平成11年度技術士試験を省みて
(建設部門における出題傾向と解答例)
(建設部門における出題傾向と解答例)
九州技術士センター 普及啓発委員会 専門委員
総 括 津 城 正
九州技術士センター
普及啓発委員会 副委員長
普及啓発委員会 副委員長
土質および基礎 橋 村 賢 次
日本地研(株)技術第4課長
鋼構造およびコンクリート 鐘 廣 喜
(株)シードコンサルタント
福岡支店 技術課長
福岡支店 技術課長
河川、砂防および海岸 吉 良 文 至
東洋技術(株)会長
道 路 内 田 導 博
丸昭建設(株)技術部長
建 設 環 境 井 芹 寧
西日本技術開発(株)環境部
研究開発課長
研究開発課長
1 平成11年度技術士第二次試験結果について
平成11年度技術士第二次試験の筆記試験は,昨年8月25日および26日に福岡市他全国8箇所で実施された。その筆記試験合格者に対する面接口頭試験は,12月1日から15日までの間に東京で実施された。
受験申込者数は,34,183名(うち建設部門22,436名)で最終合格者数は,2,942名(うち建設部門1,719名)となり,合格率は,8.6%と相変わらず狭き門であった。
昨年と比較してみると,受験申込者数は12.1%増加し,合格者数は14.2%増えて,合格率はわずかに高くなった。
なお,合格者の内訳については,次の通りである。
(1)年代別占有率(平均年齢:42.8才)
20代→1.1%,30代→38.0%,40代→39.5%,50代→19.0%,60代→2.3%,70代→0.1%
(2)勤務先別占有率
国立機関→5.5%,地方自治体→8.2%,大学→0.6%,公社公団等→4.5%,民間→80.4%,自営他→0.8%
(3)最終学歴占有率
大学→88.5%,新旧高専→5.0%,短大→1.1%,その他→5.4%
技術士第二次試験は,筆記試験と口頭試験があり,その内,筆記試験は①体験業務(Ⅰ-1),②必須科目(Ⅱ),③専門選択科目(Ⅰ-2)とからなっている。
2 筆記試験体験業務(Ⅰ-1)
(1)出題問題の形式
建設部門における出題問題を一般的な形式で示すと,次のような構造となっている。
『あなたが受験申込書に記入した「専門とする事項」について,あなたが技術的責任者として実際に行った業務のうち,技術士としてふさわしい能力を示したと思われるものをm(概略業務数)つ選び,その業務概要(A)を簡潔に述べよ。
さらに,そのn(詳述業務数)つを選び,その業務内容(B)について技術的に説明し,現在の技術水準から見た評価と今後の展望(C)について述べよ。』
(2)設問の内容
設問の内容は,選択科目毎にほぼ決まっているが,その内容は,次の数項目の組み合わせとなって出題される。
1)概略業務数(m)
建設部門全体としては,1つから3つであるが,3つが最も多く,次いで2つの科目が多い。1つの科目は少ない。
2)記述業務(n)
概略業務数(m)が3つと1つの科目については,詳述業務数(n)は1つである。概略業務数(m)が2つの科目は詳述業務数(n)も2つとなっている。
3)業務概要の内容(A)
業務概要の内容は,選択科目によって異なるが,次の内容を幾つか組合せて出題されている。
① 業務の名称等(業務名または件名,時期,場所,あなたの地位)
② 業務概要(業務概要または工事概要)
③ あなたの役割(役割,立場)
④ その他(技術的特色,業務の目的)
4)業務記述の内容(B)
詳述の内容も次のものを幾つか組合せて出題される。
① 業務内容
② 技術的特徴
③ 技術的課題(課題,問題点)
④ 工夫した点(苦心した点,解決策,あなたの技術的提案,あなたのとった措置)
⑤ その成果
5)評価と今後の展望の内容(C)
① 評価(現時点での評価,現時点における再評価,批判)
② 反省(反省すべき点,反省)
③ 将来の展望(今後の展望,今後の課題,将来の見通し)
④ 技術士にふさわしい理由(ふさわしい点)
(3)設問の変化
技術士試験は,高等の専門的応用能力を有しているか否かを判定する試験であるから,設問を多少変化させてそれに対する対応能力を判定する事になる。その変化は以下の程度である。
1)業務記述数(mとn)の変化
