接な関係をもつものであり,特に,山林保全等は河川の水量・水質の維持に欠かせない。
⑤ 河川は流域の市町村を結び,地域間の交流の軸,あるいはネットワークとして位置づけられ,いわゆる流域文化圏を構成する等と地域の連帯づくりや活性化のシンボルと成りうる。
このように河川により異なる個性と,共通した河川の役割や機能を踏まえ,地元からの河川空間に対する要請を調整しつつ,地域に望まれる河川づくりを進めるための適正な河川管理の方針を定めなければならない。方針を定める手順を以下に示す。

道 路 I-2-1
道路,鉄道,船舶等各種交通手段からなる総合交通体系における道路交通の果たす役割について述べよ。 (3枚以内)

1 まえがき
人間生活に不可欠な人や物の移動からなる運行は,交通・輸送という地域社会存立のための基本的行為である。経済社会の成熟化したわが国では自動車の保有台数が急増して国民生活の中へ深く入りこみ,モータリゼーションが進行している。
歩行者・自転車等や自動車の通行方法よりなる道路交通は,需要者ニーズに応えた自動車の大衆化から,運行の中心的役割を担うようになってきた。以上このような観点から,交通体系の基本的視点,および各種交通手段の特質について考察したのち,道路交通の果す役割について述べる。

2 交通体系の基本的視点
主体の移動する交通●●と移動を委ねる輸送●●とを総称した運行●●の通行路という交通手段は,陸上通行路の道路交通と鉄道交通をはじめ,河海航路の船舶交通,航空路の航空交通やその他施設交通とに分類される。これらの交通手段が果す機能的役割を論ずる場合は,各々が本来有する利用範囲,多様性,必要な施設,交通手段としての完結性や経済性を要素として評価しなければならない。即ち効率的な交通施設をもって効率的に利用するためには,各種の交通手段へ固有な技術的特徴を望ましい組合せによって最大限に活かし,様々な運行形態へ応えられるような総合体系を築いていく必要がある。
従って,国民経済上最大の交通効果をあげるべく各種交通手段での交通体系を確立していくため,それらを総合した有機的一体化を図って各機能を相関的に発揮するような配慮が基本的な視点におかれなければならない。

3 各種交通手段の特質
上述した評価要素に基づき,各種の交通手段についての特質を比較検討すれば次のとおりである。
最初に,利用範囲では,線的通行の鉄道や船舶が駅や港間を連絡し,道路網の面的な自動車類があらゆる地点まで到達できる。面的な航空機は空港を発着地点とするのは当然である。
次に輸送能力については,運輸量の点で最小の自動車が数十トン,最大の船舶が数万トンと大差を示す。所要時間面では航空機が圧倒的に早く,船舶が極端に遅い。また交通の多様性においては交通者の自由自在な移動が可能で各運行パターンへの対応が容易であるため,ユーザーの主体的な好みを自動車のみが満足できる。
そして必要な施設はいずれも大規模であるが,軌道・駅・港湾や空港が輸送のみでその専用とするのに対し,道路は交通輸送と共に街区形成等の他機能をも兼ね備える。
更に交通手段としての完結性では,全ての交通手段がその端末部外で道路交通を必要とし,道路交通以外の交通手段は自動車の補完を運行完結のために不可欠とする。
最後に経済性は,運行用具や運行経費について自動車交通が最安価である。交通施設の費用では前述の如く規模大故に高価であるが,道路交通は施設自体に諸機能を有するため,交通手段面のみでは割安とみなされる。

4 道路交通の果たす役割
このような交通手段の評価の他,交通輸送への社会的要求の面から交通施設の拡充や多種用途への容易さも評価検討が必要で,更に輸送に限っては次のような配慮が付加される。それは旅客輸送において安全性とユーザーの快適性を求められ,貨物輸送では量の多少でパターンを変えて交通手段が特定する傾向を示すことである。
以上のような考察内容をふまえて勘案すれば,道路交通の果たす役割は次のような3点にとりまとめられる。
第一は他の交通手段の完結である。アクセス性とトラフィック性からなる交通機能について道路交通は両者を唯一有し,後者のみ有する他交通手段の輸送をその末端部以降で戸口性発揮により目的完結させる。更に面的な道路網の連続性から,主に線的な他交通手段の災害等不通時に代替運行して輸送を補うように,総合交通体系単位での運行の目的と使命を完遂させる役目がある。
第二は地域開発への貢献である。道路交通のアクセス性より生ずる土地利用誘導機能から沿道土地利用の可能性拡大や高度利用促進を支え,地域経済中での分業・協業の程度を増して生産力増強や物価低減に寄与するほか,交通立地条件の改善や土地利用の再編成から産業振興を担う等地域開発が進行する。更に進んで大量輸送や時間短縮に適うほか交通手段と連動し都市と地方というような地域間相互を結んで均衡ある国土の発展が実現される。
第三は,経済・生活基盤の形成である。安全迅速な住民の移動・資材の運行が経済活動を円滑化し,交通や輸送の企業が産業構造中に一分野を占めて経済活動全般へ波及し,公共事業である施設の整備が需要創出や経済政策を担う等,経済基盤を形成する。加えて道路空間機能との相乗作用から生活圏を築き,交通需要増からその広域化を図るように,住民の福祉を向上させて生活基盤が形成される。
ここに注意を要することは,これらの役割が自動車を中心とした道路交通単独では十分な機能発揮をし得ない点である。即ち理想的な交通体系を策定していくうえで
① 交通手段別の経済性は単に運行原価のみでなく,全評価要素のトータルコストで比較検討すること。
② 各種交通手段の特質が地域特性に応じて補完しあい,最大限に機能するような総合化を図ること…………。というような留意が不可欠である。

5 あとがき
近年の道路交通は,都市部を中心とした慢性的な渋滞や事故多発を社会問題にしている。国民生活水準の高まりに伴うニーズの多様・高度化より,高速道路を含む諸種の道路には環境保全から更に進んだゆとりや潤いのある,安全快適という質の向上を望む事が増大している。
かような観点から,道路技術者への課題が益々膨らみ,その使命が重要度を高めていくものと考える。

付  記
解答用紙はB-5版の,1行当り25字分を表面に14行,裏側に18行配した800字詰原稿用紙である。答案の作成においては,次の諸点に留意する必要がある。
① 筆記速度の養成により,全ての問題の答案ヘ指定枚数の80%以上が埋められていること。
② 設問文の意図内容を十分把握したうえで,なるべく多くの事柄が盛りこまれていること。
③ 報告文ではない論文となるために,自分の見解が述べられていること。
④ 記載順序の体系づけで論述の展開へ留意したうえ,主張内容に一本の筋が通されていること。
⑤多義的に読めるあいまいな表現を避け,一義にしか読みとれない文章とすること。

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