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平成22年7月豪雨による根占山本地区土石流災害について
末永浩二

キーワード:南大隅町、土石流、阿多火砕流堆積物

はじめに
平成22 年7 月4 日の夜に鹿児島県肝属郡南大隅町根占山本地区を流れる船石川及び大浜川で、斜面崩壊に伴う土石流が発生し、その後、7月8日までの5日間で、計7回の土石流が発生しました。
これから、記載する内容は、この根占山本地区で発生した土石流災害について、土石流発生のメカニズムや災害直後に主に当局が実施したハード・ソフト対策等を紹介させていただきます。

根占山本地区の概要
鹿児島県大隅半島の南部に広がる台地の西の縁辺部に位置し、源頭部から約850mで錦江湾へ流下する渓流です。
標高差は約230mあり、流下途中には、大隅半島南部に向かう幹線道路である国道269号が横断しています。

根占山本地区の地形・地質
源頭部の斜面基部は、地形の遷緩点(傾斜が緩くなる点)を呈しています。
傾斜が緩やかな斜面には主に阿多火砕流の非溶結部(シラス)が分布しており、谷地形が発達していますが、主に溶結部から構成される台地上部には谷地形は見られず、圃場整備された平坦面が広がっています。
崩壊地点周辺の基盤岩は、南大隅花崗岩(花崗閃緑岩)であり、その上に阿多火砕流堆積物が分布しています。

根占山本地区周辺の土地利用
下流域は、耕作地や住宅地として利用されています。また、海岸部は、大浜海浜公園として、鹿児島県及び南大隅町により整備されています。

土石流発生時の降雨状況
近傍の登尾観測所(南大隅町)の記録によると、6 月12 日から7 月4 日までに累計雨量1,055 ミリ、最大時間雨量102 ミリ等、記録的な大雨が観測されています。

被害状況
 ・床上浸水1 戸、床下浸水1 戸
 ・国道269号埋没 全面通行止 (7 月7 日2:00 ~ 7 月28日13:00)、
  夜間通行止 (7 月28 日13:00 ~ 8 月11日5:00)
 ・大浜下地区50世帯91名の方々が、38日間の避難生活 (7 月 5日17:50 ~ 8 月11日17:00)

土砂災害発生のメ力ニズム
台地上に降った雨水が地下深くに浸透して、地層の境界に滞留した大量の地下水が斜面下部に湧出した際に、周辺部を洗掘したことによって、大規模な崩壊を誘発し、崩壊土砂が土石流化しています。
このため、7 回のうち6 回は、無降雨状態で発生しています。

 

災害発生後の対応(時系列)
①避難勧告
 7 月5 日17 時50 分に南大隅町が大浜下地区の50世帯9 名に対して避難勧告を発令

②土砂災害の専門家による現地調査の実施
 【第1回現地調査】
 〈現地調査日〉
  平成22 年7 月7 日(現地調査の実施、南大隅町への調査結果報告、記者会見を実施)
 〈現地調査に参加した専門家〉
  (※当時の役職等で記載しています。)
   ・鹿児島大学農学部 下川悦郎教授 (鹿児島県土砂災害対策アドバイザー)
   ・国土交通省国土技術政策総合研究所危機管理技術研究センター砂防研究室 小山内信智室長
 〈主な現地調査結果〉
   i )土石流の発生メカニズムについて
     前項にて記載済み
   ⅱ)応急対策について
     応急対策について、以下の点が指摘されています。
     ・1号堰堤右岸の土砂が、オーバーフローしている箇所及び浸水した住宅の前に大型土のうを
      設置すること。
     ・国道下流で、直角に曲がっている既設の水路暗渠部分を開削し、直線化すること。
     ・大浜川への土砂流出末端については、大型土のうにより、防護壁を設置すること。

 【第2回現地調査】
 〈現地調査日〉
  平成22 年7 月19 日(現地調査の実施、南大隅町への調査結果報告、記者会見を実施)
 〈現地調査に参加した専門家〉
  (※当時の役職等で記載しています。)
   ・鹿児島大学農学部 下川悦郎教授 (鹿児島県土砂災害対策アドバイザー)