・「河川・砂防および海岸」において,これまでm=n=1であったが,平成10年度からm=3,n=1に変化した。
・「建設環境」において,これまでm=3,n=1であったが,平成11年度からm=n=2に変わった。
2)業務供述の内容(AとB)の変化
上記の業務概要の内容(A)と業務詳述の内容(B)とが適当な組合せとして毎年変化している。しかし,設問の趣旨は変わらない。
3)業務評価内容(C)の変化
これも毎年少し変化するが,求める内容は殆ど同じである。
(4)論文のテーマ選定とその表現に対する工夫
論文の見出し(テーマ)選定について著しく誤解をしている人が多い。
例えば,①大規模な事業にタッチしたこと,②著名なプロジェクトに関係したこと,③最新の研究開発を行ったこと等と誤解している。
しかし,何処でも誰でも体験している業務であっても,「自分自身で創意工夫を行って技術的課題を解決した」ことが重要である。
また,見出し(テーマ)の表現は,そのテーマを見たら論文の筋書きがある程度分かるような表現が望まれる。
悪い表現例……道路の工事計画
良い表現例……地滑り区間を含む山岳道路の路線選定計画
(5)論文の骨子
技術士試験には,「高度な専門的応用能力」が求められるから,単に高度なプロジェクトの業務を工事記録的に述べても評価は得られない。
合格論文にするには,「技術士にふさわしい」と思う技術的課題を取り上げ,「自分がそれをいかに創意工夫して解決したか」を表現することである。その論文は,一般的に次のような骨子となる。
解決策の表現は,結果のみを記述するのではなく,ここが論文の中心となるところであるので,解決策に至った技術的な検討内容を次のように明確にする。
(6)論文作成の留意点
① 「専門とする事項」と論文の見出し(テーマ)とが一致し,オリジナリティに富む内容にする。
② 読み手の視点に立ち分かり易く(図と表を用いたり,定性的かつ定量的に)記述する。
③ 文章の構成(起承転結)を論理的に展開する。
④ 自分の開発技術や研究機関の研究成果等をどのように活用したかを巧みに説明する。
⑤ 現時点からの高次の提言や将来展望(将来はかくあるべきだくらいの表現)が必要である。
3 筆記試験必須科目(Ⅱ)
必須科目出題の狙いは,受験者が知職人としての技術的・社会的見識,洞察力,先見性,およびその根底にある健全な基本的思想について表現する能力を問うものである。
(1)出題問題の傾向
建設部門全体に共通する事項として毎年2題出題され,1題を解答させるものである。例年出題される共通事項を分類してみると次の5種類に分かれる。
① 社会資本整備(建設部門のあり方も含む)に関するもの(この問題の出題が最も多い)
② 国際化に関する課題等
③ 技術開発の必要性,問題点,内容(テーマ),促進策等
④ 防災に関する問題点,災害防止策等
⑤ 品質に関する特性,課題,品質向上の方策等
平成11年度の問題を示す。
Ⅱ 次の2問題のうち1問題を選んで建設部門全体の問題として解答せよ。(茶色の答案用紙を使用し,解答問題番号を明記し,4枚以内にまとめよ。)
Ⅱ-1 少子・高齢化が進む中での社会資本整備のあり方について,あなたの意見を述べよ。
Ⅱ-2 国民の理解を得ながら社会資本整備を進める上での現状での問題点について述べるとともに,説明責任(アカウンタビリティ)向上のための方策について,あなたの意見を述べよ。
(2)その対策
技術部門全般にわたって幅広い視野から論じる問題であるから,日常の対策として自分の専門分野に秀でているばかりではなく,他分野についても関心を示し,視野を広くして各種の知識を吸収する。
また,国際情勢,産業動向,資源問題,先端技術,社会問題等を大局的な見地にたった問題として捉える。
1)情報収集のための参考資料
必須科目問題に対応するための主な参考資料として,以下の資料から収集する方法がある。
① 建設白書(平成11年度版を用いて準備し,新年度版を入手したら新たな重要ヶ所のみ修正する)
② 土木学会誌(巻頭言,今日的問題を取り上げた特集や座談会記事)
③ 土木学会等主催のセミナー(今日的問題を提供)
④ 建設業界(日本経済と公共投資に関する話題が多い)
⑤ 新聞(毎日の新聞を読み,関係記事をスクラップして活用)
