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RCD工法によるダムの建設

建設省竜門ダム工事事務所長
吉 村  佐

1 まえがき
ダム建設地点における地形・地質上の条件が次第に悪くなってきている。その理由は,好条件のサイトが既に先人により開発されていること,ダム建設の目的が殖産興業を旨とした発電から,治水や都市用水の確保に比重を移すに従いサイトが河川の下流寄りに移る傾向にあること等が挙げられよう。これに従ってダムのタイプとしてはコンクリートダムよりもフィルダムに適合したサイトがふえることとなる。
フィルダムの施工は大型の,しかも汎用性の高い機械による連続的な施工が取り入れられるなど施工の合理化が図られている。即ち,盛立て材料の運搬・締固めに関しては,投入する機械の台数を増減することにより,施工ペースを容易にコントロールすることができる。つまり,減らされたダンプトラックや振動ローラーは,他の現場に持っていって使用することが可能な訳である。従って事業費の増滅等に対しても,比較的柔軟に対応し得る性格を持っている。
これに対しコンクリートダムの場合,在来の柱状ブロック工法(図ー1・2)によると,殆んどの場合ケーブルクレーン等クレーン類によりコンクリートの打設を行っており,そのためには,大規模な固定的設備を要するうえ,施工が間けつ的であるため施工スピードのコントロールを行うとフィルダムの場合に比べて相対的に不利になる傾向にある。

そこでコンクリートダムの施工を,よりフィルダムに近い施工法で行えるように合理化できないかという観点から,建設省ではRCD工法等の研究を行ってきた。そして昭和51年度に,阿賀野川水系大川ダムの上流仮締切をRCD工法により試験施工を行ったのをはじめ,中国地建の島地川ダムではじめて本体コンクリートをRCD工法により施工した。その後も玉川ダムや真野ダム等いくつかのダムでRCD工法により施工中であるが,九州においては未だ実施されていない。
竜門ダムにおいては,ダムサイトの右岸側の地形が緩やかで,ケーブルクレーンの走行路や固定塔を設置するのに不向きであること,ダム高が約100mと高いため,ジブクレーン等を使用しても施工に困難をきたすこと等の理由により,RCD工法を検討してみることとなった。ここに新しいダム建設工法としてのRCD工法の概略を紹介し竜門ダムにおける計画検討の概要を報告する。

2 竜門ダムの概要
(1)計画の概要
竜門ダムは一級河川菊池川の右支川迫間川の,熊本県菊池市大字竜門に,洪水調節,流水の止常な機能の維持,かんかい及び工業用水の補給を目的として建設省が建設する多目的ダムである。(図ー3)
予備的な調査は昭和39年に建設省によって開始され,昭和45年に現地に調査事務所を設置して事業を開始した。
洪水調節計画は昭和44年の基本高水流量改訂において基準地点玉名市の基本高水流量を4,500m3/sとし,そのうち700m3/sを上流ダム群(竜門ダム及び本川のダム)により調節して計画高水流量を3,800m3/sとした。
利水計画は菊池川流域の既得の農業用水,工業用水はもとより,農業においては王名平野地区土地改良事業及び菊地台地農業水利事業による約6,100haの農地にかんがい用水を補給し,工業においては熊本県の長州・荒尾地区へ日量55,000m3,福岡県の大牟田地区へ日量45,000m3の工業用水を補給する。

(2)ダム等の諸元
ダム及び貯水池等の諸元を,表ー1に示す。

(3)地質の概要
ダムサイトの左岸,河床部及び右岸低~中位標高部は,緻密堅硬な花崗岩,閃緑岩等の花崗岩類より成っている。
右岸台地部は,花崗岩上位の風化花崗岩(マサ)と旧表土の境界層とを不整合に阿蘇溶結凝灰岩が覆っている。阿蘇溶結凝灰岩は比較的堅硬であるが柱状節理が発達しており,その上には広く新規ローム層が分布する。
(4)設計
コンクリート部の基礎岩盤剪断強度は120~200tf/m2であり,上流面勾配は鉛直(フィレット部は1:0.4)下流面勾配は1:0.75である。フィル部の上流面は1:2.6,下流面は1:2.0としている。図ー4にダムの平面図,図ー5に上流面及び標準断面図を示す。

