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九州地方建設局における技術開発の現状
-試験フィールド事業の創設について-

1 はじめに
我が国は世界屈指の経済大国となりましたが,国民生活の面ではその豊かさを実感できない状況にあります。これは良好な住宅・杜会資本の整備が立ち遅れていることが,大きな原因と思われます。そのため,今後10年間の公共投資総額を概ね430兆円とする「公共投資基本計画」に基づき住宅・社会資本の整備を進めて行くこととしております。一方,昨今の建設事業を取り巻く環境は,生産現場での人不足,高齢化,安全,労働環境やイメージの低下など深刻化しております。又,一方では国民の環境への関心が高まるとともに,社会資本の高質化が望まれております。
このようなことから,住宅・社会資本の整備は社会の潮流の変化,国民の意識とニーズおよび建設をめぐる情勢の変化の諸問題に対応していくことが肝要であります。

2 課題の集約
今後の住宅・社会資本整備は,下記に示すそれぞれの課題に対応して進める必要がありますが,各課題は相互に関連するものが多いため,その関連を考慮しながら,住宅・社会資本整備を進めるにあたって避けられない重要な課題を集約すると(表ー1,表ー2)のようになります。
◦ゆとりと豊かさへの志向,後世に残すべき良質な社会資本ストックを形成する貴重な期間
という観点からは,今後の社会資本整備全般について,杜会資本は,利用者にとって機能的に使い勝手がよく,しかも美しいことが要請されるとともに,これら施設は十分な強度を持ち,丈夫で,かつ将来の社会活力の鈍化,増大する維持管理・更新費を考慮して維持管理がしやすいものである必要があります。←キーワード「よいもの」
◦豊かな環境を創造し,地球環境も含めた環境と調和した住宅・社会資本整備
という観点からは,整備にあたって,自然の保全や回復および豊かな環境の創造への十分な配慮が要求されるとともに,省資源・省エネルギー化や建設資材・副産物等のリサイクルの推進が要請されます。←キーワード「豊かな環境を創造しつつ」
◦生産性の向上,施工の安全性の向上に取り組む時期
社会資本整備を進める上で,将来の建設産業における就業者数の減少,労働時間の短縮,公共投資の拡大による事業量の増大,さらに建設工事での事故の発生等より,省人化や資材のプレハブ化等による生産性の向上および安全性の向上を図ることが要請されます。←キーワード「効率よく安全に」

3 最重点研究開発課題と開発目標
今後の社会資本整備の方向性に対応させて,各分野共通の,緊急かつ重点的に取り組むべき技術として
① 今後確実に見込まれる維持管理・更新費の増大に対応するためのメンテナンスフリー化技術
② 地球環境問題に対応するための省エネルギー化技術
③ 労働力の減少に対応するための施工現場の無人化・省人化技術
これらの背景としては,表ー3のとおりです。そして,これらの最重点研究開発課題については表ー4に示すとおり,重点工種に対する開発目標が具体的に設定されております。

4 技術開発・活用に関する体制
技術開発にあたっては,産・学・官の役割を明確にするとともに,それぞれの役割のもとに相互に連携を図りつつ,技術開発目標の認定,技術開発された新技術・新工法の現場での活用・普及まで一貫して行うことが必要です。
(1)研究課題の設定
研究課題の設定に際しましては,先にも述べましたように,建設事業をめぐる情勢,建設現場のニーズおよび民間技術開発の動向を調査・把握し,産・学・官の連携のもと重点的に研究開発すべきテーマとその開発目標を定め,適切な開発手法のもとに研究開発を推進します。
(2)研究開発の実施
研究開発の実施に際しましては,研究開発テーマの特性に合わせた技術開発制度を活用し,実効ある研究開発を推進します。例えば,官においては基礎的な研究開発や,社会資本の品質,安全性の保持などに必要な技術の指針等の策定に関わる研究開発等を推進します。また,産・学・官の連携により技術開発を行う必要がある研究課題につきましては,その技術の内容,熟度および研究領域の広がり等を総合的に判断し,「総合技術開発プロジェクト」,「官民連帯共同開発」,「建設技術評価制度」および「民間開発建設技術の技術審査証明事業」等の技術開発諸制度を活用し,効果的な技術開発を推進します。さらに,税制上の優遇措置や開銀融資制度を活用し,民間の研究開発に必要な資金について支援を行うとともに,開発された新技術の現場活用方策を立案するものです。
(3)試行段階
開発された新技術の建設現場での適用に際しまして,完成度の高い新技術については,暫定積算基準を整備し,直轄等の現場で活用する技術活用パイロット事業を実施します。
① 技術活用パイロット事業
建設事業に係る新技術について,現場適応性,効率性,安全性,経済性等を検証するために,直轄事業において試行する。
② 特定技術活用パイロット事業「官提案型」
早急に普及を図ることが望まれる新技術を全国的に直轄事業で活用する。
③ 特定技術活用パイロット事業「民提案型」
行政ニーズに基づく技術活用テーマに沿った技術提案を民間から広く公募し,応募された民間新技術のうち審査・証明されたものについて,特定技術活用パイロット事業の中で活用する。
また,今年度からは前述制度に加え,試験フィールド制度も新たに創設され,更に新技術の積極かつ広範囲(広レベル)な試行が可能となっています。
(4)普及段階
パイロット事業や試験フィールド事業で試行された新技術についての知見の蓄積に基づき、技術基準や積算基準の整備を図ります。
これら技術基準や積算基準の開示や新技術に関する情報提供等を通じ,新技術の県市町村を含めた公共事業や民間の住宅・建築工事への普及も図ります。