2)論文作成の留意点
① 準備する必須科目の記述テーマは,最新の技術動向,トピックス,災害の発生等も考慮して決める。
② 「社会資本整備」(社会資本整備のあり方,建設部門のあり方),「技術開発の推進」,「国際化の進展」は準備テーマとしておく。
③ 社会資本整備等次元の高いテーマの場合には,世界情勢,国内情勢,建設部門の課題,経済社会の動向(地球環境問題,国際化,少子高齢化,高度情報化等)などを反映した記述内容とする。
④ 設問は,「あなたの意見を述べよ」である。従って,意見は建設白書等からの借り物であっても,自分の意見(「…でなければならない」,「…の必要があると考える」等)であるように表現する。
⑤ 論文の最後では,「建設部門の社会的使命」,「技術者としての自分の役割」は述べておくことが望ましい。
4 筆記試験専門選択科目(Ⅰ-2)
(1)出題問題の傾向
1)出題内容の分類
専門選択科目(Ⅰ-2)の問題を分類してみるとおおよそ,次の5型に分類できる。
① 語句説明型(専門技術的なキーワードの説明)
② 知識応用型(専門的な知識の応用を問う問題)
③ 課題展開型(知識応用型に加え,意見を求める設問,「意見」は私見のみだけではなく,課題展開能力と総合的なバランス感覚を求めるものである)
④ 技術評価型(技術の優劣を比較・評価させる設問,ここで重要なことは,どのような評価項目を設定し,かつ,最新技術の潮流を把握する能力である)
⑤ 設計計算型(与えられた条件下で,計算を含む設計能力を問う)
2)設問の傾向
設問は,AグループとBグループからなっている。A・Bの2グループから,それぞれ1~2問題を選んで,合計2~4問題について求めるものである。殆どの選択科目分野で選択制としているが,「道路」分野ではAグループだけ必須科目として1問題のみ出題される。
3)設問の内容
問題は,選択科目全般にわたって数個~10数個出題されるので,過去5年間程度の問題を分析することを薦める。この作業によって選択科目の重要な技術ポイントが把握できる。
これによって得られる問題は,①選択科目の中心的基本技術と②最近の技術動向に整理できる。最近の技術動向は,出題時期に社会的話題になっているものや技術雑誌で特集記事として取り上げているものなどが多い。
(2)その対策
1)論文の作成要領
① 技術的な動向や状況を把握し,現在における技術的な課題を論じること。
② その課題に対する技術的な分析,客観的な評価,現状や考え方を論じること。
③ 出題の意図を汲み取った今後の展開を記述すること。
④ 技術的な展開は,「背景・定義」,「原理・知識」,「解決策」,「将来性」についての応用性を論じ,展開すること。
2)論文解答例
以上が平成11年度技術士筆記試験の概要ならびに出題傾向とその対策であるが,以下は,平成11年度筆記試験選択科目の中から5問題を選定し,当普及啓発委員会の技術士に模範解答例として執筆を依頼したもので,参考例として示す。
土質および基礎 Ⅰ-2-1(A) 1時~5時
軟弱な沖積粘性土地盤上の道路盛土に,載荷盛土工法を採用する計画がある。以下の設問に答えよ。
(1) 本工法の概要を簡潔にまとめ,その特徴を述べよ。
(2) 本工法の設計上ならびに施工上の留意点をそれぞれ列記せよ。
(3) 設計上の留意点を検討するための調査・試験方法を挙げ,それぞれの結果の利用について説明せよ。
1 載荷盛土工法の概要と特徴
本工法は,余盛工法(プレローディング工法)と呼ばれるように,構造物の建設に先立って構造物荷重より大きい盛土荷重を載荷して,基礎地盤の圧密沈下を促進させてから,荷重を除去し道路等の構造物を築造する工法である。
本工法の採用にあたり,工期に余裕のない場合にはサンドドレーン工法やプラスチックボードドレーン工法等の圧密促進工法を併用している。
本工法の特徴は次に示す通りである。
① 施工が容易である
② 現地発生土の有効利用が可能である。
③ 他工法に比べてコスト削減が図れる。
④ 工事後の土砂処分も容易である。
2 載荷盛土工法の設計・施工上の留意点
(1)設計上の留意点
設計上の留意点は,安全な施工を行い圧密沈下を短期間で終了させて,建設コストを削減することである。このため,設計で考慮することは次の4点である。