3 RCD工法とは
RCD工法(Roller Compacted Dam-Concrete工法)の特徴は,一般に次のようなものである。
(1) 振動ローラーによる締固めが行えるよう超硬練りコンクリートを用いる。
振動ローラーは,西ドイツ製ボマークBW-200(7t,振動数2,600rpm,起振力32t)を使用するのが一般的である。
なお,超硬練りであるためスランプの測定が不可能である。そこで品質管理のためには振動台上のモールドにコンクリートを入れ,振動を与えてブリージングするまでの時間を測定し,この値をVC値と呼んでこの値により品質管理を行う。(写真ー1)

(2) コンクリートの配合は,温度応力を低減するため単位セメント量を少くし,フライアッシュ等適切な混和材料を用いる。
一般にC(セメント)+F(フライアッシュ)=120~130kg/m3程度である。
(3) コンクリート運搬にダンプトラック等簡便な機械を用いることが多く,次のような組合わせによるのが一般的である。
① 固定ケーブルクレーン,インクライン+ダンプトラック(図ー6)
② ダンプトラック
③ ベルトコンベア+ダンプトラック

(4) コンクリートの打設はレヤーシステムとする。単位セメント量の低下により温度上昇を抑えることができるため縦継目を省略でき,レヤーシステムとすることが可能である。
(5) 運搬されたコンクリートをブルドーザーにより15~20cmの薄層撒き出しを行い,骨材の分離防止と締固め効果の増大を図る。(写貫ー2)

(6) 振動目地切機によって亜鉛引き鉄板を捧入し,横収縮継目を設置する。従って横継目型枠は要らない。(写真ー3)

(7) 締め固めには振動ローラーを用い50~100cmの高さのリフトに仕上げる。締固めの回数は50cmリフトで6回,100cmリフトで12回程度である。(写真一4)

(8) 水平打継目面処理はモータースイーパー等でグリーンカットを行い,1.0~1.5cm厚のモルタルを敷均す。
(9) 上流側及び下流側の約3mの部分には在来の工法と同様の富配合のコンクリートを用い,内部振動機で締固める。横収縮継目には止水板等の止水装置を設置する。
(10) パイプクーリングは行わないので,温度規制の必要があればプレクーリングを行うか,打設間隔等を考慮する。

4 竜門ダムにおけるRCD工法の検討
(1)コンクリート運搬計画
RCD工法におけるコンクリートの運搬方法は前述のようにダンプトラックならびにインクラインを主運搬設備として,これに上部標高部の打設ならびに雑機材運搬のためのケーブルクレーンを組合わせた事例が多いようである。ベルトコンベアによる運搬については,合理化施工の一環として開発が急速に進められており,浅瀬石川ダム,七ケ宿ダム,蓮ダム等の減勢工等で実施されているが、RCD用コンクリートの運搬に関しての実績は未だない状態である。大量輸送というベルトコンベアの特徴を生かした運搬方法の検討は,ダム技術発展のためにも今後共重要な課題である。
竜門ダムでは上記の事例及び地形・地質条件をふまえて,次の5案についてコンクリート運搬方法を検討した。

 ① 全ダンプトラック案
 ② 全ベルトコンベア案
 ③ インクライン案
 ④ 固定ケーブルクレーン案
 ⑤ ダンプトラック+ベルトコンベア案

これらの案を総合的に検討し,①~⑤案の下部及び中部標高部はダンプトラックで,上部標高部はベルトコンベアにより運搬する案を中心に検討を進めることとしている。

① 全ダンプトラック案
この案は,河床部から堤頂部まで全てダンプトラックによるコンクリート運搬を計画したものである。ダンプトラックによる運搬の特徴は図ー7に示すように,この単純なシステムにあり,RCD工法を一つのシステムとしてとらえた場合には最も機能的な方法であるといえる。
従って,地形上無理なく運搬道路の造成が可能であれば,RCDコンクリートの運搬方法としては非常に有利な方法であると考えられる。
竜門ダムでは上流例から堤体打設リフトヘの進入路も盛土によって取りつけ,進入路から堤体への乗り込みは,シフトアップ装置付の橋梁によるものとする。
この案の問題点は,高標高部における堤体へのコンクリート運搬道路の施工に問題が残ること,また堤頂幅が7mとダンプトラックで施工するには狭いため拡幅するか,又は特殊なダンプトラックを開発する等,何らかの対策が必要なことである。