 〈主な現地調査結果〉
   i )調査結果について
    船石川源頭斜面の右側には、完全に崩れきっていない亀裂が2列存在する。
    船石川源頭斜面における湧水は、19日時点では、2箇所(左と真ん中)あり、それぞれの湧水量
    は、200t /日(左)と300t /日(真ん中)と見積もられる。
    これらの湧水は、7日には1,000t/ 日程度であったが、半分程度に減っている。
   ⅱ)今後の展開について
     強い雨が降った時に、地下水位がすぐに上がることはないと思うが、渓床不安定土砂に作用し
     た場合、小規模な土石流、泥流の発生は否定できない。
   ⅲ)今後の警戒避難について
     今後の警戒避難について、以下の点が指摘されています。
     ・船石川右側斜面は、伸縮計を設置して動きを監視する必要がある。
     ・昼間のみの一時帰宅を継続する場合は、土石流が観測された場合や基準雨量に達した場合
     に速やかに避難できる体制をとれることが、必要である。
     ・国道下の飲み口は小さく、オープン掘削が、済んでいない状況下では、今後の泥流や土石流
     の転石が、閉塞することから、左岸3戸、右岸1戸の避難解除は現状では、困難である。

③緊急工事
平成23 年梅雨期までに、斜面の崩壊拡大による新たな土石流に対して一定の安全性が確保されるよう、専門家のアドバイスを基に、災害関連緊急砂防事業により、下記の対策等を講じています。

Ⅰハード対策で実施した項目
ⅰ )土砂のオーバーフロー対策(7/8~7/9)
ⅱ)暗渠(国道横断部)の閉塞解消(7/8~7/28)
ⅲ)流路工の両岸に大型土のうを設置して護岸の嵩上げを実施(7/8~7/16)
ⅳ)崩壊地拡大防止のため、台地上部の表流水の切り替え工事を実施(7/17~8/7)
ⅴ)船石川河口部に汚濁防止フェンスの設置(7/17 ~ 8/7)
ⅵ)1 号堰堤及び2 号堰堤に堆積した土砂を無人化施工による除石工事(7/7 ~翌年2 月末)
ⅶ)大浜川において、さらなる土砂流出を防止する目的で大型土のうを設置(7/8 ~7/9)
Ⅷ)大浜川において砂防堰堤新設工事を実施

Ⅱソフト対策で実施した項目
ⅰ)目視による崩壊斜面の24 時間監視(7/8~翌年3 月末)
ⅱ)監視カメラによる監視(7/8 ~)
ⅲ)地盤伸縮計の設置(7/8 ~)
ⅳ)目視による湧水量の観測(7/14 ~翌年3月末)
ⅴ)雨量計の設置(7/17 ~)
ⅵ) 地下水位把握のため水位計の設置(7/18 ~)
ⅶ)避難勧告解除に向けた避難訓練の実施(7/28)

④住民説明会の実施
計4 回実施( 7/12、7/27、7/30、12/16)して第1、2 回目は、現地の状況報告が中心で、第3、4 回目は、災害の復興計画を中心に説明等を行っています。

⑤抜本対策工事
再度災害を防止するための抜本対策として、平成23 年度から平成25 年度にかけて、砂防激甚災害対策特別緊急事業により、下記の工種の施設整備を計画し、ほとんどの工種は、平成25 年度までに概成しておりますが、一部の工種は、平成25 年度事業費を一部、繰り越しして、平成26年度末完成を目指し、現在、施工中であります。

Ⅰ抜本対策で実施した項目(工種)
ⅰ)既設砂防堰堤の機能強化工事
ⅱ)大浜川において砂防堰堤新設(緊急工事の続き)
ⅲ)船石川において砂防堰堤新設(4 号堰堤)
ⅳ)渓流保全工の新設
ⅴ)山腹工の新設
ⅵ)横ボーリング工(地下水位対策)

おわりに
以上が、平成22 年7 月に発生した南大隅町根占山本地区の土石流災害に関する発生原因及び発生後に実施した対応等の概要になります。
皆様におかれましては、このような災害が、所管する管内や担当する地区で発生せず、穏やかに通常業務だけに専念できれば、一番、良いことだとは思いますが、災害は、いつ何時、発生するかもしれないため、このような災害事案等の資料を見ておくことで、初期対応時に迷ったり、悩んだりすることなく、スムーズな対応が出来る技術職員になるための一助になれば幸いです。
最後に、今回の土砂災害に際し、貴重なアドバイスをいただいた専門家の皆様や大浜下地区の住民の方々、さらに期間の短い中で測量・設計・施工など担当していただいた受注者の方々、皆様に対して、円滑に事業促進が出来ましたことに対して、この場をお借りして、感謝申し上げます。

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