① 盛土の安定解析
② 盛土工・ドレーン工に要す日数の設定
③ 圧密沈下量と沈下時間の設定
④ 圧密促進による目標強度の設定
ただし,地盤の不均一性・圧密現象の複雑さなどを考慮すると,残留沈下量をゼロにする設計を行うことが望ましい。
(2)施工上の留意点
施工は土工が中心となるため,次の点に留意することが重要である。
1)施工管理について
軟弱な沖積粘性土地盤上の盛土では,盛土厚さや施工速度が過大になると地盤のセン断変形や側方流動によるすべり破壊を起こすことがある。このため,沈下測定のみでは正常な圧密沈下かどうか判定出来ないので,間隙水圧計や盛土のり尻に地中変位計・変位杭を設置して,安定管理を行いながら観測結果を施工に反映させる情報化施工に努めることが重要である。
2)施工中における最終沈下量の予測
理論沈下量と実測沈下量の一致することは少ないので,常に実測した沈下データを用いて最終沈下量を推定し,載荷盛土撤去時期や残留沈下量の予測を行うことが必要である。
3 設計上の留意点を検討するための調査・試験方法と結果の利用について
(1)調査・試験方法
調査では,圧密沈下の対象となる沖積粘性土層の土性を把握することが大切である。
具体的な調査・試験方法としては,
① 地層確認用のボーリング
② 圧密対象層からの乱さない試料採取
③ 土質(物理・力学)試験
を実施する。
なお,近年では調査費のコスト削減を図り,連続的な地盤情報(先端抵抗・間隙水圧・周面摩擦力)を得るために電気式静的コーン貫入試験も利用されている。
(2)結果の利用について
調査・試験結果の利用としては,盛土の安定解析と圧密沈下解析をおこなうことである。このためには,次の事項を明らかにすることが重要である。
① 軟弱地盤の厚さ・分布状況
② 沈下および安定計算に必要な軟弱土の土質定数(圧密特性・強度特性・透水性など)
鋼構造およびコンクリート Ⅰ-2-15(D)
コンクリート構造物の軽量化を図るための手法を2つ挙げ,それぞれについて軽量化の効果,設計・施工上の留意点,今後の展望について,あなたの意見を述べよ。
コンクリート構造物の軽量化手法として,「高強度コンクリート」と「外ケーブル」について述べる。
1 高強度コンクリートの利用
(1)軽量化効果
部材断面の縮小によるコンクリート構造物自重の低減。
(2)設計上の留意点
① 圧縮強度fcに対する引張強度・曲げ強度・付着強度の比率が,普通コンクリートに比ベ小さくなる。またヤング係数Ecも高強度領域になるに従い,増加の割合が小さくなる傾向があるため,断面縮小による部材剛性の低下によりたわみが増大する。
② クリープ係数は普通コンクリートより小さくなるが高圧縮応力によるクリープひずみは増加する。
③ 弾性域に比べ塑性域が小さく脆性的であるため,拘束鉄筋の適切な配置によるじん性の確保が必要である。
(3)施工上の留意点
① 骨材としては,組織が密で弾性係数の大きい硬質砂岩,安山岩など,比重が大きく吸水率の小さな耐久的なものを選定する。
② 単位セメント量が多いため,低発熱型セメントの使用,管理材令の延長,プレクーリング,十分な散水養生などの水和熱対策が必要である。
③ コンシステンシーはスランプフローにより45~65cmの範囲で適切に管理する。
(4)今後の展望
① 高強度セメントやシリカフューム等の強度促進用混和材の開発により,今後fc=100N/mm2以上の高強度コンクリートも現場で容易に得られるようになろう。
② 最近,従来の人工軽量骨材に比べて,強度が高く,吸水率が低い高性能人工軽量骨材が開発された。力学特性・耐久性等に留意して活用すれば,構造物のより一層の軽量化が期待できる。
2 外ケーブルの利用
(1)軽量化効果
ケーブルを桁の外に配置し,ウェブ厚を薄くすることにより,主桁自重の軽減を図ることができる。
(2)設計上の留意点
① 局部的な応力集中が生じやすい偏向部・定着部の位置を横桁や隔壁等の剛性の大きい部材とするとともに,鉄筋などにより十分な補強を行う。
② 付加的な曲げ応力,保護管との摩擦応力等の付加応力が発生しやすい偏向部について,緩衝材の使用などを検討する必要がある。
