平成 14~15年における筑後川の渇水について
国土交通省 九州地方整備局
河川環境課長
河川環境課長
川 崎 将 生
1 はじめに
筑後川では,平成14年の梅雨及び台風期の少雨による流況悪化に伴い,ダムの貯水量が著しく減少したことから,平成14年9月30日以降,水道用水や不特定用水に係るダム運用等に関して,9回にわたる渇水調整が行われた。本報告は,この渇水の状況及び渇水調整の速報である。
なお,文中の平成14,15年の雨量,流量,ダム貯水量等のデータは速報値である。
2 降雨の状況
(1)降雨量
平成14年の筑後川瀬ノ下地点上流域平均雨量は, 5月までは平年並みであったが,6月以降11月までの6ヶ月間連続で平年を下回った。
平成14年の年間の筑後川瀬ノ下地点上流域平均雨量は,1,660.6mm(平年比76.3%)にとどまり,雨量資料のある過去53年間で平成6年(1,055.0mm),昭和53年(1,331.7mm)に次いで3番目の少雨を記録した。
(2)降雨分布
図ー2のとおり,平成14年6月から11月の間,筑後川流域が,佐賀県や福岡都市圏と比較して雨量が少なかった。流域の中でも筑後川の水源地域である松原・下筌ダム上流域の雨量は平年の50%を下回り,特に少なかった。
3 筑後川の流況及びダムの貯水状況
筑後川の平均年総流出量は約36億m3であるが,平成14年の年総流出量は約24億m3(平年比67%)にとどまった。
流況悪化に伴い,各ダムの貯水量は減少し続け,平成15年1月中旬に今渇水の最低貯水率を記録した。
4 渇水調整
(1)農業用水
10月上旬までのかんがい期を自主節水等の自己努力でしのぎ,渇水調整には至らなかった。
(2)水道用水
8月から福岡地区水道企業団(以下,福岡地区),福岡県南広域水道企業団(以下,福岡県南)が,9月から佐賀東部水道企業団(以下,佐賀東部)が自主節水を実施してきたが,さらに渇水が深刻化してきたことから,9月30日より渇水調整に入り,それ以降,各利水ダムの運用,取水制限,応援水,松原・下筌ダムによる緊急放流等に関し,9回にわたる渇水調整が行われた。
①取水制限
今回の取水制限は,ノリ洗浄のため夜間断水ができない状況であることを考慮して,断水が発生しない限界の取水制限率(福岡地区最大55%,福岡県南最大22%,佐賀東部最大22%)で実施された。
②応援水
第1次渇水調整(9月30日)から第4次渇水調整(12月25日)の間,各水道企業団に対し,福岡市をはじめとする福岡都市圏の水道用水から計405万m3,烏栖市の水道用水から32万m3,両筑土地改良区,耳納山麓土地改良区の農業用水から計130万m3の応援がなされ,市民生活への影響が回避された。
上記応援水(合計567万m3)は,3企業団の水道用水約1ヶ月分(取水制限時)に相当する量であり,これらの水を企業団が総合運用することにより,最大限有効活用された。
③寺内ダム不特定用水の補給
ノリ洗浄に伴う需要増に対する断水回避用水として,寺内ダムの不特定用水が水道用水向けに放流された。(平成14年12月11日から平成15年2月2日までの間で約60万m3)
(3)河川・海域向け不特定用水
ノリ期(10月から翌年3月)において松原・下筌ダムが有する不特定用水(2,500万m3)の補給を10月11日から開始したが,河川の流況悪化に伴い補給量が急増し,11月28日には日補給量約92万m3を記録した。不特定用水の早期枯渇が心配されたため,11月29日に補給を一時中止し,12月14日に再開したが,降雨に恵まれず1月12日には使い切った。
その後,福岡・佐賀両県の要請を受け,第4次,第7次渇水調整により,松原・下筌ダムに残った貯留水のうち計643万m3を海域向けに緊急放流した。
5 おわりに
筑後川における今回の渇水は,過去53年間のうち3番目に大きな渇水であったが,水道用水については断水が回避された。
主な理由としては,①関係者による節水呼びかけが行われ,市民の協力のもと,節水が行われた。②周辺地域では比較的降雨に恵まれ,また,平成6年の大渇水以降,福岡都市圏において新たなダム等の整備により,利水容量を増やす努力がなされた。③応援水の提供があった。④寺内ダムの不特定用水がノリ洗浄に伴う需要増に対する断水回避用水として放流された。
一方,ノリ期の河川・海域向けの不特定用水については,①ノリの作付け状況にあわせて節水しながら松原・下筌ダムの河川・海域向け不特定用水を使用したが,それでも1月12日には使い切った。②その後,松原・下筌ダムに残った貯留水を,渇水調整に基づき,有明海のノリ対策として計643万m3緊急放流した。
今回の渇水では,関係機関による円滑な調整が行われたこと等により市民生活に対して大きな影響はなかったが,筑後川水系ではこの30年,概ね2年に1回,渇水調整が行われているという状況に見るとおり,筑後川は利水安全度が低い河川である。今後とも関係機関の協力のもと,筑後川の水利用の安定化に向け,努力していく必要がある。