② 全ベルトコンベア案
この案は,バッチャープラントから堤体内までのコンクリート運搬を全てベルトコンベアで行うとして計画したものである。
ベルトコンベアによるコンクリート運搬の特徴は連続輸送による大量運搬が可能であり,また転用が容易な設備であることから経済性を期待できる点にある。
図ー8はベルトコンベアによる運搬のフローを示したものである。
この案ではベルトコンベアを載せるタワーの高さが100m級になると共に,堤体の打ち上げ高さに追随させるために約160mの区間はシフトアップさせる必要があり,かなり大規模な仮設備工事となる。また,別途に雑機材運搬のための手段が必要となる。

③ インクライン案
この案は,河床部から堤頂部まで全てインラクインによるコンクリート運搬を計画したものである。インクラインによる運搬フローは,図ー9に示すとおりである。

特徴はバッチャープラントからダンプトラック積込みまでが一連のシステムとして自動操作が可能であることから,作業性が高く,また安全性も高いことである。
ダム基礎の右岸側は緩傾斜でフィルダムヘ接合することからインクラインの配置には不利である。左岸は河床から低標高部が20°程度,中・高標高部は,約50°の比較的急な地形となっており,この斜面にインクラインを設置する。
この案の問題としては,雑機材運搬手段が別途必要なこと,経済性の面から不利であること等があげられる。

④ 固定ケーブルクレーン案
この案はダム軸方向に20t固定ケーブルクレーンを設置してコンクリートを運搬するものである。運搬フローは図ー10に示すとおりである。

この案の特徴はケーブルクレーンを主打設設備として用いる他に,雑機材運搬のためにも利用出来る点にある。当然ながら上部標高部のコンクリート運搬も可能であり,便利な設備であるといえる。
しかしながら竜門ダムに適用した場合にはいくつかの問題がある。
図ー11にケーブルクレーンの概略縦断を示す。同図にみられるようにスパン長は約620m,鉄塔の高さは50m以上と大規模なものとなる。また鉄塔の基礎は阿蘇火砕流堆積物ならびにマサであり,強度,すべり等に対する安定の上からも問題が多い。
また,クレーンの運搬能力が小さいことから,他の方法に比してかなり長い打設工期となると共に,経済性の面からもインクライン案に近い値であり不利な結果となった。

⑤ ダンプトラック+ベルトコンベア案
この案はダンプトラック運搬とベルトコンベア運搬の長所を組合わせたもので,これまでいくつかのダムで実績のある堤体幅15m(EL264.5m)まではダンプトラック運搬とし,ダンプトラックでは作業性の低下するEL264.5m以上の高標高部はベルトコンベアによる運搬としたものである。図ー12及び図ー13に運搬フローと,運搬路の概略配置を示す。
①案に比べ,高標高部は,左岸上流の地山沿いにベルトコンベアを敷設し,堤体打設リフト面に運搬する。堤体内ではダム軸方向にリフトアップコンベアという雑機材の運搬を行う簡易索道も備えたコンベアを敷設し,任意の打設地点まで運搬できるようにすることを検討している。

(2)施工設備
竜門ダムのコンクリート用骨材は,ダムサイト左岸上流約400mの位置にある原石山で採取し,これに隣接して骨材プラントを設置し,粗骨材4種類(150~80mm,80~40mm,40~20mm,20~5mm)及び細骨材を生産する。
骨材プラント場内及び骨材ストックパイルからバッチャープラントヘは,ベルトコンベアで運搬する。バッチャープラントで練り混ぜられたコンクリートは,その大部分をダンプトラックにより堤体打設面に運搬し,ブルドーサーで敷き均したあと振動目地切機で横継目を造る。そして振動ローラー等で転圧し,養生することとなる。
高標高部のコンクリートはベルトコンベアで運搬することを検討しており,この場合バッチャープラントからベルトコンベア始点のホッパーヘ,ダンプトラックにより運搬することとしている。
堤体進入路と堤体の間はシフトアップできる橋梁により渡ることを検討している。写真ー5に山形県白水川ダムの例を示す。

5 あとがき
竜門ダムは昭和64年度に本体コンクリートの打設を開始できるよう鋭意準備を進めているところである。いまだ計画検討の段階であり未決定のものもあるが,今後関係各位の御指導を得て進めていきたいと思っている次第である。

参考文献
1)国分正胤:日本におけるRCD工法によるコンクリートダム施工法の開発,タム技術,Vol.3,増刊No.1 1985
2)国土開発技術研究センター編集:RCD工法によるダム施工,同写真で見るRCD工法によるダム施工,1981年7月

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