③ 外ケーブルが桁と共振を起こす危険性がある場合は,固定間隔を変えるなどの対策が必要である。
④ 内ケーブルおよび鉄筋を適度に配置することで,終局時のじん性を向上させ,終局曲げ耐力を確保する。
(3)施工上の留意点
① 防錆性・耐候性・耐化学反応性等に優れた防護シースを選定する。
② 偏向装置は2次応力防止型を使用する。
③ 施工中のケーブル防振対策として,偏向部以外にも簡易ブラケットを設置する。
④ 大容量ケーブルを使用する場合,大型ジャッキの設置や移動に対して,特別な配慮が必要である。
⑤ 緊張時には,外ケーブルの防錆用被覆剤に損傷を与えないよう留意し,固定金具の防錆を万全にする。
(4)今後の展望
① 外ケーブル工法は,プレキャスト部材との組合せにより,一層の軽量化・省力化・急速施工が期待できる。
② 終局耐力算定手法の研究開発,材料および防錆技術の発達によりさらに普及し,既設構造物の補強分野においても,大いに発展していくと考えられる。 以上
河川,砂防および海岸 Ⅰ-2-2
日本の自然的,社会的特性を踏まえ,治水,利水及び環境に関する河川整備計画策定について論ぜよ。
1 はじめに
近年の社会情勢と国民のニーズは社会資本の整備に極めて厳しい視線が注がれている。一方わが国における洪水被害は減少するところを知らない。そもそも,国土条件(国土の75%が山腹傾斜地),気象条件(集中的豪雨をもたらす)という致命的な条件国であります。
平成8年の河川審議会において「21世紀の社会を展望した今後の河川整備の基本的方向について」その中で,河川行政を振り返り,現状における課題を整理して,環境に留意し流域のかかわりさらには2002年の学校5日制をかんがみ「水辺と子供」のかかわりを念頭に河川と国土について記述する。
2 洪水のメカニズム
梅雨前線による洪水や台風による豪雨等は,時と場所にかかわりなく襲来するが,強風と集中的豪雨および長雨が直接の要因となり被害を拡大している。
(1)都市における洪水と対策
人口集中が都市に集約されているため,都市における被害は極めて大きいものとなる。都市開発において,下水,汚水処埋機能に十分な降雨データが考慮されなければならない。また,遊水機能を高めるため,地下遊水施設を推進することは都市空間整備に重要なことである。
(2)水系的洪水と対策
高地や山地山腹の降雨は比較的多雨でありその状況から降雨到達時間が極めて短く,流出係数が増大している。さらに,流木が被害をもたらしている。これらの要因を踏まえて,拡域的に一貫性を持った水系洪水対策を図らねばならない。
3 洪水ハザードマップ
洪水に対するソフト面から見て,住民参加による被害軽減が必要視されて,情報の共有化を図るために,浸水区域とハザードマップを住民に提供し,市町村の自治会,区長会と共にアカウンタビリティーの向上に努めるべきである。
4 環境性の高い整備
高度成長期のスピードと硬度築造物の時期に対して,新河川法の環境に対する配慮を取り入れて自然にやさしく,親水性の高い,物も心も豊かな整備を推進すべきである。
5 おわりに
私は長年大分県の河川行政と技術にかかわって来ました。その間に河川プールを新設し夏期には十分な親水性を生かしています。平成11年8月14日の神奈川県玄倉川の被害を教訓にし河川増水に対する安全な社会資本整備を切望する。
最後に次の3点を基本理念として論述を終わります。
(1) 信頼感ある安全で安心できる国土の形成
(2) 自然と調和した健全な環境の創成
(3) 個性あふれる活力ある流域社会の形成
道路Ⅰ-2-2 1時~5時
都市部における交通円滑化対策について,ハード・ソフトの両面からあなたの意見を述べよ。
1 はじめに
道路は,豊かな生活の実現と国土の均衡ある発展を図るためのもっとも基本的な施設である。
昭和29年度から始まった,第1次道路整備5ヶ年計画から現在まで,40有余年の間に,わが国の道路整備水準は大幅に改善されてきた。
しかし,この間の自動車保有台数の伸びは,道路整備をはるかに上まわっており,今日の交通事故,交通混雑,渋滞激化,沿道環境の悪化等の要因として,大きな社会問題となっており,特に都市部における交通の円滑化対策が求められている。