5 試験フィールド事業の創設・試行
建設省における新技術の活用に関しては,前述のとおり,各種制度が創設されていますが,本年度よりこれら諸制度の更なる拡充として,「試験フィールド制度」が創設されましたので紹介します。
(1)制度の目的
これまで,直轄事業においては,新技術の現場への活用を行い建設技術水準の向上を図るため,技術活用パイロット事業制度を実施してきたところであります。この技術活用パイロット事業では完成度の高い新技術(総プロ等で開発された技術他の事業で施工性・安全性等が確認されている技術)で,直轄現場での適用がないものについて対象とされてきました。このため,実験室レベルで技術の有効性等が確認されている開発途中段階の技術を,技術活用パイロット事業として実施することは制度上困難でありました。また,技術活用パイロット事業では,新技術の開発から新技術の普及までに一定の時間を要するという問題がありました。
一方,地方建設局,土木研究所および民間において研究開発を担当する部局からは,開発した技術を現場で試験し,実証する場の提供が要請されてきました。
また,社会資本の整備を円滑かつ効率的に推進していくためには,技術の開発と迅速な普及が不可欠であり,技術の開発から普及までの期間を短縮することが要請されてきております。
そこで,将来に向けて行政ニーズが高く,現場での技術的検証を通じて完成度を高める必要のある技術を対象に,実際の現場において試験フィールド(新技術の実施工事現場)を設定し,実大構造物を建設して各種試験等を実施する「試験フィールド制度」を今年度から創設しております。
(2)制度の内容
この制度で対象となる技術は以下のとおりです。
① 技術の確立により建設事業の施工の合理化・安全性の向上などが図られる技術
② 技術開発主体:民単独,官民共同または官単独
③ 技術開発段階:開発が進み現場での検証実験が残されている開発段階の技術
また,試験のフィールドは建設省の所管施設の現場とし,実施にあたっては新技術の現場での施工,技術内容等の検証に資するための各種試験・計測等の実証実験を行います。
(3)制度の運用
① 地方建設局主体の試験フィールド制度
本制度は,現場のかかえる技術的課題に柔軟に対応できることを目的としていることから,実際に事業を遂行している地方建設局を主体に行うことを基本にしております。
試験フィールド制度で活用する技術課題を地方建設局で決定し,技術課題に沿った技術提案を公募などを通じ民間から求め,その中で試験フィールドとして適用するにふさわしい新技術を決定し実大構造物の建設を行うものです。建設にあたっては,各種試験等を通じ技術の完成度を高め,一般工法としての普及をめざします。

② 本省主体の試験フィールド制度
国の施策上,緊急に技術開発すべきテーマ(緊急災害対策技術,大規模プロジェクト活用技術等)については,試験フィールドで活用する技術課題を本省で決定するもので,以下は地方建設局主体の試験フィールド制度と同様に事業を進めます。
(4)九州地建における取り組み状況
九州地建におきましては,以下の課題について,一般公募を終え,課題の最終決定を行っており,一部課題については,既に現場施工を実施中です。今後は各種試験・計測等を実施することとしております。
なお,これら課題の施工結果等につきましては次号で詳細に報告する予定です。
① 地方建設局主体の試験フィールド制度
・胴込コンクリートを不要とした大型コンクリートブロックの開発技術
既存のブロック積みの胴込めコンクリート打設作業は膨大な労力を必要とするため,この作業を省略し,かつ従来の胴込めコンクリートに代わるブロック間の連結構造を有したコンクリートブロック技術
・路床の一層混合処理技術
浅層での地盤改良は,30cm~50cm毎の施工で実施され,数回の仮置きと転圧作業が必要であり,多大の労力と時間が要されているため,1m程度を一層で混合・転圧できる機械化技術
② 本省主体の試験フィールド制度
・雲仙における無人化施工技術
雲仙・普賢岳の火山活動は依然として活発であり有人による工事の施工は危険なため,土石流発生後に遊砂地等において緊急除石を実施するため無人化により土砂掘削・搬出を継続的に行う一連の技術

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