2 道路交通の問題点
(1)交通事故
交通事故による死亡者は,戦後から現在まで50数万人に達しており,近年の交通事故死亡者は,昭和63年以降平成7年までの8年間は,1万人以上で推移しており,平成8年から平成11年までの4年間は1万人以下で推移しているものの,依然として厳しい状況である。
(2)交通渋滞
都心部を中心に,交通渋滞が増大し,それによる経済損失が全国で年間12兆円,時間損失が一人当り1年間に42時間に達すると試算されるなど,安全性や輸送効率において,大きな問題となっている。
(3)沿道環境の悪化
環境の観点からは,沿道の騒音,振動,排ガス等の沿道環境の改善が強く求められている。
平成7年の「国道43号騒音訴訟」をはじめとして「大阪の西淀川公害訴訟」や「川崎公害訴訟」の判決は,公共性優先の道づくりや,不十分な環境対策の早急な見なおしを迫っている。
以下,都市部の交通の円滑化対策として,渋滞対策・高度道路交通システム(以下「ITS」と称す)について記述する。
3 渋滞対策
(1)ハード面
1)交通容量の拡大策
交通需要を前提とした供給サイドの整備充実であり,交通容量を拡大する手法である。
a 道路ネットワークの整備(バイパス,環状道路)
b 幅員の確保(多車線化,幅員確保等)
c ボトルネックの解消策(交差点改良,踏切の立体化,信号制御の高度化)
d リバーシブルレーンの整備
e タクシーベイ,荷捌き施設の整備
f 交通管制システムの充実,高度化等
(2)ソフト面
1)交通マネジメント(TDM)
道路の「利用方法の工夫」と「適切な誘導」によって,円滑な交通流を実現する手法である。
a 自動車の効率的利用(相乗りや共同集配システム)
b 手段の変更(パークアンドライド,バスレーンの設置)
c 時間の変更(時差出勤,フレックスタイム)
d 径路の変更(タイムリーな交通情報,駐車場情報)
e 発生源の調整(土地利用,勤務形態と車の利用方法)
2)マルチモーダル施策
自動車,公共交通機関等の各種交通手段の特性を生かし連携を強化することによって,公共交通機関の利用促進を図る手法であり,その一部は交通マネジメント(TDM)と重複する部分もある。
a 空港,港湾,駅等の交通拠点へのアクセス強化(駅前広場の整備)
b 鉄道と高速バスの結節強化
c 歩行者支援施設の整備(バリアフリー)
4 ITS
ITSとは,最先端の高度情報通信技術を用いて,人と道路と車両を一つのシステムとして構築し,運転や歩行の負荷の軽減を図るものである。このシステムにより,交通の安全,輸送効率の向上,渋滞の軽減等,交通の円滑化を促し,環境の保全ひいては国民の生活向上が期待できる。
(1)ITSの期待される効果
1)交通事故や交通渋滞等の交通問題の切り札
2)物流の効率化
3)地域環境問題の改善
4)快適なカーライフの追求
5)自動車市場や,情報通信機器市場等の活性化
(2)ITSの開発分野
ITSの開発分野としては,9つのテーマがある。
1)ナビゲーションシステムの高度化
2)有料道路等の自動車料金収受システム
3)安全運転の支援
4)交通管理の適正化
5)道路管理の効率化
6)公共交通の支援
7)商用車の効率化
8)歩行者の支援
9)緊急車両の通行支援
5 おわりに
交通の円滑化対策において重要なことは,現状の分析やシミュレーションを行い,状況に応じた対策を立てることであり,ハード面,ソフト面等での対応が必要である。実施にあたっては,場合によって社会実験を通じ関係機関や利用者,周辺住民との十分な協力と理解を得て,将来を見越した対策を行うことが重要である。また,同時に,21世紀の新たな道路交通システムであるITSの,今後の研究開発,整備拡充が必要と考える。
建設環境Ⅰ-2-3
下表に示す水質項目の中から一つを選び,その項目番号および環境項目を答案用紙のはじめに記入せよ。次に貴方の得意とする建設分野において,選択した環境項目に関する課題とそれに関する今後の技術的対応策について論ぜよ。
項目番号 環境項目
1 大気質
2 水質
3 土壌汚染
4 騒音・振動
5 地盤沈下
6 地形・地質・土壌・地下水
7 動植物・生態系
8 景観
9 緑化
10 親水
11 リサイクル
【2 水質】
1 はじめに
近年,ダム貯水池では,人為的な栄養塩負荷量の増大に伴う藻類の異常増殖を原因とした,異臭味障害,景観障害,毒性物質の生産などの富栄養化障害が問題となっている。また,ダム建設時の環境影響評価において,濁水長期化などによる下流河川や海域の生態系への悪影響が取り沙汰されるなど,貯水池の水質保全は建設環境において最重要課題のひとつとなっている。
ダム貯水池の水質保全対策は大別すると流域対策および貯水池内対策に分けられる。流域対策は汚濁負荷量の削減が主体の基本的な対策である。しかしながら,今日の汚濁負荷源は広範囲に及ぶとともに多様化しており,原因が特定されていない限り,現実的な対策効果が得られないケースが多い。したがって,流域対策が十分に効果を発揮するまで暫定的に水質障害を軽減し,即効性もある貯水池内水質改善対策が重要となってくる。ここでは,貯水池内対策の課題とそれに関する今後の技術的対応策について述べる。
(1)調査結果解析評価および保全対策検討における課題
ダム貯水池の水質障害の発現機構は一様ではなく,特に富栄養化問題は植物プランクトンを中心とした生物群の特性と各ダム貯水池特有の気象条件,水理特性,水質特性等の諸要因が絡み合って成り立っている。しかしながら,現在の対策の適用事例は,若干の改良はなされているものの,他の事例の踏襲であるものが多い。そのため結果的に十分な効果を得ることができず,再度,水質保全対策を検討しなければならないケースも見受けられる。
この課題に対応するためには,水域生態系の上に成り立つ富栄養化機構を十分に理解することが重要である。また,富栄養化対策には画一的に同様な手法を適用しても,必ずしも解決するものではないことを認識した上で,池の特性および地域性を把握し,各ダム貯水池において最も効果のある効率的な手法を適用しなければならない。栄養塩削減対策に関しても,単なるリン・窒素濃度の削減のみではなく,他の栄養塩との比率やそれらの供給機構,貯水池内生物との生態学的なつながりを理解して実施すべきである。
また,これらの作業をサポートするマニュアルも必要となってくる。貯水池の水質,生物等個別要素のみではなく,水理構造,地域性等も含めて,各要素間の関係を解析できる技術,すなわち生態的に評価ができ,各ダムの富栄養化特性の明確化が可能な解析評価技術の確立が求められる。
さらに,従来技術では十分な効果が得られないと判断された場合には,対象ダム貯水池独自の手法を新たに開発することも,当初より選択肢の中にいれて評価・検討することが望ましい。
また,技術的検討事項に加えて,周辺環境との調和も重要な課題となる。そのためには,対象地域の素材(植生の場合はその地域の在来種を選定)を使用し,形状および色彩に関しては周辺環境(景観等)への調和を考慮する必要がある。最終的には周辺地域の風土や文化に調和した施設となることができれば理想的である。
(2)開発後のモニタリングおよび検証における課題
私は,ダムの濁水対策として選択取水の検討を行う機会があったが,リサーチの結果,既往のダム貯水池では選択取水設備の設計および予測評価までは十分な検討がなされているのに関わらず,その後の計画的な運用およびモニタリングが行われている事例がほとんどないことが明らかになった。
このように予測結果の検証が行われていないことは,フィードバックによる技術の改良・発展の機会を無駄にしていることとなり,モニタリング実施手法およびフィードバックのシステム化が今後の課題となる。
これに対応するためには,開発計画時よりモニタリングおよび検証方法まで含めて検討し,将来の運用計画に盛り込む形で全体計画がなされなければならないと考える。
また,水質保全対策検討時には,既往ダムの事例は重要な情報源となる。各ダムの条件,水質等モニタリング結果,水質障害発生事例等を単なる事例紹介ではなく,相互の数値を詳細に解析できるかたちでデータベース化を行い,それを情報公開することが必要と考える。そこでは,多種の環境要素のデータを有したGIS等,他の環境情報・水利用データベースとのリンクも検討すべきである。
(3)水質保全施設の運用,維持管理における課題
ダム貯水池で,直接的に利用者の健康に係わる重要な水質障害が発生している,もしくは発生が予想されるケースにおいて開発者(管理者)と利用者との接点が少ないため,その内容を利用者が把握しておらず,行政の縦割り構造もあいまって,水質保全対策の早急な対応が不可能なケースがある。また,維持管理体制の構築が不明確のまま事業が進行し,施設はできたもののその後の十分な管理・運用ができないケースも多い。
この課題を解決するためには,行政枠を取り除き,開発者と水質悪化の原因者となるダム貯水池上流域住民,利用者となる放流先の下流河川流域等周辺住民とが一体化した仕組みの中で情報公開を行い,それらが共生したかたちで,水質保全計画の計画・設計,建設および維持管理の仕組みを構築していかなければならないと考える。
地元と一体化するための,具体策としては水質保全設備に親水設備の機能を取り入れ,地域活動(イベント実施)にも役立つ水質保全設備とすることが一手法である。つまり,住民が貯水池の水辺に接することにより,貯水池を身近に感じるようになる活動,つまりレクリエーション活動や教育活動に利用できるような施設が望ましい。このように親水機能を備えることにより,施設に付加価値を持たせ,さらにそのことにより環境改善効果の多様性が増し,総合的な費用対策効果を増大させることができる。
以上のように,水質保全施設に関しては,水質保全機能のみにとらわれず,可能な限り地域と密着共生できるようなシステムを念頭に設計し,啓発方法などのソフト作成もあわせて検討することが重要である。これにより,実質的に長期的な運用の可能な施設となり得るのである。
(4)おわりに
ダム貯水池における貯水内水質保全対策は,一般的に対処療法的な対策であり,抜本的対策にはなり得ないとの認識があるが,流域対策に困難性があることや,近年,水質悪化(富栄養化)機構を把握した上で構築された対策法が考案されてきているなどから,今後,水域水質保全の主導的な対策法となり得るものと予想される。要点をまとめると下記の通りである。
①対象ダム貯水池の富栄養化機構など水質汚濁機構を十分に理解した上で検討された施設であること。②貯水池への二次的な悪影響が少ない施設であること。③維持管理の手間,費用が少なく,効果の持続性のある施設であること。④省エネ手法であり,地球環境にも配慮した施設であること。⑤周辺環境と調和し,地域と共生した施設であること。⑥環境教育等啓発にも役立つ施設であること。⑦水質保全効果のモニタリング計画,効果の検証,情報公開がシステム化された施設であること。
口頭試験の傾向とその対策
技術士試験は,技術コンサルタントとして十分な能力と資質を持っているかを問う試験であると言える。試験時間は,約30分であるが,受験者1名に対して,2~3名の試験官が質問をする相当に厳しい口頭試験である。
以下,質問の内容とそれに対する研修方法を述べる。
(1)質問の内容
1)体験業務(Ⅰ-1)に関する追加質問(含経歴,業績,現在の業務)
例① 体験業務で書足りなかったことを5分程度で述べよ。
② 体験業務のどういう点が技術士としてふさわしいか述べよ。
2)専門選択科目(Ⅰ-2)と必須科目(Ⅰ)に関する追加質問
例① あなたの専門技術向上のためにはどうしていますか。
② 外国と日本の技術状況について比較せよ。
3)技術的知識に関する質問
例① SⅠ単位の基本単位を全て述べよ。
② CO2削減へはあなたはどう対応していますか。
4)技術士としての意欲を問う質問(含受験の動機,将来計画)
例① 受験の動機と資格取得後の将来計画は何ですか。
② 技術者の国際的な資格についてどう考えているか。
5)技術士法に関する質問
例① 技術士に要求される義務について述べて下さい。
② 現在の技術士制度の問題点は何ですか。
(2)研修方法
① 受験申込書に記入した業務経歴と主な業績の説明準備をしておく。
② 筆記試験答案を再現・回顧して,補足,修正,不備箇所の見直しを整理しておく。
③ 技術的知識(選択科目の基礎技術,体験業務に関する周辺技術,選択科目分野の最新技術,ならびに技術一般常識)を整理し,理解しておく。
④ 技術士法関連事項を理解する。(特に技術士等の義務は暗記)
⑤ 予想質問とその回答を作成して模擬面接試験を実施しておく。